原神フレンズ大紹介(大嘘)   作:山田太郎2号機

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ちょっと少なめ




アンバー・3

 

 

 ――最初は無口な人って印象だった。

 

 

 生まれて初めてってくらい沢山勉強して、初めて騎士団の皆から風の翼を貰えることになって。

 渡された地図を頼りに、迷路みたいな路地にあるあの人の工房を訪ねたあの日。

 

 

「なんだお前は。……ハァ、泥棒と冷やかしなら帰れ。客ならさっさと要件と予算を言え」

 

 

 初対面、それもゴミ屋敷みたいな部屋に埋もれた状態の彼にそう言われた時は、流石に大丈夫かなこの人って思った。話してもイエスノーくらいしか言わないし、たまに早口で喋り出すと思ったら翼の機構がどうだとか、専門的でよく解んないことばっかり。

 でも、一緒にいるうちに彼が単に不器用なだけだって知ってからは、それが可愛くて仕方がなくなってた。

 

 ――恋っていうのは不思議だ。

 会話しなくても、無理に同調しなくても、ただ一緒の空間にいるだけで満たされてしまう。彼が何をしているのか、何をしたいのか。それを知るだけでわたしは充分だった。

 一般的には少しズレているのかもしれないけど、少なくともそれだけでわたしは幸福だった。

 

 

 

 だから、突然わたしに何も言わずにモンドからあの人が姿を消した時。

 わたしは酷く裏切られた気がした。

 

 

 

 騎士団にはあらかじめ話は通してあったから、別に誰も知らなかったわけじゃない。

 彼はわたしに教えてくれなかった。

 

 このままモンドにいれば成長が見込めないと、彼自身の限界を突破するための旅だ。

 そんなこと、わたしは何も聞かされてない。

 

 私が知ればきっとあの人を引き留めてしまう。それで決意が揺らいでしまうのを、どうしても避けたかった。

 そんなの関係ない。私はただ一緒に居られれば良かったのに

 

 

 

 ジンさんから聞いたこと全てが許せなかった。それが彼なりのわたしへの気遣いだろうが知ったことじゃない。彼が今モンドにいない、わたしにはそれだけで充分だ。

 

 ジンさんには伝えられて、わたしには伝えられないんだ。

 そんな悔しさでいっぱいで。

 

 だからわたしは外に飛び出した。

 大好きなモンドという殻を、突き破ったんだ。

 

 表向きは祖父を探すため。一応わたしの目標でもあったし、いつかはそのためにモンドを離れ、他の国を探してみたいとも思ってた。

 でも、本当にしたいのはそうじゃない。

 あの人にいつまでもついて行きたい。あの人が見る景色を、触れた文化を、わたしも共に感じたい。

 あなたの行く末を、わたしは知りたい。

 

 

 

 だからわたしは()()()()色んな国を旅した。

 

 璃月で見られる様々な工芸品を、()()()()()()に目で楽しんだ。

 稲妻特有の技術を知るために、()()()()()死兆星号に乗った。

 フォンテーヌの卓越した科学技術に触れるため、()()()()()美しい街を練り歩いた。

 

 いつだって、あの人とわたしは一緒だった。流石にトイレだったりにまでついて行かない分別はあったけど、それ以外の時間はずっと一緒。

 私は彼と一緒に居たいだけ、彼の全てを管理したいわけじゃない。

 でも女の人とあの人が会話する時だけは、何が何でも彼と一緒に居るようにした。もしかしたらその女に誑かされて、一緒にいてくれなくなるなんて事になったら、きっとわたしは耐えきれないから。

 

 あとはわたしがあの人と共にいられなかったのは、彼がモンドに帰ってきて、私がモンドの皆からの声を怖がってしまったあの日だけ。

 それも彼がわたしを慰めて、更にわたしのため、沢山骨を砕いてくれたおかげで、皆に温かく受け入れて貰うことができた。

 

 彼は何時だって、寂しがり屋なわたしを許して、受け入れてくれた。

 だからわたしも彼の取る行動を許したいし、受け入れたいし、正直でいたい。

 

 

 

 でも、だからって。

 部屋のコレを見られることだけは、絶対に。

 

