スカーレットのMTRです
未だ残る水滴が、差し込む日差しを反射し、まるで輝いているかの様だった。
「…はぁ。」
ため息を付き、苦笑する。トレーナーに勧められたガーデリング。エアグルーヴ先輩から教わりながら、咲かせる事が出来た。…が、見せたい人はこの場には居ない。
「ひ弱トレーナー。…肝心な時に居ないなんて馬鹿みたい。」
誰も居ないとは言え…学校の優等生とは、思えない言葉を吐くが、その発言が無かったかのように振る舞いある場所へと、足を進めた。
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「…お?ようスカーレット。…今日は、練習しないのか?」
日当たりの良い病室で、ベットに背を預けゆったりと熟読していた本から目線を外し、こちらを見つめた。
「いえ、ちゃんとするわ。午後から行うから今日のメニューを教えて欲しいの。」
「ん〜了解。ちょっと待っててな。」
そう言って、引き出しからノートパソコンを取り出し、何かを打ち始めた。
「あと少しで…秋の天皇賞だろう…?対抗バとなるのはやはりウオッカだしなぁ…。ん〜…あ、そうだこうしよう。」
「…?」
「」カタカタカタ
何を思いついたかのようにパソコンに何かを打ち込む…が痺れを切らした彼女が叫ぶ。
「せっかく来たのに、何か相談しなさいよ!このおたんこにんじん!」
「ウェイ!?」
集中してたトレーナーは思わず奇声を発し、危うくパソコンを落としかける。
「すまんて…てか、急に声出すな。パソコン落ちる所だったろ?」
「ほっとくのが悪いのよ…。はぁ…出来れば少し話しなさいよ…。」
「ごめんごめん。……して、スカーレットは、どう思う?」
「どう…とは?」
「ウオッカだよウオッカ。……近いだろう?対決。終盤どう来ると思う?」
「…アイツなら大外から一気に来るわ……悔しいけど、何か手を打たない限りはアイツに差されてしまうわ。」
「…だよなぁ。その何か一手を打たないとなぁ…。」
2人は頭を抱えた。…ダービーで見たウオッカのあの末脚を。
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『左耳に飾りを持つウマ娘は、ダービーを勝てない。』
いつの間にかそう言われるようになった、左耳に飾りを持つウマ娘のダービーの挑戦。
ウオッカが挑戦すると聞き、私は無謀だと思ったけど強がった。
「アンタは、勝てないわよ…無謀よ」
周囲も常識外れだなど、懐疑的だったが…アイツは、勝った。
本当は、私もアイツ同様挑みたかったけど…体調不良により回避してしまった。
そんなことよりもウオッカに…!と思っていたが、身体は言う事を聞かない。トレーナーは、そんな私を心配してくれた。トレーナー自身の方が、大変なのに。
…気が付いたらトレーナーの事を考えてしまった。
「スカーレット?」
「ん?何かしら?」
私の視線に気がついたかトレーナーは、見つめてくる。
「…いや、なんでもない。」
「あっ、そう?……して、完成まだ?」
「……もう少しで終わるから。」
「分かったわ。」
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手渡されたトレーニングメニューを行い、怪我に気を付けメニューをし終え、シャワー室に向かいながらも考えに浸る。
(まもなく来る、秋の天皇賞。そこでアイツとの直接対決を行う舞台。
今年のダービーを制した人なんて眼中に無いわ。
…またアイツに勝って私が一番強いというのを証明してみせる。)
…だが、いつもの必勝パターンのまま挑んだ場合のシュミレーションをしても、すぐ後ろにはアイツの姿がある。何度も何度も決まって真後ろにアイツが居て、最後の最後で追い抜かれる。
鬱屈のまま、シャワーを浴びる。
未だに熱を帯びている身体に、ややぬるいお湯を浴びたことで、身体がリフレッシュしたようにも感じた。
…たが、何一つ気が晴れはしなかった。
シャワーを浴び終え、寮に帰る前にこの群青の空を睨んだ。
……ただの八つ当たりと知りながらも。
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月日は流れ…
その日の東京レース場は、歓声に包まれた。
近年稀に見る接戦に観客は、湧き上がった。宿命とも呼ぶべき2人の女王。意地と意地のぶつかり合い。両者1歩も譲らなかった。
