「はあ…どうしようかな…」
昴が氷見の師匠になってからニ週間。昴は食堂で食事をしながらうなだれていた。
月見さんの紹介ということもあって氷見さんは非常に優秀な人だ。正直俺の教えなんてなくても立派なオペレーターになれると思う。だからオペの指導という面では全く問題はない。問題なのは…
「コミュニケーションがうまくとれない…」
月見さん曰く氷見さんはあがり症らしい。話していくうちに慣れるだろうと思っていたがどうやら俺の考えが甘かったらしい。1週間たっても氷見さんとはまともに会話できてない。オペについて教えるときはしどろもどろになりながらも受け答えはしてくれる。ただオペ以外の普通の会話をしようとすると途端にダメになる。というか何か話そうとすると顔を背けられるし、指導が終わったら即座に帰るし、たまにボーダーですれ違ったりすると文字通り固まってしまうし、もしかして俺嫌われてるんだろうか
あまりの会話のできなさに昴はそんなことまで考えてしまう。
「なあ京介、俺どうしたらいいと思う?」
「俺に言われても困ります」
昴と相席していた烏丸はそっけなく返した
「そんなこと言わずに一緒に考えてくれよ。やっぱ俺嫌われてるのかな…」
「それだけはないと思うんで安心してください」
以前何かあったら相談に乗るとは言ったが原因がはっきりしてる悩みの相談をされても困る。というかこれは多分いつものパターンだ。烏丸はそんなことを考えていた。とはいえ目の前の先輩は本気で悩んでるし、無下にもしづらかった。
「…どうしましょう」
とはいえ何か案が思いつくかと言われればうまい案は思いつかない。おそらく昴の無自覚な部分が原因にもなっていると思うが氷見先輩という方があがり症なのも事実なのだろう。あがり症の治し方と言われれば烏丸にもいい案は思いつかなかった
結局いい案は浮かばず気が付けば二人とも昼食を食べ終わってしまった。
「まあオペの指導は多分うまくいってるし、変なことしてこれ以上関係が悪化するのも嫌だからこのままが一番いいのかもしれないな…少し寂しいけど」
「昴さん…」
せっかくの初めての弟子なのにまともな会話もできないままこの関係が続くのも少し悲しかった。こんな時に犬飼のコミュ力が少しうらやましかった
烏丸も最初はまじめに取り合わなかったものの悲しげな表情をしてる昴を見ると何とかしてやりたくなってしまう。
「とりあえず俺は作戦室に戻るわ。京介はどうする?」
「俺も太刀川隊の作戦室に戻ります」
「じゃあ戻るか」
結局何も解決案が思い浮かばないまま食堂を後にしようとした二人だったが、二人が食堂の入り口を出ようとしたとき
「き、桐山先輩と…か、か、から…すまくん…!?」
悩みの張本人とぴったり鉢合わせてしまった。
遡ること数十分前
「はあ…」
氷見は憂鬱な気分で食堂へと向かっていた
「どうしたらいいんだろう…」
悩みの種は自身の師匠となった昴のことであった
初めて会った際には碌に会話もできないまま解散となってしまった。というかあの時の先輩の表情を見ると明らかに困惑していた。あがり症とはいえ少し話せば最低限の会話はできると思っていたがそれすらできなかった。
それから一週間昴の下で指導を受けているのだが未だにまともな会話はできていなかった。理由は自分でもよくわかっている
「あの人顔がよすぎるよ…!それに合わせてスーツまで着るのは卑怯だって…!」
こんなことで昴と話すことができないのは自身が面食いになったようで自己嫌悪してしまう。だがただ顔がいいだけなら数日もすれば少しは話せるようになっていただろう。しかし…
「教え方はすごくうまくてわかりやすいし、緊張してる私にもちゃんと気を使ってくれるし、コーヒーは美味しいし…!」
端的に言えばあの人は内面もかっこよかった。外と中、二つ合わせてこちらを攻撃してくる。これでは慣れることなんてできるわけがない。
「もう無理…限界…月見さん…恨みます…」
贅沢な悩みだということはわかっている。仮に別の人が昴から指導を受けられるとなればとても喜んで受けることだろう。実際宇佐美や綾辻からは桐山さんはいい人だから大丈夫だよと励まされた(他のオペレーター女子から刺されないようにねと不穏すぎる一言も宇佐美からいただいたが、綾辻も苦笑いしつつ否定はしなかったし)。だがしかしこうなってくると昴を紹介してくれた月見に対しても恨み言を言いたくなってしまう
そんなことを考えているうちに気が付けば食堂へと着いていた。
(とりあえずご飯でも食べよう…)
そう思い氷見は食堂へと入ったのだが
「氷見さん…?…お疲れ様」
「氷見先輩お疲れ様です」
「き、桐山先輩と…か、か、から…すまくん…!?」
よりにもよって氷見にクリティカルヒットする二人と鉢合わせてしまったのである。
「お…お…お疲…れさまで…す!」
昴だけでもまともに話せないのにそこに烏丸が加わったことで氷見はもはや崩れ落ちる寸前であった。
「えっと氷見さん?」
「は、はい!なんですか…?」
「いや…その調子はどうかなと思って」
「は…はい、大丈夫です」
とてもそうは見えないものの氷見はそう返した。
見かねた烏丸が昴に小声で尋ねた
「いやもっと話すことあるでしょ」
「いざ話すってなったら何話したらいいかわからない…相変わらず緊張してるし…」
これ緊張ってレベルか?と思いつつ烏丸も少し話しかけてもものの
「氷見先輩大丈夫ですか?」
「…!ひひゃ!?か、烏丸君…!だ…だい…だいじょ…ひえ…」
烏丸相手にはもはや返事すらままならない状態であった
氷見の余りの緊張具合に現場は少しカオスな状況になっていたが
「・・・・・!!!そういうことか!!」
突如昴に一つの考えが思い浮かんだ
「氷見さん!!」
「ひゃ、ひゃい!!」
「この後暇?」
「え…えと…はい…」
「ならこの後少し時間を空けといてくれ!教えたいことがある!」
「わ、わかりました…!」
「よし!じゃあまた後で!京介行くぞ!」
そういって昴は烏丸の手を引っ張り食堂を出ていった
「急にどうしたんすか昴さん」
「ふふ、なにいい案が思いついたんだ。京介、お前のおかげだ」
「はあ…そうすか。どんな考えなんですか?」
「悪いがそれは言えない。氷見さんのためにもな…」
この人またアホなこと考えてないか?烏丸は不安と呆れを含んだ目で昴を見るのだった
「おいなんだその目は」
「昴さんがまたアホなこと考えてるんじゃないかと」
「殴るぞ」
この小説がまさかのランキングに入ってて非常に驚きました。皆さん本当にありがとうございます!!
というかランキング一覧をみてランキングに入ってることに気づいたんですけどランキングに入ったことって通知で来ないんですかね?