強めのモブウマ娘になったのに、相手は全世代だった。   作:エビフライ定食980円

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第3話 未勝利の壁

 まさかのマックイーンとの対決を通じて分かったことは、未勝利戦レベルの動向だと殆ど史実が参考にならないということ。そしてメジロマーシャスクラスの未来の重賞ウマ娘相手だと今の私は苦戦するということだ。

 

 メジロマックイーンの本命ではないダート、しかもマイルという場において、オールC適性の私が負けたということはマックイーンが因子魔改造の分もあるだろう。とりあえずダート魔改造マックイーンに踏み切ったトレーナーの顔は一度殴らせてほしい。

 一方でメジロマーシャスもまた本来の適性で言えば芝中距離といったところだろうか。だから、こっちも適性外でのレースであったはずだが、それでも私は彼女に負けた。

 

 ただメジロマーシャスとは結構僅差ではあったために、ダートでレースを繰り返せば展開次第では勝てる気はする。マックイーンは正直無理。

 

 それを踏まえつつもちょっと考え方を変えてレース選定をしてみる。

 というわけで、選んだレースは新潟レース場の芝・1000m。GⅢのアイビスサマーダッシュで使われているコースであり……トゥインクル・シリーズが開催されるレース場においては唯一直線のみで構成されている競走だ。

 

 直線のみ、ということでコーナー専用のスキルが全部死にスキルとなる。そして現時点でスキルガン積みで来るのはネームドくらいだろう。多分固有スキルに『最終コーナー』みたいな記載があるやつもこの新潟の直線レースでなら死にスキルになるはず。

 そして短距離も短距離だから適性不一致組が来たときにどれだけ勝負になるか確認したい。

 

 

 

 *

 

「――1着はゴールドシチー! 2着は6バ身差でサンデーライフ!」

 

 うん、ゴールドシチーが来た時点で知ってた。そして短距離F相手でも、小手先戦術が全く通用しない。

 でも、何故ゴールドシチーが新潟に? 史実ゴールドシチー号もメイクデビューを負けてから未勝利戦を転々とすることになるのは知っていたが、確か勝ったのは札幌のダート1200mのレースのはず。

 マックイーンは良く分からない感じでヤエノムテキと競合していたけれど、ゴールドシチーも何かあったのだろうか……あ。

 

 そうか、ゴールドシチー号の史実競走は札幌競馬場の改修前だった。このウマ娘世界の『札幌レース場』にはダート1200mのコースがそもそも無い。そういうタイプの改変も起こるのかあ。弱ったな、ますます読めなくなってきたぞ。

 

 

 うーん、ちょっと見直そう。

 スーパークリークと対戦したのが阪神レース場の芝・2000m。

 テイエムオペラオーとは京都レース場のダート・1800mでぶつかって。

 次に当たったのがメジロマックイーン。その時は函館のダート・1700m。

 そしてゴールドシチーと新潟の芝・1000mで激突。

 

 私の適性がオールCだから色々試せてはいる。これは明確なメリットだ。それでいて2着3回、3着1回なのだから悪くは無い。けれど勝ちきれない。

 阪神で会ったクリークは明確に差しであったのに対して私は逃げを選択していた。結果、最終直線の坂で致命的な差がついた。坂が無くても負けていたとは思うがあそこまでは離されなかっただろう。

 

 オペラオーと対戦した京都のダートは一転して平坦なコース。レース展開が高速化してペースが乱されてしまっていた。純粋な速度勝負ならネームドが優位かも。

 

 マックイーンとの函館ダートは、小回りが厳しくコーナーリング技術が要求される難しいコースな上に最終直線が短く先行策を取っているウマ娘に有利だ。そういう意味では長距離ではないがマックイーン向きと言えるかもしれない。

 

 そしてゴールドシチーとの直線コース対決。1000mしかないからハイペースなレース展開になるのは間違いなく、それでバテた先行組を中団から差すのには最適であり、そうした技術がゴールドシチーは早くから完成していたと見れば、確かにこのレースに出走するだけの合理性はあった。

 

 即ち、後から分析すれば1位になったウマ娘には1位になるだけの理由がある。翻って私はあらゆる場所であらゆる作戦が取れるフリーハンド性をまるで生かせずにずるずると負け越しているのだ。

 

