強めのモブウマ娘になったのに、相手は全世代だった。 作:エビフライ定食980円
今年の宝塚記念ファン投票の第1回中間発表は、投票開始から10日後。
具体的に言えば5月第3月曜日からスタートして、その翌週の木曜日に第1回中間、更に月を跨いで6月第1週の木曜日に第2回中間発表と刻んでいき、第2木曜日に最終発表となる。
そして最終結果発表と同時に、第1回特別出走登録の締切もやってくる。もっとも出走登録に関しては締切間際ではなく事前に出してしまうつもりだけどね。
なお実際の宝塚記念のレースはその最終結果発表から更に2週間後というスケジュールになっている。
そして細かいことになるが、中間発表時にはまだ出走登録が出揃っていないので、絶対出ないだろうなあってウマ娘たちの名前も入ったランキングが出てくる。公表されるのは上位100名まで。
その第1回中間までに私が出来た行動は、先の記者会見による話題性と私のこれまでの出走レースの見直しが全国ネットのテレビ情報番組で放映されて、レースのご意見番みたいな人から批評を頂いたのが1つ。
そしてアイネスフウジンと一緒に清涼飲料水のCMオファーを受けたこと。そのCMもこの第1回中間に間に合うように仕組まれているので既に放送されている。またその上で私は朝の情報番組にゲスト出演してCM制作秘話とともにちょっとだけPRの時間を頂けた。
ここまで見ると大手メディアが完全に私のバックアップについているわけだが、これには当然理由がある。
その理由とは、最も根源的なところまで辿れば私の主な優勝歴が3勝クラスの『清津峡ステークス』でありオープン戦以上の勝利が存在しないということ。
だから『王子様のシンデレラストーリー』という筋書きを用意しやすく、しかもその裏には『等身大のサンデーライフ』であったりとか『策士』としての一面だとかを散りばめやすいというのが1つ。勿論オープン戦で優勝歴が無い宝塚出走希望ウマ娘は居るけれども、そうした同じ境遇の子の中では私の知名度は高いというのも話が作りやすい要因になるわけで。要はかける手間の費用対効果が良いウマ娘、ということである。
しかし、それはあくまで手法を簡略化できるという副次的な理由に過ぎない。
真の狙いは、私が重賞未勝利であることから『URA公式からグッズ展開されていない』という点――ここである。単純なレース戦績では実績不足なのに、本人知名度だけ先行している歪なこの状況そのものこそが肝要なのである。
URAは良くも悪くも堅実だ。だからこそ単純な人気ではなく実績を鑑みてグッズ販売を行っている。
基本はしっかりとしていてグッズ化に一定の戦績や収得賞金等の指標を設けて、ファンからの『どうして推しがグッズ化しないんですか!?』という不毛なお問い合わせに対応できるようにしている。
と、同時にヘイトが一点に集中しないように、ライセンス生産を認めてグッズの外部委託制度自体は整えているため『公式から出なくてもどっかの企業がやってくれるなら契約さえしてくれれば良いよ』というスタンスも取る2段構えになっている。ここまでが前提。
そして私も外部の民間企業からグッズ展開は既になされている。
……言い方を変えようか。私のグッズは民間企業からのライセンス生産品が100%である。だから私が活躍したり有名になることで儲かる企業の割合というのは、他の同程度の知名度を有するウマ娘と比較すると群を抜いて高いわけで、つまりは『私の人気』とは『利益率の高い商品』なのだ。
だからこそ、本質としてはその辺りの仕組みを的確に把握しているであろう『広告代理店の意向』という側面は確実に介在する。そりゃ全面的に味方にもなるよ。
それにこれは基本的には良いことである。まだ誰も私にまつわる利益で利確を行っていないので、現状においては下手なゴシップを報道機関側で差し止めることすら自動で行ってくれる。今この時点での醜聞はメディア側にも多大な不利益として降りかかるのだから。
……まあ私で稼げなくなったら、一気に話は変わるかもしれないけどさ。少なくとも現役期間中はその心配は薄いし、最終的には『劇的な引退』あるいは『結婚』みたいな形で『偶像』としてきちんとオチを付ければ、それ以上追及するとメディアの方が今度は大炎上するから逃げ切りは何とか出来ると思う。結婚の場合、相手はどうするんだって話はさておいて。
