その上でキャラが崩れているのは作者の表現力不足です。
大体見切り発車。
リサ・1
リサは優秀だ。スメールの教令院に在籍時、院の学者に『200年に1人の逸材』と称された彼女の博学多識は伊達ではなく、今でも彼女の機嫌次第で、その力は遺憾なく発揮される。
もし運良く彼女から助言を貰うことが出来れば、研究の一課題から日常で役立つ節約術に至るまで、疑問はたちどころに解決するだろう。
しかし、それが叶うのは運が相当に良いときだけだ。
あらゆる分野に精通し、歩く図書館を体現するリサがその知識を授ける人間というのは、あまり多くはない。
それは何も彼女が知識を秘匿し、教えることを忌避しているからではない。
――即ち、ただ面倒なだけだ。
しかしそれでも尚古今問わず集められた膨大な知識から語られる彼女の助言は有意義なもので、気まぐれに付き合う価値は充分ある。故にリサの助言を請うならば、適切な時間に彼女の元を訪れることを前提とすることを勧める。
もしうっかり二度寝の時間や、彼女の愛して止まないアフタヌーンティーの時間などに彼女の元を訪れれば――どうなるかは試すまでもないだろう。
さて、このように彼女は面倒を極端に嫌う。その気質は気まぐれかつ怠惰で、さながら猫のようだ。
それは彼女の仕事ぶりにも影響しており、例えば彼女の職務の一つ西風騎士団で使用する簡単な薬剤の調合や補充であれば、騎兵隊長のガイアを通して騎士団員のホフマンとスワンに丸投げ。加えて材料の薬草は花屋のフローラを経由し、ドンナに届けて貰っている。
故にそれ以外のモンドの人々が彼女に会えるのは、騎士団本部で本を借りるか、本の返却をするときのみである。そしてその時のリサは、いつも気怠そうに受付に座り、欠伸をしながら貸出や返却の手続きをする。
結果だけ見れば彼女の仕事は常に完璧で、ひとかけらの手抜かりもない。だがそんな彼女の怠惰な様子は、図書館を訪れた人々に、彼女の仕事ぶりを疑問視させる原因となる。
もっとも、彼女がそのような目を気にする様子は見られないが。
――時に。
リサは昔から、本と書類の整理だけは彼女自身の手で行っている。どんな退屈な本でも、どんなに無価値な書類であっても、彼女がそれらに関わることに価値を見いだしたのなら、彼女はそれらの扱いに一切の妥協を許さない。
無論時にはその数が膨大で、通常の業務時間内では彼女一人の手では捌ききれないものもある。
だがそんな時でさえ、彼女は日夜図書館に閉じこもり、大好きなお茶会を断ってまで対応を続け、そして終ぞ誰からの助けも借りることはなかった。
なにが彼女を其処までさせるのか、実のところ詳しく知る者はいない。
だがリサにとって、知識の管理とは、探求とは、限られた時間を過ごす己を唯一安心させてくれることなのだ。
故に、彼女がそれらを誰かに手伝わせたり、或いは任せたりするようなことがあれば。
その人間はきっと、彼女に大層気に入られている、ということなのだろう。
・・・
僕には敬愛する師がいる。
名前はリサ・ミンツ。かのスメールの学者顔負けの膨大な知識を持ち、その恵まれた容姿や肢体には誰もが見蕩れる。
極めつけは『神の目』と呼ばれる神秘を天より授けられた、文字通り選ばれた存在。
簡潔に言うのであれば、「人の到達点」だ。
平素はのんびりモンドの図書館司書をしているけど、彼女はスメールの一流学者にだって負けない見識を持っている。
その美しさとも相まって、界隈ではかなり有名な人だ。かくいう僕もかつてスメールの教令院で細々と研究をしていた時、彼女の論文に感銘を受け、それから紆余曲折得た後に行動を共にしている身だ。今は彼女の助手兼生徒として、彼女から教えを請い、代わりに彼女の業務補佐をしながら生活している。
――もし彼女に今から関わりたいと思うなら、不肖僕からのアドバイスはたった一つ。
どうか広い目で彼女を見て欲しい、それだけだ。
確かにリサ師匠は天才だ。知識の国スメールにおいてさえ、彼女より優れた研究者というのは稀だろう。
