強めのモブウマ娘になったのに、相手は全世代だった。   作:エビフライ定食980円

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第57話 宝塚への道(2)――票読み

 GⅠレースである宝塚記念に出走にあたって準備することとはなんだろう。

 

 勝負服のデザインを考える?

 あるいは、宝塚記念のウイニングライブ曲『Special Record!』のダンス練習?

 それとも、新たな秘策のための秘密特訓とか?

 

 うん、いずれも大切なことではあると思う。

 しかし、それらはすべて出走できないと全部水泡に帰す努力だ。

 

 最も肝要なのは、ファン投票10位以内を狙うこと。ないしは11位以下でもなるべく高順位に付けることで他ウマ娘の出走回避による繰り上げ出走を狙うことだ。

 

 だから優先順位としてはファン投票対策が上に来るのである。まあ葵ちゃんが帰ってきたら他のことも検討事項になるが。

 

 そして。やるからには私は本気で挑むことにした。

 だからこそ。私の次なる一手は自ずと決まっていた。

 

 それは。

 ――票読み、である。

 

 

 

 *

 

「……うっわ。サンデーライフ、マジでこれやる気? ちょっと、えぐいって……」

 

「――だから言ったでしょう。あんだけ守秘義務ガチガチに縛って、友達相手でもちゃんとお給料の支払いするって言ったんだから。

 ……どうしても、今は人手が必要なの、お願い!」

 

 まずクラスメイトを含めたお友達から10人くらい選抜して、ファン投票の私陣営のスタッフとして臨時雇用する。

 お手伝いではなくちゃんと雇用契約を交わしているためアルバイトとしての賃金がしっかり発生する。トレセン学園自体は許可さえ取ればアルバイトは可能だ。他ならぬアイネスフウジンがバイト勢だしね。

 だからこそ、学園提出書類から全部ひっくるめてこっちで負担する形で友達を雇った。最初はタダでお手伝いするよ、と言っていた友達も『守秘義務違反の場合は最悪法的措置に出る恐れがある』とか私が説明したら、そこにお金のやり取りを発生させるだけの必要性があることを薄々ながら察したようであった。私としても強制するつもりは無いし、今なら引き返せるって何度も説明した上でここに居る面々は残ってくれたから素直に助かる。私のガチ恋勢のお友達も残ってくれていた。

 

 そんな10数名のお友達を葵ちゃんのトレーナー室へと案内した矢先の感想が先の言葉だった。そもそもトレーナー室に他のウマ娘を入れるってこと自体が、かなりのイレギュラー事態ではあるが、そこに私が準備したものに驚いているようであった。

 

 まず壁掛けの大きなホワイトボードを埋め尽くすような巨大な日本地図。

 次に市町村別の人口データの冊子が47都道府県分。これは総務省や地方自治体が一般に公開しているやつ。

 そして過去5年分の宝塚・有のURA公式の投票データ。中間発表分も集めてきているが、しかし一方でこれは全体集計なので都道府県別の傾向などは分からない。

 

 だからこそ、最後に大手メディアの予想データと、同じく過去5年分のアンケート調査データを重ねる。アンケート対象者の母数こそ心許ないが複数社が独自調査でやっているようなので、重ねることでデータの傾向を掴む。

 

「こっちは、新聞とか紙媒体になっているデータを表計算ソフトに打ち込む仕事ね。既に雛型は作ってあるから、ただひたすらに数字をぶち込む単調作業なんだけど……。

 実は、もう1つあるんだよね。むしろそれの方が本命と言うか……」

 

 後ずさる音が聞こえたが気にせず続ける。

 

「ウマッターでもウマスタでも良いんだけど、SNSを見て特定の宝塚出走ウマ娘に関して呟いている人のデータを集めて欲しいんだよね――」

 

 例えば、出走しますと宣言した子が居たとして、その宣言後にどういう人がその話題に言及しているのかを調べ上げる。

 調べると言っても、そんなに難しいことはしない。アイコンを何にしているとか、bioを見たりとか、直近のウマートを漁って何となく印象を探る程度。ただしそれを1話題につき100人単位――それを最新順に適当に抜粋したものと、ウマいねやリウマートが多い求心力の高いアカウント別にしたものと、でまとめていく。

 勿論、分からないなら分からないで情報に入れる。そうすれば、この子のことをウマートする層は匿名性が高いとか、そういう方向性が掴める。

 

