原神フレンズ大紹介(大嘘)   作:山田太郎2号機

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ちょっと文字少なめ。




ジン・2

 

「――おわった、やっと、おわった」

 

 

 あれから。

 ふらふらと街を彷徨っていたアルベドを見つけ出し、彼のデスクの上の仕事の数に気が遠くなりながらも手伝いながら無理矢理全部片付け、後は俺が各場所に持っていくからとアルベドを叩き出した時。

 空はすっかり明るくなっていた。

 

 

「イヤ無理じゃん。寝てないじゃん俺」

 

 

 あと一時間もすれば騎士団の仕事が始まってしまう。これではおちおち仮眠も取れないではないか。

 この役職に就いたばかりの時は幾度となく団長がそうしないように見張っていたが、今こうして自分が徹夜を体験することになるとは。目新しいやら不甲斐ないやらで複雑だ。

 

 

「・・・こんな時は」

 

 

 仕方ないが、これを使おう。

 騎士団配給の腰のポーチ、その一番小さなものから、俺はアンプルほどの瓶を取り出す。中には薄緑のふわふわしたものが漂っているが一切気にせず、そのままコルクで締められた蓋を勢いよく跳ね飛ばした。

 

 途端その口から膨大な量の風が吹き、力強く俺の顔を打つ。正直めっちゃ痛い。

 

 

「あばばばばばばばばばばばばばば」

 

 

 数秒ほどそうした後、トンデモ小瓶はその中身を使い果たし、勢いは完全に消えた。

 

 

「――ふぅ、目が覚めた」

 

 

 今のは風の小瓶、その携帯縮小版だ。

 本来であれば空高く舞い上がるための上昇気流――『風域』を人為的に産み出すためのアイテムだが、その規模を小さく、より限定的にしたものがコレである。作るのが地味に面倒だし勢いも継続時間も本来の10分の一もないが、日常で持っておくと結構使い勝手が良い優れものだ。

 現にこうして目覚ましに使うことだって出来る。名付けるなら『風のプチ瓶』ってところか。

 

 空になった瓶をポーチにしまい、歩きながら風で盛大に乱れた髪を粗方整えていると、曲がり角でばったりジン団長と遭遇する。

 

 

「あ、おはようございます団長。良い朝ッスね」

「おはよう、今日も風神の加護があらんことを。――ところで、先程此方から風元素の気配がしたんだが」

「・・・あー、き、気のせいじゃないッスかね」

 

 

 いきなりあの瓶について触れられそうになったので驚いた。とりあえず何食わぬ顔をしてしらを切る。多少どもったがバレてない、多分。

 流石にあんな便利道具を作るために、夜な夜な風の精を捕まえていますなんて言えない。ましてジン団長は風元素の使い手。ますます白状するわけにも――。

 

 

「そうか。ではそういうことにしておこう」

「――ッス。感謝ッス」

 

 

 あこれバレてるやつじゃん。

 彼女の後に付いていきながら、朝から俺はジン団長の慈悲に感謝した。

 

 

 

 

 

「コレで、最後ッ・・・!」

 

 

 剣先に集められた何体ものヒルチャールが吹き飛び、ボタボタと湖に落下していく。泳げない奴らにとってそれは死と同義だ。

 

 

「流石ッス、団長」

「何、この程度何のことはないさ。――そういう君はケガをしていないか? 別に今できた傷以外でも、何処か痛む場所があれば直ぐに・・・」

「ヘーキヘーキ、大丈夫ッス。何の問題も無いッスよ」

 

 

 あれほどの大立ち回りをしておきながら団長は汗一つかいていない。此方の心配をしつつ、それでも周囲の心配を怠らない辺り流石の余裕だ。

 

 ――多分、このレベルこそ天才の領域というヤツなのだろう。

 

 

「・・・それで、報告にあった巣はあと幾つだ?」

「多分さっきのが最後――いや違う、次が最後のやつッスね。ここからなら場所もかなり近い」

 

