強めのモブウマ娘になったのに、相手は全世代だった。   作:エビフライ定食980円

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第78話 広がった世界

 結局、その後のカレンチャンとのデートは一旦札幌市内に戻って赤レンガの古い庁舎? とか言われる場所で、植物に囲まれた公園とはまた異なる洋館然とした建物と前庭の中で、カレンチャンとびっくりするほど写真をこれまた撮った。

 こうしてえげつない枚数の写真を一緒に撮っているとSNSにアップロードする写真って本当に一握りの選ばれたものなんだなあ、とちょっと的外れなことを思ったり。

 

 とはいえ、公園のときとは異なり私に完全べったりではなく、ある程度はカレンチャンは彼女のトレーナーさんも構っていた。そうすると私も葵ちゃんにちょっかいを出す余裕が生まれる。……なんか大分変則的なダブルデートみたいになったりもした。

 

 で、最後に札幌市街が見渡せる山にロープウェイとケーブルカーを駆使して山頂の展望台まで登って景色を眺めたりもした。

 

 私とカレンチャンで、そこにあった鐘を鳴らす写真を1枚カレンチャンのトレーナーさんに撮ってもらった後に、カレンチャンがそのトレーナーさんと一緒に鐘を鳴らしていた。

 そうなると、私と葵ちゃんペアでやらないってのも変な話なので私達でも一応鳴らしておいた。

 

 ……なんか、この場所。しっかりと恋人たちの聖地って書かれている。カレンチャンはそこそこガチめのデートコースとしてエスコートしてたんだな……って思ったり。でもまあ考えてみればカレンチャンがこういうところで妥協するとも思えないし。

 

 

 

 *

 

 そんな感じで結構濃密だった札幌での2泊3日も終わって、学園に帰還しての翌日の火曜日。ちなみにカレンチャンデートはレース遠征移動日として公欠扱いになっていた月曜日である。

 

 案の定、クラスメイトから『カレンチャンと付き合ってるの?』って質問を大量に投げかけられる……ことは無かった。真っ先に学校に来ていた私のガチ恋勢の子が、私が教室に来るなり抱きしめてきて、椅子に座った後も授業開始までずっと膝の上に乗りっぱなしだったので。

 

 その子とは別の友達から、こんなことを言われたが。

 

「サンデーライフって、いつか誰かに包丁とかで刺されそうだよね」

 

「……うーん。私のことを刺してくるのは……せめて、現役引退後にして貰わないと困るなあ……」

 

「えっ……そういう問題……?」

 

 正直『王子様』ロールなんてしていると、そういう愛で溺れかねないことはひしひしと感じつつあるので、ある意味では覚悟していることでもある。近しい子であれば、今膝の上に居るこの子みたいにメンタルチェックは出来るけれども、面識の無いファン相手だと不確定だからどうしようもない部分はある。

 だからといってそれに怯えてファン対応を変えたりしたら、それはそれでまた別の刺される要因になりかねないので、求められているキャラクター像が変わるまでは私は今のやり方を変えるつもりは一切無いけどさ。

 

 取り敢えずガチ恋の子は1対1のデートをおねだりしてきたので、その予定は今週末に入れたりしていたら、一応クラスメイトの間ではカレンチャンとの関係が『あっ、サンデーライフがたまにGⅠウマ娘相手にやっているいつも通りのやつ』って認識にはなった。

 

 ただ面識があって関係が深いガチ恋ウマ娘はこの友達だけだけど、トレセン学園内には他にも私に告白してくる子たちは居る。

 その子らの一部からはカレンチャンとの関係について詰め寄られることにはなった……ただ、『お似合いなのでカレンチャンと付き合ってください!』みたいな謎の告白を受けることとなる、しかも結構少なくない数ね……。

 

 関係性オタクの観点からすれば、その気持ちは分からないでもない。それに実際問題として相性は悪くはないだろう。出会っているタイミング次第ではカレンチャンとの間でドロドロの共依存になるIFもあったのだろうか……と思いを馳せるも、すぐにそれは無いだろうな、と考え直す。カレンチャンには『お兄ちゃん』が存在する以上は、どんなに私が共感性を抱くウマ娘であってもそれを越えることはできない。

 

 ただ、そうしたカレンチャンのプライベートな情報まで漏らす必要は無いので「カレンさんはとても可愛らしい子でしたので、もしかすればそういうこともあるかもしれませんね」みたいな玉虫色の発言だけ残しておいた。

 

 

