初投稿ですが頑張ります。
「母さん!母さん!」
少年はひたすら叫びながら倒壊した家の下敷きとなった母親を助け出そうとする。しかし、瓦礫は少年の力では持ち上がらない。
どうしてだ。どうしてこんなことになった。周辺では少年の家同様、多くの建物が崩れ落ちていた。建物を破壊しているのは謎の白い生き物だった。突如空に穴が開き、そこから白い生き物が現れた。その生き物はうなり声をあげながら街を破壊していく。
嫌な予感はしていた。その日の朝から少年には謎の悪寒がしていた。少年は昔から勘がよかった。第六感とでもいうべきなのだろうか、とにかく朝から嫌な予感がしていた。後にその勘の良さは直感と呼ばれるサイドエフェクトだということが判明するが、当然その時の少年にそんなことはわからなかった
今日は外出せず家にいたがいい。
少年は母親にそう告げていた。なんなら自分や妹達も家にいたほうがいいと思っていた。しかしその日は平日であったため、当然学校に行かねばならない。なら、学校が終わったらすぐに帰ってこいと妹たちに告げた。二つ下の妹は友達と約束があるのにと不服そうに告げ、五つ下の双子の姉弟は不思議そうな顔をしながらも兄がそう言うならと受け入れた。結局二つ下の妹も母に説得されブツブツ文句を言いながら家を出て行った。母は突然変なことを言い出した少年を咎めることなく息子の言うことを受け入れた。
昔からあんたは勘がいいからねと
あんなこと言わなければよかった。少年は瓦礫を持ち上げようとしながらそう考えていた。嫌な予感は確かに当たった。でも自分が家にいてと言ったせいで母は倒壊した家の下敷きとなった。これなら外出してたほうがマシだったんじゃないか。いやでも外出してたらあの化け物に直接襲われてたかもしれない。少年には何が正しかったのか、どうすればよかったのかもうわからなくなっていた。
「グガアアアアアアア!!!」
背後を見ると白い化け物が自分達に向かって襲い掛かってきていた。少年は急いで母を助けようとするもたった一人で瓦礫が持ち上がるはずもなく、化け物は少年の目前にまで迫っていた。
だめだ、もう終わりだ。ここで死ぬのか
少年が諦めかけた時だった。
突然目の前の化け物は真っ二つになって倒れた。
何が起こったかわからない少年の前に一人の男が現れた。
「ふう、ギリギリ間に合ったか。大丈夫かい?」
男は少年にそう告げた。自分と同じくらいの年の男だった。
「…え?あの…あなたは?」
「俺?俺の名前は迅悠一。安心しろ、もう大丈夫だ。」
「迅…あ!そ、それより助けてください!!この瓦礫の下に母さんが!!」
「大丈夫、もうすぐ救助隊が来る。お母さんも助けてくれるよ。俺のサイドエフェクトがそう言っている。」
迅は自分の頭を指さしながらそう言った。
「悪いけど、俺はもう行かなきゃいけない。助けられる人がまだまだいるからね。」
迅はそう言って街のほうへと走っていった。
「迅…迅さん…」
少年、桐山昴は迅の背中を見つめながらそう呟いた。
「はあ…」
昴はボーダーラウンジでそう呟いた。
あの日、大規模侵攻と呼ばれた日から一年が過ぎていた。迅によって助けられた昴はその後様々なことを知った。あの日、街で暴れていた化け物は「
あの後救助隊によって助けられた母は命に別状はなかったものの、頭を強く打ったせいかあの日からずっと目を覚まさなかった。医師曰くいつか目を覚ますかもしれないが今はなんとも言えないとのことだった。父はもういない。母が意識不明となり、家が崩壊したことを知ると昴たちの前から姿を消した。毎月僅かなお金が振り込まれるのみである。