 キャラバンルートに巣くうヒルチャール共の排除、それが今回の任務だ。

 といっても俺がするのは場所の報告と案内くらいで、実際に任務を遂行するのは9割5分ジン団長だ。彼女と手合わせした経験を活かす良い機会と思っていたのだが、試す前に敵が吹き飛んでどこかへ行ってしまうのだから仕方ない。

 

 

「それなら夕方までには充分間に合うか――よし、早速向かおう」

「了解ッス」

 

 

 そんなやり取りから暫く。最後の巣も特に問題なく見つかり、俺は今まさに団長が奴らを蹂躙しているところを眺めている。

 

 

「・・・風よ、私に応えるのだ」

 

 

 ――柄は胸元、剣先を天に。

 

 ジン団長が剣を掲げると同時、彼女を中心に風が吹き荒れ、翠緑のフィールドを作り出す。その中に居た敵は烈風に切り刻まれ、派手に塵を吹き出して倒れていった。

 

 

「やっぱ凄ぇよなぁ」

 

 

 領域内の味方には風の恵みを、そして敵には烈風の一撃を与える攻守一体の奥義。あれこそが俺を治療した『蒲公英の風』の本来の使い方である。

 彼女の持つ神の目による風元素の力、そして彼女の守護の意思が合わさって初めて生まれた、彼女だけの奥義。

 

 

 ――ずりぃよなぁ。

 

 

 思わず口をつく本音。

 

 無論ジン団長の強さの秘訣が、彼女の弛まぬ努力であることは分かっている。

 才能以上に努力して彼女は強くなった。そんな崇高な彼女と俺とを比べるなどおこがましく、彼女の才の何もかもが俺より遙か高みにあるのは道理でしかない。

 

 だが、そう理解していても。

 俺は彼女を羨み、越えようと手を伸ばさずにはいられないのだ。

 

 

「ッ、危ない!!」

 

 

 と、何処か近くで声がした。

 その声の主は此方へ駆けてきて、俺に今まさに振り下ろされようとしている棍棒の間に――

 

 

 

「・・・え?」

 

 

 

 鈍い音。そして少し遅れ、どさりと何かが地面に崩れ倒れる音が響く。

 

 ゆっくりと下へ視線をずらす。

 そこには俺を庇ってヒルチャールの攻撃を受けたジン団長が、頭から血を流して臥していた。

 

 

「――ッ!!」

 

 

 声にならない叫び。視界が急激に狭まり、周囲が赤に彩られる。

 その激憤は攻撃を放ったヒルチャールに対してか、はたまた間抜けな俺に向けてか。

 

 直ぐさまジン団長の落とした剣を拾い、勢いそのままに目の前のヒルチャールを切りつける。

 

 

 今までのどんな戦いでも成し得なかった、これまでで最高速の一撃。

 ――その筈、なのに。

 

 

「・・・は?」

 

 

 そんな俺の一撃を、そのヒルチャールは簡素な木盾で容易く弾いた。

 それは王でも暴徒でもない、唯のヒルチャールにさえ俺の力が届かないという紛れもない事実。

 

 

「――kucha」

 

 

 目の前の事実を飲み込みきれない俺を見て、ヒルチャールが何かを呟く。

 意味は分からない。だが俺にはこう言ったように思えてならなかった。

 

 ――弱い、と。

 

 

「ッぎ――」

 

 

 ヤツの蹴りが俺の脇腹を襲う。

 技術も何もないただの蹴りのハズなのに、訓練でジン団長からうける一太刀の何倍も痛い。力もあの剣筋に込められたものの半分もないはずなのに。

 

 

「kucha, kucha」

 

 

 棍棒、殴打、盾突き、更にもう一度蹴り。

 

 俺は続けて見舞われる追撃を、そのままもろに喰らい続けた。先程と同じく貧弱で、それでいて苦痛を伴う一撃。

 何度も喰らう、喰らう、喰らう。

 

 ――そして気付く。

 

 嗚呼、コイツは俺を本気で殺すつもりなんだと。

 

 

「――がアッ!?」

 

 

