春咲き香暖かい日の光の下、一組の男女が何と言うかその……────カップルのような会話をしていた。
「────! ────―」
「────、────―」
黒髪で長髪の女の子が笑いかけ、見るからに不器用と人相で分かってしまう男がそれに困ったように眉をほんの狭めてそれでも楽しそうに会話を続ける。そんな男女は道端の真ん中で何をしているんだろうか……会話の聞こえない生徒は男の方をへと目を向けた。そしてその肩や胸にあるはずの八枚の花弁が無い事に侮蔑の言葉を吐きつけるがその中で1人、そんな差別用語を繰り返す生徒の中で異質な雰囲気を放つ女子生徒がいた。
「へぇ、何だか面白そうじゃない」
一歩一歩と近付く女子生徒。紫色の髪を靡かせ、余りにも自然に。まるで意識外の世界に入ったかの如く、女子生徒は〈〈誰にも気付かれず〉〉男の背後へ忍び寄ってしまった。
「ねぇ、貴方達。もしかして……付き合ってるの?」
これが司波達也及び司波深雪との最初の出会い。そして────
「────ッ!?」
「────お兄様ッ!」
──―最悪の出会いでもあった。
※※※
面白そうな相手と思って話しかけたら、キレイな背負い投げされかけタンゴ。最近の若者は気が短くてヤァーネ。
「……いきなり背後から話しかけるだなんて礼儀が成っていないんじゃないか?」
「あら、ごめんなさい。でも、そんなレディを気前よく受け止めてくれるのが殿方の役目じゃないかしら?」
何故か雰囲気は一触即発。相手は懐へと直ぐに手が出せるようにしているのか油断しているようで隙が無い。
うん強者かな、強者だな、強者だ。(謎の三段活用)
俺も何時でもCADが機動出来るようにするけど……ハァ。流石にこんな所で自己防衛以外で魔法を行使する訳にはいかないし、どうしたものか。
「えっと、貴方は──―」
おっと、警戒心バリバリの男と一緒にいる彼女らしき女の子が流れを変えてくれる気がするぞ。この流れ、乗るしかあるまい。
「私は美雲、美雲・ギンヌメール。よろしくね────」
あ、ってかこの子って俺が辞退した新入生総代を代わりに努めてくれる子ジャァーン。確か名前は──―
「────司波深雪さん」
ホント助かるよなぁ、あんなメンドクサイ事を代わりに受けてくれる人がいて。あ、って事は一応お礼を言っておかないと。それにこの無駄に殺気を送って来て中々に気絶しそうな程怖い殿方の名前を聞きたかったけど、こんな雰囲気じゃ無理そうだね。此処は大人しく退散しますか。
「お互い、楽しい学校生活にしましょうね」
ヨシ、楽しく話せたな。
俺はそんなルンルンな思いで思わずスキップを踏みそうになりながら始業式の会場へと急ぐ。既に他の俺は会場入りしている。さぁ、始めての全員集合だ。楽しみだぜ。
※※※
2096年4月8日。
心地の良い春風に吹かれながら俺達はこの魔法科高校────国立魔法大学付属第一高等学校へと今日に入学する。
特に問題も無く、予定道理に事は進む────はずだった。
「私は納得いきませんッ!」
────深雪の癇癪さえなければ。
「なぜ、何故お兄様が補欠なのですかッ!」
心底不満そうに俺へと訴えかけてくるこの女性、名を司波深雪。俺の妹。そして俺の名は司波達也、この子の兄だ。
「入学の成績はお兄様がトップだったじゃありませんか、本来ならお兄様が……」
「深雪」
深雪も承知しているだろう。此処ではそんな事では評価されないと。
「ここではペーパーテストより魔法実技が優先されるんだ。補欠とはいえよく一高に受かったものだと──―」
「そんな覇気がない事でどうしますかッ!」
そう言われても本気でそう思うのだが。……何処か間違った事を言ったか? 深雪はそんな俺の考えを他所に言葉を続ける。
「勉学も体術もお兄様に勝てる者などいないというのに、魔法だって本来なら────」
────少し、話過ぎだな。
「深雪!」
「────ッ」
良かった。深雪も気付いてくれたんだな、えらいぞ。今日の夕食は深雪の好物を用意しなくては。
「ンンンッ、深雪。それは口にしてもしかたのない事なんだ。わかっているだろ?」
「も、申し訳、ございません」
……カメラを持って来てない事を今日ほど後悔したことはない。貴重な深雪の気を落した顔……仕方ない、心のスクリーンショットで済ましておこう。永久保存版だ。それはともかく、気を落した深雪のご機嫌を取り戻さなくては。
「……ぁ」
深雪の頭を撫でると沈み込んでいた顔色が一気に明るくなった。それにしても深雪には感謝しなくてはいけないな。
「────お前は俺の代わりに怒ってくれる。その気持ちは嬉しいよ。俺は何時もそれに救われているんだ」
今の俺ではそんな事出来ないからな。深雪には感謝が尽きない。
「……嘘です」
……? どういう事だ、俺は深雪に嘘だなんてついた事は一度もないぞ。
「お兄様は何時も私を叱ってばかり……」
────なんて事だ。深雪はそのように何時も考えていたのか。これは何としてでも弁解しなくては。
「うそじゃないって。お前が俺の事を考えているように、俺もお前の事を思っているんだ」
「あ……」
