強めのモブウマ娘になったのに、相手は全世代だった。   作:エビフライ定食980円

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第41話 性質の違い

 よくよく考えてみれば、この世界のハッピーミークは『ハルウララと一緒のレースに出たい』という行動原理の下、目標レースを選定している。

 その上でメイクデビュー前から葵ちゃんと共に切磋琢磨していた。で、ハッピーミークについては練習メニューから出走レースまでほとんど葵ちゃんに丸投げだ。

 手取り足取り二人三脚で育成する必要があるが方針自体にはあまり口を出さないハッピーミークと、育成メニューそのものは自己負担でもなんとかなるが方針についてはかなり口を出す私。よくもまあ、これだけ違う性質の2人を担当にしてると思う。

 

 ただハッピーミークの場合。最初から葵ちゃんの指導の下で競走ウマ娘としての経歴を歩んできていることから、私よりも葵ちゃんの影響力は段違いに大きいだろう。

 ――となると、葵ちゃんが距離感バグ勢だからこそ、ハッピーミークにそれが伝播したというのはあり得る。

 基本彼女が無口だからこそあまり周囲には気付かれてはいないのだろうが、一応同じトレーナーを仰ぐウマ娘である私に対して、文通があったとはいえ初対面でここまで距離を縮めてくるのは、葵ちゃんの影響によるものも大きいだろう。

 ついでに言えば葵ちゃんが仲良いトレーナーはハルウララ担当。だから、ハッピーミークと接点の多いウマ娘は人懐っこいハルウララである点もきっとそれを助長している。

 

 とはいえ私に不信感を持って警戒されるよりかは、これくらい近い方が問題も起きにくいか。予定外ではあったものの、ハッピーミークが私に近付こうという意志があるならば、私からそれを拒むことは余程のことを要求されない限りは多分無い。

 

 ……私も距離感近いって良く言われるけど、それは基本相手を拒まないスタイルと『王子様』ムーブによる影響が強くて、ある程度自覚的に意識的にやっていることだからね? 相手から詰め寄って来たり、それを望んでいたりしない限りは、私が自分から行くことはそんなに無い。

 でもこの天然コンビ2人は、多分無自覚で距離を詰めてきている雰囲気だから、不意に来る感じがすごい。

 

 

「……とはいえ、ミークとサンデーライフは多分同じ路線のレースには出ないと思うので、練習メニューもあんまりぶつからないと思うのですよね」

 

 その言葉を受けて無表情ながらも、若干しょんぼりとするハッピーミーク。

 

「えっと……葵ちゃん? もしかしてミークちゃんの次走って決まっていたりします?」

 

「ええ――香港チャンピオンズ&チャターカップを予定しております」

 

 なるほどね、海外遠征か。

 香港チャンピオンズ&チャターカップは5月末に行われる国際GⅠで香港三冠の最終レースである。日本のGⅠに規定されているような国外ウマ娘の参加上限はなかったと記憶しているが、開催される沙田(シャティン)レース場の国際競走のフルゲートは14名で、これを超過した場合には香港の選考委員会によって出走ウマ娘が決定されるはず。

 国内の重賞レースのように収得賞金で出られるというわけではないのが興味深いところだ。というか、オープン戦以上の出走者はPre-OP戦のときのように前走順位などは無関係に収得賞金によって決定する。

 

 香港の選考委員会での評価ポイントは主に(・・)4点。国際レースや香港国内レースでのパフォーマンス、そのウマ娘の国際的・香港内での評価・名声、直近のパフォーマンス、沙田(シャティン)レース場でのパフォーマンスなどが選考対象となるが、あくまで『主な』分類であって、これ以外の理由から選出されることもある。

 

 なお史実において香港チャンピオンズ&チャターカップに出走した日本調教馬は現状ただ1頭のみで、それは奇しくも名前がちょっとだけ似ている『ハッピーグリン』号である。ただ2019年に出走した地方馬なので、この世界において同名のウマ娘が既に出走済かどうかはちょっと分からない。今のところあまり時代が近い競走馬モデルのウマ娘は見かけないもんね。

 ハッピーミーク自体はシニア級1年目で有記念を走っているので国際GⅠレース出走経験はある上に、そもそもGⅢまでの中央重賞って全部『国際レース』のくくりに含まれるから多分問題ない気はする。なお去年のシニア級2年目のハッピーミークはJpnⅠのJBCスプリントにも出ていたが、こちらは国際競走ではないので香港の選考委員会の考慮対象外レースだと思う。

 

「……あれ? でも葵ちゃんに、ミークちゃん。良いんですか? 香港チャンピオンズ&チャターカップにハルウララさんは多分出てこないですよね?」

 

「ええ。ローテーションの関係で今月末にドバイシーマクラシックに出走するハルウララさんが香港に来る可能性は極めて低いと思いますが……。

 これは、ミークとも相談済みですっ!

