強めのモブウマ娘になったのに、相手は全世代だった。 作:エビフライ定食980円
シンボリルドルフの生徒会に存在する最大の欠陥点。それは欠員が許されないところにある。エアグルーヴなくしてあの生徒会は成り立たないし、ナリタブライアンが居なくても同様だ。そして何よりシンボリルドルフ本人が存在してこそ初めて成立しうる組織構造になっている。
個々人の技量によって左右されるということは『次の生徒会長』になる度に、この生徒会が出来ることが変わっていくということ。それをシンボリルドルフ自身が是認するのであれば、私は一過性のお祭りのようなイベントを生徒会役員として盛り立てることは出来るだろう。
しかし、この在り方は持続性が無い。『全てのウマ娘の幸せのため』にはならないのだ。あくまでそれは最大限度で見積もっても
トレセン学園生徒会も、私の能力を即戦力と見て青田買いしようとしている企業も大きく見れば一緒――今いるメンバーの誰かがいなくなったら破綻しかねないから、優秀な人材でしか回せない……だから私のことが欲しい、という発想根本に危険性が内包されている。
特に生徒会の場合は、その会長自身の考えである『全てのウマ娘の幸せのため』の組織のはずなのに、シンボリルドルフ退任後の未来予想図が全く見えてこないというところに大きな矛盾がある。
「……」
シンボリルドルフは厳かな雰囲気のまま思案する。
彼女が一生、生徒会長で構わないとは思っていないはずだ。それは先の発言で『ウマ娘の市長』という存在に言及していることからも、少なからず政治の世界を意識しているのは確かだろう。
その反面、一応理屈の上では生きている限り生徒会長を続けることだって出来るのだ。何故かと言えばこの世界ではレースは文部科学省直轄の『学生スポーツ』扱いであり『トレセン学園生』にしか出走資格が存在しない一方で、シニア級の複数年跨ぎは可能という点を制度的に両立しているから。だから、名義だけはトレセン学園高等部所属のまま高校卒業相当の資格を取得すれば、他大学の学士課程や大学院の修士・博士課程を履修・取得する修学支援制度は整えられている。あるいはゴールドシチーのモデル業や、アイネスフウジンのアルバイトとの並立が可能であることからも、他職業と学生身分を兼任しつつレースに出走するという在り方も制度上では可能なのだ。
とはいえ万が一、一生涯生徒会長を続けても構わないとしても、結局じゃあ死後はどうするんだという話に帰結してしまう。
ここで『ならば皇帝は不老不死となり未来永劫生徒会長であり続ける』くらいまで言ってくれれば、私も前言を翻すことになったかもしれない。
しかし、シンボリルドルフからの反応が無いので私は話を続ける。
「……それに現行体制で次期候補が見つかったとしても、『皇帝』であるシンボリルドルフの後を継ぐという重責を背負う訳ですから、そのウマ娘は本人の戦績や資質に関係無しに偉大な傑物であることでしょう。そうした『名生徒会長』のリレーがいつまでも続くとは考えられません」
これは私はその中継ぎ役にすらなるつもりは無いぞ、という暗喩でもある。
そしてもう自明のことではあろうが、私がそうした『度を越えた優秀な者だけで回る組織』そのものを苦手としていることも伝わっただろう。
他ならぬ『優秀なウマ娘だけが出れるトゥインクル・シリーズレース』に出ていて世間的には優秀であるトレセン学園生徒の身分で何を今更、という話ではあるが、生徒会は優秀さの純度が違う。
今日からシンボリルドルフ、エアグルーヴ、ナリタブライアンと一緒に頑張ろう! って言われて果たして、それをプレッシャーに思わない子がどれだけ居るだろうか。私がそれをプレッシャーに感じるか否かではなくて、そういう雰囲気があるというだけで充分に度を越えている。
彼女等3人のようなウマ娘は、そうポンポンと輩出されるわけではない。それに能力的には準ずるものを持っていたとしても、そうした者が生徒会を志すとは限らない。優秀さで回る組織というのは、存在するだけで脆弱だと私は思う。
凡人だけでも回る……もっと突き詰めればやる気の無い素人集団だけで回せるような形が理想であると私は考えている。特に生徒会で、高度に専門的な知識や経験を要してはいけないと思うし。
しかし、それは今の『シンボリルドルフが運営する生徒会』像からは真っ向から対立する。学校運営の長である理事長とも渡り合えて、教職員を飛び越えて理事と生徒会間で連携してスピーディーかつ広範な業務をこなす組織は、私の志向するものには間違いなく……ならない。
