輝ける姉妹   作:天下布武

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この物語の舞台はフローラ女学院のあるマームケステル。 そこで行われるサッカーの試合を題材に取り上げてます。 サッカーに興味ある人もない人もお読みいただけたらと思います。


ティアラ立つ

ここはウェールランドのマームケステル。 ここマームケステルでは年に数回マームケステルシティ(以下 シティ)とマームケステルユナイテッド(以下 ユナイテッド)によるマームケステルダービーが行われる。 両チームはウェールランドプレミアリーグでも強豪で知られる。 今日はここマームケステルシティのホームスタジアムである「シティ・オブ・マームケステル」でダービーが行われる。 そしてそこにマームケステルシティ「10番」のユニフォームで身を包みピッチに立っている一人の選手がいる。 その名は「ティアラ・ウェールランド」 このチームのキャプテンでもある。 

 

この彼女、実はウェールランド家の第二王女でもあったりする。 このことは一応内緒となっているのだが、本人の意志に反して知られてしまっている。 それについては当初困った顔をしていたが、現在では開き直ってプレーをしているようだ。(実は彼女には元スター選手の姉がいるのだが、それはまた今度の機会に)

 

彼女のポジションはミッドフィルダー(MF)の中でもトップ下と呼ばれる花形のポジションである。(簡単にいえばサッカーにおける司令塔だと思っていただければいい) 彼女のところにボールが集まると攻撃のスイッチが入る。 ピッチを俯瞰して見られる能力、相手に簡単に取らせないボールのキープ力、そして相手のディフェンスラインを切り裂くキック力。 どれをとってもセンスの塊である。 

 

「ティア、もっと相手に体寄せて!!」 

そう指示を出すのはゴールキーパー(GK)としてゴールを守るロゼッタ・アルーンウィックである。

 彼女はティアラの幼なじみで、背も高く、対人にも強い。攻撃的意識よりも守備的意識が上回っているため、後方よりチームを鼓舞している。 

 

「もうティアラさん、一対一で簡単に交わされたらダメじゃないですか!! その分守備でこっちにしわ寄せがくるんですから……」 

こう言ってむくれているのはリネット・ブラン。 決して背は高くないのだが、危機察知能力とラインコントロールに優れているため、(GK前の最終ラインである)センターバック(CB)を任されている。 

 

「うわぁ、ごめんリネット。 今度注意するから許して」 

ティアラは自分のポジションに戻っていく。 

「仕方ないですね。 勝ったらスイーツ奢ってもらいますから」 

そう言いつつリネットも自分のポジションに戻っていく。 

"ちょっと油断しすぎたかな (プレイヤーに対する)マークが甘かったかも……"

ティアラは自戒を込めて反省すると、気持ちを切り替えポジションに戻る。

 

「ティアちゃん、こっちにボール来ないよ。 もっとボールちょうだい。 そうしたら私がゴールを決めてきてあげるから!!」 

こう言って憚らないのはラヴィ・カルー。 マームケステルシティが誇るエースストライカー(自称)である。 背は高くないが小回りが利いて動けるタイプ。 シュートは一見難しそうなものをゴールしてみせたりもするのだが、一見簡単そうなやつを外すなどムラがあることでその筋には有名である。

 

「さっきまで外しまくってたクセに何を偉そうなことを言ってる、このバカウサ!! そんなことを言いたかったらゴールの一つも決めてから言うんだな」 

こう言って周りを引き締めようとしているのはアシュレイ・メラー。 前線で楔になれるフォワードである。 自分が前線でボールをキープして味方の上がりを待ったり、ボールがない時でも前からボールを奪いに行く守備も厭わない。 そんなアシュレイに対する信頼度は高いものがある。 

 