 ハルウララさんだけに固執せずに、もっと大舞台を経験したいって申し出がミークからありましたので!」

 

「……ふふっ、お客さんいっぱい……楽しみ……」

 

 

 ……というか、ハルウララ陣営はドバイミーティングの中でドバイシーマを選んだのか。芝・2410mのレースだから、確かウマ娘アプリの用語集に則れば2401m以上のレースはギリギリ長距離に区分される。いや2400mから10mしか変わらないのに長距離に区分けして良いのかなあ……。

 でも2500mの有が長距離な以上は、あまり細かいことは考えない方が良いかも。ただ『差しセイウンスカイ』が普通に機能していたように、アプリでの挙動以外の動きもあり得る。

 ハルウララのドバイシーマ2410mが果たして『長距離』と認識できるかは、ある意味では重要な意義のあるレースかもしれない。

 

 

 でも。

 ハッピーミークの大舞台経験願望は、つくづくだけれども私とレースに向ける意欲の方向性が全然違うことを実感させられる。

 

「じゃあ、今後ミークちゃんと顔を合わせるのは練習以外で……ってことになるわけですか?」

 

「うーん……それはそれでちょっと悩みどころなのですよね。1週間に1度くらいの少ない頻度で併走トレーニングを行うということは考えていましたが、どう思います?」

 

 ハッピーミークはこの葵ちゃんの質問に対して首を傾げながらも、

 

「……トレーナーが決めたメニューなら……いつも通り……やるよ?」

 

 と答える。ああ、これが一般的なトレーナーとウマ娘の関係か。

 

 改めて自身の異質さをぶつけられた気持ちになるが、でも一考してしまう。

 併走トレーニング。競走馬的に言えば併せ馬調教。

 2頭併せだと、能力の高い競走馬を外枠に置き先行させ、劣る馬を追い付かせることで、前者は逃げ切りの粘れる根性を身に付けさせ後者は全体的な能力向上が期待できる。

 なお3頭以上で併せることも結構あって、これだと素人直感に反して一番遅い馬のペースで推移することが多いらしい。だから上位2頭はトップスピードへ至ることなくゴール板を踏むこともあるので、もうひと追いさせてゴール先のコーナーまで加速させることで距離の向上を図ったりすることもあるようだ。

 

 私とハッピーミークの併走トレーニングにはメリットがある。それは異なるバ場、距離においてもパフォーマンスが同程度であることから、あらゆるレース設定を想定しての併走においてわざわざその距離に合致した相手を選ばなくてもお互いで事足りるという点だ。

 

 ただし、私の方が実力が下位だから、このトレーニング手法でより恩恵を受けるのは私。ただし、本来は競走馬にしろウマ娘にしろ闘争本能を引き出すことで単走よりも速度を出し本番に近い環境でトレーニングを積むために企図されたトレーニング手法だが、残念ながらそもそものその闘争本能に欠けている私は、他のウマ娘と比較して単走時と併走時の走行にほぼ違いが無い。

 良いように解釈すれば、外的影響に捉われず安定したパフォーマンスを発揮できるということなのだけれども、相対的に言ってしまえば併走トレーニングの効果が薄いのである。

 

 だから私が自主的にトレーニング管理をした際に、まともに自分の練習メニューに併走を取り入れていたのは、アイネスフウジンとの併走くらいだった。あの時も明確に目的が『スリップストリームの習得・習熟』といった観点で行っていたものだから意義はあった……今になって思えば併走トレーニングというよりも単にアイネスフウジンの後ろを追っていただけなんだけどさ。

 

「……2点だけ良いですか、葵ちゃん?」

 

「もちろんですっ!」

 

 まあ、これから聞かれることくらいは想定しているだろうなあ、と思いつつも、一応ハッピーミークに対しての私達の関係性の再周知も兼ねて質問を重ねる。

 

「まず、私とミークちゃんの力量差がどうしてもありますから、ミークちゃんにとって不利な形のトレーニングとなっていませんか?

