初めて欧州の舞台に立つマームケステルシティの選手達。 新シーズンを迎えるにあたって新たに監督を迎えることとなったが、その人とは……。 そして始まる新シーズン、果たしてどうなるのか? 乞うご期待。
昨シーズン、リーグ戦を2位で終えたマームケステル・シティ。
ティアラ達にとって初めての欧州を舞台にした挑戦に挑む。 その大会とは「UEFA女子チャンピオンズリーグ(以下UWCL)」である。
チャンピオンズリーグとは欧州で一番大きい大会で、勝てば欧州一を名乗ることが出来、世界有数の強豪と認められる。 そして大会のレギュレーションとしては、欧州各国の順位によって出場枠が決められ、その枠によって出場が決まる。(ちなみにウェールランドの枠は4枠で、本戦に出れるのはリーグ戦上位3チームで、残り1枠は予備予選を勝ち抜かなくては本戦に出られない) リーグ戦優勝の(ユエ達を擁する)マームケステルユナイテッド、2位のシティ、3位の(ブリストルにある)ブルースが本戦行きを決め、4位の(これもブリストルにある)ガナーズが予備予選行きである。 本戦は全部で24チームを6グループに分けて行われるグループステージと、グループ2位までと3位から上位4チームを含めて争われるノックアウトステージが行われる。 そのシティとグループステージで組するのは(マルルセイユの)パリ・サンジェルマン(以下PSG)、(ギリシャの)パナシナイコス、(ルーマニアの)クラブ・クルージュと同組になった。 この中で強いのはPSGくらいなもので、取りこぼしさえなければグループステージは突破は出来ると思われる。
これまで欧州の舞台に縁のなかったシティにとって待ちに待った欧州の舞台。 シチズン(シティサポーターの愛称)にとっても晴れの舞台である。 ホームであるシティオブマームケステルでは多くのシチズンがスタジアムに詰めかけている。
「何これすごくない 入り待ちからこんなに人がいるの初めて見たよ」
ラビィから開口一番にこんな言葉が飛び出した。
「ラビィさんが驚くのも無理ありませんね 普段の試合じゃ考えられないですから」
これにはリネットも呼応して同調する。
「これだけのシチズンが集まっているんだ 恥ずかしい試合は出来ないぞ」
アシュレイにしても多くのシチズンを見て興奮しそうなところを冷静にしようと努める。
一方のティアラといえばバスの中では、誰とも口を聞かずに目を瞑りながら今日の試合のシミュレーションをしていた。
「ちょっとティア着いたわよ 降りる準備して」
ロゼッタは少し心配そうにティアラに語りかけた。 そしてティアラはコクリと頷き出口へと赴く。 スタジアムへと向かう時、建物のコンコースにティアラが目をやると、そこには多くのシチズンが待ち構えていた。
「今日は頼むぞ!!」「ティアラ、がんばって!!」「アシュレイ、しっかり決めろよ!!」「ロゼッタ、今日もクリーンシートで勝とう!!」
などなどシチズンからの声援が飛んでくる。 それだけ期待されている証拠だ。 そんなシチズンに迎えられながらシティメンバーはスタジアムへと入って行く。
メンバーがロッカールームに入り、練習着に着替えを始めると監督がこう言い始める。
「皆さん、着替えながらでいいのでよく聞いて下さい (今日の相手である)PSGははっきり言って強いです 皆さんが強いことも私は知ってますが、決して油断だけはしないで下さい 戦術などの詳しいことは皆さんが(ピッチ内の)練習が終わってから言います いいですね」
この指示をした本人こそ今季より監督に就任したクロエ・バルテズその人である。 クロエはマームケステルにあるフローラ女学院の理事長であり、元マームケステル・ユナイテッド、マルルセイユ代表のゴールキーパーとして君臨していた。 今は現役を引退して理事長をやりながら、監督をやるためのコーチライセンス取得し今日に至る。
そんな彼女に対して選手達は
「Yes,Ma'am!!」
と応答し、ピッチ内練習のため全員ピッチへと向かう。
”City City City City City of Marmkestel City City City City City of Marmkestel"
