強めのモブウマ娘になったのに、相手は全世代だった。   作:エビフライ定食980円

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第54話 可能性と不変性

 サンデーライフ @sundaylife_honmono・数秒前 ︙

  ウイニングライブのバックダンサーをお休みして病院に向かいました。詳しい検査結果はまだですが、今のところ特に異常な点は見受けられないようです。正確な結果が返ってきたらまたお知らせいたします。

  ……それで、まだ一応名古屋に居るんですけど、ご飯って何があります?

 1 リウマート 0 引用リウマート 6 ウマいね


 

「これで良し……と。うわあ……凄い勢いで『ウマいね』が増えてる……」

 

 人によってはこの目まぐるしく変わる数字に一喜一憂して承認欲求が満たされるらしいけれども、私には不気味にしか見えない。ファンたちが通知が来る設定にしているとしても、こんな僅か数秒で大量にレスポンスが返ってくる世界は私にとって『暇なのか、こいつら……』って感想がどうしても先行してしまう。

 おおう……アグネスデジタルのリウマート早っ。もう私のウマートに反応してる。この時間、きっとライブの撤収作業中のはずなのによく反応するよ……いつの間にかフォローしていたらしいので、こっちからもフォロー返しておくか。

 ……うわっ、相互フォローされたことの喜びのウマートをもうしてる。反応速度すごいわ。

 

 アグネスデジタルと言えば。『落鉄』に関する事で今更ながらふと思い出したのだけど、デジたんに言われるまで全く気付かなかったのって名古屋レース場の砂質も影響しているのではないだろうか。

 というのも、トゥインクル・レースで使われる全レース場のダートコースの『砂』はURA砂質基準を満たすために全部、青森県六ケ所村――同じ産地の砂が利用されているのに対して、名古屋レース場は木曽川の砂を使用している。あとは砂厚調整の仕方とかも違うから、そういった『砂』の違いで蹄鉄の違和感に気付けなかったのかもしれない。もう完全に後の祭りだが。

 

 

 閑話休題。

 デジたんのSNS強者っぷりを目の当たりにした後、さっきウマートしたものの返信を確認していく。いつもは絶対見ないのだけども、ご飯の質問したしね。

 『かにみそ』、『かにみそ』、怪我に対しての安心したって返信、『かにみそ』、グルメレビューサイトのカニ料理・名古屋エリアの検索結果のURL……うーん、まあ薄々こうなる気はしていたけど案の定のカニ祭りである。

 お、なんか長文の返信も来てる。

 

『サンデーライフさん、10着残念でしたね! ですが気を落とさないでください! それでご飯なのですが、名古屋からはちょっと離れてしまいますが、前に僕が彼女と行ったイチオシのお店が岐阜にありますので、そちらはどうでしょう? 美味しい懐石料理のお店なのですが――』

 

 ……名古屋に居るのに別の場所を指定するんじゃない。しかも店舗住所が大垣市、いやまあ『岐阜市』とは確かにこの人のウマートにも書いていないけどさ……紹介するならもう少し配慮してくれ。そんな片道1時間以上かけてご飯を食べに行くテンションじゃないのよ。

 

『(前略)――名古屋と言えば、ご飯も勿論良いですが! 名城公園の桜が綺麗ですよ!!』

 

 あのさ……今、聞いているのはご飯なのよ。しかもゴールデンウィーク中だから桜ももう無いでしょ。せめて季節感くらいは合わせて。

 『かにみそ』とネタ系ウマートと後は怪我の報告への返答が大体8割くらいで、何かずれたご意見とか逆質問をしてくるのが1割そこそこ、後は真面目に探してくれている人が1割切るくらい。

 

 ……うん、SNSって多分こうやって使うものでは無いんだろうなあ。役に立つ意見を探し求めること自体が間違っていたのかも。大喜利会場と化したそれをそっと閉じてスマートフォンから目を離す。

 

 

「……それで、葵ちゃんは何か食べたいものとかあります?」

 

 一応もうホテルまで戻ってきていた。それで私の部屋の荷物も含めて全部葵ちゃんの部屋の中に突っ込んで私はベッドの上で寝転がりながら、葵ちゃんは客室の椅子に座っている。

 

「サンデーライフが食べたいものなら、何だって良いですよ?」

 

