独眼竜アスカ無双 新戦国ヱヴァンゲリヲン 作:朝陽晴空.
実在の戦国武将が出て来るので、気を付けてはいますが、特定の武将を卑下するつもりはございません。
<平成27年(2015年)第三新東京市(神奈川県)ネルフ本部跡>
シンジは血の気の失せた顔で白い砂浜に座り込んでいた。
頭上に広がるのは血の色のようなどす黒い赤い空。
聞こえるのはLCLの海がうねって押し寄せる波の音だけ。
どれだけの時間が経ったのだろうか、白い砂浜をかき分けて歩いて来る三人の足音がシンジに近づいて来た。
「アンタ、いつまでそうして打ちひしがれているつもり?」
「……良かったアスカ、助かったんだね」
シンジは振り返りもせずに呟くようにアスカに答えた。
「碇君、私も渚君も居るわよ」
「さあ、感動の再会だ。振り向いて僕を抱き締めてくれないかい?」
レイとカヲルがそう声を掛けても、シンジはそのまま背中を向けてLCLの海を眺めていた。
「……でも僕のせいで、世界が壊れてしまった。世界の人たちもLCLの海に溶けてしまった。全部、量産機に負けて人類補完計画を発動させてしまった僕が悪いんだ!」
そう叫ぶシンジをアスカは肩を掴んで無理やり引っ張り起こして、自分の向かい合わせに立たせて両肩を掴んだ。
「量産機に歯が立たなかったのはアタシも同じよ! ゼーレの奴らはアタシを囮にして初号機を釣り出した。シンジをエヴァに乗せるように後押ししたのはミサト! シンジだけが悪いわけじゃない!」
アスカは大きな声でシンジにそう訴えかけた。
しかしシンジはアスカの顔を見ると、息を飲んで驚いた。
アスカの左目には眼帯が着けられていたのだ。
「アスカ、どうしたのその目は!?」
「多分、弐号機が量産機に集中攻撃を受けた時の傷よ」
「ごめん、僕がもう少し早く、いや、最初から逃げずに初号機に乗っていれば、アスカを傷つけずに済んだんだ!」
そう言ってシンジは自分の殻に閉じこもろうとする。
アスカは何とかしてシンジを励まそうとしたが、適切な言葉が思い付かない。
こうなればシンジを抱き締めて慰めようとしたアスカだが、シンジは呪詛のように「自分が悪いんだ」と繰り返していた。
アスカは諦めずに「シンジは悪くない」と繰り返すが、堂々巡りだった。
図らずも永遠の命を手に入れた二人。
この問答が延々と繰り返されるのかとレイとカヲルは顔を見合わせてため息を吐き出した。
「シンジ君、今まで君がしてしまった事を無かった事に出来るとしたらどうだい?」
カヲルがそうシンジに声を掛けると、シンジは呪詛の言葉を止めて、アスカに抱き締められながらカヲルの方を向いた。
「そんな事出来るなら、僕だってしたいさ!」
「碇君。今の私たちには過去に跳躍する力がある。だからやり直す事が出来るのよ」
レイが優しい口調でそう話すと、アスカまで驚いてレイを見つめた。
もちろん、シンジは抱いたままだ。
「でもどうせやり直したって同じ事だよ。また辛い思いをするだけで、みんなを助ける事は出来ない」
依然として暗い表情のシンジは、アスカを振り解く事無くそう呟いた。
「シンジ君。今の僕たちは使徒を超える力を持っている。このままで過去に戻れば、この結果を変えらえれるかもしれないよ」
「もしかしたら、みんなを助けられるかもしれないって事!?」
カヲルの言葉を聞いたシンジは顔をパッと輝かせた。
「シンジ、興奮するのは良いけど、アソコまで大きくするな!」
身体を密着させていたアスカは顔を真っ赤にしてシンジの身体を突き飛ばした。
「ご、ごめん……」
シンジは背中から着地して後頭部を打ち付けたが砂浜だった事が幸いして痛くは無かった。
力が入りすぎたと反省したアスカがシンジの手を掴んで助け起こした。
「僕たち四人が力を合わせれば、使徒に負ける要素は無いさ」
「最初から一緒に居てくれるの?」
「もちろんさ」
カヲルたちはシンジの初陣まで付き合ってくれるのだと言う。
あまりの嬉しさにシンジは嬉し涙が出て来た。
「バカシンジ、嬉し涙は全てが終わった時にとっておきなさい」
アスカはそう言ってシンジの手を優しく握った。
「それじゃ、僕とレイ君で《逆行》の力を発動させるよ。次に目を覚ました時、君たち二人は葛城三佐がシンジ君を迎えに来る場所に居るはずさ」
「綾波とカヲル君はどうするの?」