シティの選手達がピッチに現れると、このチャント(応援歌の一種(選手やチーム名を連呼するものがコールであるのに対し、選手やチームに対して歌にしたものをチャントという))で選手達を出迎えチームを鼓舞する。 ここでは負けられない思いがこのチャントからも伝わってくる。 そのことを胸にシティの選手達はおもむろに走り込み、ボールを蹴り、感覚を掴んでいく。 それはGKの選手も同じである。 ただ他のプレイヤーと違うのは、誰よりも先に出てきてウォームアップを始め、シュート性のボールをキャッチする。 もっとも先にやらないと、フィールドプレイヤー(GK以外の選手のこと 以下FPとする)が入ってきた時には練習にならないから、先にやっているというのもある。 GKだけの練習が終わるといよいよFPを交えた連携やシュート練習をやるようになる。 コーチから放たれるボールに反応し、サイドや中央から折り返すとシュートでゴールを狙うというものである。 例えば中央にいるアシュレイがサイドにいるコーチにボールを出すと、コーチがPAに入ってくるアシュレイ目がけグラウンダーのクロスを送る。 それをアシュレイが脚で合わせてゴールに押し込むというもの。 他にもサイドに選手を行かせ、中央にいるコーチにパスを出し、走り込んでくる選手にリターンしてシュートをしたりするのもある。 いろいろパターンを変えながらFPならフィニッシュ、GKならセービングを突き詰めていく。 それも試合前30分前位になると、それも終了となりロッカールームへと引き上げる。 ロッカールームで練習着からユニフォームへ着替え、そこからクロエ監督の作戦が初めて授けられる。
「PSGはピッチをフルに使ってボールを展開するフットボールを信条としてます 皆さんも知っていると思いますが、リーグアンは欧州だけでなくアフリカ出身の選手も多いリーグです アフリカ出身の選手の身体能力はご存じだと思います 彼女達は大きくて、それでいて脚が長く速いときてます だから普段スーパーリーグでやっているマンツーマンディフェンスは危険です そこでFW、MF、DFで構成する3ラインでコンパクトな守備のブロックを作り、これに対抗したいと思います そのやり方についてはボードで展開するのでそちらを見て下さい」
クロエの声はここでほぼ途切れるが、ボードを中心にゲームの組み立て方を伝授しているようだ。 また一部の選手には相手の要注意選手を伝え、対策を授けてもいたらしい。
それではここでシティのメンバーを発表しておこう。 GKロゼッタ、DFは右からシャンペ・マルシャン、ジェイン・アダムス、リネット、メアリーベリー・ブラウン、MFラトゥーラ・ロッシ、橘ナデシコ、ティアラ、橘カエデ、FWラビィ、アシュレイ。 リザーブはGK橘ツバキ、DFミッシェル・ハモンド、ビビアン・ネイビス、ジュネス・アルカンタラ、MFアリーナ・ヤルモレンコ、ラウラ・ガルシア、イザベル・ロペス、FWファナン・サラー、ジェイミー・アンダーソン。 初戦からガチンコでメンバーを組んできたシティ。 クロエにしても(選手の)試合中の調子を見てみたいということは伺えるようだ。
そしていよいよ選手入場の時となる。
審判団を中心に両チームが並び立ち、キャプテンのティアラを先頭に整列をしていくシティ。 整列直前にはティアラと他のスタメン選手がグータッチで絆を深め合う。 そして選手入場。
(メインスタンドから見て)左にスカイブルーのユニフォームのシティ、右に白のユニフォームのPSG。 それぞれが一列に整列してUWCLのアンセムが流れる。
Mit Stolz / They stand / Les grandes équipes
The ones / The few
Die Besten / Les meilleurs
Are here for you
All unite / Das große Spiel
The time is now / C’est maintenant
They stand / With pride
アンセムが流れ終わると同時に場内からは満面の拍手が一面に広がる。 そして選手達はピッチに散っていく。 そんな中シティのキャプテンであるティアラとPSGのキャプテンが中央に残りボールと陣地を決めるコイントスを行う。 ティアラはここである選択をする。 コインの表を選択して陣地を(メインスタンドから見て)右から左へとしてきたのだ。 ボールではなくゴールの陣地を取ることで、前半は様子見して後半に勝負を賭けたいようだ。 今の天候は小雨で、風は左から右である。 それも旗が強くなびくくらいの強さである。 前半は相手からのロングボールに注意したいところではある。
「ピーーーーーッ」
