原神フレンズ大紹介(大嘘)   作:山田太郎2号機

10 / 33
アンバー・2

 

 

「――これが、私がモンドを離れた理由です」

 

 

 アンバーは最後にそう言って、ぎゅっと縮こまるような形で私の言葉を待った。

 その内容は、一朝一夕で固めた覚悟でないのは確かで、更にそれを嘘か疑うなど考えるだけ馬鹿らしい。

 

 

 

 曰く、モンドを離れたのは昔何も言わずに姿を消した自分の祖父の手がかりを探すためだと。

 

 曰く、モンドを離れる時、それを周りに話してしまったら彼らはきっと自分を引き留めるだろう。それで折角固めた決意を無駄にしてしまいたくなかったから、皆には何も言わず、自室に騎士団の徽章だけ残してこの国を離れた。

 

 曰く、今まで多くの国を回ってきたけれど、終ぞ祖父を見つけることはおろか、その手掛かりさえ見つける事は出来なかった。

 

 

 ――色んな人に迷惑を掛けてた挙句何も成果は無かったと、彼女は自嘲するように語った。

 

 

 

 話す毎にアンバーの声は揺らぎ、語調も覚束なくなる。彼女らしからぬ弱音も多く混じり、途中幾度となく息を詰まらせながら、それでも彼女は最後まで話すのを止めなかった。

 そこで言葉を濁してしまえば、きっとモンドの皆に顔向けできないと思ったのだろう。

 

 だから私も最後まで彼女の告白を聞き、その一言一言を胸に刻みつける。

 それが礼儀だと、彼女の覚悟を聞き届ける者としての責務と考えたから。

 

 

「アンバー」

「ッ……はい」

 

 

 声に呼応し、彼女のリボンが震える。

 その緊張を解くように、私は努めて優しく彼女に語りかけた。

 

 

「――君がいなくなったというのは、ジン団長から聞いていた。驚いたよ、……彼女が団長になっていたのにも驚いたけど」

「……はい」

「それで、君の不在を知った後、私は君について街の人に聞いて回ったんだ」

「ッそう、ですか」

「大丈夫、そう怖がらないで。……それで、その誰もが君の事を今も大好きだと言っていた」

「ッ!」

「街の皆は勿論、騎士団の皆やジン団長代理、そして君の親友のエウルア氏も、君の帰りを今でも待っている。だから」

 

 

 ――君の居場所は、変わらずここにある。

 

 

 息を呑む音。

 彼女はきっと怖かったのだろう、何も言わずに出て行った自分がモンドの皆に嫌われてはいないかと。

 祖父の失踪後、アンバーは彼が無責任だと謗るような心ない言葉を数多聞いたという。幼少の頃それを間近で見てきたのだ、次は我が身に降りかかるものと彼女が思っても仕方ない。

 

 

「旅から帰ったばかりの私が言うのも締まりが無いけど。……よく帰ってきてくれたね。

 ――おかえり、アンバー」

 

 

 アンバーは愛されている。街からも、人々からも、そして恐らくはこの国からも。

 そして彼女もまた、その全てが大好きだと語った。

 であれば両者の時間に多少の空白が生まれようと、その間に何の軋轢が生まれようか。

 

 

「私、また、モンドに帰って良いんですか」

「うん」

「皆に黙って飛び出して、騎士団も辞めちゃって、それでも」

「勿論。……まあ、沢山怒られる覚悟だけはしておくと良い、かな」

 

 

 アンバーの目から涙が零れる。先程と同じ、でもその意味合いは真逆の涙。

 

 ――ああ、今は存分泣くと良い。

 皆は、モンドは君を喜んで受け入れるだろう。

 

 

「……わた、わた、し――ッ!」

 

 

 彼女の視線が何かを求めるように、私の方へと注がれている。

 それを見て、私はこの場でやるべき事を悟った。

 

 

「――おいで、アンバー」

「……ッ!!」

 

 

 腕を軽く広げると、アンバーは間髪入れず私の胸に飛び込んできた。

 

 

 

 ――彼女をこうして宥めるのは、実に何年ぶりだろうか。

 子どもの時にこの突進を幾度となく喰らっていたが、当時より幾分強いそれに彼女の成長を見る。

 

