放課後、ホームルームが終わったというのにA組の大多数が教室に残っていた。戦闘訓練においてのかっちゃんとの激戦を制したイズクの帰りを待っているのだ。
教室中から、今日の戦闘訓練の反省と検討を行う声が聞こえてくる。かくいう俺も、ペアになった葉隠に連れられ尾白や轟といった葉隠の一戦目のメンバーに混ざって反省会に参加している。
「やっぱり轟の氷結から逃げるのが必須だよな。源、お前はあれどう抜け出したんだよ?」
「あれは俺の個性だよ。端的に言えば、ものを壊す個性なんだ」
「なるほど。氷の足枷を捕らえられてから壊せるのは源以外だと……」
「爆豪くんとか、緑谷くんだよね!」
「俺のしっぽじゃ壊しきれないし、凍結の瞬間を見極めて空中に逃げるしかないのか……?」
こういった具合なのだが、やっぱり他人視点での意見というのは役に立つ。俺の【直死】はかっちゃんや轟といった強力な発動系の個性に比べて、線を断つ分ワンテンポ遅れる。個性を使うタイミングが難しいところがあるからな……。
この反省会もある程度経つと反省会というより感想を言い合う会に変質していく。かっちゃんは実益のある内はなんだかんだで参加していたが、これ以上いる意味がないと判断するとさっさと帰っていってしまった。
「反省会をする分にはいいけどよ、デクを待つって言い訳して時間を浪費する程暇じゃねぇんだよ」か。周りはまだ感じ悪いと思ってしまうところがあるようだが、あれもかっちゃんの味で参考にすべきところだ。ああ見えて冷静で合理的だからな。
「おぉ緑谷きた! おつかれ!」
かっちゃんが教室を出るのと入れ違いで、イズクが教室に現れた。
俺もイズクを出迎えたかったが、クラスのコミュ強たちに先を越され、俺は椅子から中途半端に腰を浮かせることしか出来ないのだった。
「いや何喋ってるのかわかんなかったけど熱かったぜオメー!」
「よく避けたよー!」
「俺! 砂藤」
「源は行かなくていいのか?」
「俺はどうせ帰り道一緒だし」
障子がその触腕の口で俺に聞くのだけれど、あの光の中に飛び込んでいけるほど俺は陽の者ではないんだ……。
せめて帰り道で存分に褒めてやろうと一足先に荷物をまとめるのだが、イズクはそんな俺よりも先に帰ってしまうのだった。
「一緒に帰るんじゃなかったのか?」
「……別に、高校生にもなって一緒に帰るやつなんていないし」
「帰りはJRか? 同じ便には乗れると思うぞ……?」
オールマイトの死
「何だそりゃ。お前の個性が借り物? ワケわかんねえこと言って、こけにしてんのか!?」
障子の言う通り、鉄道の同じ便には乗れるだろうと少し遅れて教室を出たのだが、俺は玄関の靴箱でかっちゃんの叫びを聞いた。
かっちゃんはもう帰ってるはずなんだけど、イズクが追い付いて引き留めたのか?
その予想は合っていた。玄関ガラス越しに見るとかっちゃんが怒鳴ってるのは案の定イズクだった。
「氷のやつみて敵わねぇんじゃねぇかって思っちまった!
ポニーテールのやつの言うことに納得しちまった!
なあ、てめえもだ、デク!
こっからだ! 俺はここで一番になってやる!!」
かっちゃんの慟哭、慟哭か?
