鬼狩りのゾロ 作:海野
―――富、名声、力 かつてこの世の全てを手に入れた男 “海賊王・ゴールド・ロジャー” 彼の死に際に放った一言は全世界の人々を海へと駆り立てた。
超新星もしくは最悪の世代、それに代表される海賊たちは広い海に蔓延っていた。『
―――受け継がれる意志、時代のうねり、人の夢、これらはとめる事のできないものだ。人々が自由の答えを求める限りそれらは決してとどまることは無い。
そして、『世界一強い大剣豪になる』、その夢を抱き、時代を生き抜く剣士の意志を継ぐ者が生まれる。彼は幼い頃より3本の刀を持ち、獣と力比べをして剣技を磨いてきた。時には、2人の大剣豪の剣技を見て盗んだ。
今日、太陽が照らす海へ旅立つ。
―――世界は………
海の向こうにいる、父親の背中を追い越すために。
*****
寝ているうちに、彼はどこかの島に着いた。
航海術を修めることもなく、仲間に恵まれた父親とも状況が違い、奇跡の航海と言える。新世界の海を小舟で航ることができるのは、自然系能力者か大剣豪くらいだろう。その前例が身近にいたことが原因で、母親と妹に『バカバカ』言われながらも自由気ままに海に出た。
異様に静かな山を、薄暗い三日月が見える方向へ進む。
黒い鴉が慌ただしく、入れ替わるように飛んで行った。
「血の匂いか」
夜の闇の先にいるナニカに、彼の目は鋭くなる。
腰に差した3本の刀の柄に手をかけた。
「おせぇ」
ドンッ
剛の剣技で、その巨体を弾き返した。
「三刀流 鬼斬り」
突進するナニカに対して、3本の刀を右手と左手と口に構えて迎え撃ったのだ。鬼の筋力すら意に介さず、己の鍛え上げた肉体で圧勝した。さて、勝負はこの一撃で終わるはずなのだが。
「てめぇ!!」
「なんだ、しゃべれるのか」
怒るナニカに、彼は挑発するように返事をする。
何の能力者か、そもそもそういう生物なのか、人間とかけ離れた姿をしていた。刀くらいの長さの爪が特徴的で、虎のようにこちらを睨みつける瞳と牙を持っている。わずかに残る衣服の残骸が、人間性を感じさせる。
だが、なによりも再生能力が厄介だ。
異様に硬い皮膚の傷口も無かったように消えていく。
「服が違うが! まさか貴様も鬼殺隊か!」
「キサツタイ?」
無残に斬り裂かれて横たわっている男性の硬い衣服には、背中に【滅】という文字がある。3本の刀を持っているとはいえ、白く薄い私服を着ているから鬼殺隊ではないと、辛うじて残る理性で鬼は判断した。
「日輪刀さえなければ、俺は無敵だァ!」
「ニチリントウだぁ?」
よくわからない話は頭の隅に置いて、彼は2本の刀を前方で水平に構える。
「来ないなら。こっちから行くぞ、化け物」
二刀流 弐斬り。
慌てて化け物は右手の爪で撫で斬りにしようとする。
「
2本の刀を下から上へ斬り上げ、長い爪を斬る。
元は一般人である化け物は動揺し、動けない。
「
「グハァ!」
流れるように、二本の刀を下方向へ斬る。
鮮血が舞い、どうやら痛みは感じるようだ。
「
「イッテェ!」
水平斬りで硬い身体と首を、3枚に両断する。
化け物の身体が地面に落ちていくが、顔の憤怒の表情は止まらない。それどころか、首の下から少しずつ再生までしている。身体能力に対して大して強くもないし、心底面倒くさい相手だ。
「よくも!よくも!絶対に喰らってやる!」
「うげっ……」
両腕まで復活した頃に、涎を垂らしながら、飢餓状態の獣のようにこちらへ近づいてきている。別にこのまま放置して去っても良いのだが、食いかけの男性だけでなく、人里に下りて食事を始めるだろう。別に正義の味方ではないが、そう考えると目覚めがわるい。
彼は冴えた頭で瞬時に思考する。
このまま精神を壊すほど斬り続けるか。
いまだ完全に修めていないが『覇気』は有効か。
「いや、ニチリン刀……」
「や、やめろ!」
『それが刀の名であるのならば』と思いつつ、横たわっている男性の側に落ちている刀を拾い上げると、化け物が本能的に悲鳴をあげる。そんな焦りも意に介さず、軽く握り心地を試しつつ良い刀だと考えていた。
そして、その1本の刀を構える。
ヤメロヤメロと言いながら化け物はもがく。
「一刀流
化け物は、鬼は。
その男は。
走馬灯のように、人間だった頃を思い出していく。
お米を作る家に生まれて、自分はその小さな村を、守っていこうと思っていただけだ。だが、不作が続き、飢餓で苦しむ彼のところへ、鬼の始祖が通りがかった。本能のままに隣人を喰らい、おかげで空腹は収まり、代わりに理性は失われていった。
「南無阿弥陀仏……」
数少ない
そして、日に照らされ、塵のように身体が朽ちていった。
3刀流の剣士は。
いや、ゾロ十郎は、その最期を見届けた。