 4レースのうち最初の阪神を除く3レースは、平坦なコースばかり選択していた。つまり、よりスピードの要素が顕著に出るコースである。

 

 絶対的な速度で勝てない以上は、極力荒れたレース展開になりやすい場所を選択して、意表をついてレース自体を壊す必要がある。そういう意味では平坦なコースを選んでいること自体は間違っていない……あれ? 振り出しじゃない。

 でもスピードだけで決まらずにより複合的な要素が勝敗に関わるレース展開も試す必要があるかもしれない。

 

 となると……中山か。中山レース場の芝・2000m、行ってみましょうか。

 

 

 

 *

 

「――サンデーライフ、6着! これまで好走を続けてきて2番人気であったサンデーライフ、何と着外に沈みましたっ!

 1着はリトルココン――」

 

 リトルココンも居るんかい! そりゃ中距離の技術力で負けるよ。

 

 しかし分かったことがある。技巧的なレース技術が求められる場所では私はむしろ弱くなる。つまり今の私はパワー・根性・賢さみたいな諸々のステータスは他の一般ウマ娘の平均かそれ以下であるということ。むしろスピード勝負に持ち込んだ方が遥かに勝機があるということ。それが分かっただけでもここの6着は無駄ではない。

 

 ただ、それ以外にも。どうしても知りたいことがあった。

 

「ねえ、リトルココン……さん!」

 

「……なに? アタシこれからウイニングライブの準備しなきゃなんだけど」

 

 案の定というか、むしろ無視されなかっただけマシと思った方が良い反応が返ってくる。そりゃあ、全く会話したことないウマ娘がレース直後に話しかけてくるとか、逆の立場だったら怖すぎる。

 

「あなたはどうして、このレースを選んだのか教えてくれませんか?」

 

「……なに? アタシが居なければ良かった、という類の嫌味?」

 

「え、いや。そうじゃなくて……ですね。

 ――中山に、特別な思い入れでもあったりするのかなって……」

 

「……? 別に、何もないけど。

 近場でタイミングが合ったのが、このレースだっただけ」

 

 

 中山レース場は千葉県船橋市にある。東京レース場がトレセン学園のすぐそばにあるのを除けば、その次に近いトゥインクル・シリーズの開催地が中山なのである。え、大井? あそこはローカル・シリーズだし……。

 

 そしてこのリトルココンの発言は、重大な示唆を含んでいる。というのも、普通のウマ娘は一々レース場の適性まで見据えてレースの選定を行わないということだ。今までナチュラルに私は遠征を繰り返していたが、効率を考えればトレセン学園の近場のレースで済ませてしまった方が良い。特に実力差があるのであれば。

 もう少し真面目に考えるにしても、同じレース場で芝の状態やコースの形状などを何度も身体に覚えさせる方が有利なのは明らかだし、その為にはやっぱりトレセン学園から近いレース場の方が良い。

 

 勿論、最終直線が長ければ差し・追込が有利で、短く平坦なら逃げ・先行が有利みたいな相性もある。その相性と自身の適性からレース場を選択する子も居るとは思う。でも、今までに出会ってきたネームドウマ娘たちは、もっと深いところまで見据えてレース場を選定していた。その両者の差は一体何か?

 

 私が考えるに。

 

 ――トレーナーの有無である。

 

 トレーナーがどのような判断基準でレース場を選んでいるかは想像で補うしかないが、メイクデビューや未勝利戦のようなある程度戦うフィールドを選べるレースにおいては、脚質による相性の差みたいな漠然とした水準ではなく、もっと個々のウマ娘の性質や気質を見て横断的に出走レースを決定している……かもしれない。

 だったらダート魔改造マックイーンなんてやらないで、と思うけれども、それも踏まえた上での判断なのだろう。あるいはこの世界はアプリ時空に似ているが、トレーナーが各ウマ娘の情報を数値的情報で理解するところまで『ゲーム的』ではないということかもしれないが。

 

 そのマックイーントレーナーにしたって小回りが得意であることを見抜き、函館を選択しているのだからただの考えなしというわけではない。

 

 一方で、リトルココンや私にはそうしたアプリトレーナーともいうべきような……専属トレーナーの存在が無い。レース出走の事務手続きや練習やトレーニングを全体監督してくれる人は居るけれども、個々のウマ娘に対してきめ細やかな癖まで見抜くのにはやっぱり専属トレーナーは不可欠だ。