 騎士団の訓練で失敗した時。

 講義を抜け出して大目玉を食らった時。

 風の翼の扱いがなっておらず、訓練用の翼を端から壊してしまった時。

 そんな時、幼いアンバーは決まって細道にある私の工房を隠れ家にした。私の工房は少々奥まった僻地にある上、滅多に騎士団や客も来ない。故に見つかりづらいと踏んだのだろう。

 私もそれを別に気にしなかったのだが、とはいえ何時までも居られるのは困る。だから夕方辺りには決まって彼女を連れて(というか、彼女に引きずられて)騎士団を訪れ、一緒に謝りに行ったものだ。

 

 そして一頻り怒られた後、彼女は決まって私の胸元に飛び込み、大泣きした。

 最初こそ驚いたが、彼女の家庭事情を考えると答えは自ずと導き出される。

 

 

『此処に居るとね、凄く安心できるんだ』

 

 

 作業着に顔を埋めながら、ある時彼女はそう言った。

 物心ついた時既にアンバーに両親は居らず、唯一の家族である祖父は失踪。代わりに騎士団員達に育てられた彼女は『愛』というものに潜在的に飢えている。

 無論騎士団の面々も彼女をかわいがっていた筈だが、やはり家族が居ないというのは、それだけで埋まらない寂しさを生じさせてしまうものだ。

 

 そんな彼女が誰かに拠り所を求めたとして、どうして無碍に振りほどく真似が出来ようか。

 

 

 

 ……流石に成長した今だと色々問題になるので、以前のように毎日は遠慮して欲しいところだが、今回ばかりは大目に見るべきだ。

 震える彼女の背を宥めるように、優しく叩いてやる。

 

 

「本当に、よく頑張ったね、アンバー。……だから今は、ゆっくりお休み」

「ぅぁあ、ああぁ――!」

 

 

 祖父が愛したモンドを、モンドに愛されたアンバーが裏切るはずがない。

 皆アンバーが大好きだからこそ、彼女が突然姿を消しても疑わず、信じて彼女の帰りを待ち続けたのだ。

 

 今回のことで、彼女はきっとこれまで以上に頑張ろうとするだろう。今までの不義を取り返すが如く、献身的に。そしてそれを私は止める気は無い。きっと彼女にとって、それはけじめを付けるために必要なことだから。

 だとしても、時には誰かに心の裡を明かす事は許されるべきだし、今の彼女にはきっとそれを受け止めてくれる人が要る。

 この先が不安な彼女に優しく寄り添い、彼女の全てを信じられる味方が。

 

 

「…………」

 

 

 そして、少なくともその役目を負うべきは

 

 ――私ではない。

 

 

 

 先のアンバーの独白を聞いて、そして涙を見て尚。

 何処か彼女に、その言葉に違和感を感じてしまう私では、その役は務まらない。

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 あれから1ヶ月が過ぎた。

 

 結論から言えば、アンバーは問題なく騎士団に復帰できた。

 というか結論しか私は知らない。一介の技師である私に騎士団のあれこれが伝わってくる筈もなし、先の事も彼女自身が嬉しそうに報告してきてはじめて解ったことである。

 

 私はといえば、以前と同じように工房に籠もって翼をこさえる毎日だ。

 旅先では毎日工具を握る事もなかったので多少不安だったが、不思議と腕は衰えていない。それどころか更に細々とした細工なんかは見違えたくらいだ。

 例えば先程、新たに騎士団支給用に依頼された風の翼の図面を引いてみたのだが、今までよりもは遙かに短い時間で、以前なら考えもつかなかったようなアプローチの構築をすることが出来た。自身の技術力、発想の限界を越えるため、あちこち旅をして見識を深めた甲斐があったというものだ。

 

 だから商売は概ね好調。こと仕事に関しては現状何の憂いもない。

 問題はそれ以外にある。

 

 

「・・・さて」

 

 

 壁に掛けられた時計を見る。

 窓を締め切っているので日の光が入ってこないが、時計が間違っていないのならもう朝方。早速の注文、それも騎士団の依頼と張り切るあまり、ついこんな時間まで手掛けてしまった。

 

 

「まずいな」

 