 ヤツの身体全体を使った一撃。普通であれば先程の攻撃が多少苛烈になった程度の勢いだが、小さい俺の身体にとっては吹き飛ぶほどの重撃。

 一瞬僅かに身体が浮く感覚。だが直ぐ地面に叩きつけられ、身体中の空気が全て吐き出される。

 

 立ち上がろうとするも、ショック状態になっているのか身体が上手く言うことを聞かない。それを無視して無理に起き上がる。

 酒酔いのような頭痛と共に視界がぐにゃりと歪み、平衡感覚も覚束なくなるが関係ない。

 

 視界に映ったのは、俺を無視してジン団長の元へ向かうヤツの姿。

 

 

「やら、せるかよ」

 

 

 激痛走る身体に活を入れ、今一度剣を持つ手に力を込める。

 この剣は彼女のもの。だから幾ら嬲られようと、この剣だけは手放すわけにはいかなかった。

 

 何とか身体を起こせたはいいが、平衡感覚が狂ってこれ以上のアクションが出来ないのがとても苛立たしい。なら一発逆転の装備が何か無いかと手探りでポーチを漁るが、そんな危険物入れた覚えが無いのは俺が一番よく知っているところだ。

 

 

 

 そう、ポーチの中には精々――

 

 

「・・・感謝するッスよ、ジン団長」

 

 

 あるじゃん、とっておきのヤツが。

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 意識を取り戻した時、最初に感じたのは重い頭の鈍痛だった。

 

 ――彼が私の秘書になる前、過労で倒れた時でさえこんな強い痛みではなかった。あまりの痛みで身体を動かすことすら難しい。

 

 

「何が、起きたんだ」

 

 

 纏まらぬ思考を総動員し、直前の記憶を辿る。

 確か私は彼と任務をこなし、最後の巣を片付けていて――

 

 

「・・・不甲斐ないな、私は」

 

 

 討ち漏らしたヒルチャールが彼を襲い、寸前に割り込んだ結果、この様だ。

 

 ジン・グンヒルド。

 敬愛する騎士フレデリカの娘にして、誇りあるグンヒルド家の長子よ。それが何という失態、何という怠慢か。

 

 視界が安定すると、今まさに生き残りのヒルチャールが私の元へと近づいているのが見えた。狙いは無論私。

 ――陵辱か、それとも血祭りか。どの道碌な結末は待っていない。

 

 いっそ舌をかみ切り、自死を選ぶべきか――

 

 

「・・・おい、待てや雑魚チャール」

 

 

 と、突如としてその後ろから聞き慣れた声が投げかけられる。

 それは。何処か小生意気な響きを残すその声の主は。

 

 

「さっきは悪かったな、手加減して」

 

 

 ――だからよ、悪かったついでにもう一発、最後に喰らって逝けや?

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 ――よし、食いついた。

 

 ヤツが倒れたままの彼女から俺へ注意を向けたことにひとまず安堵する。これでもし無視されたら、今の状態だと詰みだった。

 視界と平衡感覚は回復したが、思った以上にダメージがデカい。一歩を踏み出すことすら難しく、むしろ先はよく立ち上がれたものだと感心するレベル。故に此方からアイツの元へ向かう事は出来ない。

 

 だがあっちから来てくれるというのなら話は別。此方にだってカードは切れる。

 

 

「――Yaya ika kundala」

 

 

 こちらに近づくヤツが何か言葉を発しているが、俺はその全てを無視する。

 代わりに注意を向けるのはヤツの顔、その薄汚れた仮面の奥の目だ。

 

 

「・・・すぅ――」

 

 

 俺がするのは一つ。

 今まで考えたこともなかった、敵の行動の内容を観察すること。

 

 

 ――あのヒルチャールが俺を襲ったのは、味方を鏖殺したジン団長よりも弱いと考えたから。

 ――あのヒルチャールが俺の攻撃を簡単に防げたのは、俺の攻撃が来る方向があらかじめ分かっていたから。

 ――あのヒルチャールの攻撃が重く、痛かったのは、俺がその攻撃に対して一切の備えをしなかったから。

 

 

 今なら何となく分かる。何故俺が今まで強くなれなかったかが。

 

 

「kucha, kucha」

「――ああ、さぞ弱かっただろうぜ、俺は」

 