昴はボーダーに入隊することを決意した。ただし、復讐のためではない。確かにネイバーに対する恨みはあるが、復讐したいとは思わなかった。どちらかと言えば自分たちを見捨てた父の方が憎かった。それよりも昴にあったのは弟妹を守らなければという思いだった。自分の力で弟妹達を守る。そんな思いが昴にボーダー入隊を決意させたのだ。
後ボーダーで働けばこの年でもお金が稼げるという思いもあった。今は貯金があるが父から振り込まれるお金だけでは将来的に弟妹達を養えるか怪しいのだ。
「なんでだよ…なんで俺はこんなに弱いんだ…」
しかし、現実は甘くなかった。昴には素質がなかったのだ。ボーダーに入隊し、トリオンを計測したが、昴のトリオン量はたったの1。はっきり言って隊員として合格できたのが不思議なレベルであった。トリオン1では当然シューターやガンナー、スナイパーはできず、昴にはアタッカーの道しか残されてなかった。しかしトリオン1の隊員など他のC級からすればいいカモでしかなかった。来る日も来る日も破れ続けたが、それでも諦めることなく相手の戦い方や癖、それぞれのポジションの研究を重ね、約一年かけて昴はようやくB級へと昇格することができた。
しかしB級になった昴を待っていたのはさらに厳しい現実だった。B級隊員ともなるとC級のような明確な隙やわかりやすい癖が存在する隊員はほとんどおらず、C級時代のように負け続ける日々が再び始まったのだ。そして昴は嫌でも思い知ることとなった。
素質も才能もなく知識だけで戦ってきた自分が、知識に加えて素質や才能をもつB級隊員に敵うわけがない、と。
「俺に…ネイバーと戦う力なんてない…か」
昴の心はすでに折れかけていた。来年には高校生になれる。そしたらアルバイトもできるようになるし、家計を考えたらそちらの方がいい気もしてくる。
するとそんな昴の前にある一人の人物が現れた
「昴?どうしたんだ?」
「…秀次か」
現れたのは三輪秀次。昴と同時期にボーダーに入隊した人物で昴の友人だった。
三輪は昴のことを気にかけていた。三輪もまたネイバーによって大切な家族を失っているからだ。しかし、昴と三輪には決定的な違いがあった。それは才能の有無であった。三輪はボーダーに入隊してすぐにB級へと昇格。現在はとある部隊に所属しており、A級昇格も目前とのことだった。
「ボーダー辞めようかと思ってな…」
「⁉何故だ!ネイバーを全て撲滅するんじゃないのか‼」
「でももう無理だと思うんだ。秀次にもわかるだろ?俺に戦いの才能はないんだよ」
「!それは…」
昴に戦いの才能がないこと。それは三輪もよくわかっていた。トリオン量たったの1。そんな戦闘員は昴くらいだ。B級はC級とは違う。本物の実力者でないとB級で戦うことはできない。昴は才能がないと語るが三輪はそうは思わなかった。むしろ才能はある方だと考えている。でなければトリオン量1でB級に上がることなどできないだろう。自身のトリオンのなさを言い訳にすることなく知識を身に着け、努力を重ねB級へと昇格した友人を三輪は尊敬していた。いつか昴と並んで戦う未来を想像していた。だからこそトリオンがないことが本当に惜しかった。昴にトリオンがあれば、三輪がそう考えたことは一度や二度ではない。本人ならばなおさらであろう。
「そろそろ潮時なんだろうな。俺にはもう無理だ。」
「昴…」
本当に終わってしまうのか?ここまで努力を重ねてきた友人を三輪はなんとかしてやりたかった。しかしトリオンがない以上戦闘員としてはもうどうすることもできない。
「お、久しぶりだな。秀次、昴。」
そんな二人の前にある男が現れた。
「迅さん…」
「迅…さん」
迅悠一。大規模侵攻の日に昴を助けてくれた人物だ。
「どうしたんだ?こんなところで。昴も落ち込んでるみたいだが」
「迅さん、あんたには関係ない話だ。関わらなくていい。」
