「突然ですがッ」
ドドドーンと謎の効果音が何もない真っ白な空間に広がって木霊する。それと同時にホワイトボードを持った目の前に佇む羽の生えた彼女がボードを裏返した。
「あなたは死にました。ザ・エンドです」
真っ赤な文字に真っ暗な余白。恐ろしげに描かれたその文字は俺がようやく死に伏したと知らせていた。てか────……
「……それを言うならザじゃなくてジでは?」
ようやく声の出せた俺の体。見たところ肉体はすでにないようでうっすらと透けた光の球体が今の体らしい。多分魂か何かなんだろ。
「────」
羽の生えた彼女……多分天使か何かは自信が掲げていたホワイトボードを裏返し、シュバババッと風のなる音がするほどに素早く書き換えた。何事もなかったかのようにトボケ顔を晒し、「あ、なんでもないですよー」的な感じで元に戻した時にはその修正痕が丸見えで「もしかしてコヤツ、とびっきりのバカなのでは?」と俺を悩ませた。
「さぁーて、気を取り直して────さん」
────。俺名を言っているんだろうが何故か変に濁ってその部分だけ聞こえない。何故だろう。別に名前に未練とかそう言うのはないけれど地味に気になる。
「あなたは人生を無事真っ当し、死にました。それは把握していますか?」
「はい、そこら辺は大丈夫です」
俺は病院のベットの上で死んだ。死因は────。友達が陥った命の危機を庇った結果出来てしまった傷が原因で発症したそれは若かった俺の体を蝕み、そして死につかせた。別に未練や後悔があった訳じゃない。俺の行動の結果、一つの命を犠牲して複数の命が助かったんだから万々歳なんだからな。
「それにしても運が悪かったですね。────が発症するだなんて」
「ですね、俺もそう思います。だけどもそのお陰で未知であった────の秘密が解明されて、俺の体から得られたデータでワクチンが作られているはずですからそう悪かったとも思いません」
「おぉー、今時珍しいほどの自己犠牲の精神ですねぇ。この空間では嘘がつけないので全て本音って所が私、好きです」
へぇー。やっぱりここは特別な空間なんだ。通りで何もないと……
「っごほん! 家具が何もないとか"コイツ、友達いるのか? "なんて疑問はどうでも良いのです」
フュー、心が読めるのか、はたまた過去に言われた事があるのか。俺の今思った事をズバリ当ててくるだなんてこの人? 只者じゃねぇ。まぁ、わかってたけど。
「それでは────さん。自己紹介といきましょう」
彼女は羽を広げ、ゆっくりと輪っかの乗った頭を下げると背後から逆光が解き放たれた。うぉっ、眩しッ!
「私は女神、名はありませんが気安く女神ちゃんと呼んでくさい。今回はあなたを転生させる為に顕現しました」
そう彼女は言っていたみたいだが……今の俺には聞こえてねぇ!
「…? どうしましたか?」
頭を傾げ、そのままの状態をキープする女神。俺はそんな彼女の前で閉じれない視界で強烈な光を捉え、悶えるのみであった。
「眩しいなら眩しいとおっしゃってください。私が馬鹿みたいじゃないですか!」
違います、貴方は馬鹿なのです。
女神からの光、通称女神光線から解放されたのはあの後すぐであった。抑えれない眼球の幻痛に堪えきれなかった俺は数分間バタバタとその場を駆け回ったと思う。むぅ、魂の体となった影響か堪えが効かなくなってやがるぜ。
「もう……それでは元気になりましたね?なりましたよね! だったらはい!立って立って」
いや、元々から俺ってば二足歩行じゃなくて浮遊物だったんですけどーーーーって聞いてない、か。
床で跳ね回ってた俺はヨロヨロと立つ?と女神はゴホンと咳払い一つ落とし、話を続ける。
「ゴホン、それでは話は戻して。率直に言いますと貴方は命を賭け、人生を賭けた博打を打ち、それに勝利。その結果、ーーーーに苦しんでいた沢山の命が助かる事となりました。今回は最高神がその功績が評価し、1番の功労者であり賭けを行った張本人であるーーーーを転生させる事となったのです」
なるほど、俺は賭けに勝ったのか。てか、それよりも神様の世界も縦社会なのか……苦労してるんだろうなぁ。
「……何故この説明で私に向かってそのような同情の目が向けられるのでしょうか……謎です」
相当苦労してるんだろうなぁ、この名無しの女神。
そんな俺の思いも蚊帳の外。女神はバサッと翻すように羽を広げ、俺の身の丈ぐらいありそうな杖を掲げるとーーーー不思議な事が起こった。
突如として空間に亀裂が入り、光が漏れ出したかと思うとそれは崩壊。大理石だと思われる石作りの、凱旋門にも似た建造物が姿を表す。
「これが転生の門、貴方がこれから潜る道です。そして潜った先には貴方の新たなる人生が待っているでしょう。それとご安心を。その年で赤ちゃんプレイは一部の例外除き流石にキツイと思うので記憶を取り戻し、貴方として目を覚ますのは3歳になってからと設定しておきましたので」
無駄に気が利く女神が開けた門は大きく、そして底なし沼の如く漆黒に視界染り先の見えない。そんな中、俺はその空間へと一歩踏み……出せなかった。
「ーーーーッ!」
門の中は床はなく、気付いた時には俺の体?は真っ逆さまに落ちて落ちて落ちて行く。その結果、俺の意識は遠のき暗闇に包まれ……次に目が覚めると。
「美雲、何寝ているの。今日は一日ボイストレーニングでしょ? ついてらっしゃい」
「カナメちゃぁぁーん! カナメちゃんの大好きなパパが帰ってきたよぉ〜!!! あ、おねむの時間だったかな? ご、ごめんねぇぇぇぇぇぇ!!!」
「おい、マキナ。このCADの調整がまだ甘いぞ。そんなので本当に魔法技師になるつもりか? ……って、居眠りしてたのか?」
「れ、レイナちゃん。突然電池が切れたみたいに眠ってたけど大丈夫? お母さんと一緒に魔剤キメとく?」
「おいフレイア! お前の母ちゃんがアップルパイが出来たってよ! 眠ってないでさっさと買いに行こうぜ!」
5つの光景に5つの愛。それらが俺の誕生を出迎えていたのであった。
ってか、転生じゃなくてある意味の憑依してんじゃん。女神よ。3歳になったら目覚めさせてくれるって約束、どうなったのだ。そう俺は訝しんだ。てか、この体。マクロスのキャラじゃね?