「僕とレイ君は、零号機に乗って使徒を足止めしておくよ。碇司令は零号機を出撃させるはずだからね。シンジ君も弐号機で二人一緒に乗った事があるんだろう? だから平気さ」
零号機で使徒サキエルを倒してしまえば、初号機を起動させる必要は無くなる。
しかしゲンドウの描く計画では、初号機が使徒と戦わなければ困ったことになる。
絶対にミサトにシンジを迎えに行かせるはずだと確信していた。
既にシンジには「来い」と手紙まで出してある。
シンジは「一人で来い」とは書かれていなかったとゲンドウ相手に屁理屈をこねるつもりだ。
こうしてカヲルとレイは《逆行》の力を発動させたのだが誤算が生じた。
「西暦1581年……これはどういう事かな?」
「逆行しすぎちゃった、てへぺろ(・ω<)」
もはや事態はレイが謝って済む問題では無くなっていた……。
<天正9年(1581年)出羽国米沢(山形県)伊達屋敷>
アスカと手を繋いで立っていたシンジは目を開くと、白く降り積もった物に覆われた神社のような場所に居る事に気が付いた。
足元から冷えるように寒さを感じる。
不思議に思ったアスカとシンジが自分たちの足元を見つめると、地面も白い物に覆われていた。
自分たちが吐き出す息も白くなっている。
「アスカ、この冷たくて白い物は何?」
「雪よ。アタシはドイツの山に登った時に見た事があるわ」
とりあえず寒くてかなわない。
少しでも温もりを求めて、アスカとシンジは身体を寄せ合った。
「レイのやつ、アタシとシンジをドイツに飛ばしたわね……!」
歯をガタガタと震わせながらアスカは文句を言った。
「えっ、ここってドイツなの?」
シンジはそう言って辺りを見回したが、雪に覆われた家屋のようなものはドイツの建物のようには思えなかった。
「おのれ、何奴!?」
屋敷の庭に突然現れたシンジとアスカを見つけた警備の侍が、雪をかき分けて近づいて来た。
本能的に危険を察知したシンジとアスカは逃げようとしたが、足を雪に取られて上手く歩けない。
侍との距離はグングンと迫って来る。
剣を抜いた侍はシンジたちを斬り付けようと大きく振りかぶった。
せめてアスカを守ろうと、シンジは仁王立ちになって刀を顔面で受け止めた。
「いやーっ! シンジーっ!」
アスカの悲鳴が屋敷内に響き渡る。
しかし斬られたシンジは傷一つ負う事無く。
むしろ真っ二つに折れたのは振り下ろされた刀の方だった。
シンジを斬り付けた侍の方が驚いて腰を抜かして逃げ惑うばかり。
「ば、化け物じゃ……妖怪じゃ……」
怯えてしまった侍はシンジたちの方を見ようともしない。
「何事であるか!」
アスカの悲鳴を聞いた屋敷中の扉が開け放たれ、庭に立つ闖入者を見ると、警備の侍たちは鬨の声を上げて一斉にシンジとアスカに襲い掛かった。
これではシンジは身体を張ってもアスカを守り切る事が出来ない。
しかしアスカは慌てず騒がず、襲来する侍たちを待ち受けた。
「アスカっ!」
首を刎ねようと狙った侍の刀の一撃も、先ほどと同じくアスカの肌に傷一つ付ける事無くはじき返されることと相成った。
「シンジ、レイも話していたでしょう。アタシたちは使徒を超える力を得たって。ATフィールドも強力なのよ」
侍たちはシンジとアスカをタコ殴りにするが、二人には蚊ほども感じない。
なのにプラグスーツまで着ているのに寒さを感じる理不尽さに不満を覚えた。
「さあて、こいつらをやっちゃいましょう。ATフィールドは武器にも使えるって、シンジにも分かっているでしょう?」
「でもアスカ、人を死なせるのはマズいよ」
まだシンジたちは防戦一方で侍たちには反撃していない。
侍たちは刀で傷つかないシンジたちに底知れぬ恐怖を抱いていた。
妖怪などが深く信じられていた時代である。
ただ武士の矜持だけが逃げる事を踏み止まらせていた。
「……面白い。小十郎、かの者をこちらに呼び寄せよ」
屋敷の中から警備の侍たちがシンジたち相手に奮戦している姿を見ていた伊達藤次郎政宗は、側に控えていた片倉小十郎にそう命じた。
「各々方、刀をお納めください。政宗様のご命令です」
小十郎が落ち着いた声でそう言うと、侍たちは刀を鞘に収めてシンジとアスカから距離を取った。
「あなた方は、政宗様のお命を狙う狼藉者ですか?」
「いえ、僕たちは道に迷ったと言うか……ここがどこかも分からないんです!」