話は試合に戻るが、ボールはゴールラインを割ってゴールキックで再開。 ロゼッタがキッカーとしてそのボールを味方の最前線に蹴り出す。 最前線にいるアシュレイは相手ディフェンダーに背を向けてボールをキープ。 味方の攻め上がりを待ち続ける。 しかし相手ディフェンダーもボールを奪い取ろうと足元を執拗に攻めてくる。 それを取られないよう必死にキープし続けるアシュレイ。 後ろ向きになったアシュレイが攻め上がってきたティアラにパスを出すと、右サイドに開いてスペースに走り込むラビィにパスを出した。 パスを受け取ったラビィは右サイドをドリブルで突っかかっていく。 相手ディフェンダーを引き付けてペナルティエリアに入ろうとするアシュレイとティアラ。 右サイドで相手サイドバックとの駆け引きをするラヴィ。 左右に体を動かして相手に揺さぶりをかけ、相手を交わした隙にゴール前へ頭上よりも高いクロスを上げる。 ゴールから遠い位置にいるアシュレイが頭で落とすと、そこに走り込んできたティアラが右足を振り抜く。 しかしボールはゴールキーパーの正面。 これにはシティのサポーターもガッカリである。 さすがは同じ都市のライバルのユナイテッド、簡単にはゴールを許してはくれない。 前半半ばになっても試合は動かない。 

「さすがはユナイテッド、簡単にはゴールを許してくれないか」 

ティアラは口元を少し緩ませ、自陣に戻り相手の攻撃に備える。 

この後ユナイテッドの猛攻を受けることになるが、ロゼッタやリネットを中心とした守備陣の堅い守りで主導権を渡さない。 そして前半の追加タイムが2分と掲示された頃にシティは、ユナイテッドの左サイドを切り崩してコーナーキックを得る。 キッカーはティアラ。 左足で振り抜かれたボールは、アシュレイの動きに釣られたディフェンダーやゴールキーパーをあざ笑うかのようにゴールのサイドネットに吸い込まれる。 遂に均衡が破られた。 タレント揃いのユナイテッドから先制点をもぎ取ることそれは「勝利への近道だけでなく”優勝への近道”」でもある。 そもそもチャンピオンズリーグを戦っているユナイテッドとヨーロッパリーグですら戦えてないシティでは格が違うというもの。 これにはシティのサポーターも狂喜乱舞である。 そしてこのまま前半終了。 シティのリードで折り返すこととなる。 そうなるとユナイテッドもこのまま黙ってはいない。 後半開始前に交代カードを3枚同時に切ってきた。 フォワード(FW)二人、MF一人であるが、交代でピッチに入る選手を紹介しておきたい。 まず一人目は守備的MFのミルフィーユ・プティ。 彼女の特徴としては「相手からボールを奪うことに長けている」ということである。 彼女がボールを奪うことで攻撃のスイッチが入るだけに奪われれば苦戦必至である。 二人目はフィオナ・フェリーニ。 彼女はどちらかと言えば点を取るストライカータイプではなく、サイドをドリブルで仕掛けるウイングタイプである。 ゴールの外に開いてクロスを上げたり、又は内に切れ込んでシュートを打つこともある。 そしてもう一人はワン・ユエ。 現在のプレミアリーグでの得点女王で言わずと知れたゴールハンター。 元々はサイドでプレーをしていたが、現在の監督になってFWにコンバート。 ペナルティエリア内で混乱を巻き起こす女とも呼ばれ、数々のゴールを挙げてチームを勝利に導いている。 人呼んで「リュウトの狩人」

 

これで双方ベストメンバーが出揃った。 それにしても何故ユナイテッドの三人はスタメンを外れていたのだろうか? それは「チャンピオンズリーグやFAカップなどで過密日程になり大事を取った」だけのことである。 本当ならチームとしても休ませたかったところだろうが、相手にリードをされたとなれば話は別。 国内タイトルを獲るためにも同じ都市のライバルを倒したいというのが本音というところだろう。 

 