いよいよ以てPSGボールのキックオフでシティにとってのUWCLが始まる。
「C'mon City!! C'mon City!! C'mon City!! C'mon City!!」
出だしからチームを煽るシチズン達。 もちろんホームだけに負けられない。 初っぱなからアシュレイやラヴィが前線から相手選手にプレッシャーをかけに行く。 もちろんボールを奪って攻撃に繋げるためだ。 PSGは一端ボールを下げてDFから前線へとロングボールを上げる。 相手が前線でボールを受けると、前を向いてドリブルで仕掛けようとする。 そうはさせじとティアラが相手にチャージしてボールを奪うと、自らドリブルで進軍し、FP全員で前に進んでいく。 ティアラからナデシコ、ナデシコからリネットへとボールを渡っていく。 丁度その時相手は真ん中にボールを取りに行っててサイドの選手がフリーになっていることに気付く。 そこをリネットは逃さず右サイドでフリーになっているラトゥーラに浮き球のパスを出す。 それに反応したラトゥーラは空いたスペースに走り出し、ボールを受け取る。 そこからドリブルで相手に突っ掛けに行くと相手も反応して囲んで来る。 そこで後ろからシャンペがオーバーラップして来る。 シャンペが来たのがわかると、ラトゥーラは相手の股を抜いてパスをシャンペに送る。 右サイドの深いところに抜け出したシャンペ。 しかし相手DFもこれ以上はやらせまいとシュート(もしくはパス)コースを切ってくる。 外が無理なら内にカットインして、ゴール中央に少し浮かしたクロスを上げる。 これに反応したアシュレイは頭で合わせようとする。 しかしこれには相手GKも飛び出して応戦しようとしてくる。 それでも何とかアシュレイが先に合わせるが、ボールはクロスバーの上。
「Ahーーーーーーー!!」
歓声からため息に変わるシチズン達。
「くっ!!」
悔しさを感情に出すアシュレイ。 ゴールにはならなかったが、試合の出だしとしては悪くはない。
「アシュレイ、ドンマイ!!」
ティアラはそう励ますと、アシュレイは右手で親指を上にして腕を上げてみる。 これまでなら必ずと言っていいほどティアラを経由してボールが供給されていたことを考えれば、多少の進歩があったと言えるのかもしれない。 一方のPSGもこのまま黙ってはいない。 アシュレイのポストプレーでボールを狙われ奪うと、ショートパスを多用したカウンターで対抗する。 ボールを奪ったら空いてるスペースへ走り込む。 シティはなかなかボールが奪えず手こずる一方、PSGはボールを保持しながらゴールを狙うという目標が出来ていて、じっくり攻めることが出来ている。
”このままじゃ守備ばかりに負担がかかって攻撃が出来ない とにかく奪わないと!!”
ティアラは困惑しつつもボールを奪いに行くことに終始させられてる。 アシュレイやラヴィにしても前からプレスをかけ続けてるため、スタミナが心配である。
”ちょっと待って、ボールが取れないよ 追っかけてばかりでやってらんないよ!!”
ラヴィに至ってはあからさまにイライラしていて何かしでかしそうな雰囲気だ。
「Booooooooooooo!!」
シチズン達に至ってはいつ爆発してもおかしくない位のブーイングの嵐。 こんな状態でやらかさなければよいが……。
30分経過してスコアこそ入ってないが、PSGの5本に対し、シティは開始早々に放ったアシュレイの1本だけである。 奪えない、しかし奪わないと攻撃が出来ない。 そんなジレンマに駆られるシティイレブン。 心底イライラが募るばかり。 やっとのことでボールが奪えても、相手がマンマークで対応されてはパスはなかなか通せない。 後方でパスを回しながら相手の出方を見ようとするシティ。 右サイドのラトゥーラが相手のマークが一瞬離れた隙を見逃さず走り抜ける。 それを見逃さなかったリネットはすぐさまラトゥーラにパスを出す。 それが通るかに思われたが、相手DFに読まれパスをカットされてしまう。 そうなるとただただ時間が過ぎていくばかり。 ティアラにしても2人にマークされて前すら向かせてもらえない。 それならと中盤からパスが渡ったリネットは突然前にドリブルを敢行する。 意表を突かれたPSGはリネットへと集散して行く。 そこでリネットは囲まれる前に、マークの外れたアシュレイにロングフィードのパスを出す。 前線で相手DFと駆け引きをしていたアシュレイ。 リネットがボールを蹴るのと同時に相手のDFラインを飛び出す。 フリーになったアシュレイはゴールに向かってドリブルを開始。 これは堪らないと相手GKもペナルティエリア(以降PA)から飛び出す。 アシュレイも相手キーパーの飛び出しに気付き、シュートモーションに入る。 ボールにミートしようとしたその瞬間である。 スライディングしてきた相手キーパーの脚がボールに接触し、ボールはタッチラインへと流れてスローインとなる。 これにはさすがのアシュレイも頭を抱えた。