ゆっくりとした足取りで近づいて来た眼鏡を掛けた若者、小十郎に尋ねられたシンジはそう答えた。
小十郎はこの二人が政宗を狙って現れた刺客なら、命を賭けて足止めをするつもりだった。
見たところ歳は政宗と変わらない年頃、10歳で元服して成人として認められる戦国時代では、14歳の敵武将も珍しくなかった。
14歳である政宗も、近いうちに初陣を控えている。
この二人を政宗に近づけても大丈夫だろうと判断した小十郎は、主人の命の通りにシンジとアスカを案内する事にした。
シンジとアスカは小十郎の後を素直について行った。
逃げ出すにしても当てがないし、情報が欲しい。
「わしはこの屋敷の当主である伊達藤次郎政宗と申す。してお前たちは何者ぞ」
自分たちと同い年とも思われる政宗の風格に、シンジとアスカは気押されてしまった。
第壱中学の生徒会長も比べ物にならなかった。
「僕は碇シンジと申します」
「惣流・アスカ・ラングレーです」
アスカまで正座して敬語になってしまうほどの威圧感。
文字通り生まれてきた時代が違う。
シンジもゲンドウとどちらが上なのか迷った。
「ほう! その方、ソウリュウと申すのか!」
アスカの名前を聞いた政宗は嬉しそうな声を上げた。
そして政宗は布で隠していた右目をさらけ出した。
政宗の右目はプクリと膨れ上がっていた。
「わしは幼い頃、天然痘を患ってな。この右目は使い物にならぬ」
驚いて政宗の右目を見るシンジとアスカに、政宗はそう説明した。
「小十郎! わしの右目を抉れ!」
「……分かり申してございます」
小十郎は短めの刀を鞘から抜くと、政宗の背中側から突き刺した。
あまりの光景に、シンジとアスカは顔を背けて目を閉じた。
痛さに呻く政宗の声が聞こえるので、たまらず両手で耳を抑えた。
行儀よく正座などしている場合ではなかった。
シンジとアスカは見ざる・聞かざる・言わざるで耐えて過ごした。
「……終わった。シンジにアスカよ、もう目を開けて構わんぞ」
正宗の言葉を聞いて、シンジとアスカが恐る恐る振り返ると、右目に眼帯をした政宗が座っていた。
「……あの、大丈夫ですか?」
「これで初陣への心の迷いは消えた。二人には礼を言わなくてはな」
シンジが心配そうな顔で尋ねると、政宗は晴れやかな笑顔となった。
「どうだ、お前たち。わしに太平の世を作るための力を貸してはくれないか?」
真剣な表情になった政宗はシンジとアスカにそう声を掛けて来た。
自分たちの仲間にならないかと言う誘いだった。
「でも僕は、人を傷つける事はしたくありません」
「シンジ……」
辛そうな表情でそう答えるシンジの背中を、アスカは優しく抱きしめた。
「貴殿たちに強制するつもりはありません。普通の町人として、米沢の街で暮らす事も出来ましょう。しかし今は戦国の世。大名が領土を争って、日の本の至る所で争いが起きているのです。政宗様が日の本を統一すれば、そのような争いは無くなり、民が苦しむ事の無い太平の世が訪れるのです」
小十郎は冷静に現状を説明した。
脅迫など通じる相手ではないと分かっていたからである。
「シンジ、アンタは争いを望まないかもしれない。だけどそれ以上にたくさんの人の命を救いたいって思っているんでしょう? 命を救うために目の前の敵の命を救うなんて矛盾しているように思えるけど、アタシたちには命を救うための力がある。それを使わずに腐らせているなんて、それこそレイと渚に顔向けできないわ」
「……うん」
アスカの説得で、シンジは決心が着いたようだ。
二人が政宗の味方になると了承すると、政宗もまだ多くの人間の命を奪った事は無く、今度の初陣には恐れがあったと話した。
「右の独眼竜と左の独眼竜、《双竜》が揃えば次なる戦は勝利間違いなしだな、ハハハ」
政宗は自分の眼帯とアスカの眼帯を指差して愉快そうに笑った。
「あのー僕は?」と言うシンジの問い掛けに政宗は、
「シンジはこの年にして正室を迎えているとは頼もしい男だな。私も愛姫と言う正室がいる。どうだ、此度の戦で戦果を挙げて、どちらが多く側室を作れるか競わないか?」
と答えた。
政宗の言葉を聞いたアスカは顔を真っ赤にして、
「アタシはいつからシンジの正室になったのよ! 側室なんて作ったら、ただじゃ置かないからね!」
とシンジに思い切り蹴りを入れた。
ATフィールドを持つ者同士では、しっかりとダメージが入るようで、シンジは向う脛を押えて痛がったのだった。