……そうなのだ。
シンボリルドルフの最終的な目標である『全てのウマ娘の幸せのため』を成就させる前提に立ったとしても、私とシンボリルドルフの考えというのは大きく違うのだ。
そして何より、私自身はその目標を掲げているわけではないし、シンボリルドルフの意志に共鳴しているわけでもない。
だからこそシンボリルドルフもこう返答をする。
「――そうか。君は……私が描く未来の理想像と、私のやり方が乖離している、とそう言いたいのか……」
「……ええ。その場合は、私はシンボリルドルフ会長に従えば良いのか、それともシンボリルドルフ会長の『信念』に従えば良いのか、それだけでも取り得る対応が変わります――」
もし、私が本気で『全てのウマ娘の幸せのため』に殉ずるのであれば、最初に取る行動はおそらくシンボリルドルフの生徒会長弾劾だろう。偉大すぎる指導者の長きにわたる君臨は間違いなく次世代の障害となる。誰しもがシンボリルドルフを『会長』として認めてしまっている現状こそ、『次』を考えたときにはあまり健全な状態で権力のスライドが行えるとは思えない。
このまま『シンボリルドルフ会長』という実像が肥大化していってしまうと、下手するとトレセン学園は生徒会長職を空位にして永久欠番扱いしなければならない、という事態もあり得るかもしれない。すべてはIFの話である上に、私の想像でしかないけれど。
しかし、それはあり得ない未来だ。
理由の1つは、そもそも私が既存の生徒会を破壊してまで生徒会長の座に付く意志が更々ないということ。だから、そこまで大それたことをやる必要自体がそもそも存在しない。
というかぶっちゃけ、シンボリルドルフは『全てのウマ娘の幸せ』を希求しているが、私は現行体制でそれなりに満足している。だから変革に関する原動力が無いのだ。
――そして。
「……サンデーライフの意見は拝聴に値するが、しかし……。申し訳ないが――私はそうは思わないな。
このまま私のやり方を続けたとしても、『次の生徒会長』は必ず生まれると確信している。それが誰であるかはこの際問題ではない。
私の使命は、この『会長』という役割を次に引き継ぐ者の指針となり得るだけの実績を整備して、そして願わくば『百駿多幸』の精神を継承してくれればと祈っている」
「……つまり、私にやって欲しいことは、そうした次世代への道筋の整備……ということでしょうか?」
「もちろん、それをやっても良いが……むしろ、君が為すべきことをしてくれて構わない。サンデーライフはきっと、生徒会の不利益になる行動は理由が無くばしないだろうからね」
……そりゃ、確かに不用意に生徒会の反感を買うことをするつもりは無いけどさ。けれど、ちょっとここで挑発をする。
「――では、私の『為すべきこと』というのが『シンボリルドルフ』の弾劾であったとしても?」
「ああ。それが本当に『何かの為になるのであれば』遠慮なくやってくれて構わないよ。……ただ、今の私がこの地位を引き摺り下ろされるにはまだ未練が多すぎる。全力で抵抗させてもらうがね」
シンボリルドルフは『皇帝』でも『会長』でもなく『獅子』の目つきで笑う。……思えばこうやって、ナリタブライアンも生徒会に引き込んだのだったな、この会長。
「……私の『メリット』が見えてきませんが?」
「……色々考えたが、君にとって一番褒賞と思えるものは『生徒会役員である身分』そのものではないかな? 少なくともこれがあるだけでも、取り得る手立ては変わるだろう」
私が重視している『自由度』の拡充という方向性をきちんとカバーしてきていた。実行に移すかどうかはともかくとして戦略的なフリーハンドが増えること、これを私はレースの内外問わず重視している。
確かに、生徒会という立場を利用すれば選択肢が増えるのは疑いようもない。私の想像以上にシンボリルドルフは私の利益になる魅力として写るものをしっかりと考えてきていた。
――まずは認めよう。私とシンボリルドルフの考え方には、結構隔たりがある。
立場も在り方もまるで違うからこそ、そういうことが起きる。
私の立場としては集団に異物を入れる行為そのものがマイナスなようにしか見えていないが、一方でシンボリルドルフはそれを視点の多角化として肯定的に考えている。
私は優秀な『生徒会長』が1代、2代先はともかくとしてその後も継続的に輩出され続けることなど全く信じていないが、一方でシンボリルドルフはそうした『崇高な意志』という血で繋がった偉大な生徒会長のサイアーラインが脈々と受け継がれていくことに疑いを持っていない。