閑話休題。
ともかく、1週間はあっという間に経過した。その間、学園内では定期的に私のガチファン勢から応援の声援を頂いていて、ちょっとしたファンサービスを返したりもしたけども、これは別に大勢に影響は無い。あ、トレーニングもちゃんとやってるよ。ほぼ自主練だからあんまり負荷はかけてないけど。
ともかく第1回中間発表の結果が公示された。
結果は――48位。
あんだけ色々やらかしているはずなのに想像以上に低い! って思うかもしれないが、これは『全現役競走ウマ娘』の名前が入ったランキングである。
だからシンボリルドルフとかマルゼンスキー、ミスターシービーみたいなレジェンドクラスから、スマートファルコンのようなダートウマ娘、そしてローテ的に出てくる見込みの無いクラシック級のディープインパクトとかもランクインした上での48位だ。うわ、障害ウマ娘も居るし。
なのでそうしたノイズとなるウマ娘を除いて、現時点で宝塚記念に出走を表明しているウマ娘だけで再集計を行ったときの順位を見れば――17位だった。
正直、大健闘ではある。私より上には重賞ウマ娘しか居ない……というか主な優勝歴として挙がるレースがGⅡ、GⅢである子すら少数派だ。ほぼGⅠウマ娘ばかりが名を連ねているのだから。唯一の例外がキンイロリョテイってレベル。
ただ10名分しか宝塚出走の枠が無いことを考えると、もっと上を狙っていかなければならない。
そして改めてここまでの中間発表結果を分析すると。
例年通りのことではあるが、やっぱり票の分散がすごい。これはこの投票を『好きなウマ娘に投票するイベント』と考えている層が一定数居て宝塚記念の出走枠のことなんて度外視してとにかく自分の推しに入れるぞ! ってムーブをしているファンが結構多いことを示している。それらの票は実際の出走枠確定の際には全部死票となるので、下位から上位を狙う分にはむしろ分散は望むところである。
というのも宝塚に出てくる見込みが無いのにシンボリルドルフなどに入れるファンは、基本的につよつよウマ娘に票を入れたいという心理があるはず。だからそうした死票がもし有効票になるとしたらそれは出走意志表示組の中でも強いウマ娘に対しての票になり得る可能性が高いことを意味しており、おそらく私の票数増加にはあまり寄与しないためだ。だからそうした『潜在的敵性票』は極力死票になるところに集めておいた方が私には都合が良いのである。
そして、全体でも1位に君臨しているのはサイレンススズカ。やっぱり『アメリカからの久しぶりの凱旋か!?』というネームバリューが大きすぎる。レジェンド組からも抜きんでた彼女に更なる票が集まることも私としては好ましい。
10位以内を狙うことこそが肝要なのだから、1位が2位以下の票を吸うことについてはむしろ大歓迎なのである。それだけ下が混戦することになり、私にも一発のチャンスが訪れるので。
*
次なる一手も、これまたペアを組んだアイネスフウジンとともにであった。
今度は平日のお仕事なので授業を休む形になるため、清涼飲料水CMのときのようにけしかけるのではなく、きちんとトレーナーとあと家族にも相談するように言ったが、最終的にアイネスフウジンも出演オファーを受けた。
「みんなー! よろしくなのー! ほら! サンデーライフちゃんも!」
「あ、よろしくお願いしますね」
どこに来ていたかと言えば私立の小学校。小学生に競走ウマ娘の走りを見せつつ、遊びながらちょっとだけ走りを教えるみたいなもの。夕方のニュース番組の特集みたいなので10分20分くらいの時間を割いてくれるらしい。
で、この小学校。ウマ娘も人間も混成の小学校である。今日はそのうちの1つの学年……確か5年生の2クラスの合同授業にお邪魔しているというわけだ。後、ついでに女性芸能人のリポーターさんが1人付いている、その人はウマ娘ではない。