「それが1番困るんですよー、もう」

 

 葵ちゃんが妙に本調子ではない以上、美味しいものでも食べた方が良いかもしれないけれども、彼女、良いところのお嬢様だから逆に高級で美味しいものの味は基本知っているんだよね。だからこそ『何だって良い』って発言に繋がっているとは思うが。

 だからそれを逆手に突いて、ジャンクフードとか安い物の方がむしろ食べたことがないから嬉々とする可能性すらある。ほら、前の回転寿司のときみたいにね。

 

 あるいは折角の遠征なのだからご当地のものを食べた方が良いのだろうか。ぶっちゃけ今までそんなに気にしなかったけど。唯一あるとすれば阿寒湖特別のときに札幌でファインモーションがどうしても行きたかったラーメン屋さんくらいか、ご当地系って。

 

 そんなことに色々考えを巡らせてた結果、1つの結論に至った。

 

「……やっぱりホテルのインルームディナーにしましょうか」

 

「サンデーライフが良いなら構いませんけど、どうしてですか?」

 

「……やっぱり私も本調子では無いんですよね。今日、ちょっと空回りしている気がするので、無理に外に出ない方が良いかもしれないです」

 

「……本当に、らしくないですよ、サンデーライフ」

 

 

 考えを巡らせること自体はいつも通りなんだけど、今日――というかレース後か病院後辺りからかな? あんまりひらめきが良くない感じがする。レースが終わった直後は頭が冴えてきた感覚はあったんだけど、まだ普段のようには噛み合って来ない。

 だって、いつもの私だったらSNSを使って夕ご飯募集なんて考えは絶対しなかったし。葵ちゃんの調子もおかしいが、私も私で微妙に歯車が合わない感じを何となく認識している。

 そういう不安定な感情が渦巻いている中で、あんまり外部との接触を取らない方が良いかもなあ、って気持ちになった。

 

 そうと決まれば、客室の電話からフロントに向けてインルームディナーのお願いを葵ちゃんがした。私は和食の鶏御膳にして、葵ちゃんは伊勢海老のペスカトーレを注文……いや、葵ちゃんは手慣れていてさらって注文したけど、値段めちゃくちゃヤバかった。

 ホテルの情報自体は調べていたから存在は認知していたけども、ビビる値段するね、ルームサービスの食事って。それと値段が人間1人前とウマ娘1人前で倍以上違った。

 

 で、時間指定も出来るってことだったので、先にお風呂に入ってしまおうということに。

 いつもはレースとウイニングライブの後は面倒くささが限界まで達しているので、客室内のシャワーで済ませることも多かったが、流石に葵ちゃんと一緒にお風呂に入るって言った手前、そこでは狭すぎるので大浴場へ行くことにした。

 

 それで髪と身体を葵ちゃんに洗ってもらうように言ったり、逆に葵ちゃんの方は私が洗ったりした。まあ、私自身にも葵ちゃん自身にもあんまり1人で黙々と作業する時間を与えること自体が今の状況だと毒になりかねないので、なるべくどんなことも1人でやらないように意識しての私からの申し出だった。

 

 ……まあ、そのせいでいつも以上にお風呂に時間がかかってしまった。幸いまだお風呂にはお客さんが少なくて邪魔にならなくて良かった。

 そして改めて私達2人のシングル部屋に戻ったら既に机の上には料理が置かれていて、あと椅子が1脚追加されていた。うーん、配慮の鬼である。

 

「じゃ、食べましょうか葵ちゃん」

 

「そうですねー」

 

 地味に葵ちゃんがお風呂上りでテンションがほわほわした感じになっていて語尾が間延びしているのが面白いが、特にそれを指摘したりはせずに尻尾だけぶんぶん振らせて席に座る。まあ尻尾は別に抑えないでも良いでしょ、今のシチュエーションだと料理わくわくウマ娘にしか見えないし。

 

「いただきまーす……んむっ。

 ……あっ、うっま。……美味しいですよ! 葵ちゃん!」

 

