原神フレンズ大紹介(大嘘)   作:山田太郎2号機

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凝光・1

 

 岩神モラクスが治める璃月(リーユエ)において、港全体のビジネス、そして秩序を管理している人の組織。

 それが『璃月七星』である。

 今なお神の恩恵が色濃く残る璃月において国主とは岩神モラクスであり、即ちその彼に代わって港の管理を行う彼らは、この国において最も権力が強い人間と言える。

 

 人は立場が高くなるにつれ自ずと狙いの的になることが多い。

 だがそこはそれ、全土の民達から選りすぐられた七星の面々だ。全員がそれを正しく理解し、その上で各々の手法を用いて職務を遂行している。何事にも慎重であるべきというのが歴代含め七星全体の共通認識であり、濫りに顔を晒すのは彼らが好むやり方ではない。

 

 『天枢(てんすう)』のように実態はおろか正体すらも謎に包まれた七星も珍しくはないし、他の七星に比べると比較的市井に姿を見せることが多い当代の『玉衡(ユーヘン)』も、必要に迫られない限りは自分の立場をひけらかさず、慎ましやかに過ごすことが殆どだ。

 

 

 

 だが。

 七星の中の『天権(テンチュェン)』凝光、彼女だけは唯一の例外である。彼女に限り、歴代続けられたその暗黙の慣習は一切機能しない。

 

 

 

 凄腕の商人、優しいお姉さん、スイーツ業界一のコメンテーター、玉京台(ぎょくけいだい)の宴会で見かける美女――。

 

 璃月港に住まう者ならば、凝光の話について誰もが語ることが出来る。いや、仮に語れない者がいたとしても、上空に浮いた楼閣の主が誰かと問われれば直ぐに答えることが出来るだろう。

 璃月港の商業と密接に通じているが故、彼女は璃月の民との距離が最も近い。

 

 だが、その中に彼女の本質を理解している者はいない。街の人々が彼女へと送る美辞麗句の中身がどれも異なっているのが良い証拠だ。

 ただ、『凝光様はすごい人』ということだけが、どの話にも見受けられる共通点である。

 

 

 

 彼女が好きなもので、有名なものは二つだ。

 

 一つはこのテイワット全土で用いられる通貨にして触媒でもあるモラであり、彼女にとってビジネスでモラを稼ぐことは刺激的なゲームのようなものである。

 彼女は商売の肝とも言える『機』を巧みに読むことで、最小の労力で最大の利益を常に生み出し続けてきた。その手腕たるや、璃月と神の契約より三千七百年の間における全ての七星を知る仙獣の少女が『歴代で最も優秀だ』と称するのも不思議はない。

 

 そしてもう一つが、璃月港の上、険しい天衡山(てんこうざん)よりも遙か天に浮かぶ雲上の大豪邸『群玉閣(ぐんぎょくかく)』だ。

 始めは小さな部屋ほどの大きさだったが、今や天界かと言わんばかりの豪奢な御殿へと成長を遂げたそれは、彼女にとってモラの次に大切な宝である。

 そして彼女から直々に此処に招待されることは、則ち璃月港の商人にとって無二の栄誉。

 故に商人達はその夢を目指し、絶えず切磋琢磨を続ける。

 

 何時かはこれの影が七国を覆い尽くすまでに広げたい、というのが彼女の信じる夢だ。

 

 

 

 さて。

 そんな彼女だが、非常に二極化した顔を持つということは商人の間で専ら有名な話である。

 

 民や岩神からの覚えもめでたい事からも解るとおり、彼女は非常に璃月愛に溢れている。

 特に楽や芸能への理解は深いようで、雲菫が所属する雲翰社(うんかんしゃ)に対し多額の支援を行っている他、千岩軍に路上ライブを禁止され途方に暮れていた、搖滾(ロック)を愛する少女のため、わざわざ法自体を改訂したこともあった。

 故に彼女は多くの民から非常に人気だ。特に幼子達からの支持は絶大であり、凝光が市井に降りた時は、きっと子どもに囲まれ頬を緩めながらも全員に菓子を配る彼女の姿を拝めるだろう。

 

