眼下には、太陽の光を受け輝く雪化粧された街並み。ただ1人病院の窓から俺は、この光景を眺めていた。
ふと水滴が頬に落ちてくる。見上げると、屋上付近には見事なツララが等間隔で並んでいた。屋上の先、どこまでも広がる雲ひとつない群青の空。
「綺麗だなぁ…。」
その青さに思わず感嘆の声を漏らす。ただの独り言かもしれないが、ただ美しかった。
「私もそう思うぜ。」
「ウォア!?…ジャスタウェイか。」
「そうだ。私だ。」
ニマニマとしながら、ドッキリ成功と言いたげな顔をするウマ娘の名は、ジャスタウェイ。俺の愛バだ。
「来てるなら来てると早く言え…。」
「あはは。ゴルシの言う通りだったぜ、いやぁトレーナーの驚く姿見れて今日は満足。」
「やれやれ……。」
思わずため息が出る。ジャスタウェイ…彼女は、あのゴールドシップとはウマが会うらしく、ちょくちょく彼女に影響されたイタズラなどをされるが、皆笑って許せるほど可愛いものばかりである。
トレセンでも噂の至って普通の真面目な優等生なのだが、俺と二人きりの時は、こうして距離が近いのである。
「また、そっちを眺めてばかりか。…面白いのかい?見てて」
「面白いよ。…君は、ちっとも面白くはないと思うけどなこの空を見上げるのはな。」
「ふーん。」
彼女は、興味無さそうに俺を見詰めるだけだった。
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カタカタとキーボードが叩く音と、しっぽを左右に揺らしつまらなさそうにそのパソコンの画面を見るジャスタウェイ。
その音が響かなければ、この病室は静粛としているのだが、俺はそれが嫌いだ。
何かをしなければ落ち着かない。せっかちかもしれないが、元から俺はそういう男だ。
ただ、腕を組みじっと画面を見詰める彼女の視線がちょっと気になる所だが…。
表情は見えないが彼女の事だ、またちょっと笑えるようなイタズラでも考えてるのだろうとかってに結論付けデスクに表示された仕事にまた意識を向けた。
───
(また、仕事をしている…。今日もバッチリと決めてきたのに。)
彼の横顔を眺め、少し悲しい気持ちになる。今日は、久々の晴れた日であるのに、一向に外へ出ようともしない。
まもなく、共に過ごした日々は3年になろうとしている。だが、未だ2人して出掛けたりしたのは片手で数えるくらしかなく鬱憤も溜まる。そもそもの話、今日こそは…っと言う時に限って、運が悪いのか天候が悪い。
やっとの思いで晴れたというのに…彼は、1回外を見たっきりで視線を1度も向けようとはしない。
…彼は、一体何を思って仕事をしているのだろう。ずっと不思議だった。
小さい時から病弱で、何度も入退院を繰り返して…という生活を送ってきたと聞かされている。どこか寂しげな笑みを浮かべていたのを私は逃さなかった。彼がどうしたら笑顔を見せてくれるのだろうか、作り笑いでは無い本当の笑顔で…。
───
「んーっやっと終わった〜。」
身体を伸ばし、溜まった疲労感を払拭される。体感にしては2~30分。時間は1時間程しか経っていないようだった。
パソコンの画面を眺めていると、彼女が浮かべる表情に気付く。
とても悲しげで…何か言いたげな面持ちであることに。
そこで俺は、1度彼女の服装を見た。今まで見たことがないくらいにとても似合っている服装で、外出用とでも言うのだろうかこの服は見たことがなかった。
…。
「なぁジャスタウェイ。」
「…?どうしたのトレーナー?」
「街へ行くか。」
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色々な店を回った。自分でもあまりよった事の無いような雑貨店や、洋服屋など。行き場所は様々だった。
買い物を楽しむ彼女の表情には、笑みが浮かんでいた。
俺も、ジャスタウェイも2人して日が落ちるまで買い物に勤しんだ。
辺りが真っ暗になり始めた頃、突如として、その道に植えられた木々がライトアップされ始めた。
病院でしか眺めた事がなかったので、近場で眺めれたのは思いもしなかった。
その時
「っ!?」
鋭い痛みを感じ思わず咳き込む。その咳き込んだ中に血が混じっていた。……いよいよ死期が近づいてきたようだった。この事にびっくりしたのかジャスタウェイがあたふたしてる。
咳を何とか止め、彼女に見栄を貼り