だが当の本人はその自覚というものが一切無いみたいで、彼女の言動や態度には、知恵者特有の凜とした雰囲気というか、冴え渡る何かというか――とにかく、人に感じさせる威厳が感じられない。
そして結論を言ってしまえば、リサ師匠は超が付くほど面倒くさがりな性格なので、殆どの場面でその優秀な頭脳を使いたがらないのだ。
一度でも彼女の本気を目の当たりにした者なら、皆が認める聡明さを持っているのは確かなのに、どういうわけかそれを表に表そうとしない。何事も何処か面倒そうにこなすし、ふと目を離せばうとうとと居眠りをしているしで、リサ師匠は何かと実力を誤解されやすいのだ。
彼女に師事する僕や、彼女とある程度の交流がある騎士団の一部は、彼女の性格を理解しているから問題は無いけど、やはりその奔放さから彼女を不真面目な人間と咎める人も一部存在する。
特に何も言わないし、リサ師匠からすればどうでも良い事なのだろうけど、やっぱり弟子の身としては複雑な気持ちになってしまう。
・・・話を戻そう。
そんなリサ師匠だけど、彼女は知識への理解は勿論、扱う知識の範囲も凄まじい。
長らく付き従ってきたけど、彼女が全く分からないと匙を投げたところを見たことがない。神話から時事まで、どの時代、どの分野の質問をされても、彼女は一定以上の見解を示すのだ。
それを示す逸話があるので、一つお話ししよう。
あれは今から数年前のこと。
リサ師匠が延滞している本の回収で外出中の折、図書館に1人の憔悴しきった男が訪ねてきた。自分を風の翼を作る技師だと名乗ったその男は、カウンターにたどり着くやいなや受付の僕に機構設計をはじめとする、聞いたことも無いような専門分野の名前を口にし、関連する図書をいくつか貸して欲しいと申し出てきた。
ボサボサの髪や目の隈など、その尋常でない様子に思わず僕が事情を尋ねると、どうやら風の翼に更なる改良を施したいが、耐久方面の改良で問題が起き、行き詰まってしまったとのこと。自力で出来る事は試し尽くし、それでもなお叶わなかったので、どうにか解決の突破口を見つけられないかとここを訪れたのだという。
この技師について、後で騎士団で聞いた話によると、寡黙で職人気質、自己研鑽を至上として、妥協というものを嫌うとっつきにくい性格な一方、騎士団で正式採用されるほど質の良い風の翼を作る優秀な技師でもある、とのことだった。
そんな人間がわざわざ、それも他者の書いた本に頼るため、こうして図書館に現れるなんて、余程複雑な技術を要求されて、行き詰まっていたんだろうと思う。
当然、当時簡単な
あうあうと口を陸に打ち上げられた魚のようにしてまごついていると、丁度外に出ていたリサ師匠が帰ってきた。
凄いのがそこからだ。
彼女は同じく彼から事情を聞き、彼の持つ膨大な構造の図案、構造の説明書全てに軽く目を通したと思うと、ちょっと悩んだ末、スラスラと改良の方式を数案、事もなげに紙面に起こし始めたのである。
技師は絶句していた。ついでに、彼女よりも前に彼に見せて貰いながら、一枚とて理解が出来なかった僕も絶句していた。
彼女が製図や物体の構造など、そういった分野への理解まで持つなんて僕も知らなかったし、技師も彼女があまりに呆気なく問題を解決してしまったものだから、終始半信半疑で師匠を見て、記された紙を受け取って帰って行った。
でも彼が帰る姿を見届けた後、一つ眠そうに欠伸をするだけのリサ師匠は、そんなこと気にもしていないみたいだったけど。
彼女の提案が正しいものだと分かったのは暫くしてのこと。新しく納品された耐久性の増した新型の風の翼の箱に、素っ気ない感謝の書状が送付してあったときだ。
その時改めて、僕はリサ師匠の博識を思い知ったのだ。
「――ふぅん。つまり貴方は『彼が物語の進行上邪魔だったから』なんて無粋な理由で、あの決闘に現れたとでも言うのかしら?」
「そうですね、あそこは作中の主人公に大きな力が眠ることを示唆する山場なので。少なくとも僕であれば、決闘にかける魔術師の思いなんて、ただ主人公の少女の描写を霞ませるノイズと切り捨てます」