先頭を突っ切る緋色の女王既に、限界を迎えた。ゴールまで残り僅か、迫りくる型破りの女王。誰もが彼女に差されて破れる…そう思っていた。
だが、彼女のプライドはそれを良しとしなかった。
限界を超えなお、さらに加速。並んだ2人の女王勝ったのは………
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翌日。
トレーナーとダイワスカーレットは、エアコンが取り付けられている、トレーナーの自室にいた。
「あぁ〜もう!認めない!この結果は、絶対に認められないわ!」
「まぁまあ…スカーレットも、よく頑張ったね。特に最後の粘り、とても素晴らしかった。」
「ありがと…。アンタに心配されないよう、日々の自主トレは欠かせなかったの…まっ、形はともあれ当然よね?」
「そうだなぁ…。」
長い写真判定の末、同着。電光掲示板に出された直後、2人して納得の行かない表情をしていた。
今なおスカーレットとウオッカは、納得がいかない様子。
「まぁでも、これで3勝1敗1引き分け。対戦成績的に、君がリードしているが…君は今後どうしたい?」
「…ウオッカには、勝ち越してるし……そうね私は、今年の有馬記念を最後にして来年は、ドリームトロフィーに挑戦したいわ。」
「…分かった。そうしようそうと決まれば……」
「その前に」
「…?」
「アンタ…退院してきて大丈夫なの?癌って聞いたけど?」
「…あぁ。それについては大丈夫だよ。気にしないでね」
スカーレットから逆スカウトを受けたトレーナーだったが、既に病に犯された。その趣旨を伝えても彼女の決意は揺るがなかった。
長考の末トレーナーになったが、その決断に今は感謝している。
「…そういやぁ、この部屋来たのいつ以来かなぁ。」
やけに手入れがされた部屋を眺めていると、赤いバラが生けられていた。
「バラか…。」
ふと、スカーレットと一緒に花屋に行った事を思い出した。母の日に送るプレゼントをスカーレットに選んで貰った。その時は、白いダリアを選んだなぁ…と、懐かしんだ。
「そういえば、ついでにバラの種も買ったね。もうこんなに花開いて…。綺麗だねぇ」
「ふん。トレーナーが居ないうちに咲いちゃったわよ。…出来れば早く来て欲しかったわ。…数本生けるのに失敗しちゃったけど。……あっ!そうだわ、今度花の種を買いに行かない?少し、見て行きたいものがあって。」
「わかった。今週の土曜の10時でいいか?」
「それでいいわ、お願いねトレーナー。」
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雲ひとつない青空、時折吹く秋風は、やがて来る冬を感じさせた。
「遅かったわね。」
「あー…うん。すまねぇ。ちょっと準備に手間取ってた。」
「でも…1、2分だからいいわ、さっさと行きましょ。」
既に数歩先を歩いていくスカーレットに苦笑いしつつも、トレーナーは後を追った。
「…やっぱり綺麗ね。どの花も、隙が見えないわ。私が育てたバラも負けないくらい綺麗たけど…ここには叶わないわね。」
「…そうだな。」
むむむと、花を見つめるスカーレットだが、その顔はなんだか嬉しそうだ。
「…トレーナー。私、この花を育てて見たいわ。」
ある花を指差しながらこちらを見つめてくる、以前は不安そうにだったが、今は目を光らせながら。
「いいよ。」
「ありがとう。…頑張って育ててみるわ。」
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「…トレーナーありがとう。…私のワガママ聞いて貰って」
「ええよ、…俺でよかったのか?せっかくの休日。」
「いいの、私が望んだ事だし気にしないで。」
傍から見ればカップルのような会話だが、2人は気付いていない。
「…そういえば、ここ。…初めて私たちが出会った場所だったわね。」
「あぁ…そうだな。ここで、練習中のスカーレットに会って…。」
彼らがいる場所は、トレセンが誇るレーストラックが見える場所にいた。
「……トレーナー。」
「どうした…?」
真剣な顔つきで、こちらを見つめるダイワスカーレット。だが、その様子とは裏腹に、瞳には不安が隠しきれてなかった。
「……いい加減教えてくれるかしら?なんで入院しているのかを。」
「前も話した通り…『違う!!』…!?スカーレット…?」