「相手の守備が堅すぎる……」
アシュレイはそう呟き相手のDFラインに戻る。
「ピィーーーーーーーーーッ!!」
チャンスらしいチャンスももらえず前半を終える。
ロッカールームに帰るなりクロエはある種の違和感を感じていた。
”本来(マルルセイユ代表の点取り屋でもある)イレーヌ・クルトワを中心とした攻撃型のフットボールをするチーム イレーヌにここまで守備をさせるなんて何か解せないですね”
そう考え事をしていると
「監督、これどうしたらいいんですか?」
ティアラが心配そうに尋ねると
「あっ、ティアラさん そうですね、今から後半の展開を授けたいと思います」
クロエは全体に向けて後半の展開予想とこれからの動き方を授ける。 詳しいことは聞き取れなかったが、皆納得してロッカールームを出る。
シティイレブンはピッチに登場するなり自陣で円陣を組む。
「今日はシチズン達を手ぶらで帰す訳にはいかないよ シティ、ファイオー!!」
ティアラが全員に号令をかけ、円陣を解いて各々ポジションへと散る。
天候も変わらず今度は風上である。 そんな中シティボールで後半が始まる。 アシュレイが右足でボールを蹴り出すとボールはラヴィへ。 それをラヴィは躊躇もなくゴールに向けて蹴り出す。 ボールは風に乗ってゴールへと迫ってくる。 これにびっくりした相手GKは手を伸ばしてボールをクロスバー上へと弾く。 もちろんこれはシティのコーナーキックとなる。
「いやぁ、あれ絶対入ってたよ キーパーが触ってなければ……」
ラヴィはそう文句を言っていると
「何言ってるんですか あれくらい(相手)GKの範疇ですよ 余程意表を突くか強烈なシュートでないと入りませんよ」
リネットはラヴィをそうたしなめる。
「もうリっちゃんまでそこまで言わなくてもいいじゃん 次は決めるからいいよね」
ラヴィは物怖じせず堂々と言い返した。
”今のあれであんなに飛ぶんだ これなら相手に驚異を与えられるかもしれない”
ティアラは一瞬ニヤッとして再びピッチで動いていく。
「みんな、どんどんゴールを狙って打っていいよ!!」
ティアラがピッチで号令をかけると多少遠くてもシュートコースが開いていればシュートを打つようになっていく。 それでも相手の抵抗もものすごく、シュートコースに入ってシュートをブロックしたり、時折カウンターで反撃したりで、一筋縄ではいかない。
”なるほどそういうことなんだ ただ闇雲に打ってもダメなんだね 少しやり方を変えてみようかな”
ティアラは頭の中で閃くと、ナデシコ達に耳打ちし、ボールをもらいながら動いて、周りを使いながら相手のマークを剥がしていく。
”ただただ強引に打っていっても入る訳がない ならこうすれば”
ティアラは相手のマークを剥がした時に出来るシュートコースに向けて打っていく。 しかしボールはクロスバーに直撃してゴールラインを越える。
「ふぅーっ」
シュートを打ち一呼吸するティアラ。 これにはシチズン達も固唾を飲むことになる。
「Ale Ale Ale A City Ale Ale Ale A City Ale Ale Ale Ale Ale Ale A City~♪」
「Oooooooh Oooooooh Oooooooh Oooooooh Oooooooh Oooooooh City~♪」
シチズンも負けじとシティイレブンを鼓舞してチームをサポートしていく。 ホームだけに負けられない。 その気持ちがチームの支えであり拠り所だ。 ティアラが一度ボールを持つと(ボールを持っていない)他の選手は空いているスペースへと走り出し、パスを受けるのを待つ。 しかし相手もそれを察知してティアラを囲みに来る。 二人三人と囲まれるティアラ。 それでもボールをキープしながらボールの出しどころを考える。
”出すとすればここだよね"
ティアラは相手DFの股を開いたところへボールを転がし抜いていく。 ボールは前に走り込んでいたラヴィに転がり込んで来る。
"ティアちゃん、ナイス!!"