 だが、それはあくまで彼女の(プライベート)の一面。

 いざ仕事、特に取引や契約のやり取りにおいて、彼女は一切の容赦も慈悲もない冷徹さを発揮する。

 仮に以前から彼女との交流があった者であろうと一度商談の席に座れば最後、彼女にとっては皆等しく取引相手だ。相手の貴賤を問わず平等に扱われる反面、それは一切の優遇もされないということでもある。

 もし幸運にも彼女に目を付けられたからと、便宜を図って貰おうという希望は早めに捨てた方が良い。もしその立場に甘えて不義理を凝光に働けば、その次の日から彼女とは見ず知らずの他人、ということになりかねないのだから。

 

 必要に迫られれば、彼我の関係性すら容易に取引の天秤に乗せる。自分という人間の価値を正しく知る凝光だからこそ出来る荒技だが、この璃月においてこれ以上に大きい(おもり)もそうない。

 だからいざ彼女と関わりを持とうとするのであれば、彼女の性格を深く理解する必要があるだろう。

 

 

 

 勿論、凝光のような魅力的で富に溢れる女性を世の男が放っておく訳がない。

 玉京台出身の貴公子、若い事業家、七つの国を周遊する船長――。

 誰もが凝光の笑顔を得るためにあの手この手で尽くしたが、誰一人として彼女の眼鏡に適わず終わった。

 そのため港では、一体誰があの天権の心を射止められるのか、という話が度々上がる。

 世俗が思う優しい凝光と、野心的な天権としての凝光。その両方を知らぬ者達により酒の席、与太話で語られるその問は、しかし正解を踏むことなく、何時しか夜風と喧噪に消えるのが常。

 

 ――何故なら凝光は「有限」なものを愛さないし、「有限」に囚われるつもりも()()()()から。

 もし敢えて当時の彼女にとっての恋人という存在を挙げるとするならば、それはきっとモラだろう。神の創造物故に万古不易のそれらは、彼女の嗜好に最も良く合っている。

 

 

 

 だが、その創造主の岩神とて不滅ではない。

 雨粒すら時に大岩を穿つ。同じく悠久の時間生きる事で生じた心の摩耗は神さえ蝕み、殺すだろう。

 そうなればモラも不変ではなくなる。創造主である岩神が滅びれば以降増えることはないのは道理。そうなれば後は摩耗し、減るだけだ。

 

 そして更に、それは群玉閣も同じこと。

 己が生きている間は良い。だが百年後、二百年後、群玉閣はどうなっているだろう?

 

 

 

 やがてそう遠くない未来にその時が訪れた時、凝光は思い知るのだ。

 今まで無限と思っていた己が宝も、何時しか朽ちる日が来ると。

 

 そして不変の無限に縋るよりも、有限の時の中で己が如何に偉業を残すかを大切にすべきだと。

 

 

 

 

 

 ――これは、彼女がそれを知った後のおはなし。

 

 之まで無限を愛してきて、後に有限に希望を見いだせた彼女と、無限に囚われたままの夜叉とが織りなす、ボタンを掛け違えた物語。

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 ――之までの幾千、幾万に及ぶ戦いが祟ったか。

 

 最後の敵を切り捨てるその寸前、今まで共に戦ってきた愛剣に限界が来たのを肌で感じた。

 

 

「――シィッ!」

 

 

 だがそれを無視して刀を振り抜き、妖魔の胴を二つに分かつ。妖魔はその身体を塵に変えるが、それも直ぐに風に巻かれ、消えていった。

 始めに嫌というほど漂っていた怨念――『業障(ごっしょう)』の気配も今や消え失せ、周りには静かな夜の帳が降りるのみ。

 

 

「・・・今まで、よく頑張ってくれた」

 

 

 一息ついた後、手の内に収まっていた相棒に、心からの感謝を述べる。

 目覚めたその時より、共に数えきれぬ死地を駆け抜けてきたが、今漸くこれはその役目を終える事が出来たようだ。

 

 とうの昔に柄は朽ち、刃も潰れていたというのに不思議とその切れ味が落ちることはなく、無茶な相方の扱いにも文句を言わず長いこと付き合ってくれた。その死を誇りこそすれ、不満に思うなどあるはずがない。