「あら、それだとあまりに味気ないわ。――良いこと? 人の行動には何事も理由があるの。きっと彼にだって譲れない想いがあったはずよ。それとも貴方には、深く、それでいて甘くて熱いワインよりも、陳腐でありきたりなミルクの方がお好みかしら?」
「ミルク・・・? また妙な言い回しを・・・そもそもですね、物語に対しての意見交換なんて、浅学の僕に求める方が間違ってるんですよ。我が師」
そう言って、僕は先程まで開いていた本を閉じる。
主人公の少女とその兄が成長の中で敵対し、最後には決闘をするその物語は良作と名高い。しかし読んでいく中で、作中全体を通して主人公の邪魔をし、二人の決闘直前で邪魔だと言わんばかりにあっさりと倒される魔術師の存在は、確かに賛否分かれる、論議すべき部分でもあった。
でもそれをリサ師匠と僕が語ったところで、僕の読解力のなさが露呈するだけだ。圧倒的役不足である。
「つれないわね。――そんなに冷たいと、人知れず貴方を見ている花だって、想いに気付いてくれないあまり枯れてしまうかもしれないわね」
「・・・花?」
「そう。――例えば紫色で、棘のある薔薇なんて如何かしら?」
? 紫の薔薇とは、また珍しい例えを。
常日頃から尊敬するリサ師匠だが、個人的にだが一つ、少し困った癖を持つ。たまに彼女はこうやって、会話の際に奇妙な言い回しをすることがあるのだ。
研究一辺倒だったからと見苦しい言い訳をしたくはないが、恥ずかしながら僕はそういった言い回しの解釈が滅法苦手だ。
だからかつてはせっかく彼女に助言を賜っても、話をぼかされて終ぞ分からず仕舞い、ということがままあった。
対してリサ師匠は論文のお固い文章なんかより、物語のような情緒に富んだ表現が好きらしく、ちょいちょい詩的な表現、回りくどい表現を言葉の端に織り交ぜることをしてくる。
このままでは彼女がせっかく教えてくれた内容も、完全に理解することが出来ない。しかも彼女自身がこれを面白がって「じゃあ分かるようになるまで特訓しましょう」と乗っかったことで更に拍車が掛かり、一時期授業の中で彼女の言うことの八割が理解出来ない、という事態になったこともある。
リサ師匠との付き合いも長くなった今ではその甲斐あってか、彼女の表現の癖からある程度考えれば大方解せるようになったけど、彼女以外が綴る表現は相変わらずさっぱりだし、リサ師匠と話す際には反射的に言葉の意味を探る癖までついてしまった。
恐らく先程の妙なフレーズもその一端だ。
理解出来ると言っても、いくら訓練したとて即座に解せるほど詩的な男にはなれない。故に先程の『ミルク』『花』のフレーズが一体何か、僕には分からない。
――そういえば、今朝は挨拶すると憂鬱そうな顔で「困ったわ、今日はクレーが一日反省室から出てこないの」と言われたな。
クレーは確か、爆発物の扱いを得意とする少女の名前だったはず。でもさっきの休憩の時、今日は彼女が反省室にいないから気が楽だと友人の団員が言っていた。ということは、これも彼女の戯れの一種、何かの婉曲表現なんだろう。
先程のやり取りを最後に彼女との会話も途切れてしまったし、今回はこれの意味を考えてみることにしよう。
――まずは情報を整理する。
幼く、それでいて爆弾という危険物を街の内外問わずぶっ放す彼女の異名は多い。彼女が自称する『
火花、赤、火、そして爆弾。それは熱くて明るくて。
そう、まるで――太陽。
そうか『太陽』だ。
クレー、つまり『太陽』は一日反省室、つまり表に出ていないということ。
そして窓を見ると今日の空は――曇り。
・・・成る程。
「あら、その顔。――今回は分かったのかしら?」
「いえ、先程のではないんですけど。師が言った朝の挨拶の意味がやっと分かってですね」
「・・・ああ、
? 何故だろう。リサ師匠がちょっとむくれた。
解くのが遅すぎたのだろうか。せっかく読み解けたというのに、これではスッキリしない。
「もしかして、遅すぎましたかね」
「つーん」
「えぇ・・・」
