オリジナルウマ娘列伝   作:南スラヴ連帯牧場監修

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シーキングザマネー➂ ダートスプリンター、アガールズモルト

サラトガレース場

フォアゴーS開催という事も人という人で賑わっていた

 

「おぉ、ぉぉ」

「酔うなよ」

 

次男さんの腕にしがみつくような形ではぐれないように

幼少の頃、世界中のレース場へ足を運んだが、ここまで人が来ていると言うのは経験した事がない

それもそうだろう

ダート短距離界の王者たるアガールズモルト、今年のプリークネスS覇者、昨年のBCマイル覇者、それにドバイWCをも制覇したウマ娘が来ているのだ

トゥインクルシリーズに興味を持っていなくても、野次馬根性お目にかかればと来るのも無理はない

 

「ハーイ、ツグオさん」

「どうも、お久しぶりです。マリアさん」

「マリアさん?」

 

何やらパツキンのねーちゃんが次男さんへと歩み寄った

後ろにはウマ娘が控えている。自信に満ちている、といった風だ

 

「マネー、紹介するよ。マリア・リードさん」

「よろしくね」

「シーキングザマネー、です。どうも」

「マイネームイズ、ダイナミックカレンシー! ヨロシク」

 

ダイナミックカレンシーと名乗るウマ娘の握手に応じるとこれでもかと強く握られた

つい強く握り返すと、向こうも火が付いたのか、もっと強く握りしめてくる

 

「「ぐぬぬ……」」

「ちょっと二人とも」

「おい、マネー」

 

両者共にトレーナーによって引き離される

 

「その娘がこの前言ってた?」

「はい、ダイナミックカレンシーは確実にアメリカトゥインクルシリーズに名前を刻む事ができるウマ娘ですよ」

 

マリアさんの言葉に得意げになる彼女

私の事もよく紹介してくれと次男さんに目で願うが、ダイナミックカレンシーに釘付けである

 

「良い素質を持ってるって感じですね」

 

今度はマリアさんが得意げになった

 

「そうです! で、そちらは?」

「あぁ、この娘はシーキングザマネー。今年デビューするんですよ」

「それじゃ、私と同期だ!」

 

さっきは張り合っていたのに、今度は抱きついてきた

ダイナミックカレンシーというウマ娘にたじたじの私

頬をすりすりするのは、流石にスキンシップが過ぎるのではないだろうか

 

「良かったなマネー、友達ができて」

「マリア! 彼女を案内しても良い!?」

「あー、ツグオさん?」

「良いですよ」

「えぇ!? ちょっ」

「レッツゴー!」

 

握力同様の腕力で抵抗する間もなく彼女に引っ張られてしまった

しかし、案内というのはありがたい

幼少各レース場に赴いたがサラトガとは縁がなかったからである

 

「ここがレース!」

「おお」

 

場内をあれこれ案内されて、ようやく客席へと導かれる

人々の歓声、すでにレースが行われており、どよめきに思わず酔ってしまう

 

「凄い人ですね」

「こんなに集まってるのは初めてよ。やっぱりみんなアガールズモルト目当てなのね」

「そうなんですか」

 

アメリカでもトゥインクルシリーズは大人気だと聞いていたが、この動員数はアガールズモルトさんの集客力によるものなのか

 

「ねぇ」

「ん?」

「あなたも、トゥインクルシリーズに?」

「……えぇ」

「日本のレースは芝がメインなのよね」

「そうですね」

「どんな感じなの?」

「…良い匂いがしますよ。芝の」

「なぁに、それ」

 

夕暮れであれば青春の一幕として絵になっただろうに、ここはサラトガレース場

しかし、喧騒の中ではあるが私は青春の主役でもあった

このダイナミックカレンシーというウマ娘にはキンジャクベリンと同じく「才器」を感じる

私が目標をあえて言わなかったのは、怖気づいていたからであろう

 