 

 ――いや、一日二日の徹夜なんて、以前までなら特に気にする事でもないんだが。

 しかし今は非常にまずい。

 

 

「取りあえず、道具を片付けて隠滅だけでも「何ヲシテルノカナ?」アッ」

 

 

 あ終わった。

 

 

 

 

 

 あの一件以降。

 

 私の工房には、ちょくちょくアンバーが訪れるようになった。

 最初は騎士団の休み時間に顔を見せに来る程度だったのだが、次第にその頻度、時間が増えていき、今では私の朝食を作りに毎朝戸を叩いてくる有様だ。

 あの件に恩義でも感じているのか、はたまた幼少からの付き合いが関係しているのか定かではないが、明らかに来る場所、振る舞う相手を間違えている。

 

 まあ百歩譲ってそこまではいい。

 だが、彼女が工房に通うようになってからというもの、私が少しでも不養生な生活をすると、姦しく咎めるようになったのだ。

 例えば私が仕事で食事を抜いたり、他の件を疎かにすると彼女は非常に不機嫌になる。そして丸一日介護じみたレベルで彼女の奉仕が始まるのである。

 

 

「また、徹夜したの」

「……ごめんなさい。ちょっと張り切っちゃって、つい」

 

 

 流れる気まずい雰囲気。

 ちらりとアンバーの顔をのぞき見ると、案の定激おこ。トレードマークのリボンが心なしかぷるぷると荒ぶっているように見える。

 

 

「どんなに調子が良くたって、貴方が倒れてしまえば意味ないじゃない」

「いや、でも「でもも明後日もない!」ハイ」

 

 

 こうなってしまえばもうアンバーは止まらない。彼女が満足するまで付き合うほかないだろう。

 両手を挙げ降参のポーズを取ると、アンバーは稲妻に打たれたが如く部屋を駆け回り、あっという間に机の上を片付けてしまった。

 

 ……全ての収納場所を完全に把握しているのは、一体どういうことだろうか。

 

 

「――よし、終わり!」

「……あの「ナニ?」何でもないです」

「うん! ――じゃあ一緒に朝ご飯、食べよ?」

「……うん」

 

 

 ――さて、今日の朝ご飯は何だろう。

 

 

 

 

 

「――アンバー、私のホルスターを知らないか」

「んー? 汚れが目立ってたから洗って、今は日に干してる最中だよー」

 

 

 昼。

 アンバーは私の工房の掃除をしていた。

 

 一月の間に、アンバーは私に敬語を使う事がなくなった。別にそれで敬意がどうこう言うつもりはないし、私としても敬われる身ではないので願ったりだ。だが、今度はそれを契機に彼女のスキンシップが増えた気がするのに頭を悩ませている。

 ここに来て旅の途中に思った懸念が再燃したのだ。

 

 

「――騎士団の団員達に、変に気を揉ませてないと良いけれど」

 

 

 恐らくは男女問わず、彼女はこの距離感なんだろう。このままでは何時変な男に騙されるか分からない。

 ちなみに私に随分と懐いている理由は何となく解る、幼少の頃の記憶がすり込まれているからだ。絆というよりも、はじめに見たものを親と思い込む雛の原理に近い。

 

 

「さっきから何してるの……って、コレ」

 

 

 突如横に気配を感じたと思ったら、指一本分ほどの距離に迫るアンバーの顔。

 これも一度や二度ではないのに、未だ慣れない。帰ってきてから何事も適応すべし、という旅の精神が薄れてきているのが恨めしくなる。

 

 そんなこんなでガチガチになる私をよそに、アンバーの注意は私の手の中に注がれていた。

 

 

「小さな、風の翼?」

「……あ、ああ、丁度材料が余ったんでな」

 

 

 私が作っていたのはミニチュアのオブジェ。風の翼を手のひらサイズまで小さくし、簡素なデザインにデフォルメしたものだ。

 どれ位の大きさまで小さく作れるのか――そんな思いから余った材料で片手間に組み立てていたのだが、出来上がってみると意外と見られる形に収まっている。此処は風の国モンド、もし量産出来るのならお土産として持ってこいだ。