「いいよ、秀次。迅さんにも話せるなら話ときたい。」
「っ…」
昴にとって迅は自分と母を救ってくれた恩人であり正直思想は理解できないが尊敬する人物であった。しかし三輪にとっては姉を見捨てた男である迅は好きになれる人物ではなかった。ネイバーと仲良くしようなどという思想も理解できなかった。
「迅さん、俺もうボーダー辞めようと思ってるんです。」
「…へえ、これはまた急な話だ。」
「嘘つかないでくださいよ。迅さんにはもう視えてるんじゃないですか?俺がボーダー辞める未来」
「う~ん。今のところは五分五分ってところだな。お前がボーダーを続けてる未来も視える。」
「…まだ続けてる未来も視えるんですね。でも直に辞める未来で確定すると思いますよ。」
「まだわからないって言ってるだろ?それより昴、ちょっと秀次のやつ借りていいか?」
「は?」
「秀次と話すことでもあるんですか?別にいいですよ。」
「ありがとな。てわけで秀次少し話があるんだ。」
そう言うと迅は三輪を強引に昴と離れた場所へ連れ出した。
「何の用だ。俺にはあんたと話すことなんてない。」
「そう冷たいこと言うなって。昴に関する話だ。」
「昴の話だと?」
「そうだ。昴の未来に関する話だからお前に聞いてほしいんだ」
「…ちっ、なんだ早く話せ。」
飄々とした迅の態度にイラつきながらも昴の話となれば聞かないわけにはいかなかった。
「さっき昴にはボーダーを続けるかは五分五分と言ったがあれは半分嘘だ。少なくともこのまま戦闘員を続ければ昴はボーダーを辞める。」
「っ…!」
想像はしていたがはっきりと言われるとやはり驚いてしまう
「だがあくまでそれは戦闘員を続けたらという話だ。逆に言えば戦闘員を辞めれば昴はボーダーを辞めない。」
「戦闘員を辞めたらだと?どういう意味だ?」
「トリオンが少ないために戦闘員になれなかった人たちがやる仕事ってなったらもう限られるだろ?」
「…オペレーターか。」
「その通りだ秀次。そして昴には戦闘の才能はないが戦術の才能はおそらくある。鍛えれば光るものがあると思うんだ」
「…迅さん、結局何が言いたいんだ」
「お前の今所属してる部隊。そこに戦術のプロとオペレーターのプロがいるだろ?」
「…!」
三輪の所属する部隊。それは現在ボーダーで破竹の勢いで勝ち続けている部隊。東隊だった。
「その二人に鍛えられれば昴はきっとすごいオペレーターになれる。俺のサイドエフェクトがそう言っている。」
「…俺に東さんと月見さんを昴に紹介しろと言うことか?」
「そういうことだ。」
「何故俺に頼む?あんたが直接紹介すればいいだろ。」
「俺だと駄目なんだ。秀次が説得した方が昴はオペレーターとして成長できる未来が視える。」
「・・・」
「だから秀次、お前に説得してほしいんだ。オペレーターになることをね。」
三輪はすぐにうなずくことはできなかった。今までずっと努力を重ねてきた友人に戦闘員はもう無理だからオペレーターになれと説得する。昴は何を思うのだろう?今までの努力を否定されてどれだけのショックを受けるだろうか。それは友に対する裏切りになるのではないか。しかし
「…迅さん、ほんとに昴に戦闘員はもう無理なのか?今は可能性が低くてもこのまま努力すればトリオン値も成長するかもしれない。そしたら…」
「それはお前もよくわかってるんじゃないのか?秀次」
「・・・」
迅の言うとおりだった。本心ではわかっていた。一年間必死に努力を続けても昴のトリオンが上昇することはなかった。これから成長することもおそらくないだろう。仮に成長したとしてもトリオン2で何ができる?そんな隊員は存在しない。戦闘員としての昴にこれ以上の成長はもうないだろう。
「…わかった。俺が昴を説得してみる。ただしもし昴がオペレーターになることを望まなければ俺も無理強いをすることはない。いいな?」