程なくして後半キックオフ。 今度はユナイテッドボールでの試合再開である。 センターサークルでユエが(同じくセンターサークルにいる)フィオナに蹴り出すと、フィオナは後方のミルフィーユに蹴り出す。 ミルフィーユはスペースが空いている右サイドに蹴り出すと、右にいるサイドハーフの選手がボールをトラップし、サイドをドリブルで前に仕掛けていく。 そこにシティのサイドの選手がボールを奪いに走り出すが、相手サイドバックとのワンツーで交わされてしまう。 そのままシティの自陣の奥深くまで進入されると、ペナルティエリアに進入しようと内に切れ込もうとする。 ユエとフィオナがPA内に走り込むのを見たサイドハーフの選手はPA内に向けてクロスボールを上げる。 それに反応したユエがシティDFを制して頭でボールを落とすと、そこに走り込んだフィオナが右足を振り抜く。 しかしボールはゴールの枠の外。 とはいえゴールを奪える力を持つこの二人はシティにとってかなりの驚異である。 そのことは間近で見てたロゼッタの額から流れてくる汗がそれを物語っている。 とはいえ試合はシティのゴールキックから再開する。 PA内からロゼッタが右足で蹴り出すと、ボールは前線にいるアシュレイが相手DFと競って胸に当てて落とす。 そこをラビィが拾うと後ろにいたティアラにボールを預ける。 そして相手DFラインのオフサイドトラップに引っかからないよう駆け引きをするアシュレイを見て、相手DFラインとGKの間にパスを出す。 そこでアシュレイが抜け出すと相手GKと1対1になり、右足でゴールに押し込もうとする。 しかしボールは無情にもゴールポストの外に外れる。 

 

「何やってんだよ、アシュレイ。 あれを外すようじゃまだまだだね」 

ラビィはアシュレイにそう言ってダメ出しをする。 

 

「何だと、もういっぺん言ってみろこのバカウサ!!」 

ラビィの言葉に怒りを覚えたアシュレイが言い返す。

正に売り言葉に買い言葉。 お互いが近寄り「ぐぬぬ」と睨み合わせる。 

 

「ちょっとラビィもアシュレイも程々にして まだ試合中だよ これ以上やるなら終わってからにして!!」 

さすがのティアラもこれには辟易したようで二人をたしなめると、相手に対する守備に備える。 

これには二人も毒気を抜かれたように、大人しく相手DFラインから少し下がって守備に備える。 

”おっ、いいねいいね これだけディフェンスがザルだとやりやすくて楽だよ” 

サイドに開いてドリブルを試み、巧みに相手を交わしていくフィオナ。 サイド深くまでドリブルでエグって行くとPA中央の相手DFラインのところにユエが待ち構えている。 それに合わせてフィオナはグラウンダーのクロスボールを通してくる。 そこをユエが右足で触るもロゼッタはこれを反応してボールをゴールラインの外に弾き出す。 

 

「ちょっとそこ弾幕薄いわよ!! もっと相手に寄せて!!」 

ロゼッタは味方DFにそう発破をかける。 ボールはユナイテッドのCK。 キッカーはフィオナ。 その右足から放たれたボールは弧を描いてゴールへと向かっていく。 あわやボールがゴールに吸い込まれると思えばボールはクロスバーを直撃。 跳ね返ったところをPA外にいたミルフィーユが得意の左足で叩き込もうとする。 しかしボールはクロスバーの上。 シティのゴールキックへと代わる。 

 

”ここは何とか免れたけど次来たら危ないわ 何とかしないと……” 

シティの守護神であるロゼッタは顔面蒼白になりながらそう思った。 ロゼッタは近くのDFにパスをし、試合を再開。 シティDFに対しユエがプレッシャーを掛けに行く。 シティのDFはたまらず後方にいるGKのロゼッタのところまでボールを戻す。 そのボールをユエがカットしようとプレッシャーを掛けに行くが、寸でのところでロゼッタが前線へ大きく蹴り出す。 しかしボールはユナイテッドDFに拾われてまだピンチは続く。 そこからミルフィーユにパスが渡り、左足から蹴り出されたボールは右サイドへと展開していく。 右サイドのスペースに走り込んでいるユナイテッドの右サイドバック(SB)がこれをトラップするとそのまま右サイドをえぐっていく。 右サイドの中盤選手とパス交換をしながらゴール前にクロスボールを上げると、そこにフィオナが頭で合わせようと飛び込んでくる。しかしボールはクロスバーの上を越えてシティのゴールキックへと代わる。 

