原神フレンズ大紹介(大嘘)   作:山田太郎2号機

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基本的に私の作品の中で、ヒロイン側が酷い目に遭うことは少ないです。理由は読むのは好きだけど、書くとメンタルが削られるから。


だから代わりに男側には結構頑張って貰います。男の子だしね、耐えてくれるでしょ(ハナホジ)


てなわけで本編いきます。




璃月
刻晴・1


 

 

 ――曰く、最優の剣士とは誰か。

 

 

 その問いに対し即座に答えられるものは少ない。

 乾坤浩蕩(けんこんこうとう)、テイワットにおいて強者は数多在れど、それらに優劣を付けることは容易ではないことを誰もが知っているからだ。

 

 モンドのとある風の騎士は、国を、民を守護するその一心から刃を振るい、戦った。

 璃月を流離う飛雲商会の次男坊は、剣客としての義侠心から剣を取った。

 稲妻に住まう傾奇の赤鬼は、己が一味と共に豪腕を振るい城下を揺るがした。

 

 彼らの絶技の根底には常に何らかの意思があり、それが唯一無比なればこそ強い力となる。ましてそれらを一概に比するなど無粋の極み。

 

 

 璃月(リーユエ)七星が一人、『玉衡(ユーヘン)』の刻晴(コクセイ)も紛れもなく強者と称される一人であり、その例に漏れない。

 

 刻晴の剣技には、実践を何より尊ぶ彼女の在り方が特に色濃く滲み出ている。

 より速く、より効率的に万事をこなし対処する。かつ正しく在らねばならず、拙速、巧遅、そのどちらに偏ることも許さない。それを可能にする並外れた才覚は他の七星の誰もが認めるところであり、事実刻晴がいなければ、帝君亡き後の璃月に目覚ましい成長は見込めなかっただろう。

 

 だが、彼女は璃月を守護する七星でありながら、岩神と仙人達の庇護の下発展してきた今の璃月の在り方を長らく疑問視していた。

 

 

 ――もしいつか、帝君がこの責任を履行しなくなったら、璃月はどうなるか?

 璃月の現在の繁栄は、まるで砂浜に建てた壮大な砂の城のよう。そして海の潮の流れを決めるは人間ではない、と。

 

 

 ともすれば帝君に対する不敬と取られてもおかしくはないその考えは、何処までも非情な現実を見据えた彼女ならではのものだ。

 無論彼女の意見を支持する人は少ない。数千年に渡り璃月の繁栄を支えた岩神の神権は今や街の在り方に深く根付いているし、何より神にとって人間の一生など、璃月に比べると瞬きほどの刹那で、態々杞憂するに値しないからだ。

 

 だが刻晴はそれに異を唱える。

 神に頼り弱くなった人間を、果たして帝君――否、岩神モラクスは変わらず愛してくれるのであろうか。璃月の未来は、本当にこれで正しいのだろうか。

 

 疑問が頂点に達した刻晴は、ついに帝君を迎える迎仙儀式(げいせんぎしき)であの名言を生みだした。

 

 

 ――ここ千年、帝君がずっと璃月を守ってきました。しかし千年後、一万年後、十万年後も、私たちを守ってくれますか?

 

 

 神の答えは知る由も無い。だが、刻晴は此処で決意した。

 

 必ずや自分が神を統治者の座から引きずり下ろす。帝君や仙人といった神秘よりも人の持つ本来の強さに意味を見いだし、その可能性を模索しては、いずれ堅物な神にそれを証明してみせる。そしてその為には如何なる怠 惰も、手落ちもあってはならないと。

 

 

 『人』として生まれたのなら、『人』としての誇りに、考えに生きる。

 それが刻晴という少女であり、彼女の目標なのだ。

 

 

 

 

 

 では。

 

 そんな頑固な働き者に、同じく頑固な怠け者をぶつけるとどうなるか。

 誰しも直ぐに答えるだろう。蛇蝎(だかつ)のように嫌い合うか、はたまた我関せずと無視を決め込むか。どちらにせよそんな相反する二人が良い関係を結べるとはとても思えない。

 

 

 

 ――しかし、或いは。万が一にも、この二人が手を組む世界線があったとしたら。

 彼女が人の可能性を、ほんの少しだけ広く見つけられたら。

 

 

