ボーダー唯一の男性オペレーターは今日も忙しい   作:マサフ

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中々難産でした…
拙い部分も多いですがどうかよろしくお願いします


昴と鳩原未来③

「それで、何があったのか教えてほしいんだ鳩原さん」

 

 鳩原さんの方を真っすぐに見つめ、俺はそう尋ねた。鳩原さんは俯きながらも言葉を発した

 

「ラウンド4のこと…だよね」

「うん、そうだよ」

「あのときはごめんね、みんなにも迷惑かけて本当にごめんなさい」

 

 鳩原さんは俺を含めた後ろのみんなに頭を下げた。後ろを振り向くと二宮さんと犬飼の表情は変わってなかったが辻ちゃんと氷見さんは複雑そうな表情をしながら鳩原さんを見ていた。

 頭を上げた鳩原さんは話を続けた

 

「あれは私の単なるミスだよ。点を取ったのにミスって言うのも変かもしれないけど、次からはもう失敗しないから心配しないで」

 

 鳩原さんは笑みを浮かべながらそう言った。ここで俺がわかったと言えば話はもう終わるだろう。…けどそうするわけにはいかない。鳩原さんのあの笑みはどう見ても作り笑いだ、おそらくまだ無理をしてるんだろう。そんな状態で話を終わらせるわけにはいかない。向き合うって決めたんだから

 

「東さんに話を聞きに行ったんだ」

「え?」

「鳩原さんの狙撃の腕はかなりのもので自分を超える日も近いって。だからランク戦でずっと外し続けてたのはおかしいって」

「それは…」

「それ以外でも最近、いや初めて会った日からどこか様子がおかしかった。鳩原さんにも事情はあるだろうと思ってたから踏み込まないようにしてたけど…やっぱりほっとけないよ」

 

 鳩原さんは完全に黙り込んでしまった

 

「触れてほしくないのかもしれないけど、それでも知りたいんだ。鳩原さん、何かあったの?」

 

 これが俺のまごうことなき今の本音だ。もう誤魔化すことはしない。

 俺の話を聞いた鳩原さんは俯いて震えていた。俺には何か言いたいが踏ん切りがつかないように見えた。2~3分経っただろうか、二宮さんが息を吐いて立ち上がった

 

「潮時だな、交代だ昴。次は俺が話をする」

「二宮さん…もう少し待ってくれませんか?そしたら鳩原さんも」

「昴」

 

 俺の言葉を遮って二宮さんが話を続けた

 

「鳩原を少し甘やかしすぎだ。いつまでも黙ってたら話が進まん」

「でも俺が原因だとしたら」

「仮にそうだとしてもお前がやれるだけ話せるだけのことをして、なお鳩原が話さないのならここからは隊長の俺のやることだ」

 

 わかったらもう下がれ、二宮さんはそう言った。悔しいけど二宮さんの言うことも正論だ。

 俺が席を離れようとしたとき

 

「待って…ください」

 

 鳩原さんが声を出した

 

「桐山君は…何も悪くないです。悪いのは私で…」

「鳩原さん、それはいったいどういうこと?」

 

 鳩原さんは俯きながら話を続けた

 

「私、あのとき桐山君と二宮さんの話聞いてたの…」

「あのとき?」

「私がみんなと初めて顔合わせした日」

「…!」

 

 俺は全てのピースが繋がった気がした。あのときというのは、俺が二宮さんに隊を抜けたいと言った時のことだろう。二宮さんも得心がいったようだ。二宮さんが前に出て鳩原さんに話を始めた

 

「あのとき作戦室にいたのは俺と昴の二人だったが?」

「その…あの日忘れ物をしまして、扉越しに…」

「…そうか」

 

 二宮さんはため息をつきながら話を続けた

 

「昴はお前のために隊を抜けるんじゃない。あいつの事情で抜けるんだ。あのときの話を聞いてたならわかることだろう」

「それはもちろんわかってます…それでも考えてしまうんです。私がここに来なかったら桐山君は二宮隊を抜けることもなかったんじゃないかって。そしたら集中もできなくなって、前の試合ではあんなことになってしまって…」

「ちっ…ほんとに話を聞いてたのか」

 

 二宮さんも少し苛立ちを見せ始めていた。すると今まで黙っていた犬飼が声をかけてきた

 

「あの~一ついいですか?」

「なんだ、話なら後にしろ」

「そうしたいのは山々なんですけど、そもそもあの顔合わせの日に何かあったんですか?」

 

 犬飼の疑問も尤もだ。見ると辻ちゃんと氷見さんも同様のようだ。こうなると俺も二宮さんも参ってしまう

 

「こんなことなら最初からちゃんと話しておけばよかったですかね」

「結果論だ。今更そこの話をしても仕方ないだろう」

 

 俺は全て話した。隊を抜ける本当の理由とそれを鳩原さんに聞かれてたことを

 話を終えると三人とも呆れた様子だった。あの辻ちゃんまで若干白い眼をしていた

 

「ほんとに最初から話しとけばここまでこじれることもなかっただろうね」

「いやでも新人が入った初日にこの話するのも、あなたが入るなら私は抜けますね、って感じで気まずくなりそうだったから…」

「結果的にそうなってますよね?しかも隠れて話をしてたせいで余計にこじれてますよね?」

「いやまあそれはそうなんだけど…」

「桐山先輩…」

 

 辻ちゃんの白い眼が一番つらかったかもしれない

 と、仲間からの白い眼はつらいが今はそうじゃない。

 