「ああ、ありがとな。頼んだよ秀次。」
「勘違いするな、お前のためじゃない。昴のためだ。」
「ああ、もちろんだ。」
そう言うと迅は去っていった。
「・・・ちっ」
俺が迅の頼みを承諾すこともきっと迅の予知通りなのだろう。本当に気に食わない。
「おお、戻ってきたか秀次。結局なんだったんだ?」
「…ああ、昴、お前のことだ。」
「俺のこと?」
三輪は息を整えて昴に話した。
「昴…オペレーターになる気はないか?」
「…オペレーター?」
「ああ、戦闘員をやめてオペレーターになるんだ。」
「・・・」
昴は黙り込んでしまった。
「…なるほどね。迅さんが秀次に話したのはこういうことか」
「昴…」
「オペレーターかぁ、考えたことなかったな。ボーダーに入る時に採用の人に君のトリオン量じゃ戦闘員は無理だ。オペレーターやエンジニアを目指した方がいいって一度言われたけど気が付けば戦闘員として合格してたからさ。」
「・・・」
そういえばそもそも何故昴は戦闘員として合格できたんだ?そんな疑問が一瞬三輪の脳裏よぎった。
「でもなぁ。オペレーターじゃ戦えないし妹達を守るのは難しいよなぁ…う~ん。」
「・・・」
後オペレーターだとどこかのチームに拾ってもらえないとお金を稼ぐことも難しいしなぁなんてことも考えていた。
「やっぱりオペレーターは俺には厳しいよ」
「…そうか」
やはり駄目だったか。三輪は思った。俺だって同じだから。仮に俺にトリオンがなかったからと言ってオペレーターになれと言われて素直に受け入れただろうか。答えは否だ。きっとこいつみたいに死に物狂いで努力して戦おうとしただろう。
ただし昴が努力したのは家族を守るためであり、ネイバーに対する恨みはそこまで強くない。三輪はそのことに気づいてなかった。
「悪いね秀次。。やっぱりもう潮時だわ、ボーダー辞めるよ。世話になったね、せめて俺の分まで頑張ってくれ。」
「昴…」
そう言って昴はラウンジを離れようとした。そのとき
「待て」
「…なに?」
三輪は昴を引き留めた
「だったらお前がオペレーターとして成長出来たら俺がお前を引き取ってやる」
「え?」
「俺はいずれ自分の部隊を結成するつもりだ。そのときはお前が俺のチームのオペレーターになってくれ。」
「…ほんとに?」
「ああ、ほんとだ。お前の母の仇も俺がうってやる。」
「…そっか」
昴は立ち止まり三輪の方へ振り返って話した。
「よく考えたら俺オペレーターのこと全然知らないし、なんにもせずに辞めるのももったいないよな。」
「・・・」
「それに秀次の戦いのサポートができるのも悪くないね。」
「昴・・・」
「よし!わかった!俺オペレーターやってみるよ。」
「そうか!」
「じゃあ早速オペレーターの勉強をしないとな」
「なら俺がぴったりの人を紹介してやる。」
「ほんと?」
「気にするな、俺がお前を誘ったんだ。それくらいのことはするさ。」
「ありがとう!助かるよ」
「ああ、任せろ」
二人は拳を合わせて約束するのだった。
「…ありがとな秀次。これで未来は変わった…」
ラウンジの影にいた迅はそう呟くのだった。
「着いたぞ昴。ここが東隊の作戦室だ。」
「ここがか…」
数日後、昴は三輪に連れられ東隊の作戦室へとやってきていた。
ノックをして二人は作戦室へと入る。すると中では二人の人物が座って待っていた。
「おお、よくきたな。」
「いらっしゃい」
「はじめまして、桐山昴です。よろしくお願いします。」
「君が桐山くんか、秀次から話は聞いてる。俺はリーダーの東春秋だ。」
「私はオペレーターの月見漣よ。はじめまして桐山くん」
後のボーダーA級一位部隊のリーダーとオペレーターが昴を迎え入れた