強めのモブウマ娘になったのに、相手は全世代だった。   作:エビフライ定食980円

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第32話 シニア級1月前半・初詣

 初詣は葵ちゃんとではなく、去年に引き続きアイネスフウジンと彼女のトレーナーと一緒に行った。葵ちゃんと行かなかった理由は単純で私から「いや、流石にそこはハッピーミークと行きなよ」といった趣旨の話をして断ったためである。

 

 現状、ハッピーミークとの顔合わせをしていないために葵ちゃんは二者択一を迫られたというわけである。

 なお平地競走に戻ることになったから一緒に練習すればいいじゃん、という話があるが、そもそもハッピーミークはGⅠ出走ウマ娘であり、今の私と並走するメリットがまるで無い。また私自身も新年からはフォームの修正がメインで、それを走りながら直すことに主軸が置かれるために、誰かと一緒に走る必要性が薄い。

 そんなわけで私とハッピーミークの顔合わせは、まだ時間を置く判断になった。

 

 

「明けましておめでとう、なの! ライアンちゃんは今年も実家に戻っちゃうしで寂しかったの!」

 

 出会って早々とアイネスフウジンに抱き着かれる。なおアイネスフウジンは年末の有記念に出走したものの11着だった。

 とはいえ、1着から順番にオグリキャップ、グラスワンダー、スペシャルウィーク、マヤノトップガン、マンハッタンカフェが入着とかいう前年度以上の狂いの有だったからしょうがない。何年分濃縮されているんだ、これ。ちなみにアイネスフウジンと同室のライアンが8着だ。

 

 で、そのライアンと言えばメジロ家。メジロパーマーが私との障害戦の後、早々と平地復帰を目指すといって長期トレーニングに入って、結局この世界線のパーマーは障害競走1戦で平地再転向するというニュースもあったが、それ以上に大きなニュースはメジロマックイーンにあった。

 

 というのも、東京大賞典でマックイーンが、遂にダートGⅠの大舞台で勝利を逃したのである。結果は3位。ダート無双をしていたマックイーンであったがシニア級のしかも地方ウマ娘によって勝利を阻まれた。

 

 その東京大賞典の勝ちウマ娘は――カウンテスアップ。次いで2着にアブクマポーロ。

 ……いや、その面子相手に3着なら大健闘だよ。レジェンドクラスじゃん。

 

 ただ、この敗北からマックイーン陣営は、シニア級では芝もレース選定の視野に入れることを発表した。何とかギリギリのところで春の天皇賞ルートに戻ってきそうな感じが出て一安心。

 でもこれマックイーンがデジたん化するってことだよね。ダートマックイーン改め勇者マックイーンの爆誕である。

 

 

 そのような面子と私は激突する。何故ならもう私はオープンウマ娘だから今まで挙げた全員と衝突可能性があるのだ。

 ……やっぱり平地競走に戻ってきたのは早計だったかな、いや決めたからやるけどさ。

 

 

 そんな私達の世代もヤバいが、1年下の世代もまた大変なことになっている。いや、トウカイテイオーとディープインパクトの全面対決って最早バグか何かでしょ、それ。まあクラシック級ウマ娘とは当面は対決しないし、GⅠで暴れまわることだろうからすぐに影響があるわけではないけどね。

 

 

 そんなことを考えたり、アイネスフウジンと話していたりしているうちに参拝の順番が来た。

 

 二礼二拍手一礼。実際の拝礼作法がどうなっているのか分からないときにやる、とりあえず無難なやつだ。

 

 そしてその所作の最中、目を閉じて私は願い事を――

 

 

 その瞬間、網膜の裏に黒い靄がかかったかのように感じた。

 

 

 

 *

 

 かにみそを食べる!          

 

 偉大な名誉の殿堂ウマ娘を参考にする! 

 

 お姫様だっこを極める!        