――ぶっちゃけ、パッと見ただけで分かるくらい熱量に差がある。多分『総合』の授業時間を使った特別授業という扱いなのだけれども、ウマ娘レースに全員が全員興味があるわけではないのだ。いくら、この世界における国民的な一大イベントという位置づけでもね。それでも先生とTVカメラの手前大人しくしているところは賢い子たちだなあと思う。
で、当たり前だけど私達がどういうウマ娘かってのは事前に教えていたらしく。小学生ウマ娘たちはほぼ例外なくアイネスフウジンの下へと集まっていった。彼女はダービーウマ娘だし、生涯一度のそれを制した実力は小学生から見ても明らかなものだ。憧れの存在であることには違いないだろう。
その様子にアイネスフウジンもちょっと困り顔だ。それでもしっかり纏め上げようとしているところは、お姉ちゃん属性とアルバイト社会経験が垣間見える。
……ちょっと助け船は出そうか。このやる気が隔絶している空気感だとあまり上手く行きそうには無いし。
「――ねえ、アイネスさん? 軽く走ってみます?」
その瞬間、アイネスフウジンの目に闘志が宿った。お姉ちゃんキャラのアイネスフウジンからダービーウマ娘・アイネスフウジンに一瞬で変貌した。
「サンデーライフちゃんから勝負に誘われるなんて初めてなのっ! 受けて立つの!」
「……あーじゃあ、校庭1周くらいでどうですか? 私達にはちょっと短いですけども、今日はそれがメインじゃないですし……」
そう言うとアイネスフウジンは先んじて意気揚々と校庭のスタートラインに立ち、軽くストレッチをする所作を見せていた。その時点で元々モチベーションが高かった小学生ウマ娘集団からは歓声が上がり、低かった方も最低限こちらに関心を抱いたようである。
「……あの、サンデーライフさん? 大丈夫なのですか、相手はダービーウマ娘ですが……」
リポーターさんから小声でそう言われたが、笑って返す。
「あはは……、まあ何も無策でこんな提案をしているわけではないですし……」
そう言いながら私は校庭のトラックへと向かいアイネスフウジンの横に陣取る。……地味にアイネスフウジンが先に準備をしたことで内を取っている、ずるい。別に2人だしいいけどさ。
実際、パっと思いついたようには言ったが、準備に関してはむしろ私の方が徹底しているはずだ、内緒だけど。
まず校庭の寸法については事前に調査済み。1周約189.96mで、直線距離は40m程度。全周1ハロン以下のこの校庭は明らかにウマ娘にとっては狭い。しかもスタートとゴール地点はそんな直線のど真ん中。
そして肝心なのは校庭は土なんだけども、ダートコースよりも遥かに硬い。一応、校庭の土にも文部科学省の基準値が設けられているけれども、使う土から粒形やシルト混合比率まで指定されているレース場のダートと比較してしまうと、流石に基準の厳格さは段違いと言わざるを得ない。
で、位置に付いて。どうせなのでこの学校の先生にスタートの合図をお願いする。
「……よーい、どん!」
私もアイネスフウジンもアホではないので、僅か20mの最初の直線でハナを奪おうなんてことは出来ない。そのまま並走する形で第1、第2コーナーに入る。コーナーの回り方が通常のコースよりも遥かに厳しいので必然アイネスフウジンの加速もいつもより弱まる。
そして一瞬でバックストレッチの直線40mに到達。ここで私もアイネスフウジンもようやくまともな加速ができるとギアを一段階上げるが、上げた途端にはもう次の第3、第4コーナーが見え隠れしてくる。うん。走り辛いね、これ。
でも、走り辛ければ走り辛いほど、私に有利になるわけで。
そして。第3コーナーに入る瞬間。
ここで私の『渾身の策』が芽吹く。アイネスフウジンは前を見て一瞬驚いたような表情を見せて加速をかなり緩めて、私にハナを譲った。
そしてそのままカーブに突入。一瞬の差は、残り50mも無い状態では致命的な差となり、私はそのまま1着でゴールイン。……1/4バ身差といったところであろうか。アイネスフウジンの明らかな加速ミスがあったし。
これなら小学生たちにも私が勝ったことは認識できるはずだ。とてもトップスピードではないし目視で追えたはず。
この一部始終を見届けた小学生の中で、一番盛り上がっていたのはウマ娘たち――ではなく、最初はやる気の無かった小学生男子のグループだった。