まあいい、その叫びはかっちゃんの高いプライドと、傷つけられても折れない、ヒーローへの思いがよく伝わって来るものだった。
この年齢的なものもあるのかもしれないが、俺はどこか大人ぶってるというか、斜に構えてしまっているところがある。この個性に絶望したこともあって、かっちゃんだけでなく周りのひた向きにヒーローを目指しているやつらが異様に羨ましく見えるときがある。
「……かっちゃん。俺も一番は狙ってるんだからな」
とはいえ俺がヒーローを諦めるという話ではない。俺はそんな俺を受け入れて、それでもヒーローを目指すと決めたんだ。アルクェイドさんが、俺の眼を呪いから個性に戻してくれたから。
どこからか現れたオールマイトがイズクと話している。あまり大きな声ではないのでよく聞こえないが……。
「話……のか。……君の個……たし……つい…もの……」
飛び飛びの言葉の間を予想する。
君のこ………たし……つい…もの。
君の個性は…たし……つい…もの。
これは聞いていい話なのか? 嫌な汗が流れた。
君の個性はわたしからついだもの。
「君の個性は私から継いだもの……っ」
オールマイトは既にイズクとの話を終え、その馬鹿げた身体能力で飛び上がって校内に戻っている。
オールマイトに聞いてみるか……?
怯える心を、杞憂に違いない、聞き違いだと言い聞かせているにも関わらず、俺の足は職員室へと向かっていった。
廊下の電気が消えて、扉の隙間から漏れる職員室の光が眩しい。俺は扉を開ける決心がつかないでいた。
取っ手に手を伸ばして、引っ込める。その動作を何回も繰り返していると、突然扉が開かれた。
「む、君はA組の……」
「ブラドキング……先生」
扉を開けたのは操血ヒーロー、ブラドキング先生だった。コスチュームではなくスーツだが、何度かテレビでもみた有名人だ。
「どうしたんだ? 誰かに用か?」
「あっ……えっと、その、オールマイトに」
「オールマイトか? オールマイト、A組の子が呼んでますよ!」
……答えてしまった。俺の心臓が嫌な鳴り方をしている。
すぐにオールマイトが出てきてくれた。あからさまに様子がおかしい俺を気遣ってくれているが、正直なんて言ってるかが意識に入ってこない。
俺は一言絞り出すので精一杯だった。
「……ここじゃ話しにくいです」
「そうか? なら会議室を少し借りようか」
オールマイトが、会議室の大きい長机越しに座っている。テレビで見ていた、そして学校でも見る笑顔は健在だ。
「それで、何の用かな?」
俺は答えられない。
ここまで来てしまったんだ。腹を括れと自分に言い聞かせる。しかし、言葉に出来ない。
「もしかして私がなにかしてしまったかな? それとも、クラスメートとのことかな? ………………どうしよう」
オールマイトも困っている。
たった一言でもいい。オールマイトならそこから色々聞いてくれて、コミュ障でも話しやすい流れ作りとかいうやつをしてくれるはずだ。
そして俺は言った。
「オールマイト、イズクの個性は貴方のものなんですか……?」
「っ!?」
「玄関で……。あの、聞き間違いだったらそう言ってください。けど、オールマイトの死期は、終わりはすごく近く見えます。もしかしたら、イズクが貴方の後継なのかなって」
オールマイトの線はよく見える。どこを触っても殺してしまえそうだ。
そして、脇腹。そこには線ではなく、点が見えた。これまで一度も線ではなく、死そのものとすら思える点が見えたことなんてなかったのに。
これは俺の個性が強くなっているのだろうか。いや、使えば使うほど個性は強くなると言われるが、この点は違う気がする。
いわば、まだ見えるはずのないものという感じがする。もっと個性を磨いた先で、本来の【直死の魔眼】で見えるはずのものが、今は見えるはずもないものが見えてるといった感覚だ。
「点が見えるのは、オールマイトがそれだけ弱っているからなんじゃないかって」
長い、沈黙。
そして
「これは隠し通せないなぁ……」
そういうオールマイトの表情は俺の知るどの顔とも違って、弱々しい、諦めたような顔だった。俺はその顔を見て、知ってはいけないことを知ったことを実感したのだ。
オールマイトは語った。
俺の予想は的中していたとだけ言っておこう。
(アーキタイプ・アースが実装されたのでやる気を出しましたとは言えない。月姫コラボで配布SR遠野志貴 殺も待ってる)