ラヴィはボールを受けるとゴールに向けてドリブルで切れ込んでいく。 これに対しPSGもこのまま手をこまねいている訳でもなく、ドリブルで突進するラヴィに対してスライディングタックルで応戦する。 これをラヴィはジャンプして交わして行くが、二つ目のタックルで捕まり、体が吹っ飛ばされ、芝生の上に叩きつけられる。
「あいたたた これはダメージもらいすぎたかな まさか飛んだ時にもらうとはね……」
ラヴィはすぐに立ち上がりボールを追いかける。 PSGのカウンター攻撃、右のサイドバック、サイドハーフが互いにパス交換しながらサイドを駆け上がり、シティの陣内を掻き回していく。 右サイドからゴール中央に向け頭上にクロスが上げられる。 これを察知したリネットは相手より高く飛んで、ヘディングで弾き返す。
「リネット、ありがとう 助かったわ」
ロゼッタが感謝を述べると
「いえいえ、それよりもまた来ますよ」
リネットも感謝しつつも警戒を怠らない。
PSGが左から再びクロスが上がると、今度はナデシコが頭でクリアする。 そのクリアしたボールはティアラの元へと収まる。
"ナデシコが繋いでくれた さてどう行こうかな? ここに行ってみようかな”
ティアラはおもむろに左サイドに空いたスペースにボールを蹴り出し、近くにいるアシュレイを走らせることにした。 アシュレイは相手DFと駆け引きしながらスペースへと走り込むが、ラインズの旗が揚がりオフサイド。 ティアラがパスを出した瞬間、アシュレイの飛び出しが一瞬早くDFを追い抜いてしまったためにオフサイドの判定になったのである。 ティアラが親指を上にして右腕をアシュレイに突き上げると、アシュレイも同じように右腕を突き上げていた。
”うーん、アシュレイちょっと早いよ……”
正直今のオフサイドにはティアラもオカンムリである。 相手がオフサイドトラップを発動させた可能性もあるため、一概にアシュレイを責められない。 それだけにこのオフサイドに対してこのゲームの難しさを感じたようだ。 75分になっても点が取れないシティ。 サッカーに限らずどんなスポーツでもそうだが、”先に点を取った方が優位に立てる”ということ。
”もっと攻撃に厚みが欲しい それならあれをやってみようか”
ティアラはラトゥーラを、ナデシコはカエデを呼んで伝言している。 それをラトゥーラはシャンペ、カエデはメアリーベリーに伝えていく。 各々それぞれのポジションに戻ると相手GKからのキックが放たれてる。 そこをリネットは相手FWと競り合いながらもヘディングでボールをカット。 セカンドボールをナデシコが拾い、右サイドにいるラトゥーラにパスを出す。 相手の守備のプレスの速さにも負けずボールをキープする。 そこに駆け上がって行くスカイブルーの選手がラトゥーラを追い抜いていく。 そうその姿はシャンペである。 ボールをキープしていたラトゥーラは相手の股を抜くキラーパスを出す。 これを受けドリブルで駆け上がるシャンペ。 ボールを出したラトゥーラは外へと走り込む。 それを察知したシャンペはゴールに向かって内へと切れ込む。 意表を突かれたPSGも手をこまねいている訳でなく、パスやシュートのコースに入って打たせないように行く。
”シャンペ相手に何ムキになってるんだろうね(笑)"
シャンペはそう思いながら右に行くと見せかけて左に行くフェイントを仕掛ける。 一瞬ぽっかりとシュートコースが空いたところに左足で強引にシュートを打っていく。 しかしボールはゴールポストに直撃。 ボールがフリーになったところをラヴィがそのボールに詰め寄る。 相手GKも先に追い付こうとボールに詰め寄る。 当然衝突は避けられず、双方ともピッチに倒れることになる。 それでも相手GKのキャッチが一瞬早く、判定はPSGのゴールキックへと替わる。 それにしても惜しいシーンだった。 後半に入ってからシュートらしいシュートをまともに打ってなかったのだから、これを逃したシチズンのショックは大きい。 ここにきてラヴィやメアリーベリーの動きが鈍くなってきている。 それを察知したクロエはサブメンバーにウォームアップを急がせる。 そうしてアップを終えた選手がビブスを脱いで上着を着る。 ラヴィとメアリーベリーに代えてジュネス・アルカンタラとアリーナ・ヤルモレンコを投入する。 