「はあ、どうしたもんか…」
B級ランク戦ラウンド4の翌日、昴はボーダーのラウンジにてうなだれていた。
結局あの後、鳩原はまともに会話することもできず、ただひたすらごめんごめんという言葉を続けるのみであった。その後もなんの解決もできぬまま解散、二宮隊のコンディションは最悪と言ってもいい状態であった
「鳩原さんは何を気にしているんだろう…」
鳩原の様子がおかしかったのはわかっていた。わかっていながらなんの解決策も考えずにランク戦を続けたのは自分たちのミスだ。とはいえ鳩原の不調の原因がわからない以上、手詰まりであった。
鳩原本人に何があったか尋ねる。それが一番なのはわかっている。だがもしそれが根深い問題だったらどうする?話を聞くこと自体が鳩原を傷つけるのではないか?そう考えると昴は一歩踏み出すことができなかった
「お、昴じゃないか。元気にしてるか?」
そんな昴にとある人物が声をかけてきた
「東さん!」
「おう、久しぶりだな」
手を振りながら声をかけたのは昴の師、東だった
「浮かない顔をしてるようだが…鳩原のことか?」
「…!知ってたんですか?」
「前のランク戦で鳩原が誤って人を撃ったみたいだからな。二宮からも話は聞いた」
「二宮さんがですか?」
「ああ、鳩原を二宮隊に推薦したのは俺だからな」
「ええ!?」
それは昴にとって初耳であった
「だったら二宮さんも教えてくれたらいいのに…」
「はは、相変わらずだな二宮は」
東も苦笑しながら話を続ける
「鳩原は俺が面倒をみてたスナイパーでな。腕は確かなんだが知っての通り人が撃てない。そのせいか鳩原が入るチームが中々見つからなくてな。何とかしてやりたいと思って二宮に推薦したんだ」
「へえ、そうだったんですね」
「幸い二宮も腕は確かなことと俺の推薦ってことで鳩原のことを受け入れてくれたんだ」
そんな経緯があったとは…二宮さんももう少し説明してくれてもいいのに…
少し不貞腐れた表情でそう考える昴だった。そんな昴に東は笑みを消して尋ねる
「それで鳩原のことだがお前はどう思う?」
「どう…というのは?」
「鳩原の狙撃は少なくとも俺の知るスナイパーの中でもかなりのものだ。はっきり言って俺を超える日もそう遠くない」
もしかしたらもう超えてるかもな、そう続ける東の言葉に昴も納得の表情を見せる
実際武器を狙って撃つことができるスナイパーなんて鳩原さんくらいだろう
昴もそう考えていた
「だからランク戦が始まって以来ずっとおかしいと思ってたんだ。鳩原の狙撃がいつまで経っても命中しないことにな。そして前のランク戦ではあの結果だ」
「最初はもしかしたら鳩原が人を撃てるようになったのかと思ったが…そうじゃないんだろ?」
「…そうですね」
もし鳩原さんが本当に克服したとしたら吐いたりなんてしないだろう。あそこまで苦しそうな表情をすることもないだろう。
「となれば何か精神的な問題だと思うんだが…何か心当たりはないのか?」
東の問いに昴は複雑な表情で答えた
「正直ランク戦始まる前から様子はおかしかったです…俺の気のせいかもしれませんけど鳩原さんにはなんだか避けられてる気がして」
昴の返答に東は少し驚いた顔をした後に不思議そうに言葉を出した
「鳩原は温厚で優しい奴だからそんなことをするとは思えんが…鳩原と話はしなかったのか?」
「話はしてないです。避けられてる以上あまり深く突っ込まないほうがいいのかと思ってました」
昴の答えに東は軽く息を吐いて話を始めた
「なあ昴、お前がオペレーターに転向した時のこと覚えてるか?」
「…?はいもちろん」
「これは秀次から聞いた話なんだが…オペレーターに転向する前の、アタッカーやってた頃のお前はほとんどの周りの人間を避けてたそうだな」