……これを悲観論者と楽観論者の対立みたいな二項対立で捉えてしまったり、あるいは現実主義と理想主義みたいなイデオロギーで考えてしまうと重大な錯誤を生む。
シンボリルドルフがそういう風に見えるのは、彼女がそのやり方で成果を収めており既に実績を挙げているからだ。
対して私の視点とは、未経験者が勝手にネガティブに口出ししているということ、それはまず弁えないといけない。少なくともこの話が『生徒会』運営に関わる話である以上は、意見の重みは違うのだ。
勿論、経験がないやつが口を出すな……というところまで飛躍するものではない。
意見を出す自由度というのは、その意見を却下する自由も内包されて初めて生じる概念なのだから、シンボリルドルフが『私の視点』を求めることが『私の意見を全部鵜呑み』にすることと同一ではない部分はむしろ当然の立ち振る舞いともいえる。
だからこうして、私とシンボリルドルフの意見が対立しているように見えること自体が、まず健全な状態なのだ。
で、少なくとも私が先に言ったような大規模な生徒会の制度刷新に全く熱意が無いことくらいは、シンボリルドルフも看破しているだろう。提示されたメリットが生徒会に所属することで受けられる恩恵である以上は、私がむやみやたらに生徒会の機構を大規模にいじること自体がメリットの喪失に作用するので、ある意味では受けられる恩恵を活用して私に釘を刺してきたともいえる。
このあたりの調整の緩急の使い方は流石に上手い。妥協して落としどころを探るのではなく、私にとってのメリットを維持することがそのまま組織の体制維持に寄与するという在り方は、興味深い手口である。
ただ一方でデメリットもそれなりに大きい。まずは単純なダブルワークによる多忙化。芸能関係やそれ以外の業務を競走ウマ娘としてのトレーニングと並行して行うことは私も葵ちゃんも現行のままでは不可能という判断を既に下している。だからこその葵ちゃんからの引退示唆がかつてあったし、それを私は退けた以上は当面は競走ウマ娘として注力する方針を立てている。
生徒会所属というのは、まずこの部分に真っ向から対立する。
次に直近で勝利したとはいえ、それでも私はオープン戦勝利ウマ娘でしかない。勿論、競走ウマ娘全体という尺度で考えればかなりの上澄みまで到達はしているものの、一方でGⅠ複数勝利が当然の現行生徒会においては、それでもかなりの見劣りをする戦績であることには違いない。
個室の貸与自体は、メイクデビュー以前からタキカフェコンビに行われていたので、私が今資料室の管理者を任されている現状についてはある意味先例が存在するものだったが、流石に生徒会所属となると話は変わる。
確かに私には『王子様』人気があるのは事実。けれど、それだけでトレセン学園の全生徒を心服させているわけではないので、私に反感を持っている生徒だって当然居るだろう。幸い、お互いに棲み分けをきちんとしているからこそ顕在化しない問題であったが、生徒会となって全校生徒と関わるような形になるとそれはちょっと話が違ってくると思う。そうしたときに誰の目にも明らかな『戦績』という形の暴力で反論を封殺することが出来ないのは厳しい。
何より……私とシンボリルドルフの目的地が違うのだ。
私は別に何かを変革しなくても、今のままの体制が存続することで充分である。この『体制』とは生徒会組織のことではなく、もっとざっくり現在の『社会体制』……あるいはウマ娘と人間の関わり方とでも言うべき代物だろうか。
シンボリルドルフの言葉を借りるのであれば、現状で私はそれなりに『幸せ』なのだ。だから現行体制を作り上げた人物の中に『シンボリルドルフ会長』が含まれている以上は、その恩恵を受けるものとして尊敬はするが、逆に言えば私は更なる変革をそこまで求めている訳ではないのだ。
そして。ここのギャップが恐らく埋まることは無いだろう。
……うん、ハイリスクだ。だからやっぱり、このシンボリルドルフの提案を受けることは――出来ない。
なので断る方向へシフトするが、しかし断り方もちょっと工夫を凝らす。
「……申し訳ございません、シンボリルドルフ会長。光栄ではありますが、この一件、お断りいたします」
「……そうか、残念だ。……後学のために、何故か聞いても良いだろうか?」
「――シンボリルドルフ会長が、この話の最初に切り出した内容がまさしく、でしょうか。ウマ娘ボールでの『景色』……あれが、会長ご自身の中でも『答え』に近しいでしょう?」
抽象的な言い回しである。しかし、その意図をシンボリルドルフはしっかりと汲み取った。