80分のことである。 ジュネスはディフェンシブなポジションならどこでも出来る選手、またアリーナはティアラがいない時には司令塔を務める程の攻撃を得意とした選手である。 ジュネスはメアリーベリー入っていた左サイドバックにそのまま入り、アリーナはアシュレイより少し後ろで構える。 疲れた表情でクロエと握手するラヴィとメアリーベリー。 ラヴィは再三相手からのチャージで地面を叩きつけられたのがダメージとして残っている様子。 メアリーベリーは試合で守備に追われて攻撃参加も出来なかったためか悔しさを滲ませる表情をしていた。 交代で入ったアリーナはティアラに耳打ちをする。
「最悪点は取れなくてもいい とにかく守り切れ」と
アリーナからの伝言を聞いたティアラは全員に大声で知らせる。
「いい、しっかり守るよ!!」
これを聞いたシティの選手は一様に頷いた。 クルトワ中心に猛攻をしてくるPSG。 これに呼応してボールを奪おうとするシティ。 アシュレイがワントップで前線に立ち、後方から来るボールを必死になって収めようとする。 そこからカウンター狙いの攻撃を仕掛けようとするが、相手にパスをカットされたり、パスを出させないようにするためにシティの選手への寄せを速くしてきた。 前にパスを出そうにも、相手が張り付いて前には向けない。 後ろにパスしてからのロングボールで相手の頭を越そうとしても、相手に察知されてクリアされてしまう。 90分近くになって手詰まりになってくるシティ。 後半のアディショナルタイムが表示され、そこには「4分」と出てきた。 PSGの選手が中央でドリブルで仕掛けて来た時、ナデシコやリネットが相手に交わされてシュートを打たれる。 誰もがやられたと思った時である。 ボールに対して赤髪のショートボブが飛んで来たのである。 ティアラである。 ティアラは飛んで来たボールを右足でダイレクトに打ち返してこれをクリア。 しかしボールは味方には渡らず相手に回収されてしまう。 相手DFがボールを前に展開しようとした時、アリーナがボールを持った相手DFに詰め寄る。 相手はパスを出すが、苦し紛れに出したパスはアシュレイにカットされてしまう。 そこから(フリーになった)ティアラにボールを預け、アシュレイは相手DFとの駆け引きを仕掛ける。 ティアラが前線に向けて頭上を越えるロングボールを出すとアシュレイはそこに走り込む。 アシュレイがボールに追い付き、足でボールを触れた時である
「ピィーーーーーッ!!」
笛と同時に線審の旗が揚がり、そこから旗を真っ直ぐに突き出す。 つまりオフサイドである。 ティアラのパス出しよりもアシュレイが飛び出すのが一瞬速かったということである。
”あちゃー、またやっちゃたね 終わったら練習だよ”
ティアラはそんなことを考えながら後ろに下がっていく。
「ピィーーーーーッピッピィーーーーーー!!」
相手がフリーキックを蹴ったと同時に笛が鳴り、試合が終わる。
終了後中央に整列して両チームと審判が挨拶をする。 そしてスタンドからは両チームの健闘をたたえ合う惜しみのない拍手が送られる。
”正直これではグループステージの勝ち抜けは難しいですね……もっと引き出しを作らないと厳しいかも”
クロエは相手チーム監督との握手を終えてから首を傾げながらベンチへと戻る。
”ホームだから勝たなくてはいけない試合”
シティの一同はそう思いながら苦虫をかみ殺す。 ある程度守備は出来た。 しかし攻撃の詰めが甘く勝利をもたらすことが出来なかった。 結果として0-0のスコアレスドローとなったが、それをどう捉えるかは彼女達次第である。
”今日はこの結果だけど収穫はあった だから次は勝ちたい!!”
ティアラはそう考えながらロッカーへと引き上げる。 初のUWCLでのホームゲームは苦い出発となった。
いかがでしたでしょうか?
続編として書いたものですが、大変遅くなり申し訳ありませんでした。 本当ならもっとペースを上げて書くものですが、私生活でも忙しくなかなか時間が取れません。 今後はイベントと重なるのでもっと遅くなる可能性があります。 これに懲りず追っていただけると幸いです。 よろしければ感想などもいただければと思います。 今後ともよろしくお願い致します。