試しにと聞いてみたら、更にへそを曲げてしまった。
結局それからは訳も分からず謝り倒し、幾らか機嫌が直るまで彼女のお喋りに付き合った。
やっと彼女の機嫌が戻ったのは、午後になってからである。
夜。
僕はリサ師匠の部屋で、彼女の指し示した寝台に腰掛けていた。
「・・・よし、それじゃあこの薬を飲んで、その後そこに横になってくれる? いつも通り効果は直ぐ表れると思うけど、害は無いから」
「ええ、分かりました。我が師」
別に今から何か疚しいことが始まるとかではない。これは僕と彼女が交わした取引の結果だ。
僕は夜、彼女の作る試薬の治験を行っている。いつか会った栄誉騎士からは、私のような身分は
モルモット。何かは知らないけれど、不思議と寒気がする響きである。
で、どうしてそのような状況になったのか、というのは、話すと少し長くなる。
まず、リサ師匠が西風騎士団の扱う薬品の製作、保管、供給等の一切を取り仕切っている事から説明する必要があるだろう。
無論彼女が進んでこれらを引き受けた、というわけではない。実際には薬品の取扱・管理一切に対して深い知見を有している騎士団のメンバーが、彼女以外にいなかっただけだ(ちなみに私は騎士団に所属していない)。
スメールから戻ってきたばかりで、早くモンドでも自らの研究環境を整えたかった彼女は、製薬の段階で自らの研究を行う環境の用意を条件に、この役を引き受けた。
『北風騎士』ファルカ大団長も条件を承諾し、それを受けて彼女も、最初の内は嬉々として仕事に励んでいた、のだけれど。
これが切っ掛け。問題はこれからだ。
一ヶ月後、リサ師匠は試薬としてある一本の薬品を作り上げた。
彼女曰く、これを飲むだけで軽度に限り数種類の病気への対処が一度に叶う優れものだそうで、出来上がったときの彼女は、それは嬉しそうな顔をしていた。
成る程、複数の病に効く汎用性の高い医療薬。もしそれが叶えば多くの人が救える。でもその実証のためには誰かがその試薬を飲み、効果を実証しなければならない。
で、誰が飲むのか、という話になり。
三日後。
誰も被験者として名乗り出てこないのに怒った彼女は、騎士団の屋根を雷で吹き飛ばした。
『条件として提示した環境の用意、という文言には、実験の協力者への提供も含まれていた』というのが彼女の言い分だ。少々、いやだいぶ無茶な気がする。
で、結局誰もいないからという理由で、弟子の僕が試薬を飲むこととなった。ぶっちゃけ僕からすればこの治験には一切の危険性を感じないから、どうして皆協力しないのか謎なんだけど。
勿論、この話が持ち上がったときは、僕は自分が指名されればすぐさま了承するつもりだった。しかし予想とは裏腹に何度も僕に謝るリサ師匠に、僕はどうにか頭を上げてもらおうと、咄嗟にこういった話を持ちかけた。
『では、代わりに僕の研究に協力してくれませんか』と。
――さて、ここで少し、僕についての話をさせて欲しい。
リサ師匠に比べれば僕の話など取るに足らないもの。故に聞き流してくれて結構だけど、一応僕も研究者として、あるモノの研究を行っている。
対象は『神の目』。天に選ばれた人間に、あるとき不意に贈られる祝福である。
曰く、天の眼差しを受けたものだけが手にすると言われる神秘の具現にして、それは神秘を持たないヒトが、神の器たる『
その実態は未だ謎に包まれているけど、世界を構成する元素力を有していること、そして保有者は神の目を外付けの魔力機関とし、常人には見えない元素の流れを見ることが出来たり、ソレを通して超常的な力を発揮することが出来る、というのは有名な話だ。
未解明の謎が多いのも相まって、研究者としては垂涎の一品であり、僕も自分が入手した暁には、是非とも研究したいと思っていた。
だがしかし、当然ながらというか、何というか。
僕に神の目が与えられることは無かった。
研究をして分かったことだけど、神の目を持つ人間というのは皆程度の差こそあれ、何らかの偉業や強い信念、尽きぬ願いの果てにそれを手にしている。無論、僕の神の目への渇望も決して薄弱でないと自負するけど、それでも神の目に留まるほどでは無かったのだろう。