 一応構造も本格的に出来ていて、もし仮にこのサイズの人間がいるならコレで飛ぶ事も出来る。……といっても、そんな人間居るはずないが。

 

 

「――アンバーから見て、どう思う?」

 

 

 片手間とはいえ、今までの旅の中で沢山の技術者から教えを請うた末初めて完成したものだ。

 これも最初は気軽に臨んでいたのだが、作る内につい熱が入ってしまった。まあそれだけの完成度を誇るものができたので、全く後悔はないが。

 

 

「旅先で学んだ事を、どうにか生かせないかと思ってな」

「ふーん……」

 

 

 アンバーはそれを手に取って、色んな角度から眺めている。

 正直、自分の作品が品評されるのは何時になっても緊張するものだ。だが暫くして彼女がそれを私の手に戻した時、朗らかな顔をしていた事で、その緊張も消え失せた。

 

 

「うん、すごく綺麗。流石は『元』騎士団お抱えの技師さん……なんてね」

「はは、君がそういう事を言うなんて珍しい。――でも、ありがとう」

「えへへ……そういえば、この翼の骨子って、もしかして璃月の凧を参考にしたの?」

「ん? ああ、その通りだ。璃月には凧やデンデン太鼓なんかの玩具を、長年作ってきたおばあさんが居てな――」

 

 

 ――だが、まさか技術面の話を振られるとは。

 想定外ではあったが、用いられた技術にアンバーが更に理解を示した事で、興が乗った私は彼女に色々な話をした。フォンテーヌの緻密な先進技術、稲妻の伝統的な鍛造法や流派、璃月の芸術的な造形技法――挙げればキリがない。

 だが驚いた事に、その全てにアンバーは何かしらの理解、反応を返してみせたのだ。

 中にはかなり技術面に踏み込んだ説明等も含まれており、一般的には知られていない分野も多かった筈なのだが、それらにも彼女は何かしらの知識を持っていた。

 

 

「凄い。じゃあ、羽の加工はフォンテーヌの――」

「……あ、ああ。よく解ったな」

 

 

 じくり、と。

 私の中で暗い疑念が鎌首をもたげる。

 

 

 確かにアンバーは祖父を捜す中で、私と同じように各国を旅したと言っていた。

 だが彼女の旅の目的はあくまで人捜し。私のように各国の技術者に師事し、その詳細学んだことなどない筈だ。それに旅先で会得した技法について過去私が教えた事は一度もないし、またその理由も無い。

 

 ではアンバーが別段博識なのかとも思ったが、それも否だ。

 確かにアンバーは聡い少女だ。だがそれは精神的に自立している、といった内面的なもので、単に知識に限って言うのであれば、失礼な話そこまで賢いわけではないはず。

 それに、外部にはその内情が殆ど不明な稲妻の技法まで彼女は知っていた。私とて北斗船長の助けを借り、幾度も天目一門の者に教えを請うて、やっとの事で知ることが出来たのだ。

 仮に彼女が私と同じように稲妻を訪れていたとしても、流石に稲妻の技術にまで目を向けるとは考えにくい。

 

 

 おかしい。

 何かが、おかしい。

 

 

「――どうしたの、凄く怖い顔になってるよ?」

「え?……ああ、少し考え事をしてたんだ」

 

 

 馬鹿げている。

 彼女が善人である事を私は知っている。だから彼女が私に何かを企てるわけがないし、言わずもがな私を害するなど論外だ。考えすぎの被害妄想、冗談にしたって笑えない。

 こんなの私の邪推、妄想と切り捨てれば、それだけで良いはずの下らない疑念。

 

 ――なのに私は何故、こうも不安に感じてしまうのだろう。

 

 

「……あ、そういえば貴方に伝えなきゃいけない事があったの忘れてた!」

「――伝えたい事?」

 

 

 そんな考えを無理矢理頭の隅に追いやり、アンバーの話に反応する。

 彼女はうんと頷くと、可愛らしいメモを腰のポーチから取り出した。

 

 

「えーっと確か……そうそう、ガイア先輩が貴方にやって欲しい事があるんだって」

「ガイアが? 一体何を?」

「さぁ? 其処までは教えてくれなかったけど。……でもガイア先輩の事だから、充分気を付けた方が良いと思うよ」

 