「ここにいたのね」

「マリア」

「マネー、そろそろ控室に行くぞ。お前には勝負に挑むウマ娘を直で見てもらいたいからな」

「はい」

「アガールズモルトのとこに行くの?」

「そうだな」

「ズルい! 私も行く!」

「カレンシー、ダメ」

 

突っかかろうとしたダイナミックカレンシーをマリアさんが抑えた

 

「でもぅ」

「カレンシー、あなたはこのレースを見るだけで良いの。勝つのがアガールズモルトだろうと誰だろうと関係無いのよ」

「……はい」

 

このパツキンのねーちゃんにここまで圧があると思わなかった

表情で無理やり圧すのではなく、空気感というか雰囲気で相手を包み込むタイプのトレーナーだ

 

「ごめんなさいね。それじゃ、レース楽しみにしてるから」

「ありがとう」

「失礼します」

 

控室へと向かう

トレーナーから「静かにな」と釘を刺されていたが、言うまでもないことだ

 

「……………」

 

静かだった

モルトさんは何となく水を飲んでいるが、得も言われぬ圧迫感に私は苛まれた

レース前の、勝負に挑むウマ娘を私は今目の前にしている

ただのウマ娘ではない

ダート、短距離王者のたたずまいなのだ

 

「マネー」

「ひゃい」

「ふふ、そこの蝶ネクタイとってくれる?」

 

アガールズモルトさんの勝負服はまるでバーテンダーのような装束だ

すると、ドアを誰かがノックした

どうぞ、とモルトさんが言うので開けて見るとウマ娘。プリークネスSを勝ったというウマ娘であった

 

「アガールズモルトさんですね」

「あなたね。ジュニア王者、マルガルラバーガー」

 

ジュニア王者という言葉に、マルガルラバーガーさんはぴくりとこめかみを動かせた

 

「今日は私が勝ちます」

「私もね」

「……失礼しました。次はレースで」

 

言葉は多く要らないのだろう。マルガルラバーガーさんは退室した

アガールズモルトさんは気にしていないかのように水を一杯飲み干した

 

「先に出てるぞ。マネーも終わったらさっきの応援席に来いよ」

 

トレーナーさんも続くように退室した

 

「マネー、ついてきなさい」

「は、はい」

 

アガールズモルトさんがいよいよレースへと向かう

正直、長く感じてしまって居心地が悪かった

 

「「………」」

 

会話をするのもはばかれるし、それとしてなんて声を書ければよいのだろう

地下道はただでさえ静寂なのに

 

「モルト!」

「あら」

 

声をかけられたので振り向くとまたもやウマ娘

なにやらモルトさんとご縁があるようで笑顔いっぱいだ

 

「あなたも出るとはね、マウントウィン」

「モルトが出ると聞いたからさ! 今日は楽しもうな!」

「逃げないでよ」

「そらできねーわな! そこのおチビは?」

「おチビ!?!?」

 

なんて失礼なウマ娘と憤るがマウントウィンさんは名うての逃げウマ娘だ

距離適性は幅広くBCシリーズのスプリント、マイル、クラシックに挑み好成績を収めている

日本にも来たことがあり一昨年のフェブラリーSで圧巻の大差勝ちを決めた姿を見た事がある

 

「シーキングザマネーよ」

「よろしくお願いします」

「おう。シーキングザマネーか。うぅん、良いんじゃない?」

「マウントウィン、この娘のことよく覚えておきなさい。来年の3冠ウマ娘だから」

「剛毅な事だなぁ。そんじゃ先、行ってるから」

 

マウントウィンさんがレース場へ出るとここまで歓声が聞こえてきた

3冠レースを全て捨てて、無敗のままBCクラシックを勝ち取った逆転劇は、この時代を生きるトゥインクルシリーズファンであれば誰もが覚えている

 

「マネー、もう良いわよ」

「はい、モルトさん。頑張ってください」

 

ニカっと笑うアガールズモルトさん

レース場へ出ると先ほどと比べ物にならないほどの歓声が耳をつんざいた

 

 

 

 

「トレーナーさん! トレーナーさん!」

「こっち、こっち」

 

人という人をかき分けてようやくトレーナーさんのところへとたどり着けた

レースがはじまる直前で間に合ったと安堵する

 

「マネーが羨ましい。私もアガールズモルトと仲良くなりたい」

「まだ言ってる……」

「この娘、根に持つタイプだから」

「はじまるぞ」

 

トレーナーさんの一言で全員の視線がゲートに向けられる

 

ガンコン!