悔しいがこれが現実。仕方ないことだ。
それに、僕とてそれを予想していなかったわけでは無い。
貰えなかったのであれば、持っている人から借りるだけである。
だから今までは、西風騎士団の騎兵隊長で同性ということもあって話す間柄だったガイアさんから、彼が非番の日などに神の目をちょくちょく借りていた。
だが、身近さで言えばリサ師匠だって神の目を持っている。でもガイアさん曰く、神の目が長く手元を離れると、その持ち主は次第に意思というモノが弱くなってしまうらしい。そんなこと言われちゃ、気軽に神の目の拝借を申し出るなんて出来ない。
それに流石に師事する身でありながら頼む、ということも憚られ、結局今まで一度も彼女の神の目で調査をしたことはなかった。
・・・でも、実を言えばもっとサンプルは欲しいわけで。
一言で言えば、魔が差した。
だから、いつだって余裕を崩さなかったリサ師匠が僕に謝るというイレギュラーに動転した僕は、咄嗟にこんな事を言ってしまったわけである。
ほぼ思いつきで生まれたような取引だったが、果たしてこの取引は成立した。
一般の業務が終わった夜に、僕は彼女の作る試薬の治験をする、対して彼女はその次の日、僕に一日神の目を貸す。
栄誉騎士の言葉を借りるなら、ギブアンドテイクという関係が僕と彼女の間に追加された。
――そういえば、ガイアさんに今まで気軽に神の目を借りていたことを謝ってなかったな。
本当は比較のため、引き続きガイアさんにも神の目を借りようとも思ったけど、リサ師匠に洗いざらい話したあの日からというもの、何故か頑なに貸してくれなくなってしまった。
理由を聞いても『俺はまだ死にたくないからな』と視線を逸らすばかりで、教えてくれない。
まあ、実際此方もお願いする身だ。残念だったけど、その日から彼から神の目を借りるのは諦めた。
そういえば取引でリサ師匠の作った薬を飲むことについてだけど、先に述べたようにどんなものであっても飲むことに躊躇は無い。側で教えを聞いていたものとして、彼女が失敗するとは未だ思っていないから。
といっても、最近は制作している試薬の副作用に悩まされているみたいで、僕も薬を飲んだ後、次目覚めれば朝になっていた、ということが続いている。
でも副作用といっても、
よほど治験で手応えを感じているのだろう、肌も何処か
前回の治験の際には、朝起きると
「あら、ごちそ・・・いえ、おはよう。とても有意義な治験が出来たわ。この分だと目標の達成まであと2,3回もあれば
と嬉しそうに語ってくれたので、副作用の解決も時間の問題だろう。
――それに、彼女の前では言えるはずも無いけど。
僕だって男だ。であれば彼女のような美しい女性の頼みくらい、多少の不安を呑み込んで笑顔で受ける位の見栄は張りたい。
「それじゃあこの瓶を――あら? 顔が赤いわね。何かあった?」
「ッ別に、何でもありませんよ」
「・・・もしかして、今更わたしと二人っきりのこの状況を、意識しちゃったとか?」
どうやら内心で柄にも無いことを考えたせいか、多少羞恥が顔に出てしまったらしい。
内心を見透かされたようで、彼女のことを直視できなくなる。早く済ませてしまおうと彼女の手から瓶をひったくると、彼女の言葉も待たない内にその中身を一気に呷る。水薬の如き滑らかさのそれを嚥下すると同時、途端に襲う強烈な眠気。
・・・まだこの副作用はなくなっていないらしい。こうも即効性だと、むしろ睡眠導入剤として売り出しても良いのではないかとも思う。
「――ッ! ――、――――」
リサ師匠が何かを言っているようだけど、肝心の内容が聞き取れない。
大方副作用の程度について、聞きもせずに飲んだことを怒っているんだろう。僕の身勝手から余計な心配を掛けてしまった。
「おやすみなさい」
瞼が落ち、もう彼女が喋っているかも解らなくなる。
眠い。考えがまとまらない。
――とりあえず、あした、あやまろう。