ボーダー唯一の男性オペレーターは今日も忙しい   作:マサフ

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昴と鳩原未来

「よし、今日のところはこれくらいにしとくか。お疲れ様」

「はい、ありがとうございました」

 

 昴と氷見の和解からしばらく経ったころ、今日も今日とて二宮隊の作戦室にて昴の指導が行われていた

 

「それにしても最近の氷見さんはほんと教えやすくなったなぁ。覚えもいいし嬉しいよ」

「まるで最初のころの私が教えにくかったみたいな言い方ですね」

「いやそこは認めようよ」

「否定はしません。ですが覚えの良さは最初から良かったと思います」

「まあそれはそうだけど」

「ということは私を緊張させてた桐山先輩が悪いということですね」

「どうしてそうなる」

「なにせ桐山先輩のたらしっぷりはボーダーでも随一なんですから」

「謝るからその言い方辞めてくれない?というかそれを言うなら京介もそうなんじゃ…」

「無自覚だった先輩と烏丸君を一緒にしないでください」

「京介も割と無自覚だと思うけど…」

 

 二人の軽口の応酬は二宮隊の部屋ではもはや見慣れた光景であった。

 

「というか氷見さん仲良くなってから無遠慮になったよね」

「前のほうがよかったですか?」

「いやこっちのほうが話しやすいから全然いいよ。氷見さんも楽しそうだし」

「…っ、そうですか…」

 

 そして昴のふとした一言に氷見がドキッとさせられるのもいつものことであった。最近は慣れてきたとはいえ何気ない一言でこちらを打ち抜いてくるので氷見からすれば非常に心臓に悪かった

 

「今日も二人は仲良しだね~少し羨ましくなるよ」

 

 犬飼が二人にそう言って声をかけた

 

「いや犬飼も弟子ならいるだろ」

「ろっくんはちょっと俺に遠慮してる部分があるからね。ひゃみちゃんみたいに師匠を弄ったりしないからさ。もっと気軽に話しかけてくれていいのに」

「若村はそういうキャラじゃないっぽいしちょっと厳しんじゃないか?」

「だよね~ひゃみちゃん、師匠を弄るコツろっくんに教えてあげてくれない?」

「師匠を弄るコツってなんだよ」

「まずは師匠の弱みを握るところからですね」

「氷見さんも律義に答えなくていいから」

 

 相手は大体犬飼であるものの、あがり症を克服した氷見が二宮隊のメンバーと話す光景もあまり珍しいものではなくなってきていた。昴と犬飼、氷見の三人が揃えば犬飼と氷見の二人で昴を弄るのが大体いつもの光景である

 

「辻ちゃんもなんとか言ってよ」

「俺は弟子がいないんでよくわかりませんが桐山先輩と氷見さんみたいな気安い師弟関係もいいと思います」

「ほら辻君もこう言ってますし甘んじて受け入れましょう」

「別に文句はないけど弟子から言うことじゃないよね?」

 

 辻も少しずつ氷見と話すことに慣れてきており、今ではどもらず話せるようになってきている。ただし以前の氷見のように顔を背けた状態ではあるが

 

そんな雑談をしてるとコンコンとノックを鳴らして作戦室に入ってきた人物がいた。隊長の二宮であった。その後ろには見知らぬ女性を連れてきていた

 

「あ、二宮さんお疲れ様です!」

「お疲れ様でーす」

「お疲れ様です」

「お疲れ様で…す!?」

 

 まず挨拶したのは昴だ。次に犬飼と氷見が続き、最後に辻が挨拶したが二宮の後ろの人物を見て固まってしまう。

 

「ああ全員いるな?」

「二宮さん、私は部屋を出たほうがいいでしょうか?」

「構わん。どうせまたすぐにうちの部屋に来るんだ。顔合わせは先に済ましておいたほうがいい」

 

 場合によっては作戦室を出ようと思った氷見だったが二宮の言葉を聞いて部屋にとどまることにした。

 

