あなた依存症 作:パンデモウム
いったい何が起こったのか自分でもわからねぇ
あたしは昔から、おねーちゃんの事が好きだった。
何時から、なんて忘れてしまった。まだまだ子供の時、物心ついた時から、産まれた時、もしかしたらおねーちゃんの妹と決まったその時から私はおねーちゃんの事が好きだった。
ずっとおねーちゃんの真似をしていた。それが楽しかったから、理由なんてその程度で十分だ。本当に、ぴったりとつけていて。
彼女が始めた事を始め、辞めたことは辞める。そんなだから、おねーちゃんの後を追うようにあたしも君にも興味を抱くようになっていた。
だから、始めは本当に興味に過ぎなかったのだ。
考え方や反応とか、いろいろと面白い人間、その程度だった、それだけでしかなかった。
でもやがて、あたしは君に嫉妬していた。あたしが望んでも得ることの出来ないおねーちゃんからの興味を、好意を、笑顔を貰っている君に。
そしてしだいに君への興味は、おねーちゃんからそう思われるための方法を知るために変わっていた。なのにいつの間にか、おねーちゃんを抜きにして君の事を考えるようになっていた。
そんなだから、おねーちゃんが君の事を好きなように、あたしが君の事も好きになったのだって時間の問題で。
それが、気付いた時には……
「あ、流れ星……」
願い事を三度望めば叶えてくれると噂されるそれに、昔はどうにも執着したものだ。追いかけて、瞬きもせずに見上げ続け、逃すまいとカメラに納めて早口の練習。
今考えればなんとも可愛らしいこと。でもあの時は真剣だったし、なにより楽しかったのだからそれでいい。星空へと向けて手を伸ばし、星を一つ掴んだその手を開いてみる。
「…………」
流れ星、それは何処かに消えていく。見えているものは今あるものではなく、過去が起きたものがようやく眼に届いているだけ。だから、今眼に見えているそれは、はるか昔の出来事で。
ああ、そうだ。何事も、全て今更だ。目に映ってからでは遅いのだと、昔から学んでいた筈なのに。
願い事。たったの一言でさえ、あたしの口から発せられることはなかった。
曲がらず進めばいずれ壁に当たる。それは現実でも、妄想でも当たり前のことだ。
だが逆に言ってしまうならば壁に当たらない限り、曲がらない限り進み続けることが出来る。
この想いは青天井。天まで届いた筈なのに、天の向こうには遥かなる宇宙が待っていた。それがどれだけ深いか、なんてことはわからない。
君は知らないかもしれないが、実はあたしは怖がりだ。お化けとかゾンビだとか、そんなものは全く問題ない。寧ろ面白そうだから見てみたい。
あたしをこうさせたのは、君だ。おねーちゃんはどこまでいってもおねーちゃん、避けられても嫌われても、勿論そんなことは嫌だけれど繋がりが切れることはない。
「いてて」
ほら、繋がっている。流れ落ちるわけでもなく、ぷっくりと浮かぶだけのそれは、軽く吸ってしまえばもう出てくることはない。
この皮を一枚捲れば、あたしとおねーちゃんは一緒だと解るのだ。別にあたしは痛いのが好きなわけじゃないから、今回みたいに偶々そうなった時に感じるだけだが。
なら、君は?