「大丈夫…大丈夫だから」
と、言うと彼女は強く否定した。
「大丈夫なら吐血しないわよ!誘ってごめんねトレーナー。早く戻りましょう?」
彼女が楽しんでいた所を水を差したようで申し訳ない位の後悔を感じた。
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病院へと戻り、神妙な面持ちで見詰めるジャスタウェイ。彼女の視線にいたたまれなく、思わず視線を外す。
「…トレーナー。さっきのはどういうこと…?未だに理解が追い付かないんだけど…。」
静寂としていた空気を断ち切ったのは彼女からだった。
「……。そうだな…実はな。」
今更彼女に隠す必要は無いので、全てを打ち明ける。入退院を繰り返していたのは、重い重い病気を患っていたからで良くなっては入院を何度も繰り返していたが、ついにその病気と併合したかのように癌が発生。もはや打つ手がないと言われたことを打ち明けた。
「…残念だけど、年は越せない。良くて来週で…って言われた時はもう、困ったよ。もう近づく『死』を受け入れなくちゃって…でも、まだ死にたくない。もっと時間が欲しかった。」
「…。」
「でも、これが運命なんだって…。諦める他はなかったんだよ。」
「ジャスタウェイ…。どうすればよかったんだろなぁ。俺には…相談出来る友なんていなかった。」
自分の悩み、苦痛を彼女に打ち明けてしまった後悔はない。ただ、わだかまりが無くなった。
「…親に先立たれ、1人残された俺に場所なんてな…」
「あるでしょうが!!」
強く彼女は否定した。
「今までは、なんだったんだよ!私を見つけたことも!一緒に悔しがったり喜んだり、今日みたいに楽しんだり……。私には勿体ないような思い出ばかり。アンタは、私といて…嬉しくないのか…?」
「……!」
「ずっと自分事を後回しにして……周りを見ない。私がそんなに信頼ならないのか!?私なりに…なりに……アンタの傍に居れるように……。」
言葉は紡がせなかった。嫌かもしれないが…強く引き寄せる。
「…あぁ。そうだな…そうだった。俺は、どうして近くを見なかったんだ。…悲しむのを見たくないからって自分を省みてはなかった。…ごめんな…ジャスタウェイ……」
「………!」
しばらくして静かな病室に響くのは鼻を啜る音と、嗚咽のみだった。
その間…俺は、彼女を優しく抱擁し、泣き叫ぶ姿を決して見なかった。
━━━
「あぁ…。」
どれくらい時間がたったのか、どれくらい眠っていたのか…もう分からなくなった。
気付けば、俺の右手はジャスタウェイによって握られていた。
優しく握ると、彼女が気付いたらしく優しく握り返される。
「おはようトレーナー。…もう長く寝てたね。」
「そう…か?」
「そうとも…。3日?…いやもう4日かな。」
「…そっか。」
「……年越せそう?」
「……」
俺はゆっくりと首を左右に振る。
「そう…。怖くない?」
「怖いよ…。そう簡単に決心つくか?」
そう言うと彼女は微笑んだ。
「だよな。…。だから私がこうしてからね。」
優しく握られた手から読み取れる震え。これは俺ではなく……
「!!」
両手を添えた。これによって彼女の震えは止まった。
「トレーナー…ありがとう。」
「…ええよ。あぁ…眠いな。」
段々と、意識が遠のき始める。ゆっくりと…でも確実に。やがて、握られている手さえ重くなり始める。
「トレーナー…?」
「…どうした?」
「最後に言うね…。
どうか安らかに。」
「おう…。おやすみ…ジャスタウェイ。」
やがて、呼吸を止めた。
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「3…2…1…あけましておめでとうございます!」
眺めていたウマフォから聞こえる、新年の挨拶。あれだけ鳴り響いていた除夜の鐘は、もう余韻を残すばかり。
この美しく雲一つない夜空を見上げ、光る星々を眺めていた。見上げていたのをやめ階段を降りる。ふと、おみくじが目に入り、突然買ってみたくなった。
ガサゴソと音と立てて1枚の紙切れを掴み取り出す。
『中吉』
当たりといえばきっと当たりだろう。そうして書いてある物を読んで…読んで…とある箇所で思わず目が止まり思わず再度空を見上げた。
今はずっと空を眺めていたくなった。
この溢れ出る涙の理由になるから
一体何を見て涙が出そうになった…?