「そんなの嘘よ、私の目は絶対誤魔化せないわ、そんな理由なら病院なんかもう行ってないはず。それなのに、入退院を繰り返して……。今だって…左手が震えているわ…。手袋をしてるのに。」
「……。」
「…お願いトレーナー。入院している『本当の理由』を教えて?」
「……。はぁやれやれ。」
そのスカーレットの圧に負け苦笑いを浮かべ、スカーレットに本当の事を話す。
……もう先が、短いという事を。
その事を、スカーレットは信じられないという表情を浮かべたがそれは一瞬の事だった。
トレーナーから言われることに、時折相槌を入れながら最後まで話を聞いた。
「〜〜。ということだ、スカーレット。……すまない。せめて最後だけは…って。」
「……そう言うのは、最初に言って欲しかったわ。」
やれやれだわと、一言つぶやきながらも、ため息を付くダイワスカーレット。
……入退院を繰り返すトレーナーを見て、もしかしたら、こんな事になるんじゃないかと薄々気付いて…いや、気付いていない振りをし続けていたのかもしれない。
そして今、それは現実になった。
「すまない。これを言ってしまうのが怖くてな……。君の負担になるんじゃないかって。」
「なるわけないでしょ?」
「…え?」
「そもそも、おかしいって思ってたのよ?短期間に入退院を繰り返してたこと。気付かないと思っていたの?私は!!何1つ事情すら言ってくれないアンタが心配だったのよ…?
……少しくらい、話して欲しかった。」
「でも、今日で分かったの。アンタは、物事を隠しすぎだってこと。でもね、トレーナー。私でも、力になれるから……お願いだから 『私と話す時は、隠し事しない』って事、約束出来る?…出来ないって事はないよね…?」
「…わかったよスカーレット。でも、そんなんでいいのか?もっとこう、『契約解除』しなさいだのそう言われると思ってた。」
「ばっかじゃないの?……私は、アンタの『一番』なウマ娘よ?そんな事すると思う?」
「……ははっ。そうだな…スカーレット。確かに、俺にとっての『一番』のウマ娘だ。
━ありがとう。こんな俺を選んでくれて。」
「そんなのいいわ。……いい?『最期』まで私に付き合いなさい…トレーナー?」
「分かりましたよ …緋色の女王(スカーレット)」
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「…。なぁ、スカーレット。」
「どうしたのトレーナー?」
「やっぱりさ…一人は怖いよ。これから訪れる『死』なんて考えても見なかったよ。」
「…そうね、少なくても私は、随分先まで、無縁な話だと思ってたわ。」
「やっぱりね、俺もそう思ってたんよ。」
「あら?気が合うじゃない。」
「ははっ。そうだな。」
「……最期まで、私が手を握ってあげるわ、アンタはひとりじゃない。」
「……ありがとうスカーレット。こんな俺だったけど…君の思う 『一番』になれたかい?」
「それ、昨日も聞いたわよ?…そうね。アンタは『私の一番』。これから先も…ずっと永遠に。」
「一番か……ははっ。嬉しいな…。あぁ……もう…。目が霞む……涙か……ちくしょう…。」
「……最期にひとつ、いいかしら?」
「なんだい?」
「ずっと私を見続けていてね…、遥か彼方から。…『約束』よ?」
「当たり前よ。…誰だと思ってるんだい?」
「ふふっ。そうね…。」
「……眠いなぁ。」
「眠いの?また優しく起こして上げる?」
「お願い。」
「いつ起こせばいいかしら?」
「…君の……好きなタイミングでね…?」
「分かったわ。」
「スカーレット……。おやすみ。」
「トレー…ナー………おやすみなさい
━良き夢を……見られますように。」
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いつもと変わらぬ風景、そして、いつもと同じ時間。
今や、習慣になりつつある生け花を行う。手馴れた様子で、花をひとつひとつ丁寧に飾り終え、あるべき場所へと飾る。
…もう主がいなくなった一室の、机。写真立ての隣に花瓶を置く…。
「…また、明日。」
写真立てに飾られている写真を優しく撫で、ゆっくりとこぼれ落ちる雫。
そして、ドアの開閉音。
誰も居なくなった一室に置かれ、花瓶に生けられた緋色の花。
彼女から落ちた宝石は、草に落ちまるで、ティアラのようにいつまでも輝いていた。
ちなみに最後に飾り付けられた本数は、 5本です