 

 ……アンバーよ、それはあまりにあんまりだろう。

 というかガイアの奴、相変わらず周囲から信用されていないらしい。

 

 ガイア――確かに考えの読めない柳のような男だが、アレはアレで酒の席で話すと中々に面白い奴だ。

 私が酒を頼むと、その酒のルーツや小話を二、三つ披露してくれる。その内容や分量というのが、中々どうして酒の肴に丁度良い。好きな事については饒舌になる、私のような面を持つ男なのだろう。たまに此方をからかう悪癖さえなければ文句なしなのだが。

 

 

「分かった。時間があったら行ってみる」

「じゃあその時は私の訓練にも顔を見せて! きっと退屈させないんだから!」

 

 

 ――ああ、必ず行くよ。

 

 私の答えに太陽のような笑顔を返すアンバーを見て、ますます彼女を疑う自分を恥ずかしく思った。

 

 

 

 

 

 ――コレを、アンバーに?

 ――ああ。何度も言うが、アイツに直接渡さずに、部屋の机にしっかり置いてきてくれよ。

 

 

 ガイアの指令、もといお願いはとても奇妙なものだった。

 

 内容は封筒一つをアンバーに届けるというもの、ここまでは良い。

 だがその条件が普通ではない。

 

 まず、直接ではなく彼女の部屋の机に置くべし、というのが一つ。

 何故かは教えてくれない。『そっちの方が面白そうだからな』と宣うガイアを見て久方ぶりにムカついたので、取りあえず一発殴っておいた。

 

 次に、このことを彼女に知られず置いてきて欲しい、ということ。

 これについては、私も下手に白状して変に思われたくないので、そちらの方が好ましい。特に疚しい気持ちがあるわけではないし、部屋に入って直ぐ机に封筒を置くだけだから、特に何か物色するわけでもない。

 ただ、コレを指定するガイアの意図が分からないのが最大の不安要素だ。

 

 

「何が入ってるんだ……?」

 

 

 妙にサイズ感のある封筒を見て、思わずそうごちる。

 大きさもそうだが重さもそれなりで、書類というより写真か何かが収まっている感じだ。

 

 気にはなるが、中身を見るわけにはいかない。もしかしたらアンバーのプライバシーに関わるものかもしれないし、そもそも騎士団の機密だ。興味本位で覗いて、結果捕まるとか目も当てられない。

 もしかすると私が気になって覗いてしまうという事こそ、ガイアの本当の狙いなのかも知れない。

 

 

「そんなの引っかかるかよ……っと、此処か」

 

 

 道行く団員にあちこち尋ね回り、ついにアンバーの部屋にたどり着く。

 扉にはプレートが掛けられ、其処には可愛らしいウサギ伯爵があしらわれている。彼女のトレードマークと言うべきこのウサギ伯爵は、彼女曰く目まぐるしく代替わりしているらしい。爆発する度に作り直せばそうなるのは道理だが、それならどうして爆発させるのか疑問に思ってしまうのは私だけか。

 

 

「ええと鍵、鍵……」

 

 

 鍵はガイアに前もって渡されていた。これで鍵は彼女ないし管理人から直接交渉しろとか言われた暁には、その日のうちに彼の風の翼だけをショッキングピンクに染めるところだった。

 

 用事を早く済ませたいのでさっさと鍵を開け、一応ごめんと断ってから中に入る。

 遮光性の高いカーテンを使っているのだろうか、昼間だというのに中は暗く、机が何処にあるのかすら分からない有様だった。強いて言えば、目を凝らすと壁に微妙な濃淡が見える事くらいか。

 

 

「……はあ」

 

 

 仕方ない。

 アンバーには悪いが、少しだけ部屋を照らすとしよう。部屋を横断し、僅かに光の漏れたカーテンの裾を引っつかむ。

 さらさらとしたなめらかな質感からして霓裳花の織物だろうか、その割に重く感じられるのが気になるが、それを考えるより先に私はカーテンを勢いよく開いた。

 

 

 

 そして、

 

 

「――なん、だ?」

 

 

 そこで初めて、私は今まで感じていた違和感の答えを知る事になる。

 






後一話でアンバーの話は終わる予定。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。