 鶏のおこわご飯を一口食べた瞬間、一瞬敬語外れるくらい美味しかった。ホテルの食事だしなあ。しかもおこわご飯、何がすごいって『おひつ』で持って来られていて、茶碗に食べられる分だけよそって食べられるというウマ娘仕様にちゃんとなっているところだ。で『鶏御膳』ということでこのおこわご飯以外にも重箱に入った小鉢とかおかずがあるわけだが、重箱は2段になっていてそれぞれ全部メニューが違った。唐揚げとかバンバンジーのサラダとか、後は鶏御膳だけどお刺身盛り合わせもちょっと入っていたり。

 

 で、葵ちゃんの方を見てみると、伊勢海老が大きなパスタ皿の上に鎮座している。……実際には半身でひっくり返せば身をすぐに食べられるようにはなっているけれどもインパクトがすごい。その周囲にはムール貝とか大き目のアサリとか、ホタテなどの貝がバックダンサーのように伊勢海老を引き立てていてビジュアルだけでも圧倒してくるパスタであった。

 

「ん? サンデーライフも食べてみます?」

 

「あっ? 良いんですか? いやー悪いですね、葵ちゃん」

 

「なんか白々しいですけど、元々私はそのつもりでしたし。

 はい、どうぞ」

 

 葵ちゃんの手によって差し伸べられたフォークに絡みついたパスタを、私は頭を寄せつつ口から『はむっ』といく。

 

「……トマトの酸味と海鮮のダシがすごい効いていますね!」

 

「あ、あと。この伊勢海老の身もどうですか?」

 

「――んっ。すごいプリプリしていますねっ! 葵ちゃんのも美味しいです」

 

 

 ……そうして葵ちゃんが1人前の半分弱くらい私に譲っているのを見て、葵ちゃん自身がそこまで食欲が無かったことには流石に察しがついたけれども、それをこの場で敢えて指摘することはしなかった。

 多分、そういう部分で心配するよりも私が楽しそうにしているところを見せる方が、今の葵ちゃんの癒しになるだろうなって確信はあったし。……自分でそれを自覚しながら見せつけるのは流石の私でも恥ずかしいけどね。

 

 

 

 *

 

「葵ちゃーんー? そろそろ、あなたの中で抱えているものを教えてくれても良いんじゃないですか?」

 

 同じベッドに入って葵ちゃんと一緒に寝るのははじめての経験だ。葵ちゃんの家の寝室ではお布団敷いてたからね。シングルベッドに2人で寝るのはアホなのよ。

 その点、このホテルのシングル部屋のベッドはセミダブル。だから、安心! ……とはならない。当たり前である。セミダブルも広めの1人用ベッドだから、2人で寝たら流石に狭いのだ。なので今日の私達はアホである。

 

 それでも私達は距離感バグ勢だから、別に至近距離に葵ちゃんが居ることに全く苦を感じることはなかった。顔を向き合わせて葵ちゃんに話しかけている今は鼻先と鼻先とが触れ合うくらいには近いけれども、葵ちゃんもパーソナルスペースに私を入れることに全く拒否感を感じさせていない。

 

「……そう、ですよね。サンデーライフに隠せるはずが無いですもんね」

 

「私も本調子ではないのは間違いないですが、葵ちゃんの方がやっぱり今日は変ですもん」

 

 そう言いながら私は尻尾を葵ちゃんの左脚に絡ませる。そして目はまっすぐ葵ちゃんの目を見て『逃がさない』ことを行動でも意思表示する。

 

 その全ての所作を抵抗なく受け入れた葵ちゃんはぽつりぽつりと話し始めた。

 

「……サンデーライフがレースに負けても心が折れることが今まで無かったのは『勝利への渇望』を育まなかったから。そして、それがコンディションの安定性に繋がっている……ということは以前お話しましたよね?」

 

「そうですね。……それが、なにかありました?」

 

「……だからサンデーライフ。あなたはメンタルが強い(・・・・・・・)のではなく。敗北でダメージが入りにくいだけなのです。

 そして――おそらく。あなたは根本的にはメンタルがそこまで強くない方、だと私は考えていました。

 ただ、普通のウマ娘とは違ってダメージが入るシチュエーションが限定されている、と」

 

 葵ちゃんの言わんとすることは何となく分かった。

 もしメンタルへのダメージが可視化できるとしてそれがHPのようなものだと仮定すると、私はその元々のHPゲージがたくさんあるわけでも無ければ、守備力みたいなパラメータが高い訳でもない。言うなれば『物理無効』みたいな種族特徴でずっとメンタルダメージを跳ね返していただけなのだ。

