やはり俺が仮面ライダー龍騎なのはまちがっている。 作:伊勢村誠三
ADVENT AGEIN
そこは澱んだ空気に満ちた場所だった。
それと同時に、どうしようもなく濃い暗黒の只中でもあった。
伸ばした手の行方さえ見えず、壁のありかも分からない。
どれくらいそうしていただろう?
時計も有るが見えないので体感だが1時間ぐらいだろうか。光がついた。
1人の男が座る円卓の真ん中に置かれた誕生日ケーキの
同時に何処からか誕生日の歌が聞こえてくる。
『Happy barth day to you♪
Happy barth day to you♪Happy barth dear…』
名前の部分の意図的な空白。
火をつけた男はただ黙ってケーキを睨んでいる。
『Happy barth day to you♪』
男は何も言わずに蝋燭を吹き消した。
その顔は最後まで見えなかったが…何故か、私には泣いてるように見えた。
「ADVENT AGEIN」
1
『高校生活を振り返って』なんて作文を書かされたことはないだろうか?
高校生活の部分を何に置き換えてもいい。
小学校生活でも中学生活でも部活動でも入社一年目でも今日の授業でもいい。
書いててこう思ったことはないだろうか?
『こんなんに1000字も書く事ねえよ』、と。
別に字数はなんでもいいんだが、少なくとも俺は有る。
中身があるだかないんだか分からん授業や、たいして目的がある訳でもない生活に書くことなんて大体中身があるだかないんだかわからないものになるし、とっ散らかったものになる。
じゃあお前はそれが原因で今、教師に連行されてるのか?と、聞かれると実は違う。
書けることが少ないのだ。
書くことが、じゃあない。
自慢じゃないが、この俺、満坂栄喜はかなり刺激的な高校生活を送っているし、確固たる目的もある。
だがそれらはとても出ないが人様にお見せできるようなものではないのだ。
まあ、とは言え、マトモな作文を出さなかったこと自体は咎められるべきと理解してるのでこうして甘んじて連行されているのだ。
だが……
「
特別棟の四階って空き教室しかなかったすよね?
説教なら生徒指導室で良いじゃあねえっすか」
俺は前を歩く担任にして生活指導の平塚に思ったままを訪ねた。
すると平塚は視線だけをこちらにやり、
「説教だけならな。
お前たちには教師を舐め腐った態度をとれる根性を矯正すべく、
奉仕活動に従事してもらう」
と、言った。
妹から聞いて存在自体は知っていたが、どこの学校にも問題児を囲っておく用の部活やら委員会やらがあるらしい。
流石に自分がたった一回の作文の不備で入れられるとは思わなかったが。
「満坂のような面白おかしい敬語を使ってる奴ならともかく、私もですか?」
平塚に鋭く返した隣を歩く彼女はC組の仲田真澄。
我が総武高校二年生なら知らぬ者の居ない有名人だ。
生まれつき色素の薄い白に近い金髪と白過ぎる肌、薄紫に近い瞳の彼女は妖精のように美しい。
定期試験では常に全科目10番以内をキープし、スポーツも万能。
どのグループにも属しないにも関わらず発揮される誰も近寄らせぬ存在感から『総武高二大クールビューティー』の一角として羨望と嫉妬の眼差しを向けられる傑物だ。
「俺、仲田さんみたいに教師を遠慮なくこき下ろしたりしませんけど?」
しかも誰にも物怖じしない。
セクハラ紛いの発言をした教師をボロカスに貶して心を追ってやめさせたのは今や伝説として語られている。
そんな超問題児と同列に扱われるのは流石に遺憾である。
「無自覚か。これは想像以上に厄介だな。
だが、あいつらも張り合いがあるだろう」
仲田、そして俺の顔を見ながら平塚は溜息混じりに言った。
どうやら顔に出てたらしい。
にしてもあいつらとは誰だろう?
「邪魔するぞー」
ガラガラと無遠慮にドアを開けて中に入る平塚。
それに続いて気にせず入って行く仲田に続いて俺も中に入った。
間取りは下の階の同じ位置の部屋と変わらない。
長椅子とパイプ椅子が並べられていて、
右側奥に女子生徒が、入口手前に男子生徒が1人づつ座って文庫本を読んでいた。
「先生、前回もノックをしろとお願いしたはずですよね?」
本に栞を挟んで立ち上がった女子生徒がジト目で平塚を見ながら近づいて来た。
「ノックをしてお前が返事をしたためしがあったか?」
「ないでしょうね。
いつもあなたがそれより早く入室してますから」
ところで後ろの2人は?と、続けた彼女に平塚は
「C組の仲田真澄とF組の満坂栄喜。
入部希望者だ。」
と、紹介した。
「奉仕活動を命ぜられた覚えは有っても志願した覚えはないんですが?」
仲田の反論にそれを聞いた現在絶賛蚊帳の外の男子生徒がどこかげんなり、と言ったような表情をした。
もしかしたら、彼も同じ境遇なのかもしれない。
だがこんな顔するほどの事をやらされるのか?
と思うと警戒もするし疑問も湧く。
「奉仕活動…入部?