「あの……小十郎さん。愛姫様ってどんな方なんですか?」
「愛姫様は政宗様の1歳年下で淑やかな御方。政略結婚ですが、詩歌と言う共通の趣味もあって、お互いに愛しておいでです」
小十郎の話を聞いたシンジは少し安心した。
アスカが政宗の側室になってしまうかもしれないと思ったのだ。
とりあえず政宗にはその気が無いようで良かったと考えるのは自分勝手だなとシンジは思った。
<近江国賤ケ岳(滋賀県) 羽柴秀吉の陣>
シンジたちが東北地方に居た頃、レイとカヲルは近畿地方の賤ケ岳の戦場に居た。
織田信長が本能寺の変で死んだあと、後継者を巡って家臣の羽柴秀吉と柴田勝家の激突は避けられなかった。
レイとカヲルは最初はこの戦いに介入せずに無視するつもりだった。
しかし柴田勝家と彼の正室、お市の方が戦いに敗れた時に自害すると言う話を聞いたレイは、羽柴秀吉の味方をする代わりに柴田勝家とお市の方の命を助ける事を約束させた。
そして柴田勝家とお市の方には、自分たちに負けた場合には自害せずに生きて自分たちの仲間になって欲しいと説得した。
「これも天下統一を早めるため。それに、愛し合う二人が命を絶つなんて、黙って見てはいられないもの」
「わざわざそんなお節介をするなんて、レイ君も変わったね。シンジ君の影響かな?」
いざ戦いが始まると、劣勢の柴田軍には悲壮感が漂っていた。
兵力・物量・戦略、全てにおいて秀吉軍の方が上である。
さらに秀吉はこの戦いに天下統一への野心以外にも大きな企みがあった。
賤ケ岳の戦いも佳境に入った時、レイは戦場に居る秀吉の正室、ねねにそっと情報を吹き込んだ。
『秀吉はねねと知り合う前から、信長の妹であるお市の方に横恋慕していて、正室として迎えようとしている』
秀吉の名誉のために言っておくと、これは真っ赤な嘘だった。
しかしレイの話を聞いたねねは前線を離れて秀吉の元へと向かった。
「お・ま・え・さ・ま~!」
「ひぇ~!」
怒ったねねに追い回される秀吉。
逃げ惑う総大将の姿を見て、指揮系統の乱れた秀吉軍は柴田軍を攻めるどころでは無い大混乱に陥った。
「これで柴田君とお市の方さんに近づくことが出来るね」
「ええ」
カヲルにレイはそう返事をした。
柴田軍の数が少なくなるのを見計らって、レイはこの計略を仕掛けたのだ。
二人を説得するにしても、ギャラリーが多いと追い払うのが面倒だった。
彼らは主君を守るために命を懸けているのだから仕方ない。
「この鬼柴田、貴様に一歩も届かなんだ……」
「私たちの完敗ですね……」
勝家が如何なる剛腕の持ち主でも、ATフィールドを持つカヲルの顔を叩き潰せるわけがない。
力を出し尽くした勝家は疲れ果て、大の字に寝っ転がった。
「分かった、わしも武士の端くれじゃ、約束は守る!」
柴田軍が降伏した後、秀吉も勝家を赦した。
逆らって敗れた者は命を奪われると言う戦場の習いに逆らってまで約束を守る秀吉の心の広さにレイは感心した。
秀吉が未練がましくお市の方も見ると、ねねが厳しい目で睨みつけた。
レイがねねに戦場でさっき話した事は作り話だと言って、秀吉はやっと逃げ回らずに済んだのだ。
「大丈夫、ねね忍法の半分は優しさだもん!」
レイは明るく微笑むねねの顔や、嫉妬に駆られて秀吉を追い掛け回す姿を見て、アスカの事を思い浮かべた。
「何処に居るの、碇君、アスカ……」
色々あったがレイとカヲルは秀吉のために力を貸すと決めた。
レイは戦場で敵として二人と出会ってしまわない事を祈るばかりだった。
次回「政宗・シンジ・アスカの初陣 ~奥羽統一戦~」
初めは明るい感じですが、戦国時代あるあるで、親友や兄弟で別れて戦う事になります。
賤ケ岳の戦いは天正11年(2年後)ですが、レイとカヲルの場面も描きたかったのでご容赦ください。
これからは敢えて年号を書かない事もありますので御理解のほどよろしくお願いいたします。
戦国時代は10歳前後で元服する事もあり、成人として認められるようですね。
どこかの別世界のアスカさんなら喜びそうですが……この作品ではNGです。
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シンジに側室は「あり」ですか「なし」ですか?
-
あり
-
なし
-
ありえん!(席を立つ)