 

「くーっ、惜っしいーっ!! 何であれが入らないんだよ!!」 

悔やむフィオナにユエが一言。 

「外す方が悪い (センターライン付近に)戻るよ」 

冷静を保つかのようにフィオナを説き伏せる。 

「はいはい、わかったよユエちん 次こそは決めるよ」

そんな会話をしながらシティのゴールを後にする。 

”はぁ、今のは(飛んだコースが私の)正面に入ったから外れてくれたけど、コースに入ってなかったら……” 

ロゼッタは背筋に汗を流しながら肝を冷やしていた。 再びシティのゴールキックで試合は再開する。

ロゼッタの右足から放たれたボールは、一度相手選手に跳ね返されるが、跳ね返ったボールを後ろにいたティアラが拾うと、敵陣に向けてドリブルを開始する。 それと同時に前線にいる数人がゴールに向かって動いていく。 ティアラはこれによりサイドの選手が相手を引っ張っていることを確認する。 

”よしっ”

前にはアシュレイとラヴィがオフサイドラインのギリギリの位置にいることを確認すると、相手DFラインの隙間にスルーパスを送る。 これに反応したラヴィが抜け出し、ゴールキーパーとの1対1になる。 ここでラヴィはキーパーが出てくる前に右足を振り抜くが、ボールはゴールポストの外。 

「おかしいな 本当ならここで決めて真のヒロインになれるはずだったのに……」 

ラヴィがつぶやくと 

「何やってんだ、このバカウサー!!」 

アシュレイがすごい剣幕で怒り出す。 

「何を!!」 

ラヴィが反論しようとアシュレイを睨みつける。 

「ちょっと二人ともケンカはやめて!!」 

険悪になりそうな雰囲気にティアラが止めに入ろうとするが

「ティアちゃん(ティアラ)は黙ってて(黙ってろ)!!」とお互い一歩も引かない。 

「一体何やってるんですか!! そんなことしてる場合じゃないですか!!」

普段温厚なリネットがすごい形相でキレている。 

「だってアシュレイが」「シュートを外すバカウサが悪いだろ!!」

再び押し問答になる二人。 

「いい加減にして下さい 試合はまだ続いてるんですよ こんなとこでみっともない姿を見せないで下さい いいですね!!」 

リネットはすごい剣幕で二人をたしなめる。 これには二人も呆気にとられたようで従うより仕方がなかった。 

”リネちゃん(リネット)って怒らすと怖いな……” 

二人はそう思いながらセンターライン付近に下がって相手のゴールキックに備える。 相手ゴールキーパーからロングボールが蹴られるとセンターライン付近で競り合いになる。 こぼれたところをユナイテッドが拾い、シティ陣内に攻め込む。 左サイドの選手同士パス交換をしてシティの陣形を崩していると、フィオナが前方でフリーになる。 そこを目がけてユナイテッドの選手がパスを出す。 左サイドから内に切れ込むと、CBのリネットと対峙することになる。 それをフィオナはあっさりと体を入れ替えて交わそうとする。 そこで焦ったリネットがフィオナのユニフォームを引っ張って倒してしまう。 PAの外でゴールまでの距離が30mくらいだったため、ユナイテッドの直接FKを与えてしまう。(これによりリネットは警告としてイエローカードを貰うこととなる) 

ボールがピッチ上にセットされると、ボールの近くにユエとフィオナが並び立っている。 シティはゴールを狙われるのに備えて、ロゼッタがゴール前やボールから少し離れたところに壁を作るよう指示を出す。 距離は約30m。 ボールから10m弱のところに二人、ゴールマウス近くに七人、前線にはラヴィ一人で待ち構える。 そしてロゼッタはゴールマウスにある壁の空いた方に構えている。

