大赦が用意した貸し切りバスの中で、須美は1人苛ついていた。
「……ムゥ〜」
「ZZZ……」
むくれている須美に寄りかかるように、園子はいつものように夢の中にいる。そして結翔は片耳にイヤホンを着けて曲を聴きながら外の景色を見ていた。
「・・・遅い、 三ノ輪さん遅い!」
「・・・今更だろ。それに噂をすればナンとやらだ」
「え?」
「来たぞ」
結翔が乗車口の戸を指さすと、荷物を抱えて駆け込んでくる銀の姿が。
「悪いわるい! 遅くなっちゃって……!」
「遅い! あれだけ張り切ってたのに10分も遅刻よ!どういう事かしら⁉︎」
大遅刻ではないとはいえ、規律に厳しい須美からしてみれば説教ものだった。そして挨拶もそこそこに理由を問いただす須美。
「いや〜、色々あって……や、悪いのは自分だけど。とにかくゴメンよ」
「この際だから言わせて貰いますけど、三ノ輪さんh「なあ」 なにかしら?黑咲君」
須美の説教に結翔が割って入ると須美と銀の二人は結翔を見る。それを横目で見ると寝ている園子を指さす。
「そんなに大声出してたらソイツ起きるぞ?」
「・・・あ」
「怒るのもその辺にしといてやれ俺も眠たくなってきたから」
須美は言われた事に気まずそうに「うっ」と声を漏らすと鼻提灯が割れ園子が目覚める。
「あれ?お母さん、ここどこ?」
「ここは大赦が用意したバスの中だぜ園子」
「そうなんだ~・・・ZZZ・・・・・・・」
「やっぱ寝るんだ」
「おい三ノ輪」
「ん?」
「なに平然と俺の隣に座ってる」
「いいじゃんか。お菓子もあるよ」
「いらん。彼奴らのとこ座れよ」
「ミントタブレットもあるぞ」
「・・・仕方ねえな」
「よっし!(チョロい!!)」
(やっぱり私がしっかりしていないと……。この美しい国を護る為に……!)
出発するバスの中で須美は隣で寝ている園子と二人の遣り取りを見て、新たに心の奥で決意を決める。
大赦が管理している旅館に荷物を置くと結翔達は勇者服に着替えてサンビーチに集合していた。
「お役目が本格的に始まった事により、大赦は貴方達勇者を全面的にバックアップします。家族の事や学校のことは心配せず頑張って」
「「「はい!」」」
安芸の言葉に須美、銀、園子は元気に返事をするが結翔は返事をしなかった事に全員の目線が集まる。
「なに?」
「黑咲君、人類の命運が掛かっているんです。もう少しやる気を出してください」
注意する安芸に結翔はバカにするように鼻で笑う。
「人類の命運・・・?今更だがガキに背負わせるような代物ではないよなァ?」
その言葉に安芸は悲しい顔をする。
「まあまあ、アタシ達にしか出来ないことなんだから!一緒に頑張ろ!」
銀が結翔に結翔に言うとそれに続き須美も結翔の説得する。
「そうよ。私達がこの素晴らしい国を守らないと家族の為にも」
家族、その言葉を聞いた瞬間に結翔は眼を見開くと溜め息をつき、わーたよと面倒くさそうに答える。
「よーし、それじゃあ皆で頑張ろ~!」
「「おおー!」」
園子が号令を掛け須美と銀が元気に答え拳を上げる。結翔は声は出さなかったが拳だけは上げていた。
「今からする訓練のルールはシンプル」
そして安芸から訓練内容が教えられた。
内容は、近接型に特化した銀と結翔を、丘の麓にある廃バスまで辿り着かせるのが最終目的だが、道中でバレーボールマシーンから放たれるボールに当たらないようにしなければならない。そして須美は後方で二人に接近するボールを攻撃をすることだが、その一定の場所から動いてはならないと言う決まりがあった。そして園子は須美を狙うボールから須美を守ることだった。