「に、二宮さん…後ろの方は…?」

 

 女性が苦手な辻は固まりながらも二宮に尋ねた

 

「ああうちの新メンバーだ。自己紹介しろ」

 

 二宮は後ろの女性にそう促し、はいと答えた女性は前に出て自己紹介を始めた

 

「初めまして、鳩原未来です。スナイパーをやっています。よろしくお願いします」

 

 鳩原は自信なさげな表情をしながらも自己紹介をし、頭を下げた

 

「じゃあ次は俺たちだね。おれは犬飼澄晴、ポジションはガンナー。よろしくね」

「初めまして桐山昴です。オペレーターやってます。よろしくお願いします」

「つ…辻新之助…です…あ…アタッカーです…」

 

 犬飼と昴は簡単な挨拶をするも辻はかつての氷見と会った時のようにしどろもどろになりながら挨拶をするのだった

 

「えっと…私は氷見亜紀です。私は二宮隊の所属ではありませんが桐山先輩の弟子なので時々ここにきてます。よろしくお願いします」

 

 氷見も少し戸惑いながら挨拶をした

 

「よし、挨拶は済んだな。鳩原には来シーズンからランク戦に参加してもらう。それまでにチームの連携を整えるぞ。いいな?」

 

「「「(りょ…)了解」」」

 

 辻だけは震えつつも三人は返答した

 

(鳩原さんか…)

 

 聞いたことはある。通常狙撃訓練やレーダーサーチ訓練の成績は非常に良くスナイパーとしての技術はボーダー内でも非常に高いものだと。一方でとある噂も流れていた。

 

「鳩原さん、一つ聞いてもいいですか?」

「何?」

 

 もしかしたら鳩原さんを傷つけることになるかもしれない。しかしチームで戦う以上ははっきりさせておかなければならないことだ。昴は意を決して尋ねた

 

「人が撃てないという噂は本当ですか?」

「…!」

 

 鳩原の顔が青ざめていく

 

「うん…本当だよ。あたしは人を撃つことができないんだ」

 

 鳩原は青ざめた表情でそう返答した

 

「…そうですか」

 

 人が撃てない。はっきり言ってスナイパーとしては致命的だ。だが二宮がそのことを理解してないわけがないだろう。昴は二宮に尋ねた

 

「二宮さんはこのことを知ってるんですか?」

「ああ、聞いている。だから鳩原に点を取ることは期待していない」

「ならどうするんですか?」

「鳩原にやってもらうことは相手の武器を壊すことだ。武器を狙撃して味方の援護をしてもらう」

「武器の破壊…」

 

 武器の狙撃、それは人を撃つことよりも難しいことだ。そんなことをやるスナイパーは他にはいないだろう。

 

「鳩原さん本当にそんなことできるんですか」

「…うん、あたしにできることはこれくらいしかないから…ごめんね…」

「ああ、いえこちらこそ無遠慮でごめんなさい」

 

 昴は鳩原に謝罪する。流石に不躾だったか

 

「信じられないなら後で確認してみればいい。こいつの狙撃の腕前は確かだ。腐らせるのは勿体ない。だからうちで引き取ることにした。働いてもらうぞ鳩原」

「はい…わかりました」

 

 それともう一つ話がある。二宮はそう言って話し始めた

 

「うちの部隊はこれから遠征を目指すことにする」

「遠征ですか?」

 

 犬飼の問いに二宮はああ、と返答した

 

「鳩原は弟を近界に拉致されている。その弟の手がかりを探すためだ。いいか?」

 

 なるほどと昴は思案した。人を撃てないにも関わらずスナイパーとして戦おうとする理由。それは弟を助けるため。そのために彼女なりに戦えるよう模索した結果が武器を破壊して味方の援護をする。そういうわけか。

 

「ええ了解です。そんな事情があるなら俺もついていきますよ」

「りょ…了解…です」

 

 犬飼は快く了承し、辻も震えながら了解した。あの震えは鳩原への緊張からだろうし問題はないだろう。

 