 これはそんな世界で、彼女を描く物語。

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

「――私は刻晴、新しく貴方を指揮する上官よ。貴方の活躍にはあまり期待しないけれど、精々努力する事ね」

「へぇ、さいで」

 

 

 ――はぁ。

 初対面でこの物言いとは、また厄介なヤツが上司になったもんだ。前の肥えたヒゲジジイと違って別嬪さんらしいってんで、多少期待はしていたんだがね。

 実際に見りゃまだガキじゃねえか。総務省(うえ)は一体何考えてんだ。

 

 

「貴方、上司には敬語を使いなさい。じゃあ早速だけど・・・って、この書類の山は何なの? 聞いている限りでは、前任者がいない間の業務はその部下が対処しているという話だったのだけれど?」

「へえ、その通りで」

「・・・じゃあこの紙束は何故ここにあるのかしら」

「さて、何ででしょうねえ」

 

 

 適当にすっとぼけてたら、いきなりぶっ飛ばされた。今まで手前さんの仕事を肩代わりしてやっていた部下への報奨にしちゃ、また随分な仕打ちだ。

 立ち上がると目の前には仁王立ちした美女一人。――相当頭にきてるな、この顔は。

 

 

「――私相手に、良い度胸じゃない」

「へえ。仕えて二分の部下の身分としちゃあ、上司サマにお褒め頂いて光栄で」

「・・・ああ、そう。そういうことね」

 

 

 どうやらこのお嬢様はこれだけで何かを察したらしい。全く凄いじゃないか、俺別にお前に何かを伝えたくて喋ってるわけじゃないのに。

 

 

「――やっぱり信頼できるのは自分だけって事ね。解っていた事よ刻晴」

 

 

 何やらブツブツと呟いてたと思ったら、いきなり弾かれたように前上司が居たデスクに向かう新上司。そのままどかっと大きな音を立てて椅子に座ると、机の上の書類をもの凄い勢いで処理していく。まあ出来るはずもなく直ぐに音を・・・

 

 ――嘘だろ。処理出来ている。

 

 

「・・・おいおい、ちょいと待て」

 

 

 その様子のあまりの異常性に、俺は思わず目を剥いた。

 いや、百歩譲ってただ普通に仕事をこなしてるしてるだけならまだ問題ないんだが、いかんせん処理速度がおかしい。俺が三日かけてこなすような仕事がものの5分で終わっていくのはどういうことだ。

こっちはこの部署に来て何年も経ってるってのに、異動したてで業務の詳細も禄に把握していないはずのお嬢ちゃんの方が何百倍も優秀ってのは、流石に大人の沽券に関わる。

 

 

「待て待て、嬢ちゃん。幾ら苛ついてるからってそんなに雑に片付けられちゃあまずいぜ。此処は別に遊びで来る所じゃあ――」

「・・・(カリカリ)」

「・・・まあ、なんだ。お嬢ちゃん? さっきは俺が悪かった。仕事がいつまでも終わんねえものだから、つい悪く言っちまってよ――」

「・・・・・・(カリカリ)」

「・・・あー、その。刻晴、様? 先程は私が悪うございまして、出来れば謝らせて欲しいなぁと思っているんですがね」

「・・・・・・・・・で?」

 

 

 ここまで言って、このガキ――いや、刻晴はようやく面倒くさそうにちらと顔を向けやがった。

 一瞬また馬鹿にしてやろうかとも思ったが、そんなことすればさっきの状況に逆戻りだ。手を握りしめてなんとか堪える。

 耐えろ、俺。この程度の扱いなら慣れているだろう。俺より年下で生意気って事を除けば、あの前任(デブ)の下で働くよりも余程マシだ。

 

 

「まあ、その――先程は上司である貴方に失礼な物言いをしてしまい、大変申し訳ありませんでした。今後は貴方の部下として精進していきますので、どうか一度、慈悲をいただけませんか」

「・・・二度は無いと思いなさい」

 

 

 それだけ言うと、刻晴はまた視線を書類に落とす。許された――と見て良いのかこれは。

 とりあえず自分の席に戻って彼女に倣い、やりかけていた仕事を片付けていく。適当な書類を一枚片付け、ふと刻晴の方を見ると、彼女は既に紐で綴じられた二,三の申請書類に読了の判子を手際よく押すところだった。

 

 

「――何よ。こっちを見る暇があったらさっさと終わらせなさい」

「・・・はい」

 

 