「うおおっ! すげー!! おねーさんの方が『雑魚』って聞いていたのに、どうやって勝ったんだ!?」
いや……雑魚って。アイネスフウジンと比較したら事実だけどさ。子供たちとともに、リポーターさんも周りにやってくるが、それより前にアイネスフウジンが私に話しかけた。
「……サンデーライフちゃん? 分かってたよね……ううん、サンデーライフちゃんが知らないわけないもん。全部仕組まれたの!」
その言葉を受けてリポーターさんも私に尋ねる。
「……えっとアイネスフウジンさん、そしてサンデーライフさん。どういうことです?」
私は黙って校庭の第3コーナーよりもちょっと内側を指差した。
ここは校庭であって陸上トラックでもウマ娘用のレース場でもない。だから、あるんだ。
……野球のピッチャーマウンドが。
それはほんの僅かではあるが、通常のレース場にもトレセン学園にも存在しない明確な『障害』だ。平地の坂とも感覚が違うから絶対やりにくいだろう。直径約5.4mの障害物だが、コースにぶつかるのは外縁部のみなので私ならば充分に『障害飛越』で避けられる範疇だ。別に高さのある障害でもないので、そんなにジャンプする必要もないから直後のカーブの方向転換だって分かっていれば大したことではない。
つまりこの校庭は、全部アイネスフウジンの適性外である超短距離かつダートの亜種であり、同時に障害コースでもあったということ。
私はリポーターさんとともに、ここに居る『生徒全員』に向けてこう宣言した。
「……こんな感じで条件さえ指定してしまえば、ダービーウマ娘であっても打ち破ることは出来たりします。まあレース条件は選手の立場では中々選べないので実戦でここまで上手く行くことの方が少ないですが……」
こと、この場に至っては私の話を聞かない児童は居なかった。……小学生だしね、脚が速い人は無条件でモテるのである。
「なのでウマ娘の皆さんは、私のような小手先の戦術よりかは『王道』の強さを求めるのは間違っていないと思います。だからアイネスさんに教えてもらった方が、たった1日ですけれども意味があると思います」
「はいなのっ!」
「……で、他のウマ娘ではない人間の皆さんは私が受け持ちます。
安心してくださいね、今日だけでも皆さんの足はちょっとだけですがきっと速くなりますよ?」
大言壮語のようではあるが、実際何の訓練も受けていない小学生、ましてやウマ娘という上位互換すら存在するこの世界においては、人間が競走者として『正しい走り方』に触れる機会はあまりにも少ない。だから、その基礎を教えるだけでも存外速くなるものなのだ。
これはピッチ走法だとかストライド走法だとかそれ以前の問題。
「……じゃあ、ちょっとスキップしてみてください」
例えばスキップが上手な子というのは基本的に足が速い。進行方向に脚を向けること、そして跳ねるような動作、そしてかかとを使わずに前に進むという動き――これらは全て基礎フォームに共通する動きである。
端的に言えば、彼らくらいの基礎的なレベルであれば、スキップが上手くなるだけでも足は速くなるのだ。そして、こんな陸上競技においては常識的な話ですら小学校レベルでは浸透していない。……下手したら一般にも普及していないかもしれないけど、うん。
「……サンデーライフさんは、よくご存じですね?」
リポーターさんは私の方を中心に見ることに決めたらしい。まあTVカメラは複数台あるからね。ちゃんとアイネスフウジンの方も映しているから平気でしょ。
「結局走りというのは跳ね――ジャンプの動作に近いですから。私があんまり速くないのも極論で言えばそこに行きつきますよ。多分障害レースの過去の映像を見れば私が『跳ね』が下手なのは、見て分かるかと思います。
……逆に『跳ね方』が上手い子はすぐに伸びます。こっちの方が分かりやすいですね。今、クラシック戦線で無敗で連勝を重ねているディープインパクトさんがまさにそうです」
「あ、私も名前なら聞いたことがあります!」
「あはは、ありがとうございます。レースにあまり詳しくない方でもご存じのウマ娘というのは、基本的に相当脚が速いですよ?