何も繋がっていない。唯一繋がっているとすれば、そう、おねーちゃんの事を好きということぐらいだろうか。
あたしは鈍感でもバカでもないからそれくらい感じ取れる。もっとも、君は全く気付いていないようだけれど。
まったく、どうしたらあれに気付けないのか、寧ろ気になるほどだ。
焦っている、恐れている。でも、怖いのだ、何もかもが。
君の事もそうだし、おねーちゃんの事もそう。二兎を追う者、つまりはそういうこと。
八方塞がり、手も足も出すことが出来ない。もし出せば、何もかもが音を立てて崩れ落ちてしまいそうで。
「おかしいのはあたしなの、おかしいのはおねーちゃんなの?」
狂ってしまったように思えて、その本質はどこまでも清純だ、潔白だ、尊きものであるであろう。たとえそれが、病的であったとしてもだ。
薬も過ぎれば毒とは言うが、どこまでいっても薬は薬、根底がひっくり返るわけではない。
もとより薬は毒であるとするならばもう底はない。自らを喰らい、自らの糧にし、自らを生み出す。きっと、際限なんてものはありもしないのだ。
それほどまでにあたしの想いはあたしの中で膨れ上がっている。
それにしても熱い。君の事を考えると身体が熱くなるようになったのはいつからだったか。人体の不思議だ、まぁ、興味は全くないけれど。
「あっついなぁ……」
熱い、熱い、熱い、熱い、熱い。薄着になるも効果はなく、どうしてか余計に熱くなるばかり。熱を抑えようと発生源当たりをあれこれと弄ってみるが、指が溶けて千切りとられてしまいそうになる。
漏れ出す吐息は暖かくて、こんなにも熱いのに、何故か身体が寒さに脅かされているかのように震えている。
頭痛、吐き気、動悸、痙攣、ああ、気持ちがいい。
不快感も何もかも全て取り込み消えて、気付けばどろどろに溶けた指の先。
恐ろしい。これら全て、君のせいらしい。
一度、二度、収まる気配は少しもない。夜更かしはよくないと千聖ちゃんに釘を刺されてはいるが仕方がない、このまま放置をすれば間違いなく明日の仕事に支障をきたしてしまう。
夜は、長い…………
欲求とは、抑えが効かないものである。人が人である限り逃れられないもので、それから逸脱しようとしても叶うことはない。
食欲、性欲、睡眠欲。揃って三大欲求とは言ったものだがあたしの中では三大ではなく、君と、おねーちゃんを含めた五大欲求とするのが正しいもの。
今思い返してみればあたしには承認欲求なんてものもあったのかもしれない。認められたい褒められたい、そんなものが。
でもそれはおねーちゃんに対してのみだったし、今でも無いわけではないけれど昔よりはだいぶマシになっている。
では何故、君のおかげ? いや、そうではない。君にも褒めてほしいし認めてほしい。そして、求めてほしい。
そんな気持ちはある、あるけれど大したものではない。欲求というよりか願望とするのが正しいだろう。
「はいこれ、今日は雨が降るらしいから」
「ありがとう、日菜」
ああ、これだ。思わず倒れ混んでしまいそうなのを堪え、壁に手をつける。
おねーちゃんの事を想いたい、おねーちゃんの役に立ちたい、おねーちゃんの助けになりたい。
おねーちゃんの、おねーちゃんの、おねーちゃんの、おねーちゃんの、おねーちゃんの、おねーちゃんの、おねーちゃんの……
である筈なのに、君のものでもありたくて。
おねーちゃんが出ていって、扉が閉まると同時にあたしはその場にへたりこむ。
君のものでありたくて、おねーちゃんのものでありたい。どこか漁れば矛盾の一つや二つあるかもしれないがそんなのはどうでもいい、些細なものでしかないのだから。
だけれど間違いのないものとしては、この想いに一点の曇りもないということだけ。全て事実、全て現実、全て真実。であれば、全て正しいことで。
「……昔のあたしって」
なんであんなにも、愚かだったのだろうか。
好きだ好きだと言いながら、その感情は全て自己満足で終わっていた。自ら這い出て、自らのみを包み込んでいた。
そんなだから、知らぬ間におねーちゃんを傷つけていた。
人と人は違う、そんな当たり前な事でさえあたしはわかっていなかったのだ。それに気付かせてくれたのはパスパレのみんな、だから彼女たちにも感謝しなければならない。
やっぱりあたしはまだまだ子供だ。最も高校生なんてそんなもの、大人ではないが子供でもない。
「ねぇ、今日って暇だったりしない?」
