ウマ娘 MTR集   作:白波 リィ

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セイウンスカイのMTRです〜



疏雨と誤魔化して

 

 

外を眺めようとして窓を見ると、何滴か水滴が付いていた。

 

耳をすませば、ザーという音に合わせ蛙の合唱が聞こえる。

 

今は梅雨の時期、ジトジトと粘り着く湿気が鬱陶しい。部屋の換気をし忘れたら最後、服が虫に食われてしまう。そのため嫌いな人が多い。

 

だが雨に濡れる街並みは、普段見慣れた街が、一味違った顔を見せるので一概に嫌いと断言出来るのは難しいだろう。

 

「コンコーン。しっつれいしまーす。」

 

扉からふわふわとした雰囲気を出すウマ娘がやってきた。俺の愛バ セイウンスカイだ。

 

「よぉウンス。相変わらずサボりか?」

 

「にゃはは…私はサボったんじゃないんですよ〜。ただ心配で来たんです〜。」

 

「ふーん?」

 

疑いしか湧かないが、彼女がこうしてやって来るのは正直驚いた。

 

 

「トレーナー。セイちゃんちょっと疲れちゃったので少し眠らせてくださーい。おやすみ〜。」

 

そう言い、俺が横たわるベットにうつ伏せになり眠りについた。

 

スッースッーという、寝息が聞こえてくる。

 

 

今思えば、彼女はサボり気味ながらも必死に俺の期待に答えようとしているのを、ウンスと仲がいいニシノフラワーから聞いた。

 

 

思わず手を伸ばし、彼女の頭を撫でていた。サラサラとした感触が手に残り、いい香りが鼻腔を擽る。

 

「ンフフ〜セイちゃん逃げ切れたよ〜トレーナー。」

 

寝言を呟くセイウンスカイ。どうやら彼女は、レースに勝てた夢を見ているようだ。

 

「セイちゃん…頑張ったよ…この日の為に…。」スヤスヤ

 

 

「…。」

 

頬に何かが流れる感触を感じた。暖かい水滴。…涙か。

 

 

札幌記念を最後に勝利から遠ざかっていた。いつ彼女が本気を出し、レースに挑むのかとそう思っていたが、彼女なりに俺の知らない所で必死に努力して……でも、届かなくて…。

 

 

「…ちくしょう。」

 

誰に対して呟いたか、勝利の女神かそれとも俺か……。ただ、彼女を勝たせてあげられないのは…とても悔しい。

 

 

━━━

 

 

日が沈む頃、彼女は目覚めた。

 

「ん〜?おはようございます。」

 

「おはよう。随分と寝てたな。」

 

「にゃはは。ちょっと疲れてましてね。…もうこんな時間?ちょっと!セイちゃんをもっと早く起こしてくれなかっの!?…もートレーナーさんたら…。」

 

「いやぁ、スヤスヤと心地よさそうに寝てたからなぁ…起こそうにも出来なかった。」

 

「ブーブー。セイちゃんの寝顔見たんですか?えー!?ピンポンパンポーンセイちゃんポイントが5減りました!」

 

「なんだよそのセイちゃんポイントって…。」

 

「セイちゃんポイントを5も減らしたトレーナーに教えませんよーだ、じゃあね〜!」

 

足早にこの場を立ち去ったセイウンスカイ。

 

 

「…ったくなんだよ、セイちゃんポイントって。」

 

悪態をつき、窓の外を眺める。

 

あれほど降っていた雨はいつの間にか止んでいた事に今気付いた。

 

━━━

 

 

雲行きが怪しい空を見上げて、私は1人走っていた。

 

「…ハァ……ハァ。」

 

何度シュミレーションしても、勝てるビジョンが浮かばない。

 

 

まるで、趣味でやってる釣り人を荒れ狂う海へ連れて行き、そこでカジキマグロを釣り上げろと言っているようなもの。

 

 

「……。」

 

 

ふと、ぽつりと水滴が当たったのを感じた。まもなく雨が降り始めてくる。そう思い、急いでトレセンへと戻る。今いる地点からあまり遠くはないが、途中で本降りに合い、びしょびしょに濡れてしまうだろう。

 

 

急いで帰ったため、本降りとなる前にトレセンへと戻ることが出来た。

 

 

だが、既に汗でびしょ濡れだ。

 

 

───

 

シャワーを浴び、部屋から外を眺める。

 

 

『セイウンスカイ失速!!テイエムオペラオーが伸びる伸びる!』

 

 

あの日負けた時も、この雨空だった。前に進もうとした足が重く、精一杯になりながらもゴールへと目指そうとしたが、負けた。出場していた誰もかもに完膚なきまでに。

 

 

レースに出たい。でも、出たらあのレースのようなぼろ負けを喫すると不安で仕方なかった。

 

 

勝負する時は、逃げるのが好きだったがいつからか、勝負から逃げるようになった。

 

 

「…どうすればいいのトレーナー。」

 

 

迷えるウマ娘の悩みを聞いてくれる者は、今この場にはいない。

 

━━━

 

苦悶な表情を浮かべ、必死に湧いてきた痛みを耐える。

 

 

既にナースコールは鳴らしたはずなのだが、未だに来ない。

 

 

ようやく痛みが引いたかと思えば、そこでドアが開きナース服を着る、看護婦がやって来た。

 

「お、遅れてしまい申し訳ございません…。」

 

そう言って謝罪を述べるナース。聞けば、俺が鳴らす前にもナースコールをする方が他にも数名ほどいたそうだ、正直不満が残るが他の患者の事もあるので渋々納得せざるを得なかった。

 

 

もしかしたら、俺よりも重症なやつがいるかもしれない。そう自分に言い聞かせて。

 

 

───

 

「…んぁ。雨か」

 