よし、完璧に弁解出来たな。その証拠に深雪は目を煌めかせながら顔を赤くさせ────待て、何故顔を赤くしている。
「お、お兄様。そんな……」
────ッハ! わかったぞ。恐らく深雪はきっとあの日なんだ。俺の把握していた予定よりずいぶんと早いが……これは口に出しては言えないな。
クルリと回って俺から離れると背を向けながらふらふらと……っく、俺はこんなにも深雪に無理をさせていたのか。
「想っているだなんて──―」
どうするか。此処は素直にストレートで────いや、それは流石にストレートはセクハラ過ぎるか。オブラートに包むにしても、一体どうやって 聞いたモノか……
思考はループへと至り、それでも俺は考え続ける。っく、せめてここが屋外ではなく家の中だったら。まだ状況はマシだっただろうに────
そう俺は考え始めようとした、その時────
「ねぇ、貴方達。もしかして……付き合ってるの?」
聞えるはずの無い背後から俺は、声を掛けられた。その声に込められた殺気は相当。確実に俺の命を────
そうありえない考えへとズレた途端、俺は反射的に背負い投げに近い動きをしていた。俺の格闘技の師匠である忍術使い、九重八雲にも効果がある背負い投げだ。やってしまったと気付いた時にはもう遅く、確かに背後へ忍び寄った者の手を掴み────掴めなかった。
「ッ!?」
信じられない事だ。このような事を軽々しくできる相手と言ったら限られた人間しかいない。そして事前に調べ、そのような事ができる者と予想されるのはただ1人。
警戒心を全快に、実戦の如くいつでもCADを取り出せるように素早く振り返る。するとそこには俺の予想通り、俺の作ったブラックリストの頂点に君臨する危険な存在がいた。
「……いきなり背後から話しかけるだなんて礼儀が成っていないんじゃないか?」
美雲・ギンヌメール。魔法界に突如として現れた天才にして天災。現代魔法でも古代魔法でもない。まったく新しい分類の魔法────音響魔法を創り出してしまった異端児だった。
音響魔法。それは既存の魔法式を一切使わず、全て音で構築する特殊な魔法だ。先天性スキルにも似た魔法であり魔法式その物を音のみで作り出し、まるで歌っているかのように魔法を扱うと言う。話によると現代魔法の系統魔法の一つである振動を元に作られているらしいのだが、詳細は今なお明らかに成っていない。ただ一つわかっている事と言ったら過去、今では非公式となったロシアから侵攻攻撃時に徴兵された際に見せた戦略級魔法のみ。映像で確認した際に見たその魔法は発動されると戦場に美しい歌が響き渡ったらしい。そして全てのサイオンが拡散、消失した。
「あら、ごめんなさい。でも、そんなレディを気前よく受け止めてくれるのが殿方の役目じゃないかしら?」
その時の担当官が言っていた。あれは非殺傷でありながら下手な戦略級魔法より残酷であり、そして非道だと。その対象に区別なく、恩情なく。その魔法は敵味方関係なく体内外問わず、全てのサイオンが消滅してしまう魔法。その魔法を受けた者は二度とサイオンを再生する事は無く、全ての魔法士の努力を無に返すような残酷な魔法だった。そんな相手が今回の相手。少しでも油断しようなら────殺される事は想像に固く、ない! 一触即発な雰囲気。そんな中、深雪は一歩前へと踏み出した。
「えっと、貴方は?」
……アチャ。そう言えばブラックリストを深雪に見せるのを忘れていたな。これは俺の失態だ。生き残れたら深雪に真っ先に見せなくては。
そんな深雪の疑問に彼女は眉一つ動かさず、でも何処か笑っているかのよう。
「私は美雲、美雲・ギンヌメール。よろしくね────」
自己紹介はごく自然と行われた。それはまるで当たり前かのように、それはまるで全てを分かっているかのように。
「────
────ッ! やはり全てわかっているのかッ!
深雪がナンバーズであり、苗字や戸籍を変えてここにいる事をッ!
「お互い、楽しい学校生活にしましょうね」
そう言い残して彼女は去った。俺の中に疑問を残して────
「えっと、なんだか楽しそうな女性でしたねお兄様」
「……深雪はもう少し警戒する事を覚えようか」
・司波達也
何故か本編より若干ポンコツと化している超最終兵器⭐︎O・NI・I・SA・MA⭐︎
始業式早々にヤベェ事をやらかしている要注意人物、美雲と出会ってさぁーたいへん。
命の危機を感じながら話していたら軽い自己紹介のみで終わり、頭の中が困惑しか湧いてこなかった。
無自覚で重度のシスコン。
・司波深雪
ポンコツ具合は本編さながら。しかしここの深雪はもっとポンコツだゾ。
始業式早々自分が今からやる新入生総代を押し付けてきた相手に出会うが、ンンンンンン気付かない、気付けない。
結局自己紹介されても気付けぬまま去っていったその姿を見て、直感的にいい人だと気付いた。……鋭いのか鈍いのかよくわかんなぁ。
・美雲・ギンヌメール
お前まじ何やってんのッ!?
いつの間にか新種の魔法を創り出して、かなり外道な魔法をぶっ放していたやらかしの化身。
今回はその鈍さを遺憾無く発揮して、一番刺激しちゃいけない人物の地雷原でタップダンスを踊っていた。