強めのモブウマ娘になったのに、相手は全世代だった。   作:エビフライ定食980円

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第66話 ゴルディアスの結び目

 ヘイルトゥリーズンやヘイローの気配も分かるとなると、どうしようか。

 三女神像前でのお祈りについてまでは既に話したことがある。あの阿寒湖特別の後のラーメン女子会道中にての出来事だ。

 

 だからこそ、その延長線上の話として語るのでいいはず。何があったのかまでは伝えなくても良い。

 

「……今年の『お祈り』はちょっと派手にやっていたからそのせいでしょうか……? ファン感謝祭中で、ファンや記者の皆様に見られながらのことでしたのでちょっと仰々しく祈りを捧げたのが原因かもしれません」

 

 あくまで表層、表層で拾っていく。そしてなるべく嘘はつかない。

 誠実であろうとするためではない。明らかな嘘は辻褄を合わすのに苦労するからだ。敢えて重要な点を抜かして話す分には、それがバレたとて伝達の不備や質問の意図の取り違えと言い張ることが出来るが、嘘についてはバレた際のリカバリーが効かない。

 嘘というのはここぞと言うタイミングで使うものなのだ……ダイヤモンドステークスの出走直前にセイウンスカイと交わした脚質に関する嘘みたいにね。

 

 だからヘイルトゥリーズンの屋敷のような場所に行ったことはマンハッタンカフェの出方を見るまで秘匿する。

 ここまで慎重になるのは、このアグネスタキオンとマンハッタンカフェというペアが恐らく最もウマ娘の深淵に近しい2人だからだ。アプリ内では現役競走馬の魂だとか、世界と世界の境界とかについて、かなり際どいところまで迫っている。

 

 私はアグネスタキオンやマンハッタンカフェの2人の探求する事象についての自分なりの回答を持ってしまっている。

 問題は。それは自己回答であり『普遍的な正解』である保証は無い。このウマ娘世界において、全部が全部競走馬としての知識が公正絶対の普遍的な原理・原則になるとは限らない。『ウマ娘』の立場に立ったときに同様に当てはめて良い問題かどうかは本来別なのだ。

 というかアグネスタキオンが皐月賞引退どころか出走すらしておらず、シニア級1年目で宝塚記念にまで出てきている時点で、私の中にある考えのままに話すということがどれだけの錯誤を生みかねないというのは分かるかなと思う。

 

 

 閑話休題。

 今話していることは、私に推定サンデーサイレンス以外の何らかの影響が見え隠れするということ。私とマンハッタンカフェの話を聞いていたアグネスタキオンが考え込むようにして呟く。

 

「……ふむ。カフェとサンデーライフ君の話を聞いていると思うことがあるのだがね。

 カフェにとっての『お友だち』は、サンデーライフ君にとっては信仰の対象……とまでは言わないが、だが神託を受ける相手のような存在だろう? 同じ形質の存在だと仮定したとして、何故ここまで観測のされ方が異なるのかい?」

 

「……ですが、タキオンさん。サンデーライフさんからは、他の子よりも強く『お友だち』の気配を感じます……」

 

「カフェの感覚を疑っているわけじゃない。しかしだカフェ。君は私や他のウマ娘に対しても『お友だち』の気配を感じると言っていたが、そのお友だちを間接的であっても観測できているのは、カフェとサンデーライフ君だけなのだよ」

 

 ……そのアグネスタキオンの言葉は私にも考えさせるものがあった。彼女が伝えたい核となる部分ではなかっただろうが、あの推定『サンデーサイレンス』をどういう形にせよ観測出来ているのが私とマンハッタンカフェだけという事実。

 今まで、ずっと適当に流してきたが。――そもそも、どうして私にあの『黒い靄』は見えるのだろうか? サンデーサイレンス産駒だからというのはよく考えてみれば理由になっていない。

 それこそアグネスタキオンや、他のサンデーサイレンス産駒の魂を引き継ぐウマ娘にも見えて良いもののはず。

 