 ……知られるわけには、行かなかったのに。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 ――見渡す限り、私がいる。

 

 壁、天井、ドア、棚ライトスタンド衣装ケースドア机ラッククローゼット――

 縦横関係なく、一分の隙もなくびっしりと貼られていたそれは、何十何百という写真。

 

 それに映っているのは全て私の姿。場所、アングルは様々だが、その全てに共通して言えるのはそれが盗撮されたものであるらしいという事。

 

 映る場所は全て私が旅で見た風景。勿論旅の中で写真など撮った事も撮られた事も一度もない。そも一人旅なので、自分を映す手段が無い。

 だが此処にはどうだ、百二百ではきかない数の私がいる。

 カーテンを開ける前に壁に微妙な濃淡が認められたのは、この写真の明暗が透けていたからだと、麻痺した思考の奥底で合点がいく。

 

 常人であるなら誰しもが絶句する光景。それに気圧され、無意識に一歩後ずさる。

 此処は何だ、アンバーの部屋ではなかったのか。騎士団が私の動向を探るため、秘密裏に設置していた監視室か何かではないか。

 しかし彼女の部屋だと確認したのは他ならぬ私だ。もしガイア辺りの悪戯であればとも思ったが、こんな悪趣味な所業はアイツの趣味では無いはず。

 

 彼の狙いは十中八九この光景を見せることだろう。しかしこれは一体――

 

 

「……まさか」

 

 

 ここで私は思い出してしまう。

 自分が旅をする中で、絶えず己を監視するような謎の視線の事を。

 

 この部屋に貼られた無数の写真。

 旅の間ずっと感じていた姿無き視線。

 帰ってきてから知った、アンバーがモンドから失踪した理由。

 彼女の独白にどこか疑念を持った訳。

 そして、工房で感じた彼女の不自然な知識。

 

 

「……ぅ」

 

 

 今まで感じていた全ての違和感が乱雑に、それでも確かに縫い合わされていく感覚に、思わず吐き気を覚える。

 考えたくないその結論。穴の開いたパズルにピースを埋めるように答えを組み立てていく自分の思考回路を、その答えを。

 私は残った理性全てで拒絶する。

 

 いや、まさか、そんなはずは、だが、しかし、どうして――

 

 

「見 ま し た ね ?」

 

 

 ――うしろのこえは、だれ?

 

 

「まッ――!?」

 

 

 あまりに聞き慣れた響き。

 咄嗟に振り返ろうとするも既に遅い。突如として襲う強い衝撃と共に、私の意識は遠のいていく。

 

 視界が完全に暗転する寸前、最後に見えたのは、

 

 

 ――あなたと共に――私――ないんだから。

 

 

 逆光で真っ黒に染まる、華奢な兎のシルエットだった。

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

「――風刃ッ!!」

 

 

 翠緑の風がヒルチャールの軍勢を吹き飛ばし、塵に変える。

 それを引き起こした少女――この世界の外から来た旅人である蛍は彼らの死を最後まで見届けた後、ゆっくり戦闘の構えを解いた。

 

 

「ふぅ、楽勝楽勝!」

 

 

 と、すぐ横でもう一人、快活な声で少女が草影から飛び出す。

 

 赤を基調とした飛行服と首にかけられたゴーグル、手元にはショートボウと矢を握りしめ、そして何より目立つのは頭の大きな赤いリボン。

 西風騎士団の偵察騎士、飛行チャンピオンのアンバーは、額の汗を拭うとすぐさま蛍の元へと駆け寄った。

 

 

「いやぁ、まさかあんたも戦えるなんて思わなかった……支援ありがとう!」

 

 

 白い歯を見せて笑うアンバー。それに蛍が返すより先に、彼女の側を浮遊している小さな少女、パイモンが答える。

 

 

「おう、こいつの手に掛かれば楽勝だぞ! ……でも、どうしてこんなモンド城の近くで丘々人(ヒルチャール)が現れるんだ? こう言う奴らは普通、都市から離れたところに巣を作るよな?」

「そう、本来だったら荒野にいるはずね。でも――」

 

 

