好きだった幼馴染と10年ぶりに再会した件 作:更科
俺の名前は
そんな俺も大学4年生。気づけば大学生活も残りわずかとなっていた。大学での出会いもバイト先での出会いもなく漠然と時が流れていた。だが、そんな出会いのかけらもない俺に転機が訪れる。
それは10月のこと。俺が東京の街を歩いていると一人の女性がチンピラ集団に絡まれていた。ナンパというやつだろう。
俺は迷惑がっている女性を助けるべく、チンピラ集団に注意を呼びかけた。しかし、チンピラ集団は聞く耳を持たなかった。
「あ? なんだよボケェ。テメェには関係ねぇだろ」
確かに俺とその女性は全くの無関係である。とはいえ、無視して放っておけない。俺は根っからの世話焼きなのだ。
チンピラ集団と数分間、激しい口論が続いた。彼らは一歩も引かないどころか、自分達の行為を正当化し始めた。これでは埒が明かない。
堪忍袋の緒が切れた俺はついに「秘技・警察呼びますよ」を使用した。この秘技は読んで字の如く、今から警察を呼ぶぞと脅しをかける技だ。都合よく警察が近くにいたので、助けを求めるポーズを見せた。
さすがに彼らも警察沙汰になるのは嫌だったのだろうか。チンピラ集団は悪態をついてそそくさと逃げ出した。
「チッ! 覚えてやがれ! クソが!」
いや、君たちの事は多分すぐに忘れるだろう。どうでも良い事は即座に忘れるタイプなのだ。本当にすまないね。
「助けていただきありがとうございます」
女性は深々とお辞儀をした後に顔を上げて此方を見た。女性は黒髪ストレートロングで、顔は丸顔、丸みを帯びた鼻、太眉で綺麗な二重、ピンク色のプルプルした唇、にこやかな表情が特徴的であり、かなり可愛い容姿だった。年齢は見たところ俺と変わらない。
全くの初対面のはずだが、俺はこの女性をどこかで見た記憶があった。どこだっただろうか。全く思い出せない。
「いえいえ、例には及びませんよ。それじゃあ俺はこれで」
軽く一礼して、立ち去ろうとしたその直後だった。女性は俺の腕を掴んで顔を覗き込んできた。
「あなた……もしかして大起?」
俺はしばらく硬直した。俺はこの女性と本当に面識があるみたいだ。いったいこの人は誰なのか、必死に記憶を呼び起こすが…。
「そうだけど……誰だっけ?」
「あー! やっぱり大起だ! って私のこと忘れたの!? ほら、私だよ?
桜井結衣。その名前は聞き覚えがある。幼稚園から小学校6年生の時までずっと一緒に遊んでいた女の子の名前だ。小学校卒業と同時に県外に転校して以来、それっきりの関係だった。
だが、俺の知る結衣は地味で控えめな背の小さい女の子だ。確かに目の前にいる女性に面影はあるものの、とてもあの結衣だとは思えない。
「結衣。嘘だろ? あんなに小さくて地味な結衣が……大きくなったな」
「そりゃもう大人だしね。背だって163cmあるし」
いや、本当に大きくなった。あらゆる点で成長している。一つだけ成長していないところがあるとすれば……。
胸は断崖絶壁であった。とはいえ、俺は断然、貧乳派なので良きである。
「つーか、こんなとこで何してんだよ。お前、転校したはずだろ」
「いろいろあってね。……それより奇跡の再会ってことで!今からどっか行かない?」
結衣は俺との再会がよほど嬉しいのか鼻歌まで歌っている。この後は大学のゼミの飲み会があるのだが、断るべきか否か。
約束を断ると『アイツ』が黙っていないだろう。次回会った時に絶対に怒られるだろうな。
「まさか……可愛い幼馴染の誘いよりも優先するものがあるの?」
自分で可愛いとか言うな。まぁ確かにめちゃ可愛いけど。仕方あるまい、ゼミの集まりなど二の次だ。ラインで断りを入れておこう。
せっかく結衣と運命的ともいえる再会をしたのだ。彼女の誘いを無下にするのも気が引ける。
「わかったよ。んでどこ行くんだ?」
結衣は顎に指を当てて悩み始めた。俺はその間にメールでゼミの集まりへの不参加の旨を伝えた。
何人かの既読がついたが、誰からも返信が来ない。ドタキャンしたことに怒っているのだろうか。何も反応がないというのは怖いものである。
「よし! 決めた! 遊園地に行こう!」
「へぁ?」
遊園地なんて久しぶりである。思わず変な声が出てしまった。遊園地に最後に行ったのは高校2年生の時だろうか。それ以来無縁の場所だった。
「じゃあ〜出発ーッ!」
俺と結衣は電車で近くの遊園地「ワクワクランド」へと向かった。「ワクワクランド」は小さな遊園地だが、絶叫不可避のジェットコースターや綺麗な景色を一望できる観覧車などがある。そのためコアな常連が多いらしい。