 そういう状態の私がいざ『魔法攻撃』みたいなものを受けたら一気に大ダメージが入るように、私は『落鉄』によって瞬間的に自己でも認識できないほどのパニック状態に陥っていた……という考え方である。

 

 だから、私がパニックになったのは『落鉄』という行為そのもの。これで自身のレースの発走を15分遅らせて色々な人に迷惑をかけたその想定外の事態で頭が真っ白になったことが原因であり、逆にそれによって『出遅れ』が引き起こされて『レースそのものに敗北』したことに対してのダメージはそこまで無いのだ。

 10着を取ったことについての原因は逆に明らかなのだから、私が今も若干本調子ではないのは『落鉄によって一度パニック状態を引き出された』ことに対する引きずりに近い。

 

 と、すると……。葵ちゃんのパフォーマンスが崩れている理由は。

 

「……もしかして、予想外の事態が起きると私が危ういってこと――気付いてました? 葵ちゃん?」

 

 私も気付いていない私自身のことについて、葵ちゃんが理解が及びつつもそれを伝えられなかったことへの後悔。それに思い至った。

 

「……近い、ですけど少し違います。

 私はずっと。サンデーライフが調子を崩すのであれば――『勝利』した瞬間だろうと考えていました。

 ……ですが、今更になって考えてみれば。貴方の以前の『勝利』には想定外の事態がよくセットで付いてきておりましたよね――」

 

 

 ――葵ちゃんの目線から見たときに、私が明らかに『崩れた』と感じた出来事が2回だけあったようである。しかもどちらも契約前のことだ。

 

 1つは、1勝クラスでの勝利――『三条特別』。あの時、私は1着で入線した後に確定ランプが灯らず『審議』ランプが灯った。

 そのすぐ後のアナウンスで、私の着順に影響しない審議であることが分かったが、その際に私は腰の力が抜けてへたり込んでいた。葵ちゃんはそれを映像で知っていた。

 

 

 となれば2つ目はもう明らかだろう。3勝クラスの『清津峡ステークス』の勝利である。これについては葵ちゃんも既に言及していて、

 

 ――勝って『やってしまった』という表情を浮かべる子なんて初めて見ましたよ。

 

 と彼女はその時の私のことを評していた。特にこちらは、メンタルにダメージが入った後の影響範囲が広く、シンボリルドルフにURAへの非公式抗議の直談判するに至っている。……確かに精神的動揺が気付かぬうちに様々な面に波及していた事柄かもしれない。

 

 しかし、障害未勝利レースでの勝利のとき、私はそうした精神的動揺を見せなかった。

 

 

「――だから。私は『克服できた』と判断してしまいました。Pre-OP戦で様々なことを抱えて背負っていたものを肩代わり出来たと思っていました。

 が、そもそもサンデーライフの精神にダメージを与えていたのは『勝利』では無かった――」

 

 私は葵ちゃんを抱き寄せた。

 葵ちゃんがこの上なく動揺したのは――『判断ミス』。

 

 私が完全に想定外の事態に弱いということを、葵ちゃんは見抜くことが出来なかった。……私自身も見抜けていなかったことではあるんだけどさ。

 でも、言われてみれば前走・ダービー卿チャレンジトロフィーでもその片鱗を見せていた。

 

 本当に私に悪影響を及ぼすのが『勝利』なら。きっとあの日、2着か3着かを決める写真判定で私の手は震えなかった。

 私の手が震えて緊張を見せたのは『写真判定』という行為そのもの。あのタイミングで起こるとは考えていなかった――それは確かに想定外事態であったと言える。

 ただ写真判定ということがレースを走っているうちにいつかは起こるだろうという考え、そして自分自身のケースではないものの阿寒湖特別で既に経験していたということがあったからこそ、あの時は軽微で済んでいた。また何よりレース後の話だから、そこで動揺したところでもうレースに悪影響を与えようが無い。

 

 

 そして、繰り返すがこれを葵ちゃんは『判断ミス』と捉えている。

 

「もしかして……葵ちゃん? この件で私がトレーナー契約を解除するとか、あるいはトレーナー不信になる……って思っています?」

 

「いえ……いえ! そういう自己中心的な話じゃなくて!