 

 

 えぇー……。

 

 マジかー、これは流石に想定していなかったなー……。

 神社の初詣に介入できるんだ、暫定サンデーサイレンス……。君、アメリカウマ娘だから神社関係ないでしょうに。

 

 なお選択肢2つ目の『名誉の殿堂』とはアメリカの殿堂入り制度みたいなもの。一応史実サンデーサイレンス号も1996年に殿堂入りしているが、そもそもこの制度って引退後に与えられる称号なので、素直に考えればこちらの世界のサンデーサイレンスは引退済ということになる。

 ……そりゃそうか。こんなことをしてくるくらい暇なんだから、現役ではないよね……って一応この黒い靄がサンデーサイレンスかどうかは未確定だけど。

 

 それで、一応真面目にアプリの初詣イベントに照らし合わせると、上から順に体力回復、ステータス上昇、スキルpt付与だったはず。

 ただ年末の障害未勝利レースの後からクールダウン期間を置いているから、体力って結構回復している気はする。……いや、ある程度健康な状態のときの自分の身体の疲労蓄積の度合いなんて可視化できないから分からないのよ。それにここで回復を押してもし仮に体力全回復したところで、結局クールダウンを早めに切り上げるなんてことはしない。

 『初詣行ったら神様的な何かに疲労消してもらったから練習させろ』とは、流石に言えないし。

 

 となると、スキルptが有用な気がしてくるが……。

 でも、これ選ぶと私の今年の初詣のお願いが『お姫様だっこを極める』ことになるから、流石にそれはイヤなんだけど。頭お花畑すぎるでしょ、その願い事。

 

 もう選択肢で入る恩恵を全部無視して、単純に願い事として最も丸いのは真ん中の選択肢。偉大なのは説明不要なレベルで分かっているけどねえ、でもこの黒い靄を参考にするのかあ……。

 あっ! 選択肢には『名誉の殿堂ウマ娘』としか書いていないから別の『殿堂入り』を目標にしちゃえば良いのか、流石にボストンとかならもう現役引退してるでしょ、19世紀の競走馬だしウマ娘世界的には神にでもなってるかもしれん。8年間で45戦40勝のウマ娘、実に素晴らしい戦績だ。

 

 ……って、そんな邪なことを考えていたら、黒い靄は一旦私を包み込む。

 目を閉じている中で再度視界が真っ黒に染め上げられ、次の瞬間には何事もなく、元通りに――

 

 

 かにみそを食べる!          

 

 偉大な名誉の殿堂ウマ娘を参考にする! 

 

 お姫様だっこを極める!        

 

 気性難を磨こう!!!!!!!     

 

 

 ――第4の選択肢が増えてるじゃん!? しかも、また気性難かい!

 この黒い靄は気性難を、滅茶苦茶勢いでプッシュしてくるけれどもそれを選択したら一体何が起こる……いや、絶対選ばないけどさ。

 

 

 強制一択とかにさせられないうちに、早急に結論を出す。

 スキルpt目当てで『お姫様だっこを極める』なんて願い事を新年早々するのはイヤ。だから消去法で『偉大な名誉の殿堂ウマ娘を参考にする!』を選ぶしかないかな。

 

 

 

 *

 

「――サンデーライフちゃん! 願い事長かったね?」

 

「いや……まあ、そのアイネスさん。色々ありまして……」

 

 あれだけのことがあった割には、再び目を開けたときに数十秒程度しか経過していなかった。けど、そうは言っても参拝で数十秒黙祷しているのは、長めな方だろう。

 

「サンデーライフちゃんは何を願ったの?」

 

「……偉大な先達に少しでも追い付けるように、と」

 

 嘘は言ってない範疇だろうこれなら。『お姫様だっこを極める!』だったらここで詰んでた。

 

 それでアイネスフウジンにも何を願ったのかを聞く。

 

「え、あたし? ……実はライアンちゃんと約束したの――宝塚記念で戦うって」

 

 ……史実・アイネスフウジン号は日本ダービーを最後にして引退しているのは周知の通りだ。だから日本ダービーより先に彼女のウマソウルが指し示す道は無い。

 けれども。アイネスさんは、『ウマ娘』として次なる目標を見つけていた。

 

 宝塚記念。それは史実メジロライアン号が勝利したレース。そこに史実では引退しているアイネスフウジンが出走することがどれだけの価値のあることなのかは、私はきっと誰にも共有することはできない。

 

「……宝塚記念ですか」

 

「そうなのっ! でも、ライアンちゃんだけじゃなくて、もっと色々な子と戦いたいの! もちろん、サンデーライフちゃんともね!」

 