 

はじまった! フォアゴーS!

先頭はあのマウントウィンさん、逃げというより先行が高じて先頭に立ってしまった形だろう

ジュニア王者ことプリークネスSウマ娘ことマルガルラバーガーさんは……後方で出方を伺っている感じだ

モルトさんは中団ド真ん中、でもあれは……

 

「囲まれたわね」

「アガールズモルト包囲網だ」

 

そう、あれは囲まれている

アガールズモルトを勝たせまいと、皆が思って思わずああなったのだろう

モルトさんは追い込みの名手。良い位置にはつかせたくない気持ちは分かる

 

「何か指示は出してるの?」

「勝て、とだけ」

「まぁ」

 

トレーナーさんとマリアさんが何やらぶつぶつ喋っているが、それどころではない

あのまま最終コーナーへと回っていく、モルトさんは一体どうするつもりだ!?

いよいよ、直線。動いたのは……マルガルラバーガーさん!

 

『マルガルラバーガーが先頭を伺う。外を回って……マルガルラバーガー!』

 

場内に響く実況も焦りの色が見える

このままではアガールズモルトが負けてしまう……!

 

「ここ!」

 

トレーナーさんが声を上げると、モルトさんが一気に中団を飛び出した!

マルガルラバーガーさんが前を往こうとする、その直前で!

いや、それにしてもまだマウントウィンさんと1バ身も差がある

ここからどうやってどうやってどうやって……

考える間に、モルトさんは、マウントウィンさんの、前に、出た!

ゴール板すぐというところで!

 

「す、すごい!」

「マネー、よく見ておけ。あれがダートスプリンター、アガールズモルトだ」

 

『ジャパニーズスプリントレジェンッ! アガールズモルト!』

 

実況の言葉が心中にぼかんと鳴り響く

これが、これが、アガールズモルト!

私の、シーキングザマネーの中で、ただ驚愕の境地であった

 

―アガールズモルト、おめでとうぅぅぅ!―

―次はBCスプリント3連覇だ!―

「モルトさーーーーーん! すごい、おめでとうございます! すごいです!」

 

客席から賞賛の声が鳴りやまず、私もこの嬉しさを爆発させた

気づいたかどうか、アガールズモルトさんは客席へと恍惚の表情を見せ、拳を突き上げる

か、かっこいい!

私、いや私だけじゃない、ここにいる全ての観客が彼女に魅せられている!

 

「マネー、どうだこれがトゥインクルシリーズだ」

「すごい、ドキドキしてます。これが感動なんですね」

 

しかし、ふと横を見るとダイナミックカレンシーだけは何やら思いつめたような顔をしていた。覚悟を決めた、というべきだろう

マリアさんも、この熱狂に流されずひそひそとダイナミックカレンシーと話をしている

 

「ツグオさん、シーキングザマネー。私たちはここで」

「おう、そうだったな。そっちも頑張ってな」

「はい! シーキングザマネー! ライバルの名前を忘れないでね!」

「はは…」

 

まだデビューもしていないのにライバルができるとは、なんとも贅沢である

別れた後、私はトレーナーさんに連れられて、そのままインタビュー会場へと向かった

レース後のアガールズモルトさんはどこか色気があって、思わず赤面してしまう

私は冷やしたタオルを差し出した

 

「お疲れ様でした」

「凄かったでしょ」

「はい!」

 

顔をひとつ拭うと、そのままお立ち台へ

後ろにはトレーナーさんが構えており、私は離れたところで待つ

 

「アガールズモルトさん! 今日のレースお見事でした!」

「ありがとう! ね、脚の内は明かさない方が良いでしょう?」

 