「それに合わせて1人、2人で良いんだけど、ただひたすらにネットニュースや動画サイトとかを巡回して宝塚記念関連の最新ニュースを拾い続けてSNS班にチェックする内容を伝達する係も欲しい……って感じかな?」

 

 それらのデータを集積していって出走表明したウマ娘陣営ごとに、どういった層、地域、年齢、性別等の受けが良いかをまとめていくことで『中間層』をあぶり出すのが目的だ。

 その傾向を見た上で、私は情報発信を既存のファンへの強化へ向けるのか、中間票狙い撃ちを企図するのか、あるいは他の支持層の妨害を狙うのか決定する。

 

 

 ……こんなことをしなくても『王子様』人気で何とかなるんじゃないか、って?

 

 うん。それは友達にも言われたが、実際にこの作業を始めてから彼女も意見を覆さざるを得なかったのだ。

 

「――サイレンススズカ先輩が、自身のオフィシャルサイトにて宝塚記念出走の意向を示したことが話題になってるよ! スズカ先輩のチェックする人員を追加して!」

 

「キンイロリョテイ先輩の出走表明で、北海道票に変動がありそうです!」

 

「……ちょっと! ゴールドシチーさんが、テレビ番組の番宣枠で宝塚記念への投票を促してトレンドに入ってる……!」

 

「オグリキャップさんも出走表明!? ……待って、それで去年の有がクローズアップされて、そこに出走していたウマ娘への注目度も上がってる……! オグリさん去年、有優勝したからなあ……上位に食い込むよね……」

 

 

 ――大なり小なり何らかの形で『宝塚記念』に出たいという意志を見せたウマ娘は、ファン投票開始日までに私達が集計できた中では132人。当然、この時点で意志を表明しなくても構わないし、出るか否かという意味での判断は実際の出走登録まで分からないが。

 

 ただこれでも限られているとはいえ132人全員をチェックするのは無理なので、その中でSNSにおけるバズり方やメディアでのクローズアップのされ方等で人気なウマ娘の情報収集にシフトした。

 そして私の最初の記者会見での出走表明よりも、大きな話題性を産み出した子は現時点で――19人。

 

 

 

 *

 

「いやー……こうして見てみると壮観だねえ。サンデーライフがやりたがった理由も今ならちょっと分かる気がするよ」

 

「あはは……、流石にこの作業は1人2人じゃ実現できなかったから、皆が居て本当に良かったですよ」

 

 とりあえず分かっていることを何点か。出走表明をしている子でクラシック級のウマ娘からは目ぼしい子は出てこない。だから、ここでのトウカイテイオーやディープインパクトとの競合はほぼ皆無と言って良い。それは素直に助かった、枠が減るし。

 

 まあ一応『宝塚記念に出たい!!』って言っている子の中に『ツインターボ』って名前のクラシック級ウマ娘が居たけれど、彼女はまだまだ大逃げウマ娘として大きくクローズアップされていないから知名度も高くはない。

 青葉賞でボロ負けした後にIFローテで白百合ステークスに出走登録していた上、宝塚の1週後のラジオNIKKEI賞にも出るつもりみたいな話も混ざっていたので、ローテーション的に宝塚には出てこないと思う。というかトレーナーが止めるでしょ、流石に。

 

 だから相手となるのはシニア級ウマ娘だが。これがもう錚々たる面々でしかない。他のウマ娘たちを上回る人気を見せているのが一昨年の覇者であるサイレンススズカ。

 昨シーズンより米国遠征をしていたサイレンススズカが久しぶりの日本レースの出走意向の表明を見せたことでお祭り騒ぎになっている。

 オフィシャルサイトの声明では『本人希望であるが、8月に米GⅠレースも控えているので、体調面などあらゆるリスクを考えて実際の出走は慎重に判断する』というかなり消極的な発表ではあったものの、やはりサイレンススズカ人気は圧倒的であった。

 

 

 そして圧巻と友達が言ったのは歴然とした地域格差である。まとまってきたデータを眺めて私が声に出す。

 

「分かってはいましたが、費用対効果を考えますと都市圏へ注力した方が良いですね……。票の重みを同じにしてしまったが故の明確な欠陥です」

 

 直接投票制一発勝負の最大の欠陥である死票の多さ。それが地域格差としてモロに出ていた。政治の方の選挙制度のように選挙区制とかで色々と是正しているそれが無い以上、1人1人の票が完全に平等である一方で、特定地域に宣伝広告を行うのであれば人口密度の高い地域を狙い撃ちするのが明らかに得となる。