ボランティア部なんてウチのガッコにありましたっけ?」
「新設の部活だから知らなくて当たり前ね。ここは奉仕部よ」
「奉仕部?」
「ええ。持つ者が持たざる者に慈悲の心を持ってこれを与える。
人はこれをボランティアと呼ぶの。
途上国にはODAをホームレスには炊き出しを、
持てない男子には女子との会話を。
困っている人に救いの手を差し伸べる。それがこの部活動よ」
平塚の代わりに答えた彼女は堂々と答えた。
部員定数五名に達してない。とか、
相談窓口を自称するならこんな辺境域に部室を構えるなよ。とか、
言いたいことは色々あったが、それを聞いた仲田が
「はっ!」
と、鼻で笑ったせいでそれを言う機会は失われた。
俺を挟んで仲田を睨みつける彼女には突き刺さる冷気、否、凍気の様な攻撃性があったからだ。
残念ながらここで余計な口を聞けるだけの勇気はない。
「で、アンタはその奉仕部のリーダー様って訳かい?」
が、どうにか会話を続ける事は出来た。
すぐ切り替えた彼女は俺に手を差し出しながら柔らかに言った。
「部長の雪ノ下雪乃よ。歓迎するわ」
「ああ……よろしく」
握手を交わしながら俺は雪ノ下を観察した。
『総武高二大クールビューティー』の一角にして苛烈極まる仲田真澄とは対極の孤高の美人。
全教科一位の座を入学当初から守り抜き、帰国子女だけが集められるJ組でも一際目立つ才女様。
顔は知らなかったが、なるほど。
化粧っ気が全くないのにこんなにも美しいのだ。
総武に来るまでに100回は告白されてるとかいう噂もあながち嘘じゃないのかもしれない。
「あー、どこか適当に座っても?」
「ええ、どうぞ」
俺は相変わらず会話に入って来ようとしない彼の二つ隣の席に座り、リュックを降ろした。
彼とは同じクラスの筈だが、会話した事は一度もないな。
なんて思いながら上着から取り出したスキットルを煽る。
「登山の趣味でもあるの?」
「いや、単にポケットに入れれるサイズってだけ。」
珍しいものを持ち歩いてると対して関わりもない奴に話しかけられることもある。
俺はお決まりの返事を返すと、ドアを開ける音がした。
見ると仲田が帰ろうとしていた。
「どこに行くつもり?」
「御大層な売り文句並べてやってる事本読んでるだけだろ?
私が居る意味あるか?」
「あるわ。依頼がいつ来ても良いように待機。
その間何をしようと自由だけど早退は認めないわ。」
凍気なんて涼しい風とばかりに仲田は不敵に笑うと
「はっ!温いな。目標だけいっちょ前に掲げて受け身かよ。
私のあのニコ中女への態度なんぞよりお前の甘ったれたスタンスの方が問題なんじゃないか?」
と言ってみせた。
当然、そんな事を言われた方は……
「なんですって?」
悍ましい凍気を発しながら立ち上がる。
俺と彼が息を呑んだのは同時だった。
雪ノ下と指定カバンをその場に置いた仲田はゆっくりと距離を詰める。
「もっと分かりやすく言ってやろうか?」
「ぜひお願いするわ。
もっともそれがただ単に私を煽りたいだけじゃなければだけど」
思わず何度も視線を合わせてしまっては再び女子二人の方を向くを繰り返す俺ら。
そのまま触れそうなほどの至近距離で罵倒の応酬が始まるかと思われたが…
「待て待てお前ら、五分もたたずに何をやってる?」
あまりにも良すぎるタイミングで平塚が入室して来た。そして2人の間に立つ。
「センセ―もしかして外でスタンバってました?」
「そんな訳が無かろう。
ただ単にお前と仲田の分の入部届を持ってっ来ただけだ。
だがそうだな…古今東西、意見がぶつかればバトルで解決すると相場が決まってる」
「いい歳してフィクション観ジャンプコミックスで止まってて恥ずかしくないんですか?」
仲田の煽りに裏拳を繰り出さす平塚。
だが仲田は体を逸らして簡単によけて見せた。
平塚ら一瞬驚いた後、拳をそのまま口元に持っていき誤魔化すように咳払いをした。
「しばらく依頼は私が斡旋しよう。
その依頼をお前ら四人で達成して、最も貢献率の高い者を最終勝利者とする。
というのはどうかな?」
「え?俺と満……坂?もですか?」
「当然だ。お前も奉仕部の一員だからな」
彼はまさか自分も巻き込まれるとは思ってなかったかのように本気で動揺している。
馬鹿なのか?
何故そこで巻き込まれないと思ったんだろうか?