 幻想大陸においても不思議存在なパイモンだが、それを大して珍しがる事なく、アンバーはその理由を語る。

 

 先の風魔龍の活発化で、モンドに来るキャラバン隊のルートが変更されたこと。

 暴風などから商団の安全を護るため、騎士団が今総出で対処をしていること。

 そしてその影響で、魔物達の活動域に変化が起きていること。

 

 

「――でも今日、また一つ巣を片付けられたんだから、進展はあったわ」

 

 

 そう言うと弾かれたように飛び上がるアンバー。突然のことに呆気にとられた蛍とパイモンの様子に構わず、彼女は二人の手を取る。その姿はまるで走り出した子兎のようだ。

 

 

「さあ、私に付いてきて!――真面目で優秀な騎士が、あんた達を城まで護ってあげる!」

 

 

 明るく笑顔で国中を飛び回る、赤い兎の偵察騎士。

 それがモンドにおける、アンバーという少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

「風の翼?」

「そう、偵察騎士はこれで空を駆け抜けるの! モンドの人達も皆愛用してるんだ」

 

 

 蛍の疑問に、アンバーはそう元気よく返した。

 

 

「此処……モンドの教会の前まで連れてきたのも、あんたにこれの良さを体験して貰いたかったから!」

「随分と熱く語るんだな」

「だって、『風』はモンドの魂だからね!」

 

 

 これからが楽しみでたまらないと興奮気味なアンバーの手には、黒っぽい布のような何かが抱えられていた。受け取った蛍が広げると、成る程それは正しく翼の形。

 実は裏で色々な経緯を持つその翼を、蛍は苦も無くすいすい乗りこなしていく。その姿を終始パイモンはうらやましそうに見つめていた。

 

 

「おおっ、ホントに飛んでるぞ……オイラにもこんな便利な道具があれば、一々飛ばなくて良いのになぁ」

「あはは、パイモンはちょっとサイズ的に……ちょっと待って」

 

 

 そう言うとアンバーは腰のポーチを開けて、その中身をかき回す。

 よほど中が散らかっているのかあれでもない、これでもないとうんうん唸ること暫く。取り出されたのはミニチュアサイズの風の翼。

 一瞬パイモンは目を輝かせたが、その光は直ぐに失われる。よく見るとアンバーの手のそれは外見が可愛らしくデフォルメされ、相棒のそれと同じ用途に耐えうるとは思えなかったのだ。

 

 

「もしかしたら、これならパイモンも使えるかも」

「確かに、この大きさなら確かにオイラでも使えるかもしれないけど……本当に飛べるのか、これ?」

 

 

 最初こそ疑いの目でそれを見ていたパイモンだが、装着して直ぐにそれが誤りだったと知る事になる。

 

 

「――お? おお!! 見てくれ蛍、アンバー! オイラ飛んでるぞ!」

「うん、良かった!――あの人の作品だから疑ってなかったけど、ちゃんと飛べたね」

 

 

 パイモンは己以外の飛行手段を手に入れたことで大はしゃぎし、その姿を見てアンバーは満足そうに頷く。

 大人が子どもに玩具を与えたときのような、そんな平和な光景が其処にはあった。

 

 

「アンバーの知り合いが作ったのか? こんなに小さい翼を作るなんて、ソイツは凄いヤツなんだな! 何ならオイラの手下にしてやっても――」

「それは駄目」

 

 

 だが、その空気は突如として凍り付く。

 先程までの明るいニコニコは何処に消え、代わりに昏い微笑を浮かべるアンバー。名前と同じ琥珀の目は一切笑っておらず、そのあまりの恐ろしさにパイモンは半分意識を飛ばしかけた。

 

 

「あの人と一緒に居るのは、わたしだけ」

「――お、おう。ごめんなアンバー……?」

 

 

 社会のルールに則る(とりあえずすぐあやまる)パイモン。最近の非常食は賢く出来ている。

 アンバーの雰囲気が元に戻り、先程の明るい時間が再び動き出す。それを終始見ていた蛍は、無言でアンバーの地雷が何か心に書き留めた。

 

 

「それじゃあ風の翼の性能も試せた事だし、早速騎士団に――」

「……アンバー? いきなり固まって、どうしたんだ?」

 