 

 でも、いくら最先端の設備が整うトレセン学園であっても、ウマ娘1人に対して専属トレーナーを全員に置くことなんて物理的に不可能だ。リギルやスピカみたいなチームも無さそうだし、アオハル杯復活とかも起きていない以上、チームトレーナーという概念は多分無い。

 となればネームドウマ娘との差はやはり大きい。だが一方でモブの子らはトレセン学園から近いレース場、あるいは自身の脚質と単純に照らし合わせたレース場を選択する傾向にある。

 ……近場がハイレベルになるなら、中山や東京レース場よりも遠方のレース場を主戦場にした方が戦績は良くなるだろう。

 

 そして一般ウマ娘の脚質選択傾向があるならば。試したいことが生まれた。

 

 

 目指すは――福島レース場・芝1800m。

 

 

 

 *

 

 福島レース場を選択した理由はいくつかある。まず最終コーナーがスパイラルカーブという入りが緩やかだが出口がキツいカーブになっている。これで外に膨らみやすい一方で速度を落とさずに最終直線に入ることが出来る。

 そして最終直線の距離そのものも比較的短い。それらが意味することは……逃げ・先行が有利なのである。

 

 更に第2レースを選択。福島レース場は後のレースになるほどインコースの損傷が激しいと聞いていたのでなるべく芝が荒れていないレースを選択した。

 

 またコースの高低差はそれほどでもないが、上り坂と下り坂が細かく存在している。最終直線も上り坂となっている。

 パワー不足気味の私にとって本来不利に働く要因であるはずだが、私の特性的に最大の武器がある。

 

 それは。

 全距離適性を可能とするスタミナである。

 

 逃げ有利であることを踏まえれば私が何をしようとしているか、分かるだろう。

 

 ――大逃げによる超高速展開に持ち込み、泥沼のスタミナ消耗戦を強要するのだ。

 

 逃げ・先行が有利ということは他のウマ娘も承知のことであるので、差しを選択するウマ娘の姿は少なく、追込に至っては存在しない。

 単純なスピード対決にもつれ込めば史実ネームドに勝てないのであれば、逃げ・先行を全部巻き込んでの消耗戦に勝機を見出すしかない。

 

 

 そして、そんな計略を練っていたこの場に現れたネームドウマ娘は――逃げを得意とするアイネスフウジンであった。

 芝・マイルであることを考えれば、今までのネームドのなかでも適性が合致しているのは間違いなく、中距離に対応出来る彼女のスタミナを削りきるのは至難の業であろう。

 

 

「――1番人気はアイネスフウジン。人気は圧倒的ですよ」

 

「そうですね。メイクデビューで2着、前走でも同じく2着でしたがしかし僅かにクビ差でした。今度こそは、と逆に自信を深めているかもしれませんね、この中では頭1つ抜けたウマ娘です」

 

 実況と解説が話すように人気はアイネスフウジンが圧倒的だ。ちなみに私は前走6着が影響して3番人気となった。

 

「――3番人気は、伏兵・サンデーライフ。果たして今日の彼女の走りはどうなるでしょうか」

 

「距離はおろか、芝・ダート不問で活躍するオールマイティーな珍しいウマ娘ですね。能力的には綺麗にまとまっているとは思いますが、今のところ相手に苦しめられている、といった印象です」

 

「自在な適性は作戦か、はたまた器用であるが故の迷いなのか。その真贋はレースを見れば明らかになることでしょう」

 

 

 ……少なくとも、今回の選択は作戦だ。そう思いつつも、意識をレースへと向ける。

 

 全員がゲートイン。そこからスタートまでは短い。

 

「各バ一斉にスタートを……おっと、サンデーライフ素晴らしいスタートを切りました! そのまま先頭を譲らない! 今日の彼女は逃げを選択した模様です」

 

「レースが始まるまでどういう走りをするのかが読めないというのが彼女の強みですからね。……おや、逃げにしても速くないですか?」

 

「おおっと! スタート直後にも関わらず先頭サンデーライフと2番手の差は何バ身も広がっていく! これは逃げでもただの逃げではないっ! 掛かっているのか、はたまた大逃げという大博打を選択したのか!?」

 

 

 

 ――現在の獲得賞金、710万円。

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