 

「ピィーーッ!!」 

レフリーのゲーム再開の笛が鳴ると、フィオナが真っ先に飛び出し、ボールをスルー。 後に走り込んだユエが右足で蹴り出す。 ボールはロゼッタの正面目がけて飛んでくるが、ロゼッタに到達する前にいきなりボールに変化が起こる。 ボールは突然ゆらゆらと動き、ロゼッタの手前でストンと落ち、股の下を転がってゴールラインを越える。 ユエのゴールでユナイテッドが1-1で試合を振り出しに戻す。 後半35分のことである。 ユエはユナイテッドサポーターのいるスタンドに向かって、ジャンプをし仁王立ちに着地した。 これはユエがゴールを決めた後、必ずやるポーズでこれによって自己顕示を示している。 これに沸き立つユナイテッドサポーターのいるゴール裏。 一時は意気消沈していたのが嘘のように盛り上がる。 

 

「ロゼ、ドンマイだよドンマイ!!」 

ゴール決められ呆然とするロゼッタを鼓舞するティアラ。 ゴールを決められ気持ちが沈むチームの中ではあるが、ティアラは希望を決して失ってはいない。 それよりも”もっと勝負がしたい”と言うのが本音なのかもしれない。 それくらいティアラは闘志をみなぎらせていた。 ボールは中央に戻された後、シティのボールでのキックオフとなる。 ゴールを決められても焦らずボールをグラウンダーによる地上戦を展開するシティ。 それに対して頭を越すようなロングボールやドリブルも織り交ぜ縦に推進していくユナイテッド。 それぞれが対照的であり、双方相容れない。 これこそがダービーマッチの醍醐味でもある。 どっちがどれだけ自分たちのスタイルを貫けるか? たとえ勝ったとしても、自分たちのスタイルを貫けなければ本当に勝ったとは言えないのも、またダービーマッチなのである。 意地と誇りの戦い、それがダービーマッチ。 それ故に双方のサポーターもより熱が増してくる。 

 

「Come on United Oh--!! Come on United Oh--!! Come on United Oh Oh Oh Come on United We love you!!」

とユナイテッドサポーターが応援歌で鼓舞すると、

「We love City. We love City. Oh Oh Oh~ Oh Oh Oh~!!」

とシティのサポーターも応戦する。 

 

さすがは世界屈指のマームケステルダービーだけのことはある。 これだけピッチの内でも外でも美しいのはそうお目にかかれない。 両チームが死力を尽くすこの戦い。 一体どちらが勝つのだろう。 それは観ている側でもやる側にとっても答えなんてわかりやしない。 それだけワクワクさせるのはマームケステルダービーだからこそだろう。 さて試合に戻ろう。 

 ユナイテッドが追い付いたのを期に更に攻勢を強めていく。 ユナイテッドは前線のユエにボールを集めるとユエはそれを力技でシュートを打つ。 だがそれは全て力んだものとなり、ゴールマウスの枠に飛ばなかったり、あるいはロゼッタだけでなくその前にいるリネット達が体を張ってシュートコースを防いでいる。 特にリネットはユエのシュートを体に当てられて吹っ飛ばされそうになっても、ペナルティエリア手前ぎりぎりで立ちふさがる。 

 

「リネット、大丈夫?」 

ロゼッタが問いかけると

「平気です。 むしろロゼッタさんの方が心配です。 私も出来るだけ(シュート)コースを消しますので、ゴールを守って下さい!!」 

リネットはロゼッタを励ますかのように鼓舞している。 

「わかったわ。 リネットもしっかり頼むわね」 

ロゼッタもリネットを思いやりそう答えた。 

「アシュレイ!!」

そう言ってロゼッタは前線にいるアシュレイ目がけてボールを蹴る。 当のアシュレイもボールをトラップを試みるが、それを察知したミルフィーユにボールをカットされてしまう。 逆にミルフィーユが前線に蹴り込むカウンターを仕掛ける。 前線にいるユエにボールを集めてそれを前線でキープしていく。 そこからフィオナら他の選手がユエの出すパスに対して相手のDFラインをタイミング良く抜け出しシティゴールを脅かす。 相手のDFラインを抜け出しボールを足下でトラップしようとした瞬間である、ロゼッタがペナルティエリアから飛び出して先にボールをタッチラインの外に出す。 取りあえずユナイテッドの決定機は免れた。 