「……テイオーを次期生徒会長に据える、ということか――」
「将来的な話であって、未来の可能性の1つにしか過ぎないことだとは思いますが……。他ならぬ『皇帝』が『ティアラの帝王』に禅譲を行うとなれば、困難であれど不可能とは言えないでしょう。競走成績の面では現時点でも申し分無いですし。
その時に向けて必要なのは、きっと私ではなく――トウカイテイオーさんを支え得る人物ではないでしょうか?」
『崇高な意志』という血で繋がった偉大な生徒会長のサイアーライン。これの適任者はまさしくトウカイテイオー以外には存在しないと言えよう。
『生徒会の継続性』に主眼を置く考えはあくまでも、自分がその組織に身を置く前提にあってこそ生じるもの。シンボリルドルフがその点を譲らないというのであれば代替案は提示するし、生徒会内部に私が居ないという前提の下であれば別に組織体系がどうなっていようと構わないからこそ、こうした提案を行える。
まだクラシック級ウマ娘であるトウカイテイオーの現役期間は史実と照らし合わせたとしても2年は存在する。しかも、この世界ではトウカイテイオーの負傷自体が発生していないから、もしかすればあるいはもっと長い現役生活を送ることになるかもしれないし、更にその後に年間数戦という形で細々と出走する調整も彼女なら出来ると確信している。
だからこのテイオー会長案は、中長期的な視野に立った計画の話だ。
「……そのテイオーをも、君に支えて欲しいというのは、傲慢か?」
「傲慢ではないでしょうが、それはお節介が過ぎるというものですね。
少なくとも、トウカイテイオーさんと並び立つ者は彼女自身が決めるべきことかと。……それではまるで、欲しいものを何でも買ってあげる駄目な『父親』みたいじゃないですか――」
私から開示できるギリギリの情報を冗談の旋律に乗せて放つ。それを言われたシンボリルドルフは一瞬きょとんとした表情を浮かべ、そして彼女が出していた威圧的なオーラが消える。
そして、夕焼けすらもただの背景に貶めるような零れんばかりの笑みを隠そうとしているのに隠せない様子で語った。
「……くくっ。サンデーライフからしてみれば、私はトウカイテイオーの父親か! これは痛快無比だ! そうか、確かに親からあれこれ指図されるというのはテイオーも嫌がるかもしれないな――」
トウカイテイオーにとっての私の認識は『ウマ娘ボールでカイチョーと一緒に居たおねーさん』である。トウカイテイオーにとって近しく未来を共有できるウマ娘とは誰だろうか。メジロマックイーンを始めとするアニメのスピカの面々、それとも同室のマヤノトップガン? あるいは、同期組のナイスネイチャやツインターボも該当しそうだし、はたまたテイオーを強く慕うキタサンブラックという線もあり得る。
あるいはこの世界には史実シンボリルドルフ産駒である『ヤマトダマシイ』という現役ウマ娘の存在もある以上、私では全く予想だにしない関係性が構築されている可能性すらある。ディープインパクトをテイオー生徒会に招き入れるってことだってあるかもね。
そうした者たちを集めて全く新しい生徒会が構築されるかもしれないし、あるいは生徒会長という肩書きを継承せずとも何かをやってのけそうな『期待』を抱かせるウマ娘こそ、トウカイテイオーなのだ。
未来における可能性というのは大きく広がっている。それは決して無限大ではないにしろ、トウカイテイオー自身の裁量でいくらでも広げていけるものであり。
そしてそこから先の話は私やシンボリルドルフの物語ではない――トウカイテイオーの物語だ。
「……私はどうにも大器晩成型のようですので、まだ数年は最前線を走り続けることを優先するかと思いますし、仮にその後だったとしてもシンボリルドルフ会長と『共に』あることは無いでしょう」
「……そういう意味でも『ウマ娘ボール』の景色の価値を……私は再認識するよ」
「そこまで言ってもらえると、私としても嬉しいです。……ですが、トウカイテイオーさんにトウカイテイオーさんの物語がありますように、私にも私なりの物語の形――というものはありますので」
「……そうだな」
生徒会入りを断るだけならば、ここで話を終わらせても良かった。
だから、ここから先は正真正銘のお節介。
「私もトウカイテイオーさんも……まだ何も物語は始まっておりません。
……そして。それはシンボリルドルフ会長――あなたも同様です」
「……私もか?」
「はい。セントライトやシンザンの名を冠したレースがGⅡ、GⅢ止まりであるのに対して、安田伊左衛門や有馬頼寧の名を冠したレースがGⅠなのは、何故でしょうか?