別に、人生を語られたわけでもないので、同情したわけではない。だが、最期に後悔した顔はとても人間らしくて、だったらさっきまでの獣のような暴走は一体なんだったのだろうと、思考の海に絡みつく『泥』のようなものに苛立ちを感じた。
なぜだか、とても苛立つ。
借りた刀を墓標のように地面に突き刺した。
「鬼は、あなたが?」
「角もないし、黄色と黒のパンツも履いてないやつだったがな」
何者かがかなりの速度で近づいてきていたのは分かっていたが、細く背の小さな女性だとは思わなかった。それに、『フゥゥゥ』という、花のような呼吸音がすると、一気にその気配の強さが増す。
外の世界に出て、初めて会った強者との戦いに心が躍る。
「どうして、構えているのですか?」
「お前こそ。焦ってるみたいだな」
ゾロ十郎は自然体だが、瞬時に3本の刀を鞘から抜いて剣技を出せる。対して、鬼殺隊『蟲柱』の胡蝶しのぶも、鞘から麻痺毒のついた日輪刀で刺突できるように構えている。
少々特殊な柱だが、胡蝶しのぶも強者だ。
だが自分以上に強いと感じる。
『能ある鷹は爪を隠す』というが、目の前の虎のような男はそれを隠そうともしない。鬼との戦いの余波を見れば、恐らく斬撃で山の地面が抉り取られているし、剛の剣を極めているのだろう。
「では、一手だけ、ご指南して下さいますか」
「手加減できるほど器用じゃないんだ。
その顔に傷がついても責任は取らないからな」
ゾロも構えを取った。
笑みを浮かべたままのしのぶの頬に汗が流れる。
―――刹那
山の木々が揺れた。
しのぶが今出せる最速の刺突は、交差した2本の刀で止められていた。
「あら。意外と優しいですね」
しのぶは安堵する。このまま剣戟に持ち込まれていたら、3本の刀の手数で敗れていたかもしれない。まして、瞬時に口に咥えている刀は決して飾りではない。場合によっては、その3本目の刀で首を落とされていたかもしれないと思うとゾッとする。
ゾロは面白い女剣士だと思っていた。女性ならではのしなやかな動きや柔らかい手首による剣技だけでなく、瞬発的な速度も含めて、相当の修練を積んでいる。仮に女だなんだのと舐めてかかっていたら、その滴る毒の餌食になっていただろう。
「あのー」
しのぶは焦る。このままだとどちらかが倒れるまで続けさせられそうだ。柔の剣を極めているしのぶとしては、本心としては『決して降参するつもりはないが』、柱としてまさか鬼以外の人と戦って大怪我を負うなど言語道断だ。
「私としては、これ以上戦いたくはないのですけれど」
でも。
女であるかどうかなど関係なく、1人の剣士として戦いを挑まれたことは、なんだか嬉しくはある。
「……ちっ」
その舌打ちと同時に、好戦的な重圧が収まり、お互いに納刀する。
「お前、海軍じゃないのか?」
「いいえ。鬼殺隊『蟲柱』の胡蝶しのぶと申します」
『あなたは?』と自己紹介を促す。
「ゾロ十郎……いや、ゾロで良い。世界一の剣豪を目指して旅をしている」
「はい、ゾロさんとお呼びしますね」
さて、この世界でも海軍は政府公認の組織であるが、鬼殺隊は非公認の組織だ。その存在も、まして鬼の存在も知らない人のほうが多い。だが、もしかすると、この男はお尋ね者かもしれないが、鬼殺隊の剣士として貢献してくれるのではないかと思う。
「どうやら、鬼のことを知らないようですね」
「この島にはああいうのが蔓延ってるのか?」
少しうんざりしたような表情を見せる。日輪刀を持っていない剣士としては、確かに厄介な相手である。笑顔を貼り付けた裏でしのぶは、もし姉ならば、どう説得するだろうと思考する。
「もう知っての通り、鬼は本能的に人間を喰う存在です。数々の悲劇を起こさないためにもご協力をお願いしたいのですが」
「ああ。そういうのいいんで」
正義感なんてこれっぽっちも無いようだ。
それはそれでイラっとしてきた。
「お給金もいいですよ」
「金が欲しいわけじゃねぇ」
「美味しい食べ物も」
「どこぞの海賊王かよ」
「ああもう! もっと強い鬼と戦えるから付いてきなさい!」
「へぇ。具体的には?」
ようやく、興味を示したようだ。
ゾロとしては、これがこいつの本性かと思って面白がっている。
「いいですか。鬼というのは決して油断ならない存在なのです」
鬼が持つ異能の力である『血鬼術』について話すと、ますます好戦的な笑みを浮かべる。柱としては恐怖や警戒をしてほしいのだが、胡蝶しのぶとしてはそれくらいの意気込みがあるほうが安心できる。
姉の仇を討ち取ることも、容易になるかもしれない。
蟲柱に就任したときから、それが最大目標だ。
「さて、事後処理部隊である
「ん、ああ」
しのぶは素直に待ってくれることに安心したが、木に背を預けたゾロは呑気に寝息をかき始めた。このあと、起こすのも大変だったし、重度の方向音痴だし、しのぶが苦労してなんとか蝶屋敷まで連れ帰ることができた。
世界一の大剣豪を目指す男は、いまだ異世界にいることに気づいていない。