 後は私に対しての呼び出し関係は『大人気ウマスタグラマーのCurrenに色目を使わないで!』みたいなパターンもあったけれども、この手のタイプは私では対処できないので名簿に記録してそのままそっくりカレンチャンにお任せした。近い将来彼女たちは『カレンチャンカワイイ』状態になることだろう。当人たちもそれはそれで本望でしょ。

 

 私もそのカレンチャンの『お話』術を是非とも教えてもらいたいところではあるけれども、一朝一夕にはいきそうにない固有の秘伝っぽいのであんまり深くは触れないことにした。

 

 

 それから。

 バンブーメモリーが、私のことを呼び出して、そう言えばすっかり忘れていたけど彼女風紀委員だったなと思い出す一幕があったりとか、そのバンブーメモリーによる交友関係の事実確認の際に何故かゴールドシチーが同席していたり。

 マヤノトップガンが『オトナのデート』をしたいっ! って私に詰め寄ってきたときには、こちらも何故か同室のトウカイテイオーが一緒に付いてきていて「あっ、ウマ娘ボールでカイチョーと一緒に居たおねーさん!」って中途半端な覚え方をされていることが発覚したり。

 

 

 後は急にファインモーションのSP隊長さんがやってきて任意同行という形でファインモーションの御前にまで連れ出された後に、

 

「……サンデーライフちゃん? あのラーメン屋さんに1人で行ったね……?」

 

 って、まさかのカレンチャンデート前日のラーメン屋さん方面での、謎の嫉妬を受ける羽目になったり。……というか殿下は先月行ってたじゃん! とは言えない畏怖のオーラを放ちまくっている雰囲気だったので、ここは大人しく屈してクールダウン期間中の間に放課後ラーメン会が開催される運びとなったりして。

 

 

 *

 

「……いや、改めてサンデーライフの交友関係って随分と広いですよね?」

 

「まあ……確かにこの学園に居て大分広くはなりましたね。……私個人としてはカレンチャンの影響力の大きさを再認識しているところではあるのですが。

 でも、そうした関係の中に、葵ちゃんとそしてミークちゃんも居るのですから、ね?」

 

 トレーナー室で、ハッピーミークが私の脚と脚の間にちょこんと座る定位置に収まりながら、私と葵ちゃんは改めてここ1週間の怒涛の日々を振り返った。

 

「……あっ! そう言えばサマースプリントシリーズの最終戦――GⅡ・セントウルステークスの結果が出ましたよっ!」

 

 そう言いながら葵ちゃんは紙媒体資料を私に手渡してくる……ハッピーミークが私の間に座っていることを見越して印刷したんだろうなあ。

 で、見れば1着は――サンキンハヤテ。

 

 おおっと、これは想定外の名前。

 しかし、カレンチャンは3着入線だったために、総合すると。

 

 函館スプリントステークス1着で10ポイント。

 キーンランドカップ1着で10ポイント。

 セントウルステークス3着で5ポイント。

 

 合計25ポイントで、カレンチャンはサマースプリントシリーズの制覇を達成したのであった。

 

 ちなみに私はGⅢの3着、2着で合計9ポイント。サマースプリントシリーズ全体順位では6位タイであった。

 

「……実際、2レースの戦績としてならば決して悪くないですよね、葵ちゃん」

 

「6月のサマーシリーズ開始月に宝塚記念へ出走していることを踏まえれば大健闘ですよっ!」

 

 サマーシリーズの制覇条件を改めて確認する。

 獲得ポイントで1位になること。

 対象レースで1着を1度でも取ること。

 そして、合計ポイント数は13ポイント、サマーマイルのみ12ポイント以上であることの3点だ。

 

 もし6月からサマーシリーズに注力できるとするならば、3レースに出走することは可能だろう。そしてどの道1着を取らなければ制覇できないのであれば、ポイント数も、これに1着が加算されると楽観的に見れば全く問題はない。

 まあその1着を獲れるかってのが問題なんだけどさ。

 

 ただし。唯一サマーマイルの米子ステークスは重賞ではないオープン戦レースである。

 

 今年の戦績から得られた結果としては。重賞レースで入着は今の実力でも充分に可能。

 であれば、後は来年までにオープン戦で1着を獲れるようになりさえすれば、サマーマイルシリーズの制覇ならば理論上可能に見えてくる。

 

 その1着、というのが何よりも難しいのだけれども。しかし、この夏でその展望も大分開けてきた。

 アイビスサマーダッシュでは、実力以上の危険な走行をしていたものの、日本レコードの出ない例年のレースならば充分に1着を掴めるタイムではあった。だから上手く策を制御して自身の手の届く範囲で管理できるようになれば良いところまで来た。