 もっと正しい判断が出来ていれば、今日のことを未然に防ぐことだって――」

 

 抱き寄せた葵ちゃんの顔を私の胸に強くうずめさせて言葉を無理やり遮った。

 ……まあ。その言葉に嘘偽りは無いだろう。葵ちゃんの後悔の大部分は、今日の出来事を防げる断片的な情報を見落としていたことにある。

 

 確かに、葵ちゃんも私も本来、究極的にはお互いに依存した関係ではない。……今日の距離感には目をつむって欲しい。

 だからこそ葵ちゃんがトレーナー契約の継続を望むことについて、それが『自己中心的』だと言うのも理屈は分からなくない。

 

 

 ――でもさ。

 聞きたい言葉って、それじゃないんだよね。

 

「――葵ちゃん、分かっています今の状況? いくら人との距離感に疎い葵ちゃんでも分かりますよね? この距離感が許されるのは――恋人くらいですよ?」

 

「……はい」

 

 葵ちゃんは頷いた。本当に小さな声だったけれども確かに頷いた。

 確かにお互いの距離感はバグっている。そしてこれを言った後でも葵ちゃんは脚に絡められている私の尻尾を払おうとはしなかったし、私の胸に顔をうずめていたままだった。

 

 ――お互い確実に認識した上で、友情としての一線は既に越えていた。

 

 

 確かに私達はずっと共依存の関係ではなかった。そう――そういう関係性では『無かった』。

 しかし、今。

 

 

 ……その関係性を再定義することは――可能である。

 

 葵ちゃんは私に抱きしめられたまま顔を上げる。視線が交錯する。

 

 

 ――そして。

 

「あはははははっ! ……まさか、サンデーライフから本当に愛の言葉を囁かれるとは思いませんでしたっ!」

 

「そういう葵ちゃんこそ! くくっ……あなたはトレーナーで大人なのに、担当からそういうこと言われてどうして何も言わないんですか! そこはビシッと言わなきゃダメでしょう?」

 

「私はサンデーライフにとってトレーナーじゃないですからねっ!

 ただの『葵ちゃん』ですし!」

 

「あー、開き直りましたね、葵ちゃん! でも駄目です! 私のトレーナーじゃなくてもミークちゃんにとってはトレーナーなんですからねっ」

 

「うぐぐ……痛いところ突きますね。ですがサンデーライフにとってのミークも遅かれ早かれ似たような感じになると思いますよっ!」

 

「――それ、同級生に告白された私に言います!? 葵ちゃん、デリカシー無いですねー」

 

 

 改めてここで関係性を再定義する必要はなかった。

 現実とは複合的であって。決して関係性というのは一意に決まるものではない。……前に私が考えた自論は今なお一緒。

 

 もし言葉に落とし込んだときに最も近いのが『友達』から『恋人』に変化していたとしても。それはあくまで外から見たときの『他者評価』に過ぎず。

 

 私達にとって『サンデーライフ』と『葵ちゃん』の関係性を再定義する必要は無かった。

 

 ドロドロの共依存関係にも望めばなれる位置に居ることはお互い分かっていたけれども、それはお互いに望むものではなかった。

 ……どうしてかって? それはすごく単純なこと。

 

 ――だって。私達は『順位』を目標にしているわけじゃないのだから。

 

 

 ……これは、ガチ恋の私の友達に告白されたときと一緒で。

 私達はお互いの関係性を『崩さない』ためになら、恋仲になることすら選択肢に入るだけ。

 

 ただその考えを私も葵ちゃんも持ってしまっていたというだけのことに過ぎず、そこにあるのはただひたすらに恋愛感情とは別枠の、言葉にすると陳腐になってしまうものであった。

 

 

「……葵ちゃん。

 あなたの考えをお聞かせください。私の次走……もう、決めているのでしょう?」

 

「ええ、まあ……私案はありましたが突然ですね……。ですがちゃんとサンデーライフの中でも考えてから決めて下さいね?

 今日の件も含めてですが、大舞台での経験を積むというのは……ええと、つまりですね。

 次走は――『宝塚記念』……どうでしょうか、サンデーライフ?」

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