俺たちは遊園地に着いた後、入場チケットを購入してからゲートを通過した。この日は平日ということもあり客は少なかった。
「まず何から乗る〜? 私はとりまジェットコースターに乗りたいんだけど」
ジェットコースターに乗るなど絶対に嫌である。俺は昔から絶叫系アトラクションは苦手なのだ。ジェットコースターなんて以ての外だ。論外である。
しかし、結衣の顔を見ると断れない。ジェットコースター乗りたくて仕方がないのか目を輝かせている。子どもみたいで可愛い。
「まぁ、乗るか……。行くぞ結衣」
「うん」
俺たちはジェットコースターの順番待ちの列に並んだ。待ち時間は3分とのことだ。スマホでも触って時間を潰そう。
「ねぇ大起。今って大学通ってるの?」
「あぁ、近くの紅山大学に通ってるよ」
紅山大学はそれなりにレベルの高い私立の難関大学である。俺はそこの経済学部の4年生だ。
「へーすごい。昔はメチャクチャ頭悪かったのに、すごい努力したんだね」
確かに紅山大学に合格するために血の滲むような努力をした。俺は元々かなり学力が低かったが、気づけば人並み以上に勉強ができるようになっていた。
「結衣は今何してるんだ?」
「私は……今社会人1年目!って感じかな。去年までは九州の大学に通ってたんだけど諸事情で中退しちゃって」
諸事情の部分が気になったが、結衣も苦労しているのだなと俺は心の中で思った。
だが、それもそうだろう。結衣と最後に会ったのは10年くらい前のことだ。そこからかなりの月日が経っているのだし大きな変化があったとしても不思議ではない。現に見た目だって変わっているのだから。
「そうか……。まぁ敢えて何があったかは聞かないでおくよ。それより俺と連絡先交換してくれないか?」
「ーーうん! いいよ! 私も言おうと思ってたし!」
俺は結衣と連絡先を交換した。昔はお互いにスマホを持っていなかったので、当然連絡先など知るはずもなかった。
したがって、結衣の転校が決まった時にどうにもできずに、ただその時を待つしかなかった。転校後、数日間は結衣との関係がこれで終わったという絶望感に打ちひしがれたのを今もよく覚えている。
「よし! 完了。あ、そろそろ私達の番だよ! 乗ろう!」
「いよいよ俺たちの番なのか……南無三!!」
案内役の誘導により、俺たちはジェットコースターに乗車した。二人仲良く隣に座るものだから側から見たらカップルに見えるかもしれない。
だけど違う。俺たちはただの幼なじみだ。あくまで友達であり、両者の間に恋愛感情など存在しないはずである。
そんな事を考えている間にジェットコースターは動き出していた。いつの間にか頂上付近に近づいている。マズイ、数秒後には俺の意識が飛んでいるかもしれない。
俺は不安で震え出した。生気が失われているのが一目でわかるほど顔面蒼白である。
「大丈夫。怖くないよ。私がいるから心配しないで」
結衣は震えている俺の手を強く握った。手が小さく指も細いのにとても力強い。手が温かくて安心する。
以前にも同じような事があった。ガキの時に俺がメソメソ泣いて震えている手を結衣が強く握って泣き止むまで寄り添ってくれた。
結衣の手には特別な力があるのだろうか。不安や悲しみが一瞬で吹き飛んでいくのだ。今も昔もそこは変わらなかった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」
頂上に到達したジェットコースターが一気に駆け下り、右に左に猛スピードで回る。周りの人達が悲鳴をあげる中、俺は結衣の横顔を見ていた。
俺の視線に気づいたのか結衣も俺の顔をジッと見つめてきた。そして、柔かに優しい声で、
「ね、怖くないでしょ!? ほら、笑って笑って」
「ーーあははははッ。やっぱお前といると調子狂うわ! マジで……ははっ……でも」
先程、俺たちは幼なじみだから恋愛感情は存在しないと言ったが、それは間違いだ。
一つ思い出した事がある。俺は昔、結衣の事が好きだった。当時はソレが恋愛感情であると自覚していなかったが、今なら確信をもって言える。俺は結衣に恋愛感情を抱いていたのだと。
そして、今も変わらず結衣が好きだ。一緒にいると落ち着くし、彼女となら何だってできる気がするのだ。俺はこの奇跡の再会に感謝するべきなのかもしれない。
俺の初恋の続きは約10年の時を経て、また今日から始まるのだ。