 

 そしてインターネット投票である以上、SNSの寄与度は大きいが欠点も内包している。ソーシャルメディア利用勢の方がインターネットでの投票への抵抗感が薄いので『投票率』は高い一方で、大衆迎合するファンと固定のウマ娘一点型投票するファンとに二極化しているために、宣伝効果が大して見込めないのである。

 

 一応大衆迎合の層は浮動票にはなるんだけど、その殆どが話題性が段違いのサイレンススズカに持って行かれる……ないしはもっと知名度の高いところにぶち込んでそのまま無効票と化すかのどちらかであると予想される。そしてSNSは激戦区な上に、他のウマ娘の参入障壁もかなり低いために、主戦場とするのには心許ない。

 

 

 では、どこが狙い目か。

 これは私も全く予想外であったから本当に調べて良かったけれど、確かに言われてみればという盲点を突いた浮いている票があった。

 

 

 ――12歳以下の小学生以下の子どもの投票権。

 人口で言えば約1000万人居るこの世代が、今までのファン投票で目を付けられていなかった。

 

 

 どういうことかと言うと、この世代には『両親の投票先と全く同じ』ウマ娘に投票する傾向がみられた。正確に言うのであれば『同一世帯の投票先は年齢が低いほど年長者の投票先と重複』するということ。

 

 多分これが指し示す情報は、投票の手続きを親と一緒にやっているということ。ないしは親が「ウチは、家族全員スペシャルウィークに入れるけど良いよね?」みたいな形でウマ娘レースにそこまで興味の無い子どもの票をスポイルして投票に持ち込む可能性。特に赤ちゃんであっても1票は1票なのだから。

 

 翻って今の私の支持母体というのは最大規模のところが『10代女子』である。まあ『王子様』だしなあ……。それと『年下王子』という概念で20代以上の女子や主婦層に対しても一定度合いの人気を掴んでいるけれども、その主婦層支持を基幹として、ファミリー層人気まで押し上げる……これが私の取り得る宝塚ファン投票戦略であろう。

 

「――となると。私の知り合いで支持層が被らなそうなのは……アイネスさんか。ゴールドシチーさん辺りだと流石に芸能界人気で食われかねないし……その点、アイネスさんはお姉ちゃん属性だから私と方向性も全然違うから……いけるはず」

 

 

 やっぱり友達はドン引きしてしまっていたが、そういう戦略の下でアイネスフウジン陣営のところを訪ねると、

 

「サンデーライフちゃんが、やっと一緒に走ってくれるの!」

 

 と、喜び抱き着かれる。でも、言っておかなきゃならないことがあった。

 

「……でも、アイネスさんはともかく私は収得賞金では絶対通らないので、一緒に戦うにはどうしてもファン投票で上位にならないといけないのですよ……ね?」

 

 これを言った瞬間に、アイネスフウジンのトレーナーさんは溜め息を吐きつつ頭を抱えた。……まあ、明らかにアイネスフウジンを利用しようって魂胆を隠しもしていないからね。

 

「ひえーサンデーライフちゃんが怖いー……あたしに何をさせるつもりなのっ!?」

 

「ノリが良いですね……アイネスさん。

 ……実は清涼飲料水のCMのオファーが来てまして……アイネスさん、一緒にやりません?」

 

「――サンデーライフちゃんと一緒にCMデビューできるの!? やりたいやりたいっ!」

 

 メディア側の売り出したい戦略と私の思惑が現状完全一致しているため、この手のお仕事のオファーがびっくりするくらい簡単にやってきているのだ。ついでに言うと、私の人気が必要となるのは宝塚記念までの一過性のもので構わないので、短期間でかつ締切がギリギリのオファーの在庫処分も兼ねている点も踏まえると、やっぱり組織の力って凄いなあと思う。CM撮影なら長くても半日のスケジュールで何とかなるってのも大きい。

 

 アイネスフウジンのトレーナーさんも、私の方が明らかに見返りが大きいものの本人がやりたがっている点も鑑みて、トレーニングに支障が出ないレベルでなら、という形でしぶしぶ同意してくれた。

 

 

 ――そしてこのCMの撮影後には、私は朝の情報番組にゲストで呼ばれてCMの制作秘話をちょっと話して、宝塚記念への投票を呼び掛けたりして、メディア路線でのスタートダッシュを決めたのであった。

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