 それから間髪入れずに鋭い声をかけられてしまい、ばつ悪く返事を返すことしか出来ない。

 あの量を捌いている最中に、こっちの様子を逐一確認する余裕があるとは。何とも末恐ろしい少女である。

 

 

「・・・」

 

 

 だが、裏を返せば上司の優秀さは部下の仕事の軽減に繋がる。

 

 元々、俺は極力働きたくない人種だ。璃月の役人になったのも、上役になれば部下を顎で使うだけで良いと聞いたから。

 それなのに思ったより使えるからってって色んな役職にヘルプとしてぶち込まれて、気付いたら無能の上司と二人しかいない雑務部署みたいな所に幽閉された。

 ちなみに先に言っておくが、断じて俺が優秀だからではない。俺がもう何度かも解らない忌引き(サボり)で休んでいる間に、上の奴らが勝手に決めやがったのだ。

 ――まぁ、こればかりは反省している。流石に3回も祖母ちゃんを殺したのはマズかった。

 

 で、そんなこんなでこの部署に来たわけだが。

 前任がこの部署を牛耳っていた時、あのデブのしでかしたポカの尻拭いが俺の専らの業務だった。最初こそ高名な家の出で教養があると持て囃されていたが、蓋を開けてみれば何てことはない。期限内での書類未提出は当たり前、珍しくやったかと思えば送り先からこの決済の計算が間違ってるだの、公的文書に不適切な表現が用いられているだのと苦情のオンパレード。俺以上に役に立たないときた。

 おまけに最後は横領の下手クソな隠蔽がバレて首チョンパだ、全く救いようがない。

 

 だが、現状の働きぶりを見る限り、今回の刻晴が前任のように無能ということは考えにくい。むしろ有能すぎるくらいだ。この調子なら今まで溜まっていた業務など瞬く間に消化されるし、毎日の業務の消化もそれに倣うだろう。そうすれば俺が毎日こなす仕事は減るし、早く帰れる。

 つまり俺は、考え得る限り最高の上司を引き当てたことになる。最初こそ無駄に生意気だったので苛つきもしたが、もし彼女がこのまま上司であり続けるのなら俺の仕事はこれから先無くなったも同然。そうなれば彼女に一生ついて行くことも吝かではない。

 

 大人の沽券? 知るか、そんなもの犬にでも食わせとけ。

 

 

「・・・ふ」

 

 

 ――勝った。

 サヨナラ、無駄なサービス残業まみれで負け組の俺。これからは毎日定時に上がれる勝ち組の俺にジョブチェンジだ。

 

 

「――何、いきなり笑い出して。気持ち悪いわよ」

 

 

 ちょっと其処、黙らっしゃい。

 

 

 

 

 

 

 

「――じゃあこれ、貴方の分の書類よ。比較的楽に片付くものを選んでおいたから、明日の朝までには全部目を通しておいて」

「・・・へぇ、承知でさあ」

 

 

 そう言われて目の前に載せられた資料は、正しく山と称するに相応しい量。とても人が一晩で目を通せる量ではない。

 次に上座――刻晴の机へ目を向けると、俺の更に何倍もの高さを誇る資料の山が見て取れる。

 あまりの密度に最早机の上に乗っているのか、床から積み上げられているのか定かではない。・・・彼女は資料で絶雲の間のジオラマでも再現しようとしているのだろうか。

 

 

「――はあ」

 

 

 あれから一ヶ月。

 

 俺は未だ、思い描いた定時上がりを一度も果たせずにいた。

 あれから最初の一週間で、並外れた手腕を発揮した刻晴の活躍により溜まった仕事はほぼ片付いたのだが、その後も何故か一向に仕事は減らず、それどころかみるみる膨れ上がっていく。

 今では現在進行形で渡されたような紙の山に目を通しつつ、睡魔と疲労に反抗する日々。誰だこれからは楽になるとかほざいたの、ぶん殴ってやるから出てこい。

 

 

「ああ、それから――」

「まだあるんですかい」

「当たり前じゃない、そうでもしないと今までの信頼低下をカバー出来ないわ。・・・全く、前任も厄介な置き土産を残していったものね」

 

 

 そう言って溜息をつく刻晴。こっちとしては溜息の代わりに魂が抜け出そうなのだが。

 しかし泣きを入れても量が減らないのは解っているし、彼女がその何倍、下手をすれば何十倍もの働きをしていることを知っている身としてはおいそれと投げ出すのも憚られる。

 