 加えて言えばヘイルトゥリーズンからの呼び出しに至っては、あの老婦人と意思疎通が出来ていたし。というか、よく考えるとサンデーサイレンスだと思っている存在が靄だったのに、ヘイローやヘイルトゥリーズンであろう彼女らは普通にウマ娘であったというのも疑問だ。形を模倣した異形の神々という可能性もありそうだが。

 

 

「……いえ。あくまでマンハッタンカフェさんが観測の主体で、私は『三女神像への祈り』の影響が顕著に出ているだけ……という考え方も出来るのではないでしょうか?」

 

 若干、論点をずらす。私は現状、祈りを捧げたら自分が強くなっているという現象が発生していることと、そのタイミングが恐らくマンハッタンカフェに見える気配の増大と相関しているだろうことしか共有していない。

 実際に私は『黒い靄』という形でしか把握しておらず、与えた因子とかの『状況判断』でサンデーサイレンスと推定しているだけだ。……まあ普通に考えれば絶対サンデーサイレンスなんだけどさ。

 でも、その『靄』状態であることそのものが『私は目視で観測不可能』という事実に繋がる可能性もあり、声に出した言葉はあながち2人を誤認させるためだけのもの、というわけでもない。

 

「興味深い意見だがね、その場合君には何故カフェのイマジナリーフレンドの影響が強く出るのかという、新たな疑問が出るよ?

 ……それに。『お友だち』が三女神像に関係する神々なのであれば、カフェが気配を感じるウマ娘にしか恩恵が与えられていない、ということになりかねないが、それは些か残酷というか――」

 

「……『お友だち』は。ウマ娘全員に関わりを持ってはいません。だから『お友だち』が『三女神』というのは……違う気が……」

 

 ……うーん、『産駒』という、この世界においては『運命的な何か』の中の一要素として含有して呼称される概念を、どう落とし込めば良いのかが分からない。そしてサイアーラインで説明できない以上は『三女神像』に祈ると推定サンデーサイレンスが出てくる現象を素直に読み解いてしまえば、私に影響を与えている相手こそ『三女神』なのではという推論が導き出され、自動的にそれがマンハッタンカフェの『お友だち』の正体? という誤った方向性に話が進んでしまう。

 

 だが、アグネスタキオンの『サンデーライフにお友だちの影響が強く出る』現象については、説明がつくことがある。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。ひとまず三女神の『神権の適用範囲』については問題が別だと思いますので、そちらは切り分けましょう。

 もし私に『お友だち』の雰囲気が色濃く出ていることは、そこまで難しい話ではないと思います。それは私が弱いから――」

 

 私がクラシック級のときにはじめて『黒い靄』と漫才をしたあとに、私のタイムは有意に変わっていた。

 『三女神像へのお祈り』――すなわち因子継承で上がるステータスの幅がアプリ同様、因子と継承時のブレはあれど概ね値が決まっているとして、それが等しく全員に継承されていると仮定した場合、ステータスが低い子の方が劇的な変化として現れるはず。だからゲーム通りの因子継承が行われているとするならば、弱いウマ娘ほどその恩恵を自分自身の能力と比較して相対的に感じやすい。

 

 と、すれば他のサンデーサイレンス産駒ネームドと比較して、私はサンデーサイレンスの恩恵を『認識』しやすいという部分に説明がつく。そして、オカルト現象と一般的な考え方として、その『認識』による認知こそ、霊障の増幅に寄与するはずである。

 

「……弱い、から影響を認識しやすく、『認識』したからこそ影響が増幅される……かい?」

 

「一応、根拠はあります。『お祈りを捧げた直後』のデータは取ってあって、それが数日間の変化では説明できない有意なタイム差としてあらゆるバ場、距離で伸びを見せている……だからこそ私は数字としてこれを『認識』できています。

 再現性があるかは微妙かもしれませんが、少なくとも『お祈り』の効果については観測できる事項かと」

 

「……ハッハッハ! そうだったね、君は――理論派だった。『弱い』からこそ『オカルト』を数値として(・・・・・)観測出来る、か。

 なるほど、確かにそれなら私やカフェのデータでは、『お友だち』の影響で強くなっていることを『観測できない』のも頷ける。そうか! 完全に盲点だった!