 あと……私の性格面もあって、私自身は併走トレーニングで通常よりも高いパフォーマンスを発揮することは無いと思うのですが……」

 

「あー……そうですね、ちょっと私の言葉が足りなかったかもしれませんね。

 併走トレーニングですが、狙いは『レース時のマンマーク技術』に関してです。

 ……ほら、ダイヤモンドステークスにて中盤までホッカイルソーさんに対してサンデーライフがやっていたものですよ!

 サンデーライフはレースの性質上1対1の駆け引き技術は結構使う機会が多いと思いますし、ミークも海外遠征先によってはミーク自身が格上として現地ウマ娘から徹底マークを受けることだってあり得ますから、その対策ですね!」

 

 

 言わば私にとっては『デバフ』スキルに近い技能を身に付けさせるということである。もっともアプリの『デバフ』系は脚質毎のエリア攻撃であったが、ホッカイルソーと併走して無理やり掛からせたり、障害戦においてビックフォルテ相手にプレッシャーを与え続けたような1対1テクニックを併走で磨くということである。

 バスケットボールやサッカーなどの球技においてマンツーマンの技術というのは聞き覚えがあったが、まさかレースにまで転用出来る概念だとは……と思うと同時に、1対1戦術をトレーニングに盛り込むという発想は私には出来なかった。だって競走馬にもアプリにも無いものだったし。

 効果的には対1人相手の『焦り・けん制・駆け引き・ためらい』のいずれかに準じた扱いになるだろう。他ならぬ私自身が逃げのホッカイルソーを無理やり『大逃げ』にさせた実績のあるやり口である以上、上手く使えば効果は大きいとは思う。

 

 いやー……葵ちゃんのトレーニング手法の幅が本当に広いよ。

 

 

 

 *

 

 ホワイトデーはそんなハッピーミークとの初顔合わせという濃密なイベントもあったが、それ以外にバレンタインチョコをくれた子のうち当日にお返しをあげていなかった子へのマドレーヌを渡すことも行った。

 渡す子のクラスを完全に把握出来てはいなかったので名簿と大量のマドレーヌを教室まで持って行ったら、案の定ではあるがクラスメイトにドン引きされた。

 

「サンデーライフを見ていると、『王子様』って遠目に眺めておくものなんだなって……」

 

 とはいえ、友達から他のクラスの移動授業のタイミングとかの情報を集めて休み時間や昼休みを駆使してほとんど、放課後も含めれば素性が割れた子の分は全部渡すことができた。残念ながら素性が割れなかった子は、取り敢えず友達にももし見つけたら直ちに私に連絡するように伝えているので、15日以降に拾い上げる努力はする。

 

 マドレーヌは手作りでも、冷凍保存をすれば1ヶ月程度は保管できるので。

 

 いや、でもホント大変だった。絶対お返しなんて貰えないだろうと思っていた子なんかは感極まって泣き出しちゃったりもしたし。いや、逆の立場だったらその気持ちは分からないでも無いけど、その対象が自分ってところはさ。もう私はそういう立場だって自覚もあるけど……まだむずがゆい部分もあるのよね。

 オープン戦に出走しているだけでウマ娘全体から見れば上位数%レベルのスーパーエリートだし、トレセン学園内に限定したとしてもかなりの上澄み層であることは確かなのだ。GⅠ出走ゼロでも人気が出ること自体はおかしくない……って分かっていてもねえ。やっぱり自分には過ぎた名声だよなあ、と思うことは多い。

 

 

 

 *

 

「――それで、サンデーライフは次走はどうします?」

 

 ホワイトデーも終えて何日か。2月の後半にダイヤモンドステークスに出走したが、日程的に見ればそろそろ次走を決定しても良い頃合いだ。

 

「うーん……、3月末のGⅢはダート1800mのマーチステークスだけですか……」

 

 上を見ればGⅠに大阪杯と高松宮記念という明らかにヤバそうな字面が並び。GⅡには阪神大賞典と日経賞という長距離レースがある。

 GⅠは論外としても、GⅡだってまだすぐ狙おうとは思えない。如何にダイヤモンドステークスで好走できたとはいえ、すぐにステップアップというのは、何か大きな理由が無ければ私は決断できないのだ。というか、別に無理に重賞にこだわる必要もないのよね。