 

 ユナイテッドのスローインでゲームは再開。 ボールをカットしようと前線のラビィが自陣に下がって取りに行く。 ユナイテッドの選手がサイドに開こうとした時、ラビィは相手の足下からボールをかすめ取り、そこからゴールに向けてサイドからドリブルで駆け上がる。 相手選手を交わしながら攻めるラビィ。 これを食い止めようとミルフィーユが駆け寄る。 ミルフィーユがドリブルで突進してくるラビィからボールをかすめ取ろうと足を放り出すが、これをラビィはボールを足ですくい上げながら交わす。 これにはさすがのミルフィーユも唖然とする。 

 

「ラビィ、こっちだ!!」 

ユナイテッドのペナルティエリア付近でアシュレイが声を出す。 それでもラビィは相手ゴールに近付こうと尚もドリブルで突進してくる。 ペナルティエリアの手前で、人のいないスペースが出来たので、右足で直接シュートを放つ。 しかしボールはクロスバーの遙か上。 頭を抱えて悔しがるラビィ。 

「このバカウサ、また外して。 独断でやったら決められるゴールだって決められないだろ」

ラビィの下に来てアシュレイがいきなり愚痴る。 

「にゃにを、アシュレイだって外してばかりじゃん!! そんなこと言われたくないよ!!」

すかさずラビィも反論する。 

「何だと」「何を」

アシュレイ、ラビィがにらみ合う。 

「やめてー!!」

その声の主はティアラである。 二人がにらみ合って見るに見かねた結果の行動である。

「もう、二人とも何やってるの!! ダメだったら次で決めればいいでしょ (ポジションに)戻るよ」

ティアラはそう二人をたしなめ、自分のポジションに戻る。 興を削がれた二人もまた相手DFラインより手前に下がって次に備える。 ユナイテッドGKのゴールキックから前線のユエにボールが放たれる。 そうはさせじとティアラがジャンプ。 お互い空中戦でボールに対して競り込む。 

「ピィーッ!!」 

レフリーからの笛が鳴る。 着地した時にティアラがユエにおぶさるように乗ったため、ティアラのファウルとなり、ユナイテッドのフリーキックとなる。 フィオナがボールを取って、ファウルがあった地点にボールをセットして蹴る準備をしようとしてた。 そこにミルフィーユがその場に駆け寄り一言 

「後はお姉ちゃんに任せて!!」 

そう言い放ち左足で蹴る準備をする。 

「わかったよ。 ミル姉、後は頼んだ!!」 

フィオナはそう言い残しユエのいる前線に駆け上がる。 フィオナのキックも正確で強烈だが、ミルフィーユもまた強力なキックの持ち主だ。 ユエ、フィオナという決定力の高い選手が前線に上がったことによって、シティの選手は全員自陣に戻る。 

「ピィーッ!!」 

レフリーの笛が鳴ったと同時にミルフィーユの左足がうねりを上げてボールをミートさせる。 そして飛んだボールは前線のフィオナの元に。 そうはさせじとフィオナに競り込みに行くリネット。 いち早くジャンプして身長差を縮め差を詰める。 そうすることによってリネットは先に頭でボールを弾き返す。 空中に浮いたどちらのものでもないルーズボールをティアラが反応して、(ボールが落ちる前に)ダイレクトに前線へ蹴る。 それに前線にいたアシュレイが反応し、相手DFラインの裏の広大なスペースに向かって走り込んでいく。 これにはたまらずユナイテッドのGKはペナルティエリアを飛び出してボールをカットしよう足を出した。 しかしGKの足は(ボールをトラップして浮かせた後に残った)アシュレイの足を刈ってしまう。 刈られた瞬間、アシュレイは体を地面に叩きつけられてしまう。 