 てっきり『強いウマ娘』に第三者の影響があるとばかり思っていたが、『弱いウマ娘』の方がデータの切り分けが容易ということか!

 

 ……しかし、どうして君は『4月』にだけお祈りをするのかい?」

 

 

 ……っ。痛いところ突かれた。

 『因子継承』は4月前半。しかしそれは完全にアプリ知識だ。そして何故4月なのかと言えばきっと、競走馬の繁殖シーズンが調節されていて競走馬誕生月が春に集中するため。1月、2月生まれの早生まれの方が競走成績は良いらしいがそれでも主流の幼駒誕生シーズンは4月から5月であろう。

 

 しかし、これは説明できない。だからこそ、ここで嘘を話す。

 

「『三女神像へのお祈り』について伝統的には『先輩ウマ娘が像に託した想いを受け取り力に変える』……という儀式のはずです。

 ……だとすれば。

 『先輩が想いを託した後』――つまりは卒業後の4月の頭こそが最も恩恵を受けられるのでは? と仮説を立てたからですね」

 

 嘘なのは『仮説を立てた』部分。そんなものは立てていない後付けの理由だ。しかし、この後付けの理由の根拠自体については乙名史記者のトゥインクルWeb記事からの引用情報なので真実である。

 然したる疑問を投げかけられることも無く、割とあっさりと話は進む。

 

「……ウマ娘は幾多の『想い』を背負い、走る生き物なのだとしたら。

 不特定多数に向けられた想いならば早い者勝ちで掴み取ることも出来るということ――その『先輩らの想い』の力で疑似的に力を引き出した、ということかねえ……?

 しかし、それではカフェの話と辻褄が合わないと思うが?」

 

 これに対しては、私も『真実』だと思っていることで答えられた。

 

「……それについてなんですが。多分『イタズラ』かなにかで、面白がってそれらの『想い』の中にマンハッタンカフェさんの『お友だち』が混ぜ物を仕込んでいて、それに私が引っかかっただけなんじゃないかなあ、と思いますね。

 それを、私が『認識』できてしまったからこそ、マンハッタンカフェさんから見たときに『お友だち』の影響が色濃く出ているのかなー……って」

 

 

「……えぇーっ! そんなのアリかい!? カフェ、君はどう思うのだい?」

 

「……『お友だち』なら、やりかねない。そう思いました。

 結構、お茶目だな……って思うところはいくつもありましたから、そういうイタズラをやっていても不思議じゃないです……」

 

 マンハッタンカフェと『お友だち』の認識が近くて助かった。

 

 

「……なんというか君たちは存外愉快なものに憑かれているようだね。私が持ち得ないものだからずっと羨ましく思っていたが、ちょっとその気持ちが……減退したよ。

 

 で、だ。これが最後の質問だ、サンデーライフ。

 君は先ほど自分自身のことを『弱い』と言った。……まあ気持ちは分からないでもない。私の見立てでも、私やそこのカフェよりも君は……速くない。

 にも関わらず、君は宝塚記念に出走して、カフェは出ていない。

 ――この現象についてどう考える?」

 

「……ちょっとタキオンさん。その言い方は――」

 

「……いえ、マンハッタンカフェさん分かっています。私の実力ではあなたに勝てないことくらいは。それにその格付けは昨年の阿寒湖特別で付いているはずです」

 

「そうとも! それにね、カフェ。これはカフェの為に言っている訳でも、サンデーライフ君を侮辱や糾弾するために言っているんじゃあ、ないよ。……そう聞こえてしまったのなら申し訳ない。

 それに人気投票を活用するといった手段の話でもない」

 

 

 考えてみればマンハッタンカフェはこの全世代バトルロイヤルの被害者的な立場である。阿寒湖特別でファインモーションに写真判定2着とはいえ敗戦した。その結果、Pre-OP戦2勝クラスの勝利がずれて菊花賞に間に合っていない。それでも有には出ていたけどね。

 なので代替のオープン戦や重賞をこなしつつ今年3月の日経賞で史実ローテに戻るもののそこでは着外。収得賞金的には問題なかったものの春の天皇賞を回避して重賞戦線に注力する結果となり、アプリIFローテで登場する宝塚記念にも出走しない運びとなった。