――あるいはこう言い換えても良いでしょう。URAという組織が『三冠』という偉大な戦績よりも重要視しているものが確実に存在していて、この国のこれまでのウマ娘はその『GⅠタイトル』そのものという称号を未だ誰も手にしておりません――」
「……っ、サンデーライフ――まさか君は」
私は今日の話の中で初めて動揺をみせたシンボリルドルフを意図的に無視して話を続ける。
「――不思議ですよね? 洋を隔てた遥か彼方の島国ではウマ娘の名を冠したレースがGⅠとして登録されている例もありますのに……」
サンダウンレース場にて開かれる芝の約2000m競走『エクリプスステークス』。これはイギリスのGⅠレースである。
しかし、ウマ娘にて存在するセントライト記念はGⅡでシンザン記念はGⅢ。あるいは競走馬側の歴史においては、GⅡ・弥生賞にはディープインパクト号、GⅢ・共同通信杯にはトキノミノル号の名が副題として使われていたり、過去にはクモハタ号やカブトヤマ号の名を冠したレースもあったが、それらを含めてもやはりGⅠレースは存在しない。
競走馬においては、概ね戦績とリーディング成績の両面を考慮して付けられていると推察できるが。
一方でウマ娘の場合、人間と同じ生き方を選択出来ることから別の結論を見出すことが出来る。
安田伊左衛門とは戦前からウマ娘レースの振興に努めた軍人であり、東京優駿大競走――今の日本ダービーを主としてレース興行を整備してクラシック級のGⅠレースの雛型を作った人物であり、URAの初代トップ。
有馬頼寧は安田の後任のURAトップを務めあげていて、彼はウマ娘レースの門外漢であったがそれを逆手に利用して、ライト層への注目度を高める戦略でウマ娘レースを今日のような国民的なイベントでかつ最大規模のスポーツの祭典への地位に押し上げるきっかけを作った人物である。レースの実況放送であったり、あるいはファン投票による出走ウマ娘の選定といったトゥインクル・シリーズの『グランプリ』レースの祖でもある。
これら2名の先人が、今日の『安田記念』と『有馬記念』という2つのレースを背負うのに値する人物であることは疑いようもない。
ただし、それは同時に――
「URA……あるいは、トゥインクル・シリーズの興行そのものに大きな変革をもたらした『ウマ娘』は未だかつて存在しない、ということか……」
「……正確に言えば、URAの内部はそう考えているということになります。ウマ娘の身でありながらレース体系の根幹から変革を行う――いえ、レースという枠組みすら超越して『全てのウマ娘の幸せのため』に己の生涯を捧げる者が、もし居れば。その人物の名は、新たな意味での『
――敢えて明言しましょうか。私は『シンボリルドルフ』というウマ娘を、高々1学園の生徒会長
史実シンボリルドルフ号が『名馬メモリアル競走』や『追悼競走』としては名が挙がるもののレース名として組み込まれなかったのは、種牡馬としての競馬界への貢献度合いを鑑みてのことだろう。しかし、ウマ娘世界においてはその概念が存在しない以上は、彼女の名が『エクリプスステークス』になぞらえるように『シンボリルドルフステークス』みたいな形で重賞競走になる未来もあり得るし、それが生前に贈られる可能性だってあるのかもしれない。
……学生でなければ、トゥインクル・シリーズレースに出走できない? 確かにこの世界において『今現在』はそうだ。だが、興行規則を遵守する側ではなく制定する側に立てば、話は一変する。
これまでのように年間数戦の出走を行うために学園に所属し続けることを必須要件としなくても良くなるのだ。勿論、あくまでも体裁的には学生スポーツであるウマ娘レースを、その枠から解き放つことは功罪両方の側面がある話であり学生の青春に思いを馳せる人たちからすれば受け入れがたいというのも事実。何が良くて何が悪いかなんて分からない。けれども、変えようとする意志を否定することは誰にだって出来ない。
これは私の勝手な考えであり、お節介と同時に押し付けだ。けれども、そんな『シンボリルドルフにこうあって欲しい』という独善すらも内包してこの世界では次のように呼ぶのであろう。
――『想い』と。
「……まさかサンデーライフを生徒会に入れようとしたら、君からはURAや政界入りを薦められるとは思いもしなかったよ。
だが……そうだね。サンデーライフ、君の『想い』はウマ娘・シンボリルドルフとして、しかと受け取った。遥か未来の話になることだろうが、それでも私の信奉する世界に少しでも近付くようにあらゆる手立てで尽力することは確約しよう――」
この日のシンボリルドルフとの『散歩』が結局どのようなことに波及するかは知る由もない。
――この世界に生きるウマ娘の未来の
けれども1つだけ言えることがあるのならば。
未来へのファンファーレは、この時に鳴り響いたのかもしれない。