「ピィーッ!!」

レフリーの笛が鳴り、シティのFKに代わる。 ユナイテッドのGKには危険なプレー(アシュレイの足を引っかけて倒した)をしたとしてイエローカードを出した。(この場合、シティのゴール決定機会阻止やペナルティエリア外で手を使うなどをしなかったため、この程度で済んでいる) 

 ゴールはならなかったもののチャンスを得たシティ。 ペナルティエリアの中まで侵入出来なかったためペナルティキック(PK)にはならず、フリーキックとなる。 距離はゴールまでおよそ25mといったところか。 ゴール前にはユナイテッドの選手が人の壁を作って、ボールを通させないよう

にさせる。 壁のないところにGKを配置し、シティのFKに備える。 

 

”(蹴る地点にボールをセットした時に目を瞑つぶりながら)私、大丈夫だよね いけるよね”

ティアラはそう思いながら目をカッと開いて助走幅を取る。 軽くジャンプしてから助走して、左足を踏み込む。 その時右足を弓を引くかの如くしならせボールに向かって足の甲を叩きつける。 するとボールは回転の少ない弾道で相手GKの正面手前まで届くと、そこからストンと落ちてゴールへと転がる。 ボールはそのまま枠内のゴールラインを越え、その時シティサポーターからの歓声が湧き上がった。 両腕の拳を天に突き上げ歓声に応えるティアラ。 後半になってしっかり閉めていたユナイテッドゴールをやっとこじ開けた。 達成感がありありな表情が顔に出ているのがよくわかる。 後半42分のことである。 

 

「まだ、まだ終わってないよ」 

ユエはゴールに転がっているボールを拾い、センターへと戻す。 時間はまだある。 サッカーは30秒で1点が入るスポーツだ。 それだけに「何の手土産もなしに(ユナイテッドの)ホームには帰れない」 これがウェールランドプレミアリーグの常勝の矜持を持つチームの心構えである。 もちろん手土産とは勝点3のことである。 (プレミアリーグの)中位を彷徨っているシティ如きに黒星などもっての外。 そのことを胸にユナイテッドは攻め立てる。 一方シティも防戦になりながらも、体を張ったディフェンスで相手の攻撃を封じ込めていく。 そうしていくうちに後半の45分が過ぎ、(負傷などで使った時間を加算する)アディッショナルタイムが掲示される。 その時間は5分。 ということは同点どころかユナイテッドにも逆転の可能性もあるということだ。 

「えーっ、何で5分なの。 長いよ長すぎるよー!!」 

掲示を見たラビィが叫んだ一言がこれである。 

「いいから黙って仕事しろ。 守備だって大事な仕事なのだから」

アシュレイも自分を殺して守備に奔走してチームを助ける。 全く気が抜けないこの勝負、スキがあれば即負けに繋がる。 後半48分にユナイテッドDFからのロングボールが前線のユエに収まる。 そこにシティDFライン越えようとしているフィオナにユエがグラウンダーのパスを出す。 シティにとって決定的なピンチである。 フィオナの前にはGKのロゼッタしかいない。 つまりは1対1の対決である。 当然シュートを防ごうとロゼッタはペナルティエリアを飛び出す。 それを察知したフィオナは(ロゼッタの頭を越す)ループシュートを放つ。 ボールはそのまま無人のゴールへ

と吸い込まれる。 同点と思いユエに飛び付くフィオナ。 

「ピィーッ!」

レフリーの笛が鳴り、ゴールが認められるかと思えば何かがおかしい。 タッチライン(長方形のサッカーピッチの長い方)を見ているラインズと呼ばれる副審判が旗を揚げていた。 オフサイド(簡単に言えばゴール前の待ち伏せ禁止のルール)である。 フィオナがシティDFラインを抜くのが一瞬早かったようだ。 