 ……いや、仮に戦うとしてもGⅠでぶつかることは無いと思うよ。

 

 

 

 *

 

 分かっていたことだが、アイネスフウジンも春シニア三冠にある程度意識を向けている。春の天皇賞は距離が長すぎて出るか微妙なところだが、それでも宝塚記念に調子のピークを持ってくるはずだ。

 

 となると、やっぱりこの冬の間のレースは狙い目である。なるべく早めに出たいということで葵ちゃんとも相談した結果、今まで通りの1ヶ月ローテでなら何とかという結論になった。ということで1月後半、ないしは2月の前半辺りにあるレースに狙いを定める。

 

「……葵ちゃんのオススメは白富士ステークス、ですか」

 

「はい! ……とは言っても、そこまで大した理由ではないですよ。

 サンデーライフは平地再転向の初戦に重賞レースを選ばないかと思いましたのでそれらを除外して、最も長い距離のレースを選んだだけです」

 

 流石に障害から平地競走への再転向はレアケースとなる。だから障害転向時よりは遥かにノウハウが乏しい。それでも3000m近い距離を障害物込みで走っているところからいきなりスプリント路線にするということを葵ちゃんは避けようとしたということだ。

 

 ……阿寒湖→清津峡のローテは2600mから1200mへの急激な距離変更ではあったけど。

 

 で、肝心の白富士ステークスは東京レース場の芝・2000m。中距離だ。

 

「私としてはダートの短距離がこの時期のオープン戦には豊富で分散しそうだから、こっちが良いかな、と思っていたのですが、葵ちゃんが中距離を選んだ理由は何でしょう?」

 

 すばる、大和、バレンタインの3つのステークスがダート短距離のオープン戦として固まっていて。何よりこの時期にはダート路線の本命であるJpnⅠの川崎記念が存在するからダートこそが空き巣しやすいと私は考えていた。

 川崎記念自体は短距離では無いが、ダートの有力ウマ娘は確実にそちらを狙うはずだし、ダートスプリンターであればGⅢ・根岸ステークスが視野に入る。

 

 だから葵ちゃんの視点は、レースの狙いやすさではないはず。

 

「『阿寒湖特別』や障害の未勝利戦で時折見せていたあの『最終直線での僅かな伸び脚』……あれが、もう少しモノに出来れば、と思っているのですよね。

 だからなるべく長めのレースで、どれだけラストスパートで加速出来るのか確認したい……というのがあります」

 

 あー……あわよくば入着を狙うスタンスではなく、確実に次に繋がる戦術の最終調整のための実戦という位置付けか。

 あの『伸び脚』が残りのスタミナに左右されているということは話している。もしかしてこれこそ固有スキルなんじゃないかって一瞬思ったが、でも私『領域』とか『ゾーン』とかまるで感じたこと無いし、多分これって通常の技術的な延長軸にあるものだと思う。

 

 確かに上手く使えれば、『逃げて差す』ことだって出来そうなものだ。葵ちゃんがこだわるのも分かる。

 

「あ、あと……これを言うと反則かなーって思っていたのですが……」

 

「……?」

 

「ハルウララさんの前走はJBCスプリントで昨年を終えていて次走が未確定です。

 国内にしろ国外にしろ、そろそろ調整のためにレースに出てもおかしくない頃合いかと」

 

「……白富士ステークスでお願いします」

 

 

 ハルウララが今の時期に出るとなったら一番可能性が高いのは根岸ステークスだ。ウララ回避勢がオープン戦のダートに集中するのであれば今までの私の話はまるで異なる。

 確かに、それは私にとって反則級の説得材料だった。

 

 

 *

 

 そして白富士ステークスの出走登録はつつがなく完了した……というかフルゲート18名に対して定員割れして17名の登録でそのまま確定。

 

 17名の中に私の知っている名はそこそこ居たけれども、特に気になってマークすべきだと思ったのは次の4名。

 

 

 ゴーイングスズカ。

 トウカイポイント。

 コイントス。

 

 ――そして、ヤマトダマシイ。

 

 

 いや、まさかその名をシニア級で聞くことになるとは夢にも思わなかった……。

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