因みに結翔と銀はお互いがお互いを守ると言うルールがある。
「はいスタート!!」
最初は楽勝と思っていたが実際にやってみるとなかなか難しい物だった。結翔と銀は真っ直ぐ突き進む、銀は二つの身の丈ほどのある双斧を使うためにパワーがあっても小回りがきかず正面から来るボールは全て結翔が斬り伏せていく。そして背後から二人に迫るボールは須美が矢を放ち後方で援護する。須美にめがけ飛んでくるボールは園子が槍を傘の様にして防ぐ。
だが最初の方はボールの数が少なく余裕だったが、バスとの距離が半ばまで来ると一気にボールの量と迫る速度が速くなり援護射撃が間に合わずボールの一つが銀に迫る。
「三ノ輪さん!!」
「どうヘブシ!?」
「なにしt!?」
須美の危ないに思わず銀は振り返ると飛んで来たボールがダイレクトに顔面に当たる。そして結翔は銀の声に振り返った途端に銀の後頭部が迫って来たことを理解しバックステップで回避をしようとするがタイミング良く発射されたボールが結翔の背中に当たり体が前に行き、銀の後頭に顔面がぶつかる。そして結翔が下敷きになる形で倒れ込む。
「痛ぇ」
「ご、ごめんなさい!三ノ輪さん!黑咲さん!」
「ドンマイわっしー」
「銀速く退け」
「スマンスマン……ていうか、呼び方堅すぎだぞ。『銀』で良いっていつも言ってるだろ? はい結翔」
銀に手を差しのばされるが結翔は自分で立ち上がり背中に着いた砂をはたき落とす。
「私の事は、『そのっち』で! はいわっしー、呼んでみて!」
「う、うぅ」
そう言われるものの、須美はどうしても割り切れず呼び捨てが出来なかった。
「はい!もう一回!!」
その後の安芸の号令で何度も挑戦をするが先ほどと同じ事が起きたり、結翔がとっさに避けるが後ろにいた銀は避けきれずボールがぶつかったり、銀が砂で足を滑らせ顔面スライデングしたりで結局その日は夕方になるまで1回もクリアする事は無かった。
「この合宿中は基本的に貴方達4人は一緒に行動して貰います。1+1+1+1を4ではなく100にするのよ」
安芸が合宿中の目標をそう位置づける。それにより、4人は食事も就寝も男女隔てる事なく、共同での2泊3日となった。
「わっしー。荷物あれだけ? 少なくない?」
「そうかな?」
「ミノさんはお土産買うの早すぎ〜」
「うっ……。そういう園子の荷物は何だ?」
「もう何処からツッコめば・・・」
「なぜ、臼に馬鹿デカいズッキーニ?」
「臼でおうどん作るんよー」
「そんな時間あるかしら?」
「あへへへ。それでゆいゆいのアレなに?」
「あ?鉄刀と日本刀だか?」
「なぜ!?」
「じゅ、銃刀法違反よ!」
「ちゃんと許可書は持ってるし何かあったら大赦に責任押しつける」
「なあ結翔、後でみして!」
「・・・怪我しても自己責任な」
「ありがと!!」
その日の夜は結翔が持ってきた刀を須美達3人は目をキラキラしながら見ていた。
☆
「こうして神樹様は、ウイルスから人類を守る為に壁を創り……」
(合宿中なら勉強しないで済むと思ったのにぃ〜⁉︎)
強化合宿とは言え、特訓ばかりでは無く勉強も含まれていた。須美はしっかりと勉強安芸の話を聞き結翔はつまらなさそうに教科書を片手で持ち聞いていた。そして勉強をせずにすむと思っていた銀は頭を抱え、1番窓際に座っていた園子は鼻提灯を作り寝ていた。
「ところが何があったのか……乃木さんは答えられるかしら?」
不意に質問をする安芸。ちょうどそのタイミングで鼻提灯を割り、目をうっすらと開け答える。
「……はい〜。バーテックスが暴れて私達の住む四国に攻めてきたんです〜……」
「正解ね」
(……え。あれで聞いてたんだ?)