外からの音が気になり、思わず身を起こした。時計に視線を向けると午後3時。

 

昼寝にしては、少し早く起きたようだ。

 

すぅ…すぅ…。

 

 

規則的な寝息が聞こえ、その音がした方へと視線を向けると愛バ セイウンスカイがうつ伏せとなって眠っていた。

 

 

「起きろ…風邪ひいてしまうぞ」

 

ここは暖かいが、万が一風邪ひいてしまってはいけないと思い不本意ながらも彼女の身体を揺さぶる。

 

 

「ん〜トレーナーさん?…ふぁあ。おはようございます〜。」

 

その眠たい瞼を擦りながらそう呟くセイウンスカイ。

 

「おはよう。……ウンス、今日はどうした?」

 

「にゃはは。雲の往くがままにです〜。」

 

「…そっか。」

 

 

ぱらぱらと、外で雨が振る音が聞こえる。そのくらいこの病室は静粛とした雰囲気が流れる。

 

「……実はですね、」

 

その雰囲気を打ち破ったのはセイウンスカイだ。

 

「……ずっとレースから逃げて逃げて…それで何度も苦渋して……また逃げて。…こんな自分が嫌になるんです。周りに迷惑を掛ける自分が。」

 

自分の内に秘めた悩みを吐露するセイウンスカイ。トレーナーはただ黙って、ウンスの方を見ていた。

 

「…トレーナー私はどうすればいいですか?」

 

最後にそう締めくくったセイウンスカイは、俯いた。彼女の表情は見えないが、おそらく……

 

「…正直分からない。」

 

「!?」

 

あえて、彼女の注意を引かせる為に否定する。

 

 

「だって、俺は君の考えてることなんて全く分からないだろ?俺と君が思う深刻さには錯誤があるし、あーしろこーしろ言ったって、結局はまた行き詰まる。」

 

「…。」

 

「それでもどうにかしたいんだろ?」

 

「…はい。」

 

「なら、周りを頼れよ。」

 

「でも…。」

 

「でもじゃない。君が言いたいのは迷惑掛ける事への不安だろ?」

 

「ずっと溜め込んで、日々日々元気無くなっていくのを見せたくないよな?…同室の○○○○にもさ。」

 

「…。」

 

「なら、ニシノフラワーでもいいから相談しなよ。……結局その問題を解決するのは自分だ。待っているライバルとか居るだろう?しのぎを削ったあの4人が。」

 

 

「…そうだね、トレーナー。正直、未だに整理つかないけど…。周りを頼ってみるね。」

 

「あぁすまないね、こんな俺でさ。」

 

「最初からトレーナーさんを信頼していませーん。」

 

「おいこら。」

 

やがて、声が聞こえてくる。2人の笑い声が。

 

「…ではトレーナーさん。ありがとうございました。セイちゃん頑張ってみますね。勇気出して。」

 

「あぁ、頑張ってな。」

 

「はいはーい」

 

そしてウンスが立ち上がり、扉の取っ手に手を伸ばしたその時、

 

 

「ッ!ガハッ!!」

 

 

痛みが込み上げてきた。セイウンスカイは困惑している。そして、思い出したかのようにナースコールを押す。

 

「トレーナー!?…トレーナー!?」

 

 

トレーナーと叫ぶ声が遠のき、やがて意識を失った。

 

━━━

 

 

次に目を覚ました時、誰かに手を握られている感触がした。

 

 

その方へと目線を向けると、セイウンスカイが眠っていた。眠っている目元を見ると泣いた後も確認出来る。

 

 

俺が握り返した感触を感じてか、セイウンスカイは目を覚ました。

 

「と、トレーナー!!」

 

「…迷惑掛けたみたいだな。…どれくらい寝てた?」

 

「数時間です。」

 

「そっか。…お医者さんは何と?」

 

「…次が山場だって。」

 

「そっか。…あぁ怖いなウンス。いつ来る痛みに震えなきゃ行けないんだろうなぁ。……死にたくねぇ。まだ生きてたいのにな。」

 

「なぁウンス。俺はなんでこういう人生を送ることになったんだろうな…。前世が悪いことをしたからかな。ははっ、そんなのどうでもいいか。」

 

「…。」

 

「すまないな。ずっと迷惑掛けてさ。」

 

いつからか心に閉じ込めておいた本音が溢れ出す。止めどなく。ひとつひとつ。

 

「……ウンス。君は言うこと聞かないし、よくサボるしで退屈しない日々だったな。だが、君と一緒に行った釣りは楽しかった。この病気の事も忘れることが出来た。ありがとう。君に会えて…トレーナーに選んでくれて」

 

「…こちらのセリフですよトレーナーさん。トレーナーと過ごした日々は忘れません。だから今は…ゆっくりしてください。」

 

「ありがとう。……ありがとう。」

 

 

 

それが最後の言葉でした。トレーナーさんは、眠りにつくかのように息を引き取りました。静かに。

 

 

───

 

 

未だ振り続ける雨の中、泥まみれになる事を承知の上で、ただ1人走り続ける。

 

 

トラックを二十数週したあたりで、クールダウンを行う。これも慣れたものだ。

 

 

…そして、寮へと戻る。心配そうにニシノフラワーが話しかけてくる。

 

 

「スカイさん…。大丈夫ですか?」

 

「えぇ大丈夫ですよフラワー。」

 

「ならいいのですが…。風邪引かないでくださいね。それと…。」

 

 

いつの間にか、私は涙を流していた事に気付いた。

 

「その涙?はなんですか?」

 

 

「にゃはは…これはね。雨粒ですよ〜ほら、今止んできましたがちょっと大きい粒が落ちてきますからね〜。」

 

「そうですか…。」

 

 

 

 

また1つ。私はフラワーに嘘を付いた。




次の更新は未定です。
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