「二宮さん、事情はわかったんでまた俺が話をさせてもらってもいいですか?」

「…ああそうしろ」

 

 二宮さんのお許しも得て俺は改めて鳩原さんの方へ向き直る

 

「鳩原さん、まず謝らせてほしい。俺が変な気の遣いかたをしたせいで、鳩原さんを追い詰めてしまってほんとごめん」

 

俺は深く彼女に頭を下げた

 

「そんな、桐山君は悪くないよ…悪いのは私だから」

「いや、最初からちゃんと話さなかった俺が悪い」

「でも私が…」

「いや俺が…」

「おい」

 

 二宮さんが呆れたような怒ったような表情でこっちを見ていた

 

「話を進めろ」

「「はい…」」

 

 気を取り直して話を続ける

 

「それでなんだけど…まず俺が二宮隊を抜けることは気にしなくていいよ。俺元々二宮さんに半ば強引にチームに入れられてさ、いつでも抜けていいって条件で二宮隊にいるんだよ」

 

 鳩原さんは少し驚いたようだった。二宮さんの方をちらっと見て反応から嘘ではないと思ったようだ。

 

「で、抜けようと思ってた理由は…まああのとき話した通りいずれボーダーに入る妹とチームを組むため、そして遠征には行けないから」

 

 そう言うと鳩原さんはまた暗い表情を見せた。また自分のせいでって思ってるのかもしれない

 

「そんな顔しないで。仮に今チームを抜けなかったとしても、遅かれ早かれ俺は抜けることになってからさ。鳩原さんが気にすることじゃないんだよ」

 

 それでも鳩原さんの表情は晴れなかった

 

「でも…桐山君このチームは好きなんだろうし。私が来なければこのチームにまだいれたんだと思うんだ」

「確かにさっきはあんな言い方したけど俺はこのチームは大好きだよ。俺の力を貸して欲しいって言って俺をチームに入れてくれた二宮さんにも感謝してる」

 

 でもね、と俺は続けた

 

「鳩原さんは弟さんを探すためにボーダーに入ったんでしょ?だったら二宮隊に入れたのは大きなチャンスだと思うよ」

 

 鳩原さんの表情が少し変わった

 

「俺にも妹と弟がいるから鳩原さんが弟さんを大事に思う気持ちはよくわかる。大事な弟がいなくなった鳩原さんの悲しみは俺には想像できないくらい大きなものだったと思う。だから鳩原さんの話を聞いたときに思ったんだ。絶対に弟さんを見つけてほしいって」

「そうなんだ…」

「だから俺が抜けることは気に病まずに鳩原さんには前だけ向いて進んでほしいんだ。

…弟さんもきっと鳩原さんのことをずっと待ってると思うから」

「そう…か。そうだよね…」

 

 鳩原さんが嗚咽交じりに言葉を発する

 

「鳩原、昴はこう言ってるがお前はどうしたい?まだ遠征よりこいつの方が気になるのか?」

「私は…」

 

 話をずっと聞いていた二宮さんが俺の方を指さして尋ねた

 

「初めてお前と話したとき冴えない女だと思ったが遠征に対する熱意は本物だった。だがお前は今までそれをふいにしようとしていた。お前の遠征に対する思いは嘘だったのか?」

「私は…」

「俺たちは仲良しごっこをするためにチームを組んでるわけじゃない。お前は遠征よりもこいつと俺たちのわずかな時間の仲良しごっこの方が大事なのか?」

「私は…!」

 

 鳩原さんが涙を流しながら声を大にして言い放った

 

「私は遠征に行きたい!弟を、あの子を取り戻したい!私にはそれしかないから…!!」

 

 それは鳩原さんの本音の叫びだった

 

「だったら俺のことなんて気にせずに突き進んでいってくれ。このチームのみんなは強いから」

 

 そう言って後ろを見るとみんなは引き締まった表情でこちらを見ていた

 

「鳩原ちゃんの本音聞けて嬉しかったよ。こりゃもうやるしかないね」

「そうですね。先輩にここまで言わせてしまったんですから」

 

 犬飼と辻ちゃんは覚悟を決めたようにそう言った

 

「私はまだ二宮隊のメンバーじゃないけど…それでも二宮隊に入ってからの目標はできました」

 

 氷見さんも同様だった

 

「鳩原」

「はい、私はもう迷いません」

 

 涙を拭った鳩原さんは目を赤くしながら言った

 

「私は遠征に行きます。だから私に力を貸してください」

 

 そう言って鳩原さんは頭を下げた

 

「もちろんだよ鳩原ちゃん」

「がんばりましょう鳩原先輩」

「私も全力でサポートします」

 

 みんなもそれにこたえる

 

「言われるまでもない。勝って上にあがるのは俺たちだ」

 

 そう言って二宮さんは改めて宣言した

 

「これからうちは遠征を目指す。そのためにも今回のB級ランク戦、必ず勝利してA級に上がるぞ。いいな?」

「「「「了解」」」」

 

 俺たちもそれにこたえる。みんなの覚悟は決まった。

 俺も二宮隊として最後まで全力でサポートしよう。このチームを勝たせるために

 

「頑張ろうね鳩原さん」

 

 俺は改めて鳩原さんにそう告げた

 

「うん、ありがとう桐山君」

 

 鳩原さんは涙と笑みを浮かべながらそう言った。

 その笑みは俺が今まで見てきた鳩原さんの作り笑いとは違う。本物の笑顔だった




そろそろ二宮隊としての話も終わりですね

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