(まいったな…)

 

 一方昴はとある理由から困りこんでしまった。しかし今ここでそれを暴露するわけにもいかない

 

(そろそろ潮時かな)

 

 昴はとある決意を固めることにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで話ってのはなんだ昴?」

 

 鳩原との顔合わせも終わりメンバーと氷見が解散した後、昴は二宮と話をするため二宮を引き留め二人で作戦室に残っていた

 

「はい、次のランク戦が終わったら俺は二宮隊を抜けることにします」

「…そうか」

 

 昴の宣言に二宮は息を吐きながら答えた

 

「突然のことでごめんなさい」

「いや構わない。最初から言っていたことだからな。…理由をきいてもいいか?」

「はい」

 

 いずれ自分の部隊を作る、そう言っていたがこいつの話し方から察するにそれだけではないのだろう。そうあたりを付けた二宮は昴に尋ねた

 

「もちろん一番の理由は妹と部隊を作るからなんですが…二宮隊が遠征を目指すことになったからですね。俺は今まで遠征について考えたことはなかったんですが…万が一のことを考えるとこっちに家族を残すわけにはいかないんで俺は遠征には行けません」

「…そうか」

 

 昴がボーダーに入ったのは家族を守るためだ。それを家族を残して近界に行くというのは昴にとって考えられないことであった。

 とはいえ他のメンバーは遠征への意欲を示しているし、何より大事な家族を失った鳩原の悲しみはよくわかる。それを自分一人の都合で無下にするわけにはいかなかった。

 

「すいません二宮さん、今までお世話になったのにこんな理由で抜けるなんて言ってしまって」

「気にするな。危険だから遠征には行きたくない。それも正しい考えの一つだ。むしろ部隊を作るときに確認をしなかった俺のミスだ。お前の謝ることじゃない」

「…ありがとうございます」

 

 二宮の言葉に昴は感謝を告げる

 

「新しいオペレーターを探さないといけないな…」

「あ、そのことなんですが俺の後任に推薦したい人がいまして」

「…予想はつくが誰だ?」

「氷見さんです。彼女のオペレーション能力は俺にも引けを取りません」

「だろうな。辻の奴も氷見相手には少しは話せるようだし悪くない」

「でしたら…!」

「ああ、後任は氷見に頼むとしよう」

「ありがとうございます!そうだ!以前の東隊の時のようにどこかの試合で彼女に一度オペを任せてもいいですか?」

「構わない。能力を確かめるいい機会だ」

「ありがとうございます!」

 

 自身の提案を快く受け入れてくれた二宮に昴は感謝を告げた

 

「だが意外だな。以前のお前のように最終戦のオペを任せるものだと思っていたが」

「…悪いですけどそこは譲りたくないですね」

 

 昴は好戦的な笑みを浮かべ二宮に言い放つ

 

「最後のA級昇格をかけた試合には俺がみんなを勝利に導きたいですから」

「…なるほどな」

 

 昴の言葉に二宮は少し口角を上げて答えた

 

「次のランク戦で必ず取りましょうね。B級一位」

「ふん、当然だ。全員撃ち落としてやる」

 

 最後のランク戦に向けて昴と二宮はより一層気合を高めるのであった

 

「あ、後もう一つ言っておきたいんですけど」

「なんだ?」

「俺の抜ける理由のことみんなには黙っておいてくださいね。特に鳩原さんがこのことを知ったら余計なもの抱え込んじゃうような気がするんで」

「…そうだな。わかった」

 

 昴は鳩原のため自分が二宮隊を抜ける理由は黙っておくことにした

 

 しかし・・・

 

 

 

 

 

 

「…そっか…あたしのせいで…やっぱりあたしってダメなやつだな…」

 

 扉の前で鳩原が話を聞いていたことに二人が気づくことはなかった

 




できればお気に入りが555件ぴったりの時に投稿したかったけど間に合いませんでした(灰化消滅

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