 その結果、凱旋門賞に関する話がそもそも挙がらず地味にフラグ回避が出来ている上に、アプリで『向こう側』を目にしたはずのIF宝塚記念に出ていないことでそちらの方面での進展も無いはず。もっとも、アプリのマンハッタンカフェ育成ルートだったらタキオンが無期限休止しているから、そこでも破綻はしているわけだが。

 

 ただ重賞勝利自体はあるので、私よりも条件は有利だし出走意志さえ見せていれば宝塚記念にも多分出られたかもしれない。だからこそ『何故お前の方が人気があって勝手にカフェの枠を奪って宝塚に出ているんだ?』という類の話では断じてない。というかタキオン自身もそう言っているし。

 

 恐らく彼女が言いたいことは、実力的には上の相手がGⅠ出走を必ずしも選択せず格下のウマ娘が出走する現象についての疑問を解消したいのだろう。特に今のマンハッタンカフェはレースに支障が出るほどの不調は無いはずなのに宝塚記念に出走意志すら見せなかった。

 これを個々人の問題だけではなく『ウマ娘』全体に関わる何らかの法則性があるのではないか、とアグネスタキオンは考えているようだ。

 

 

 私が宝塚記念に出走意志を見せたのは『メンタルトレーニング』のため、そしてどうせ出走意志を見せるなら本気でやれることはやろうと考えて、いろいろと対策というか暗躍した結果、宝塚記念に出走できた。

 ……しかしアグネスタキオンが問うてきているのは、そこからもう一歩進んだ話だ。

 

 ――じゃあ、何故私は『本気』で出走のための準備をしようと思ったのか。その気持ちの切り替えの根源になる要因が何かについて着目している。

 

 

「……アグネスタキオンさん。発想が逆です。

 私は宝塚記念に出るためにファン投票に注力することに本気になったのではありません。

 常に出走したいと思ったレースには自身の力を無理しないレベルで出し切ろうと考えているだけで、宝塚の場合、その手段としてファン投票があっただけなのです」

 

 そして、その疑問に対しての答えは明瞭だった。

 そもそも私は別にGⅠレースであろうと他のレースであろうと、そこに注力する意識の差を設けていない。だから言ってしまえば『出るレースは全部本気』だっただけ。

 逆に言えば、なにか特別な思い入れがあって怪我のリスクを背負ってまでやることを『本気』だと規定するならば、私は宝塚記念を含めて全てのレースで本気ではない。

 

「……ふぅン? でも気持ちの差だというのならおかしくないかい? もっと無理をしてでも宝塚に出たいと思っている子は大勢いるはずだ。その『想い』を君の理性が上回ったということなのかな?」

 

「そこについては、もうレース外の『技量』の差でしかないですね。

 少なくとも、興行規則を逆手に利用するウマ娘を自分自身以外に見た記憶がありませんから――」

 

 興行規則勝利が『清津峡ステークス』なら。

 投票制度という興行規則を利用して出走したのが『宝塚記念』なのだから、他の子と相対化した際に私が際立つ部分と言えばもうそこが一番なはず。

 

「……君、『想い』の力をこれっぽっちも信じていないね?」

 

「……ええ、そうかもしれません」

 

「あれだけ熱心に『お祈り』を捧げる君が、まさか誰よりも『三女神像』を信仰していないとはねえ……。だからこそ私が気付けないことにも気付くことが出来るのかもしれないし、『特異点』なのかもしれないが……。

 ま、聞きたいことは大体聞けた。これからも親睦を深めてくれると私としても、それときっとカフェとしても嬉しい。……何せ、同じ『個室』持ちの身だからね、だろうカフェ!?」

 

「タキオンさん抜きでなら、いつでもお待ちしていますよ、サンデーライフさん」

 

「……ちょっとカフェー、つれないことを言わないでくれよー」

 

 

 うーん、何というか締まらないけれども、ともかくアグネスタキオンは私を誘拐して聞き出したいことは大方聞いたみたいだった。

 久しぶりに他の子に振り回されたけど、やっぱり葵ちゃんとかアイネスフウジンを振り回す方が楽だなあ。主導権って大事。

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