 

 言葉が通じているかは知らないが、きまぐれにヤツの言葉に返答してやる。

 

 今までの度重なるジン団長からの稽古で、俺は彼女の動きを出来る限り真似た。それにどんな意味があるか、その行動は何に繋がるかなど考えもせず、見よう見まねで考え無しに模倣してきた。

 

 でも、それじゃ駄目だ。

 模倣って言ったって完璧に出来るわけじゃない。追えるのは身体の大まかな動きだけ。重心のかけ方や次の行動につなげるモーション、そういったものは解らないし、解らないが故に俺はそれらを軽んじる。

 ――彼女はそれをこそ伝えたかったんだろうに。

 

 だから勝てない。

 だから弱い。

 剣舞を幾ら見事に踊れても、実戦で役に立つことはないのと同じように。

 

 

「でもな」

 

 

 節々が痛い。恐らく身体はアザだらけだし、何カ所かは骨も折れているだろう。

 だから俺をそこまでボコボコにして――それ以上にジン団長を殴りやがったアイツが、俺は憎くてたまらない。

 

 ――だが、同時に感謝もせねばならない。

 

 『天才』に食らいつこうと彼女に追いすがる情けない俺を、思いっきりぶん殴ってくれたことに。

 

 

「簡単にくたばると思うなよ・・・?」

 

 

 限界まで身体を捻り、左足を前に、右足を大きく後ろに下げる。そのまま左手は拳の形で前に突き出し、剣を握る右手は後方、その剣先を向けるのは倒すべき敵のみ。

 

 そして。

 

 

「――nesina!!」

 

 

 先に動いたのはヒルチャールだった。

 元より此方に動く気は無く、それに驚きはない。振りかぶる棍棒に一瞬視線を奪われそうになるが、気合いで耐えてヤツの視線を追う。

 

 ヤツの狙いは頭。

 もしこの攻撃が失敗すれば俺の頭が柘榴になるか、はたまた五体がバラバラに吹き飛ぶだけ。

 

 

「いざ――」

 

 

 彼我の距離は幾許もない、避けるのは絶望的。

 であれば此方が受け止めるのみ。

 

 

「――勝負!!」

 

 

 此処で初めて俺は左の拳を開く。

 中には小さな瓶と翠緑に色づいた光。その封を破る暇はない。俺はそのまま瓶を放り、それ目がけ限界まで引き絞った剣先を突き出す。

 

 ――其は仲間を導く守護の風。

 

 

 

 瞬間、

 ――光が爆ぜた。

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

「信じられない」

 

 

 脳の理解が、追いつかない。

 

 彼が放ったその技は、確かに私が使う剣技『風圧剣』。

 風を剣に纏わせて敵を引き寄せた後、風を一気に開放して敵を纏めて吹き飛ばす技。神の目を駆使し、大気中の風元素を操って放つ、神秘を交えた私の一撃。

 間違っても真似しようと思って出来るものではない。

 

 ――それを彼は、やってのけた。

 

 それを受けたヒルチャールを見ると、上半身が消し飛び、残った下半身から塵が漏れ出ている。その有様から彼の放った技威力のすさまじさが見て取れた。

 仮に私が風圧剣を放ってもこうはならない。恐らくだが私の風圧剣の風を収束させる前工程を省略し、何らかの手段で直接巨大な風を送り込んだのだろう。それなら衝撃に備えるため、その場から動かなかったのも納得できる。

 ヒルチャール一匹に放つにしては些か強すぎる気もしないでもないが、弱すぎるよりも万倍ましだ。

 

 その力が何であれ、彼は今日確かに自分の力だけで敵を打ち倒した。

 しかしまさか、彼もこれ程の――。

 

 

「へっ、ザマァ、見やが――」

 

 

 ぐらり、

 ぐしゃっ。

 

 

 ――でも、現実は甘くない。

 

 

 彼が倒れた後、ふと彼の足下の赤さに目が行って。

 それが彼の飛び散った血と解った時には、私は自分の怪我のことも忘れて彼の元へと駆け寄っていた。

 

 

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