東の言葉に昴は思わず顔をしかめた
アタッカーをやってた頃、同期の人間はすぐに上へ行き、後から入ってきた人間にもすぐに追い抜かれ、ようやくB級となってもすぐに周りの人間に叩きのめされ失意のどん底にいた日々。当然忘れるわけがなかった。
周りの人間を避けていたのも本当だ。自分はこれだけ努力してるのに…周りの人間も努力してることは頭ではわかっていたが心では受け入れられなかった
「だがそんなお前に手を差し伸べてくれた人もいる。そうだろ?」
秀次だ。ボーダーを辞めるか本気で悩んでいたころにオペレーターへの転向を勧めてくれた、東さんや月見さんを紹介してくれた。それももちろん忘れるわけがない
「そのときの鳩原と今の昴、全く同じだとは言えないが…何か抱えてるものがある以上、そこに突っ込んでいってもいいんじゃないか?」
「・・・っ!」
東はいつもの笑みを浮かべながら昴にそう話した
「…そうですね。東さん、俺が間違ってました」
避けられてるから…それがなんだ。なにか抱えてるものがあるならそれを解消してやるのが仲間だろう。それに鳩原さんは俺がいなくなった後も二宮隊で戦うんだ。それを不和を残したままこれからも戦わせるわけにはいかないだろう。
もう昴に迷いはなかった
「東さん!ありがとうございます!俺ちょっと行ってきますね、失礼します!!」
頭を下げた昴は自身の作戦室へと走り去っていくのであった
「はは、せっかちなやつだな…頑張れよ」
猪突猛進な弟子を東は笑いながら見送るのだった
翌日
作戦室に二宮隊と氷見の六人が集結していた。昴と鳩原が向かい合って座っており、それ以外の面々は後ろから二人の様子を眺めていた。ちなみに隊長の二宮は非常に不服そうな表情をしている
話は前日にさかのぼる
鳩原を除いて作戦室に集まった5人は話をしていた。話題はもちろん鳩原のことだ
「鳩原さんと一対一で話をさせてください」
「いや、話はまず隊長の俺がする」
昴と二宮、どちらが鳩原と先に一対一で話すか。そのことで少しもめていた
「二宮さん、鳩原さんのことおそらく原因は俺にあると思うんです」
「何故そう言い切れる?」
「初日以来俺は鳩原さんに避けられてる節がありました。それに」
「それになんだ?」
「俺のサイドエフェクトがそう言っているからです」
「「「「・・・・・」」」」
作戦室を静寂が支配した。氷見に至っては頭を抱えていた
「バカにしてるのか?」
「まあ半分は冗談ですけど、半分は真剣です。はっきり言って単なる直感です」
二宮は舌打ちをしながらもサイドエフェクトについてはそれ以上の追及はしなかった
「だが仮に避けられてるとするならば猶更お前より俺が話すべきだろう。」
「そうかもしれませんが、もう一つ理由がありまして」
「なんだ?」
「二宮さんだとまた鳩原さんビビらせちゃいそうなんで」
「「「・・・・・」」」「ブフォッ!?」
唯一噴き出したのは犬飼だった。二宮は親の仇でも見たかのように昴と犬飼を交互ににらみつけていた。その光景がおかしくて気が付けば辻と氷見も肩を震わせていた
「お前ら後で覚えとけよ」
「「「・・・・・」」」
「だから二宮さん、どうかよろしくお願いします」
周りで震えてる面々を放置して昴は二宮に頭を下げた
「…後ろで見てるぞ。いいな」
「話に入らないのであれば大丈夫です」
「…ちっ」
こうして昴と鳩原の話し合いは決まったのだった
「それで話って何かな桐山君…まあ今話すことなんて一つしかないよね…」
「うんそうだね」
昴は息を整えて話を続ける
「それで、何があったのか教えてほしいんだ鳩原さん」
少し短めですが今回はここまで