 それに前走・キーンランドカップでも、カレンチャンにアタマ差まで肉薄した。最早、実力が足りないという状態は既に抜け出しており、このままパフォーマンスを維持していれば、勝利の女神もいつかは私に目をかけてくれるところまでは到達している。

 

 だからこそ、今年のサマーシリーズ挑戦は色々と私の可能性について広がった実りのあるものであったのだった。

 

 

 

 *

 

「……しかし、そうなると葵ちゃん。次走の選定が難しいですね」

 

 私は机に置いていたタブレット端末を駆使してレースの興行日程を再確認する。ハッピーミークは自主練ということで、しぶしぶ去っていった。

 ただ、レースの日程にはちょっと問題がある。

 まず前提としてキーンランドカップは8月末……本当に最後の週のレースだったことから9月末までは次走の期間は空けたい。

 

 その上でGⅢとなると、一応阪神レース場・ダート2000mのシリウスステークスがある。

 

「……それを逃すと次のGⅢは11月の初めまでありませんけどね、サンデーライフ」

 

 そう。葵ちゃんが言う通りこの秋日程のシニア級GⅢって9月前半に集中していて、実は狙っている出走時期には全然数が無いのである。だったらGⅡにすればと言う話だが、オールカマーとか、毎日王冠とか、京都大賞典とかGⅡでも錚々たる名前が並ぶのがこの時期である。

 その中でも比較的手薄そうなところを選ぶとするなら10月中旬開催の府中ウマ娘ステークス。ただし、ここですら史実メジロドーベル号の勝鞍なのでそのくらいのレベルはあると見て良い。

 

 ただ、いずれにせよ9月後半から10月前半のGⅡ路線は、全てマイルから中距離の多くのウマ娘が走れる距離だというのは忘れてはいけない。

 折角上り調子であるのに関わらず、GⅡに格上げした上で、しかも大多数のウマ娘と競合する路線……というのはちょっと考え物だ。せめて短距離か長距離が欲しいところである。

 

 まあ。

 芝・短距離路線なら一応重賞レースはあるけどね。

 

 ……そいつの名前は『スプリンターズステークス』って言うんですけど。

 

 

 いや、ここでGⅠはキツいな……。

 

 だからシリウスステークスが一番丸そうではあるが、逆にローカル・シリーズの交流重賞のダートレースまで狙えば、選択肢はかなり広がる。

 短めなら浦和レース場1400mのJpnⅢ・テレ玉杯オーバルスプリント、長めであれば金沢レース場2100mのJpnⅢ・白山大賞典がある。それに近場にJpnⅠの南部杯もあるからある程度分散もするだろうし狙い目と言えば狙い目である。

 ……まあ肝心のトゥインクル・シリーズのダート重賞がこの時期ほぼ枯渇しているから、地方に中央の雄がより集まりやすいってリスクを許容すればの話だけど。

 

「うーん……こうなると、やっぱり『アレ』ですかね?」

 

「……サンデーライフの指すものと同じかどうかは分かりかねますが……。

 ここで改めて『オープン戦を狙う』ということでしょうか?」

 

「おー、以心伝心ですよ葵ちゃん」

 

 

 私は今年の一番最初に走った白富士ステークス以降、ずっと重賞挑戦をしていたけれど、別に重賞レース自体にこだわる必要ってそんなに無いのである。強いて言えば賞金額と、後は出走条件に関連する『収得賞金』って概念の積み上げには重賞レースならば2着でも加算されるという辺りか。でも、それもキーンランドカップ2着のおかげで更に800万円――実際に貰った賞金の半額分が加算されている。

 それでも私は2勝クラスレースをすっ飛ばしてオープンウマ娘になってしまっていることから順当に勝ち上がってきたウマ娘の中でオープン戦以上を勝利、ないしは重賞で2着を出したウマ娘相手だとまだ抽選で負けてしまうが、それ以外の相手であれば抽選で負けることはほぼ無いと言って差し支えない。

 

 だから、もう収得賞金積み上げという理由で重賞レースにこだわることも別にそんなに無いのだ。GⅠに再び出走しようと思うなら話は別だけどね。

 

 更に、オープン戦を狙うのであれば、私向きなレースが実はある。

 それは――

 

 

 ……と、この瞬間。トレーナー室の扉が僅かに開けられて、ノック音とともに、外から聞きなれた声が響いてきた。この部屋、防音性が高すぎるから外から話しかけるときには先に扉を開けてから呼びかけるんだったね。

 

「……サンデーライフちゃん! それとサンデーライフちゃんのトレーナーさんっ! アイネスフウジンなのっ! ちょっとサンデーライフちゃんとお話があるんだけど、良いかな?」

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