電話をかけてみればすぐに相手は出てくれた。だが、まぁ、返答はわかりきったものだったけど。
ここであれこれとわがままを言い付けるほど子供じゃない、だけれどそうですかと黙って引き下がれる程大人でもない。
「残念、じゃあ来週は?」
来週ならと言われ、やったと少し大袈裟に、向こうにも届くように喜んでみせる。
さて、ならば早速着替えなくては。時間に余裕はあるだろうが、どうにせよその時間は守られることはないのだし関係のないことだ。
色々と話して電話を切ったと同時に家を出る。さて、おねーちゃんを追いかけよう。
何処に行くかは知らされてないが、あたしにかかればガラスの向こうのようにバレバレだ。いったい何年おねーちゃんを愛し続けたと思っているのか。
それこそ、自分の事よりおねーちゃんの事の方が知っている。
君は? 君は自分の事をあまり話してくれないからまだ知りきれてないけれど、ある程度予測はつけている。
「まぁ、意味ないんだけど」
君はあたしの予測なんて簡単に覆してくれる。それはいい意味でもあり、また悪い意味でも。
まだ知らない君を知れると、おかしくなってしまいそうな多幸感に襲われる。まだ知らない君を知ってしまうと、なんであたしは君の事を知りきれていないのかと情けなくなる。
それは、おねーちゃんに対してもそう。だからこそあたしは君に興味を持ち、憧れ、嫉妬したのだ。
君が隠していることだって全部知りたい、おねーちゃんのひた隠しにしている思いも全て暴きたい。でも、でも、嫌な気分にさせたくないから、隠したいと望んでいるなら踏み込めない。
そしてあたしが隠すものは一つだけ、それはこの想い。バレていようが知ったことではない、バレていようが、あたしが隠しているという事が大切なのだ。
それには前進も後退もない。変化もないから恐れもなくて、大した望みはないから幸せだけを感じていられる。
「ふわぁ……」
大きな欠伸が口から漏れた。眠いわけではない、ただ退屈なだけ。もうすぐでそんなこととはおさらばだが、楽しみであるということと楽しいということは別物だ。
赤信号、目の前に車は一台も通っていない。昔は行けそうだと思ったら破ったものだし、その度におねーちゃんに怒られていたななんて思い出す。
この信号は通りが少ない癖して変わるまでが長いのだ、急いではいないが面倒なので渡ってしまうか。なんて、そんなことを思った瞬間、目の前を車がそれなりの速さで通りすぎていった。
ああ、やっぱり。既に姿が見えなくなった車の方を、あたしはじっと見つめていた。
君は、あたしたちに気を使ってる。それは普段の君と比べてみれば一目瞭然だ。
知っている、君は思っているよりも適当なこと。あれこれと予定を立てたりもせず、困っている人がいようと、その出来事の大小はあれど基本気に掛けていないことも。
まるで、薫くんがよくやるお姫様を相手取るかのように。
「悪くはないんだけどさ」
多分、あたしと君とじゃ釣り合わないなんて思っているのだろう、そしておねーちゃんに対しても、自分なんかがと。
成る程、あたしもおねーちゃんもそんなことは思わない。寧ろ逆さまな程だと思っているが大衆も、君も認めないことだろう。
釣り合いが取れないと思われているのなら君の事を高く高く上げてしまうか。
それとも自らの事、どん底まで落としてしまおうか?
冗談、そんなの君は褒めてくれない。怒って、心配して、そんな風にしてくれる。それは魅力的ではあるけれど、君にそんなことを思わせるのは望むところではない。
相変わらず自己評価の低い人だ。どうにかしてそこは治してあげたいと思うけど、そんなところまで含めての君だから、きっとそのままでいいのだろう。
しかし、その癖して傲慢な人。あたしはもうこんなとこまで
好意、愛。それは大きくて重くて、足を引っ張り続ける底無し沼、いまだ底には触れず溺れ続ける。
全身浸かって、光となるのが君だけで、元の姿がどうだったかもわからない程狂ってしまったのに、まだ堕ちろというのだから。
あたしはもう、君がいなければまともでなんていられない。
あたしはもう、おねーちゃんだけではまともでいられない。
「……ねぇ、おねーちゃん」
大好き、だよ。
でもあなたは、きっとまともに聞いてはくれないだろう。
紗夜さんが興味を持たなければ日菜ちゃんも興味を持たないが、持ってしまえば一瞬で
当然、逃れる術もあるわけもなく