「おいおい。
初めて会話したとは言えクラスメイトの上の名前ぐらい覚えててくれよ。
ヒキタニ君。」
「ヒキガヤ」
「え?」
「俺の名前は比企谷だ」
「………」
沈黙が教室を支配した。
平塚も仲田も雪ノ下も若干避難するような目を向けている。
「…すっげぇごめん。」
「いや、いい。
教師以外大半の連中に間違えられてるし」
「と、ともかく!勝負方法に異存はないな?」
「ありまくりですよ。
その勝負、私に何の旨味があるんですか?」
私に、と言うあたりこの女の性根が分かる。
「そうだな…当然常識の範囲でだが、
負けた奴らにそれぞれ一回だけ何でも言う事を利かせられるというのはどうだ?」
平塚としては一番妥当な副賞を挙げたつもりなんだろう。
だが、その条件に物凄く覚えのある俺はちょっと驚いた。
見ると仲田も同じような顔をしており、比企谷は、苦虫を噛み潰したような表情をしている。
「どうした比企谷?
随分と自信なさそうだが……」
「別に……」
そう言ってそっぽを向くのと同時だっただろうか。
突然耳鳴りのような甲高い音が響いた。
窓を見るが何も映っていない。
「比企谷?」
「すいませんトイレ行ってきます!」
そう言うと比企谷は席を立ちあがり教室を駆け出ていった。
へー、比企谷君もそうなんだ。
2
俺は男子トイレにかけこむと鏡の前に立ち、ポケットから取り出したカードケースを掲げる。
鏡の中から飛び出した銀色の光が腰に巻きつき、奇妙なベルトに変形。
俺は右手を左斜めにまっすぐ突き出すポーズを取り、
「変身!」
バックルにカードケースをセット。
無数の灰色の残像が重なり、俺は仮面ライダー龍騎に変身した。
俺は龍騎の横向きの格子戸のような仮面が嫌いだ。
騎士風だが拷問器具のようにデカくて重い。
その上塔に閉じ込められた者につけられる外れない呪いの仮面に似てる気がするからだ。
まるで終わらない契約を暗示しているように見えるからだ。
「ふっ!」
しかし文句ばかり言ってもやらなければならない事は変わらない。
鏡に頭から飛び込むと、俺は鏡張りのトンネルのような場所に出る。
そしてそこに止めてあったバイク、ライドシューターに乗り込み、ハンドルについたカードトレーにベルトのケースから引き抜いたカードをセットする。
エンジンが入ったのを確認すると思い切りアクセルを吹かした。
3
トンネルの様な空間を抜けると、相変わらず気持ち悪い左右反転した文字通りの鏡の世界に出た。
見た感じ、どこかのスタジアムの外側。
ライドシューターを降りてしばらく歩くと、目当ての奴らがいた。
「蜘蛛型か…」
2本の柱の間に巨大な蜘蛛の巣を作り、引っ付く二体の怪人がいた。
ミラーモンスターと呼ばれる連中だ。
主食は人間。
一度入れば変身しない限り決して出れない鏡の世界に引き摺り込み食らう。
そんな化け物を退治しなければならない。
左腕に着いたガントレッド型の召喚機、ドラグバイザーの蓋を開け、ベルトにセットされたカードケースからカードを引き抜き、装填。
『STRIKE VENT』
どこからか飛来した龍頭型の手甲、ドラグクローを装備する。
正拳突きの構えを取り、拳を繰り出すと同時に龍の口を模した部分から放った炎で巣を焼いた。
自らの巣の意図に絡まって炎上する蜘蛛型2体。
片方は炎から抜け出せず弱るら出したが、脱出した片方は怒りの方向と共に突進して来た。
「はぁ!」
もう一度火炎攻撃。
しかし今度は避けられて蜘蛛糸を吐きかけられた。
クローで受けるが、開閉部分に糸が絡みつきもう使えない。
「ふっうううう!」
使い物にならなくなったドラグクローを投げつける。
避ける蜘蛛モンスターだが、その隙に新たなカードをバイザーに装填するのが目的だ。
『SWORD VENT』
柳葉刀型ドラグセイバーを召喚。
蜘蛛モンスターの打撃をよけながら顔、スネ、頭と的確に狙って振り下ろす。
そして膝をついたところを顔面を蹴って距離を置き、バイザーにまたカードを装填。
『FINAL VENT』
蜘蛛型モンスターを跳ね飛ばしながら飛来したドラグレッダーが俺の周りを旋回する。
「はぁああああ……ッ!」
両腕を回しながら腰を大きく落とし、ドラグレッダーと共に飛び上がる。
空中で体を捻り、右足キックの構えを取る。
「はぁあああああああああ!」
ドラグレッダーの炎ノブレスに押し出された俺は炎の一矢となってモンスターに飛んで行く。
必殺のドラゴンライダーキックを受けた蜘蛛モンスターは地面をえぐりながら吹っ飛んだ先で大爆発を起こした。
「その調子だ。戦え」
「!?」
ガサガサと耳に触る掠れた声にふり返る。
鏡で出来た仮面をかぶった奇妙なコート男が立っていた。
春だと言うのに全く肌を露出させていないそいつは全く感情の見えない口調で続けた。
「戦い続けろ比企谷八幡。
仮面ライダーは、戦わなければ生き残れない。」
そういって男は黒い靄状の何かになって消えてしまった。
全く訳が分からない。
この世界も、この力も、奴がなんなのかも、戦う意味も。
やり切れない苛立ちに俺は思わず地団駄を踏んだ。
いかがだったでしょうか?
機会があったり好評だったりしたらたまにやりたいと思います。