「なんでなのですかぁぁ!!どうしてぇ!」
私の叫びが響き渡り、窓の外で木に止まっていた小鳥たちがピィピィと鳴きながら空へと飛んでいく。
夕暮れの日差しが差し込む小さな部屋、簡素な折りたたみ机にうなだれ私は悶えました。
そんな私を「あ,,,あはは」と乾いた笑いを浮かべた、たづなさんが見ています。
「トレーナーさん…そんなにショックを受けなくても…」
「ショックを受けますよ!!」
私はたづなさんの慰めを遮り、持っていた雑誌をスパーンと音を立てさせ机に叩きつけました。
その雑誌には一人のトレーナーのことが書かれた記事が書かれてある。そのトレーナーは、新人当初から『トレセンの希望の星』と呼ばれるほど優秀であり、現に彼が最初に担当したウマ娘は素晴らしい戦績を叩き出していました。
そんな彼の担当ウマ娘もつい先日このトレセン学園を卒業、ついに二人目のスカウトを彼が始めるのかと噂されていたのです。
今度スカウトするウマ娘は前の担当と同じ脚質か?それとも別なのか?
多くのトレーナーが警戒と期待の目指しを向ける中、彼が選んだ未来は……
寿退社であった。
最初の担当ウマ娘とおめでたです。
雑誌に見開きで載っています。
「なんでなんですかぁぁあああ!!」
私は再度叫び嘆き天を仰ぐ
「ほ、ほら、彼女たちも幸せそうですし、いいじゃないですか」
「それはOKですよ!とても幸せそうで私も嬉しい限りです」
「な、ならそれでいいのでは…」
「よくありません!」
私はバンと音を立てさせ机を両手で叩きつけた。…痛い。
「問題は、何故引退しているのかという所です!たづなさん…彼が何と呼ばれていたか覚えていますか?」
「えっと、『希望の星』でしたね」
「なんでそう呼ばれていたかわかりますか?」
「それは、彼のトレーニング技術とウマ娘とのコミュニケーション能力が優秀だったからですね」
「…それだけではなかったですよね?」
「…えっと」
「それだけではなかったですよね…?」
「……」
「……」
「…久しぶりの新人だったからです」
「それですよぉ!」
私はたづなさんにそう言って叫んだ
そう、いま話題に上がっている引退した彼は、ウマ娘にとって『希望の星』であると同時に『トレセン学園』の『希望の星』でもあったのです。
彼はトレセン学園に新たな風を巻き起こしてくれた優秀な人材だった。それに加え、年によっては合格者0の時もある超難関である中央トレーナー試験をTOP成績で合格した男でもあります。
中央トレーナー試験は、トレーニング知識を完璧に覚えていることが前提条件で、それに加えて、体が健康であり、コミュニケーション能力、才能、性格、思想、その全てが評価され篩にかけられる狭き扉です。
だがまぁ、それは当然のこと。なにせ年頃の気難しい少女たちと関わりながら、そんな少女の人生を左右する仕事。生半可な気持ちや覚悟、ましてや邪な気持ちを持ってやってはいけない仕事です。
だから狭き門であることは当然のことなのですが、それゆえに、トレセン学園に来ることができるトレーナーは本当に少ないのです。
だから彼は、例年新人0人が続いていたあの頃のトレセン学園にとって、久しぶりの新人であり、優秀な人間であったため『トレセンの希望の星』とまで言われていました。
彼ならば今までになかった新しいウマ娘の未来を紡ぐことができると
……まぁ引退しましたけど
「で、でもあれからここ数年は多くのトレーナーさんが来てくれて、優秀な方も多いですので彼だけが『希望の星』ではありませんよ?」
困ったような表情をした、たづなさんのそんな言葉に私は再度反論した。
「…ならそのうち何人がまだこの学園にいますか?」
「……あ、えっと」
「…何人寿退社しました?」
「……8人」
「ほらぁ!希望の星消えまくってますよ!!まるで流星群のように消えていってますよ!!」
あははと、乾いた笑みを浮かべてたづなさんが笑う。
なに笑っているのですか!
「たづなさん!これは私たち『トレセン学園存続委員会』の敗北なのですよ!私たちはまた『恋』の前に敗れ、『恋』に囚われ引退してしまうトレーナーを救えなかったのです!!」
私の嘆きが部屋に響く。
そんな声が響く中、外に通じた窓からはアホーアホーと鳴くカラスの声が聞こえて来ていた。
このお話は、トレーナーが『恋』に囚われ引退してしまうのを防ぐために頑張る『トレセン学園存続委員会』の二人による、失敗の物語である。