 何が言いたいかって、どの道俺はこの書類を受け取るしかないのだ。

 だからその際、多少小言を呈するくらいは許して欲しい。

 

 

「あんまり理想を見上げすぎるのもどうかと思いますがね、俺は」

「・・・何ですって?」

 

 

 ――俺が思うに、刻晴はどうも何か功を急いている気がしてならない。

 

 今俺と彼女がやっている仕事も、聞けば本来ずっと先に処理する予定のもの、つまり今やらなくても良い事柄らしく、中には〆切が数年後のものもあると聞いた時は流石に耳を疑ったものだ。

 一月で何となく刻晴の性格は解ったし、確かに効率を求める彼女なら後々の予定を考え、業務の前倒し程度軽くやるのも頷ける。

 

 だが、それにしたって限度がある。

 睨み付けてきた彼女の視線を受け止め、逆に見つめ返してやる。よく見ると目元に化粧で隠された隈が見て取れた。――幾ら優秀とは言え彼女も人の子。正直俺も限界だが、このままじゃ彼女は本当にぶっ倒れかねない。

 

 彼女への心配1割、こんな馬鹿げた量の仕事やらせんじゃねえという抗議9割で構成された俺の言葉に、刻晴はいつもの澄ました顔を歪めた。形の良い眉がぴくりと反応し、少しつり上がる。

 どうやら俺の忠言はあまりお気に召さなかったらしい。

 

 

「私が来るまで、貴方はずっと前任の皺寄せを食ってきた。その功績に免じて、最低限仕事さえやってくれるならこの際多少の無礼は許すけれど。――限度はあるわよ」

「ああそうですかい、なら言わせて貰いますがね」

 

 

 ――お前、そんなに急いで何がしたいんだよ。

 

 

「・・・貴方には関係ないわ」

 

 

 割と真剣に聞いたつもりだし、刻晴もそれを理解しているようだったが、それでも返ってきたのはにべのない答えだった。

 ――つまりは刻晴にとって、これだけ酷使した部下への信頼はこの程度だということだ。確かに信頼されるような態度も、仕事ぶりも発揮したことがないので、当たり前と言われればそうだが。

 

 

「・・・」

「・・・」

 

 

 それからは言葉もなく、俺達はまたいつもの仕事に戻る。最近は僅かな休憩の間に世間話程度の会話をすることもあったんだが、それも今日は一回たりとて為されなかった。

 

 

 

 

 

「――刻晴様。そろそろ消灯の時刻です」

 

 

 時は進み、辺りにどっぷりと夜の帳が降りきって漸く。俺は彼女に再び話し掛ける。

 目的は言わずもがな、今の労働状態の改善を求めるのだ。日中にも何度か切り出そうとしたがその度に話し掛けるなと態度で示してきたので出来なかった。ならこの際、こんな事務的な会話であっても無理矢理糸口にしてやる。

 

 刻晴は答えない。書類の山に身体全体を埋めているのでよく解らないが、変わらず頭を下にして机から視線をはずそうとしない。

 

 ・・・俺と話すことすらしたくないってか、上等じゃねえか。

 

 

「――刻晴様。俺と話したくないってんなら、さっさと俺を左遷なり何なりしてくれませんかね」

「・・・」

「正直俺が出来る事なんざたかが知れてますし、その成果がアンタの眼鏡にかなっていない事は解ってるんですよ」

「・・・・・・」

「何を考えているのか知らないですがね、効率を何より求めるアンタのことだ。こんな話俺から切り出されるなんざ願ってもないことだろうが」

「・・・・・・・・・」

「・・・おい」

 

 

 ――いい加減何とか言ったらどうだ。

 そう続けようと一歩刻晴に近づいた時、彼女の異変に気付く。

 

 

「――刻晴?」

 

 

 恐る恐る声を掛けるが、変わらず反応はない。

 先程も、そして今も、変わらず彼女は黙って下を向いている。それも微動だにせず、項垂れるかのように。

 

 肩も一切上下していないし、そう、まるで眠っているかのような――

 

 

「・・・おい、おいおいお待て待て待て待て! しっかりしろ刻晴!」

 

 

 呼吸という、生物としてあるべき反応さえ消えていることに気付いて、俺は遅まきながら刻晴を襲う異常の深刻さを悟った。

 

 

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