 

 その辺りの日程表と睨めっこしながら考えていると、葵ちゃんが申し訳なさそうに口を挟んできた。

 

「あの、サンデーライフ。

 4月の初頭には『ファン感謝祭』もありますから、それをどうするのかも一応考えておいた方が良いと思いますよ。

 『ファン感謝祭』のせいでレースに影響が出ないように、という話になっていますが、3月末は準備期間で一番忙しい時期になるのは確かですし……。何より、今年のサンデーライフはGⅠウマ娘の次くらいで競い合えるくらいには人気がありますので、正直参加しない選択肢は無い、と思ってください」

 

 あー……そう言えばファン感謝祭は4月の頭か……。

 みんながファン感謝祭で忙しいからこそ実は時期的には狙い目であったりする。まあオープン戦以上のレースだし、レース優先にしてくれるのは間違いないけれども、その場合には事前準備がほぼ無い状態でのファンサ対応を求められることとなる。

 

 で、そんな事態になったら多分最も安直な想定としては、男装の執事喫茶辺りにぶち込まれるだろう、ファン需要的に。

 いや別に執事になることが嫌なわけではない。『王子様』扱い自体はもう今更な話だし。でも……私個人の『王子様』としての名声を切り売りするタイプの出し物ってさ。人気があればあるほど休憩時間が最低限になるよね、きっと。

 

 ただ各育成シナリオを見ると、かなりそのウマ娘の個性に合わせたこともやっているわけで。一応目玉のイベントとしてはスポーツの対抗戦ではあるが、例えばフジキセキ寮長はマジックショーをやっていたり、マンハッタンカフェはコーヒーショップを開き、ゴールドシチーは体育館を貸し切ってのファンミーティングをしたり、セイウンスカイはファンとともにお昼寝したりとそこそこやりたい放題やっている行事だ。

 

 だとすれば。私に求められるのは『執事喫茶』よりも、おそらく――

 

「――桐生院トレーナー、そしてサンデーライフ。在室でしょうか……生徒会のエアグルーヴです」

 

 ノックの後にしばらくしてから、僅かに扉が開かれて声がした。トレーナー室は完全防音だから、ドア開けないと外の声が聞こえないのか。

 

「……あ、はいっ! 私もサンデーライフも居りますよエアグルーヴさん!

 どうぞ中に入っていただいても――」

 

「いえ。部外者のトレーナー室への入室を、生徒会権限でやってしまっては問題になりかねないのでドア越しで口頭で伝言をお伝えします。

 ……サンデーライフ。会長が『ポロ』の件でお呼びだそうだ。いつでも生徒会室に来ても構わないと会長はおっしゃっていたが……すぐに来れるか?」

 

 

 ……だよなあ。シンボリルドルフにとって執事喫茶などよりも、そっちのが優先度が高い事項になるよねえ。

 

「すみません。次走の選定を行っておりましたので……そうですね。

 1時間後に私の方から生徒会室には伺わせていただきます」

 

 その言葉を聞くと、エアグルーヴは『邪魔をしてすまなかった』という言葉を残して去っていった。

 

 

「……あの。サンデーライフ、『ポロ』と言いますと……あのウマ娘球技の――」

 

「葵ちゃんも知っていましたか。……こういう形で自分の言葉がかえってくるとは思いませんでしたが……。

 ごめんなさい、葵ちゃん。全部が全部、生徒会の思惑通りに進める気は毛頭ないですが……ちょっと、ファン感謝祭への注力が必要かもしれません」

 

「いえ……サンデーライフがそれで良いのであれば、私は構いませんよ。

 ですが……そうなると、次走はどうします?」

 

「――ファン感謝祭の直後にします。トレーニングメニューなどは追々考えて欲しいですが……。ここで重賞レースに出るとなると実質一択でしょう」

 

「サンデーライフはGⅢしか行く気は無さそうですし、アンタレスステークスは地方含めて4月唯一の中距離ダート重賞レースで有力ウマ娘が集結しやすいことを鑑みれば……ダービー卿チャレンジトロフィーですね」

 

 

 ――4月第1週に開催中山レース場、芝・1600mで開催されるGⅢ・ダービー卿チャレンジトロフィー。除外されなければ、これが私の次走になる予定だ。

 

 そして、その前に『ファン感謝祭』をこなすこととなる。

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