「あーっ、またやっちゃったよ!!」

そうフィオナが嘆くと

「下を向いてる暇はない。 フィオ、もう一度行くよ」

ユエは前を見据えてそう言い放つ。 これにフィオナも頷いて呼応する。 ボールはシティのゴールキックに代わり、ロゼッタが前線のアシュレイにボールが蹴られ、アシュレイがこれを胸で落とす。 そこに走り込んできたラビィがドリブルでサイドに開いて、コーナーへと向かい、そこでボールをキープする。 ユナイテッドDFが二人、三人と集まりながらボールを取ろうとするも、ラビィは(相手DFの足で引っかけられたところを)倒れてシティボールにする。 こうして時間だけは刻々と経っていき、さすがのユナイテッドには焦りが出始めてくる。 そのうちラビィがボールをキープしきれなくなり、ユナイテッドDFにボールを当てられてゴールラインを割り、ユナイテッドのゴールキックに代わる。 ユナイテッドのGKから放たれたボールをユエが胸で落とすと、そこに走り込んだミルフィーユが(少し遠いが)左足のシュートでゴールを狙う。 これがロゼッタの頭上にいくところを手を伸ばし、指先ギリギリでボールの軌道を変え、ゴールからボールを遠ざける。  ボールはゴールラインを越え、ユナイテッドのコーナーキックになる。 アディッショナルタイムの5分は経過。 もうこれがラストプレーだろう。 コーナースポットにいるミルフィーユがGKに「上がれ」と手を振って上がりを促した。 こうして上がってきたGKも含めて全員でゴールを狙う。 ミルフィーユから放たれたボールは、ゴール中央のユナイテッドGKの頭に目がけて飛んでくる。 

これをGKは頭で落として、そこにユエが滑り込んで押し込もうとする。 それを察知したロゼッタは(ユエが触る前に)いち早くキャッチして前のめりに倒れ込む。 

 

「ピィーッピィーッピィーッ!」

この瞬間マームケステルダービーが終わった。 ホームのシティサポーターからは歓声と拍手が、アウェーのユナイテッドサポーターは足早にスタジアムを後にした。 

 笛と同時にピッチにへたたりこみ安堵感を浮かべるシティイレブン。 あまりのことに立てなくなったティアラ。 そこに近付いたラビィに一言こう告げる。 

「ごめんラビィ、ちょっと肩を貸してくれる?」

それを察したラビィはティアラの腕を自分の肩に乗せ、ティアラを立たせる。 両チームが中央で挨拶を済ませるとユエがティアラに駆け寄る。 

「今日は負けた。 でも(私たちが)最初から出ていれば勝てていた。 次のダービーは逆にするから覚悟して」 

 ユエはそう告げて立ち去ろうとすると、ティアラの歩様がおかしいことに気付く。

「あんた、その足……まさか」 

 ユエはその歩様を見て言葉にならない。

「やっちゃったみたい。 でも次までには治るよ」 

 ティアラは痛めた右足を引き擦りながらもそう答える。 

「そう、次はオールドトラッフォードで。 行くよフィオ、ミルフィーユ」 

 そう答えユエはその場を立ち去る。 

「とても熱い試合だったよ。 またいい試合やろうよ!!」

 フィオナもそう言い残し 

「またお姉さんと遊びましょうね!!(クスっ) バイバイ!!」 

 ミルフィーユもまたそう言い残してピッチを後にした。

 シティの勝利でチャント(応援歌の一種)が流れるシティ・オブ・マームケステル。 宿敵ユナイテッドを倒せたことはシティにとって大きな自信となるだろう。 しかしその代償もない訳ではない。 ティアラは(利き足の)右足を引き擦っているため、しばらく試合に出られないことが予想される。

 それでもこの勝利でティアラは自分の価値を示せたのだから悪くはないのかもしれない。 ケガはさておき、今後も見逃せないことは間違いのないところだ。 

 

 この話はこの辺でお開き。 

 




いかがでしたでしょうか? 
もしよろしければ感想などいただけると幸いです。 今後ともよろしくお願い致します。
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