 

 だがその明るさもつかの間、再びアンバーが剣呑な目で黙り込む。

 再び消える安息の雰囲気。平素の底抜けの元気な立ち振る舞いから、一転どころか二転三転する彼女の様子にに首を傾げる蛍とパイモン。

 

 

全くもう、全然懲りてないんだから。――ごめん! ちょっと急用が出来ちゃった!」

「お、おう。急用か。なら仕方な……って、えぇええ?!」

「埋め合わせは絶対するから、もうちょっとだけ一人で練習していて! それじゃあ本当にごめん!」

 

 

 そう言うが早いかそのまま駆け出し、裏路地へ消えるアンバー。必然、後に残された二人は置いてけぼりを喰らう。

 

 

 ――まあその後、

 旅人は突如現れた風魔龍の起こす暴風に巻き込まれ、上空で世にも不思議な体験をすることになるのだが、

 それはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

「全く、また逃げだそうだなんて」

 

 

 走る。

 駆ける。

 翔んで、跳ねる。

 

 

「わたしとずっと、一緒に居るって誓ったのに」

 

 

 風の翼を駆使し、狭い路地を飛び抜ける。

 並の翼なら一瞬で壊れるくらい無茶な操縦だけど、あの人の作ったこの翼は事もなげに従ってくれた。

 

 

 当然。

 だってこれは特別製。私の操縦の仕方や癖なんかを全部把握したあの人が、私のためだけに作ったんだもの。

 

 

「――えへへ」

 

 

 これで空を駆ける度、喜びに包まれる自分がいる。

 この翼は、あの人がわたしの全てを知っている証だから。

 

 互いの全てを、わたしとあの人は知りつくしている。

 勿論お互いの身体についてだって例外じゃない。というかそれについては彼と同じ部屋に住み始めたその日に()()()()()()()()()()

 今までも、そしてこれからもずっと、その事実は変わらない。

 

 

「だから、逃げるなんて許さない」

 

 

 それなのに、最近になってあの人が困ったことをしてくる。わたしが騎士団で任務をしている間に、あの人が家から、ひいてはモンドから逃げだそうとするのだ。

 もしかしたらわたしの気を引こうとしているのかもしれないけど、私だって騎士で忙しいってこと、忘れてない?

 

 ――そもそも今まで一度だって成功していないから、いい加減諦めれば良いのに。

 

 

「まあ、其処が可愛いところでもあるんだケド」

 

 

 あの人はどうして私が逃亡に気付いているのか知らない。

 彼が逃亡のために使う、彼が旅をしていた時に使っていたその大きな旅行鞄。その脇についている小さなウサギ伯爵のぬいぐるみ。いつか渡して以来変わらず付けられたそれに私の元素力が込められていることに、元素力を持たない彼は気付けない。

 

 もし仮にそのぬいぐるみを捨てられてしまったら、私は彼が逃げた先を知ることが出来なくなってしまうけれど。

 

 

「彼は、そんなこと絶対しない」

 

 

 彼と始めてあった日から、彼と共に歩んだ旅、そして今に至るまで、共に過ごした全ての時間。

 何年間もの長い間、私は彼という人を観察し続けた。

 

 常に上を目指そうとする愚直さを知った。

 無言の中に隠れる優しさに触れた。

 様々な人と出会うなかで徐々に口下手でなくなったのは少し残念だったけど――お陰で再会した時、天にも昇るような嬉しい言葉をかけてくれた。

 

 ――何より、人と関わることで彼は繋がることの大切さを知った。

 そんな彼が、人から貰った贈り物を捨てたり、置いていったり出来るはずがない。

 例えそれが、自身を縛り付ける鎖だと分かったとしても。

 

 

「仕方ないから、直ぐに迎えに行ってあげる」

 

 

 走る。

 駆ける。

 翔んで、跳ねる。

 

 

 

 貴方はもう逃げられない。

 兎の駆けるこの風が、このテイワットに流れる限り。

 

 






ちなみに本当にウサギ伯爵のぬいぐるみを捨てたり置きっぱにした場合、そんなのあの人じゃないと判断されてバッドエンドに直行します。

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