……もっともディープインパクトさんの場合そもそも『大跳び』というやや特殊な走法ではありますが、でも基本は一緒です。彼女、華奢な身体からは考えられないくらい『跳ね』が上手です」
そこで一息ついてから続けて話す。
「――で、『跳ね』が大事なのは人間もウマ娘もそんなに変わらないですよ。
だから多分、走りが速い子っていうのはきっと『縄跳び』とか『跳び箱』とかも上手な場合が多いはずです。勿論、それ以外の動きも混ざっていますから例外はありますけどね。
『運動神経』って言葉でよくひとくくりにされちゃいますけれども、少なくとも足の速さについては跳ねる動作と概ね相関します」
……そして、これは私の実体験でもあるわけで。障害転向をして明らかになった高すぎる飛越。私が走り方ではなく『跳び方』に関して意識を明確に向けたのはあの障害トレーニング時であったことは言うまでも無い。
だからこそ障害飛越に関してへたくそであっても、それなりに障害レースのために練習したからこそ後に私はフォームの修正が必要になったのである。何故なら、走る際の『跳び方』が若干変わったから。
そしてそのフォームの修正が完了していくとともに、オープン戦や重賞レースでそれなりに勝負になるくらいの実力を手に入れている。
「……何と言いますか、サンデーライフさんとお話しているとウマ娘の方々の印象が変わる感じがします。イメージだけで言えば……むしろトレーナーの方みたいなことを考えているような……」
「……まあ、実際気持ちよく走って、そのまま気持ちよく勝っちゃう方というのも居りますので、ウマ娘それぞれだとは思いますが――」
そんな私達の会話は1人の少年によって遮られた。
「あの、すみません!!」
「……どうしました?」
私が聞き返すと、その少年は次のように言った。
そして。
――次の反応こそが、私が最も求めていたものであった。
「……あの、俺。どうしてもウマ娘相手に勝ちたいんです!! お願いします、どうしたら勝てますかっ!?」
事前に弱いと言われて『雑魚』評価まで与えられていた私が、目の前でなんか強そうな称号を持っているダービーウマ娘に勝った。それは、小学生の少年にとっては文字通り今までの世界が崩壊するくらいの衝撃をもって受け止められていてもおかしくない。
この少年の目に宿っていた闘志は本物だ。そしてその闘志が声にもみなぎっていた以上、アイネスフウジンが指導中のウマ娘小学生たちの耳が一斉にこっちに反応する。
――この少年は、確実に他のウマ娘の闘争本能に火を付けた。人間の身でありながら。だからこそまずは素直に敬意を表そう。だって、その『勝利への渇望』は間違いなく私には存在しないもの。
それを小学生の子供がウマ娘相手に向けて、しかも相手の闘争心を引き出せるだけのエネルギーを持っているのだから、これに対して生半可な返答は許されない。
「……あのね、僕? このウマ娘のお姉さんに無理を言っちゃ駄目ですよ?
だって人間はウマ娘に勝てる訳――」
私はそのリポーターさんの言葉を遮った。
「――本当に、勝ちたいと……そう、思っているのですね?」
「うん!! だって誰に聞いても俺じゃクラスのあいつらに絶対勝てないって言うんだ! でもっ!! 俺だって――」
そこで一旦私は少年の言葉を遮って、こちらに耳を傾けているウマ娘たちに向かって大声でこう伝えた。
「……ここまで純粋な勝負の提案を投げかけられて、『ウマ娘』としてまさか逃げませんよね?」
私の中にはこれっぽちも存在しない闘争心。でも、私は対戦相手のそれを引き出し暴走させる術はレース技術として持っていた。これは、その転用。
だからこそ、まだレースの機微も知らない彼女たちはあっさりと『掛かる』。最も勝気そうなウマ娘が私の明確な挑発にこう返した。
「――どんな条件でやっても人間相手のレースなんて、負ける気がしませんが?」
私は一度だけ確認を取る。
「本当に……『どんな条件』でも。……そうですね?」
この中でアイネスフウジンだけが集団全体を策に引っ掛けようとしていることを認識して苦笑いしていた。けれども、彼女自身も私の取り得る行動の行く末が気になっているようで止めまではしない。
「ええ! 私の言葉に二言はありません!」
……まっすぐだなあ。でも、今日だけはごめんなさい。その純粋なウマ娘としての気持ちを私は利用して。
――この世界に新たな歴史を作ります。
再度、私は少年に向き直って、こう宣言した。
「普通にやっても勝てません」
「……そんな」
「――ですが。
設定条件と、貴方の勇気と気持ち次第では――ヒトはウマ娘を超えることだって出来るかもしれませんよ?」
ウマ娘に人間が勝てるわけがない。
今日それを――覆す。