会場がにわかに笑いで包まれる

 

「本日のレース、中団囲まれた形になりましたがあの時の心境を!」

「まさか、こうなるとは、と思いましたね。隙を見つけるのに苦労しましたが直線で少し開けたので、ここだ!と思いましたね」

「マルガルラバーガー、マウントウィンとの最後の競り合いは素晴らしい映像となりました」

「マウントウィンはバテていなかった。それは私が保障します。それとマルガルラバーガーは怖いウマ娘ですね。あと距離が200mあれば彼女が勝っていたと思います」

「次のレースですが…」

 

マルガルラバーガーさんやトレーナーさんがあれこれと記者の質問に澱みなく答えていく

もう慣れているんだろうなぁと思い聞き流していると、場の雰囲気がそろそろ終わりそうだ

こういうのって思いのほか早く終わるんだな、と思ったその時、モルトさんに腕を掴まれ、私はお立ち台へと立ってしまた。なにごと!?

 

「皆さん、最後に! 私のかわいい後輩、シーキングザマネーを紹介します。彼女は今年日本でデビューするウマ娘で、3冠に挑むと豪語してやまず、私なども彼女にその才能を見せています」

 

ヒエ

パニックを通り越して私は瞬時に硬直してしまった

 

「もるとさん。なにを」

「どうせ出るんだから、ここで慣れおきなさい」

 

抗弁虚しく

改めて見回すと、記者たちの目が刺さる刺さる

え、こんなに怖い目で見てるのこの人達

………やってやらぁ!

 

「ごしょーかいに預かりましたしてしまったシーキングザマネーです! よろしくお願いします。えと、その通り私は今年デビューしますので、おう、おう、応援よろしくしてください! お願いします!」

 

アメリカの作法なぞ今は知ったことではないので、極めて日本的に一礼をした

何、この間。めちゃくちゃ長く感じる

一礼と頭下げただけにこんな空気になるの? アメリカって

すると、ぱしゃり!ぱしゃり!とシャッター音が続々と切られはじめた

 

「応援してるよ! シーキングザマネー!」

「記事に書いとくよ」

 

なんとか、なんとか暖かいコメントに溢れ初めて、私は緊張の糸が切れてしまいました

ぺたんと、お立ち台でへたりこんでしまいます

 

「あんたがへたれてどーすんのよ」

「マネー……」

 

トレーナーさんとモルトさんに呆れられると、会場が笑いに包まれます

あのあとトレーナーさんに肩を貸してもらって控室に帰ると、今度はモルトさんが簡易ベッドにドサっと倒れ込みました

 

「モルトさん!?」

「マネー、や、大丈夫だから、レース終わったあといつもこんな感じだから」

 

曰く、緊張の糸が切れるのだと言います

先ほど同じ経験をした私はすぐに納得できた

それはそれとして来訪者はやってくる。ドアをこんこんとノックして入ってきたのはマルガルラバーガーさんだった

 

「あ、あのー、アガールズモルトさんは……」

「レース後はこんな感じだそうです」

「はぁ」

 

面食らうも納得してくれたようでマルガルラバーガーさんはモルトさんに歩み寄った

 

「……………………負けました」

 

短く、細く、それでいてしっかりとした声色でした

もっとも、モルトさんはベッドに突っ伏しているのですが

 

「あなたは、弱くない。プリークネスSを勝ったのが何よりの証明よ」

「はい」

「今日の2着は、次の着順の何を保証してくれないから、あまりしょぼくれるのはやめときなさい」

「はい」

「また、次、レースしましょう」

「はい……」

 

負けたウマ娘の心中はいかばかりか、私にはまだ想像ができない

だけど、目の前のこの短いやり取りで見せるマルガルラバーガーさんの表情に、私は『勝負』を見た

涙を流しこそしないものの、目元を腫らし、ただ頷くのみ

レースにしてもそうであったが、この光景こそ私には印象深く残るような、そんな気がしてならなかった

 

明日には日本に戻る、デビューの日が近づく

 

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