須美と銀はますます園子の事が分からなくなった。
「おっしゃ!これでどうだぁあ!」
昼頃はまた廃バスに辿り着く特訓で廃バスまであと少しの距離で結翔と銀は同時に跳躍する。
「バカ三ノ輪!こっちに迫りすぎだ!」
「ご、ごめん!!」
銀は力み過ぎて跳躍したときに結翔に迫り過ぎてお互いが武器を振れない距離まで迫っていた上にその2人にボールが迫る。須美はとっさに援護しおうとするが、ボールが余りにも2人に近すぎたことで出来ず、銀は背中にボールが勢いよく当たり結局、銀は結翔にぶつかる。そして2人は結翔を下敷きにする形で落下する。
「テメぇ~俺を下敷きにするの好きだな」
「いや~めんご!」
「降りろ」
「はい」
「はい!もう一回!」
皆は何度も挑戦するが、上手く行かず小休憩を挟む。
「三ノ輪」
「なに?」
「前方から来るボールは全部俺が潰す。だからお前は背後から来るボールをその双斧で守れ。振らなくても面で守れば盾になるだろ?」
「あ!盾にする手が有ったか!!」
「・・・気づいて無かったのか・・・」
「なはは」
「ま、まあそれで背後でクロスする感じでいれば守れば、お前の体を双斧で覆えるだろ」
「わかった!次はそうする!」
「左右から来るのも俺ができるだけ対処するが基本は鷲尾に任せれば良い」
「お~了解! じゃあ次をラストにしような!!」
結翔のその作戦は上手く行き、廃バス付近まで辿り着く。
「三ノ輪!斧貸せ!」
「はい!」
言われ右の斧を前に出すと結翔は中心に空いてる穴の方に手を伸ばし斧を掴む。
「ちゃんと掴めよ!」
「え!?えぇえええ!!」
「ぶっ飛べぇぇえええええ!!」
結翔は斧ごと銀を廃バスまで投げ飛ばす。
「ワーオー。ゆいゆいミノさん凄い!」
「す、凄いわね。・・・あ!三ノ輪さんにボールが!させないわ!!」
「わっしーも凄い!それじゃあ私はわっしーを守るよ!」
須美は銀に迫るボールを打ち落とし園子は園須美に迫るボールを防いでいく。
「・・・・・・クソ」
銀が廃バスにたどり着きそうになった途端に廃バス付近に設置されていたバレーボールマシーンからボールが発車される。それに銀が思わず呟いてしまう。
「我流剣術 渦遠雷!」
「・・・!?」
銀の耳にその言葉が聞こえた瞬間に銀の横を結翔が通り抜ける。
そして結翔は空中で抜刀をしてそれを生かし体を捻り回転すると迫っていたボール全てを切り裂く。そしてそれだけでは無く回転したときにマシーンに鞘と刀を投げつけ破壊する。これにより銀の行く手を阻む物は無くなった。
「オリャアアアア!! ゴーォォオオオオオオオオオル!!」
銀は力一杯斧を振り落とすと、すると竜巻が起きバスを粉砕する。それに元着き皆が理解したのは合宿の課題を達成したと言う事だった。
「「やったぁあああ!」」
須美と園子はその場で飛び跳ねお互いに抱きつき大いに喜び合っていた。そして直ぐに結翔の所まで駆けつける。
「黑咲さん!」
「ゆいゆい!やったね!」
「お前ら元気だね」
「あれ?黑咲君、三ノ輪さんわ?」
「ん?あそこだろ」
指を差した先を見るがそこには廃バスだった物の破片しか残っていなかった。
「居ないよ~」
「居ないわね」
「居な、いな」
3人は頸を傾げるが、いきなり影が出来たことに不思議に思い上を見上げると銀が降って来た。
「わああああああ!!」
「あー落ちが分かった」
銀は振り下ろした斧の風圧で空高く舞い上がって落下してきていた。そして結翔はそんな銀を見て次に起きる展開を理解して目を瞑る。
――ドン
「いててて」
「おい」
「あ」
「お前なぁ背中ならまだ我慢できるが正面だとかなり痛いんだぞ」
「いや~めんご!」
「今日で2回目」
「あはは」
銀は笑いながら頬をかいていた。そしてふたりを見ていた園子は目がしいたけみたいになり、周りに星を浮かべて2人を見て、須美は手で顔を隠していたが耳まで真っ赤になっているのが分かり、そして指の隙間から2人を見ていた。
2人はいま座っている結翔の上に銀が跨がって座り二人して向き合っている体勢になっている。
「うわ~2人とも大胆~!」
「ふ、ふふふふふしだらだわわはははh破廉恥よ//」
「鷲尾何言ってんの?」
「どうした~す、み・・・・・・・・!」
銀は2人の変な反応にはてなを浮かべていたが結翔に向き合った瞬間に今自分たちがどの様な体勢になっているのか理解し一気に顔が真っ赤になる。
「どうした? 熱中症か?」
「あ、い、いや、そのーあーえっとー」
恥ずかしさで最後の方は声が小さくなり何言ってるのか聞き取れず、結翔は更に銀に顔を近づける。
「なに?もっと大きい声で言って」
「ぴゃあ!?」
「ぴゃあ?」
「な、ななな何でも無い!」
「? そう・・・変な奴」
「ほら貴方達、クリアしたから今日はこの辺にして旅館に帰るわよ」
銀は急いで結翔から離れ、丁度来た安芸に声を駆けられ旅館に帰る。