 最早唯の武器という域を超え、通じ合う意思のようなものさえ感じていたのだ。

 本来なら哀悼の歌の一つも添えたいが――。

 

 

「・・・其処の者、それで隠れたつもりか。出てこい」

『――成る程。夜叉とはいえ、所詮逃げ隠れるしか能の無い木っ端と侮ったのが誤りだったようだな』

 

 

 邪なる者どもは、我にそのような時間を与える気は無いようだ。

 

 金属を擦るような不快な声音と共に陰から現れたのは、全身を黒い鎧に身を包んだ痩躯の人型。

 手には水で形作られた双剣を持ち、その長身からは溢れんばかりの邪気が放たれている。

 

 ――先程滅した妖魔共の親玉か。

 

 

『数千年の時が経ち、堕ちても尚神仙という訳だ。――しかしその技、失うには少々惜しい。どうだ? その力、モラクスに代わり我々の為に振るう気は無いか?』

『生憎妖魔に掛ける口など持ち合わせていない。疾く去るか、それともこの場で滅されるか――好きな方を選べ』

『ハッ、死に体の癖に吼えるなよモラクスの狗。何時斃れるかも知れぬその深傷に、頼みの愛剣は二つに折れた。・・・最早戦えまい? 先程俺に逃げの選択肢を与えたのが良い証拠だ』

『・・・チッ、知恵の回る』

『その上で答えよう。――ああ承知した。俺がお前を滅してやろうじゃないか』

 

 

 無駄な口の応酬。その最後を妖魔は乱暴に吐き捨てたと同時、戦闘の構えを取る。

その姿に隙は無く、此方を完全に駆逐する対象として見据えているのは明らか。勝てない勝負なのは百も承知だが、此方も戦うしかない。

 

 半ばから折れて軽くなった直剣を片手に持ち、腰を深く落とす。

 狙いは頭。どれ程この妖魔が強大だろうが、基本的に頭を潰せば生物は死ぬ。鎧の間に刃を差し込み、夜叉の怪力で力任せに突き刺してやれば良い。

 

 

「来い、妖魔め」

「言われずとも」

 

 

 失敗すればそれまで。仮に命を奪うまではいかなかったとしても、奴らの計画の時間を稼ぐことくらいは出来る。

 

 引き絞られた脚に力が籠もる。

乾いた地面が抉れる程に込められたそれが、我が出せる最期の力。駆け出したが最後、この一合がどうなろうと我は此処で朽ちるだろう。

 岩王帝君の命を完遂できない事だけが心残りだが、それは未だ会わぬ夜叉達に託す他無い。

 

 ――決して恵まれぬ地力の中でも、最善は尽くしたつもりだ。必ずや妖魔を討ち果たしてくれ。同志よ。

 

 そう心の中で唱え、一気に力を解放し――

 

 

「双方其処までよ! 退きなさい」

 

 

 ――寸前、突如として凜とした声が闇夜を駆けた。

 見れば妖魔も動きを止め、我の後ろの何者かを見つめている。だが我では何者か確認しようにも、妖魔から目を離すわけにはいかないのでそれは叶わない。

後ろからの不意打ちという絶好の機会で襲ってこなかったということは、敵では無いと思うが。

 

 

『・・・これはこれは。璃月の『天権』様ではないか』

「ええ。――ああでも、覚えて貰わなくて結構よ、不快だから」

『また随分な嫌われようだな。・・・しかし木っ端夜叉一人だけならばまだしも、神の目持ちまで相手にするとなると骨が折れる。なら仕方ない、此度は一度退くとしよう』

 

 

 と、妖魔が練り上げていた膨大な邪気が霧散する。そのまま手に持った水刃を軽く振ると、忽ち毒々しい渦を巻いた裂け目が現れた。

 

 

『――人に命を救われるという屈辱を、夜叉に味あわせてやるのも悪くない』

「ッ何だと――」

『さらばだ』

 

 

 急な闖入者に隙を見せ楽に殺せた筈の我を見逃すあまりか、最後に捨て台詞まで残し、妖魔は闇色の渦の中に呑まれるように消えた。

 

 その裂け目すら消えてしまえば、後に残るは己と謎の新手のみ。

 

 

「――さてと。奇しくも逆の立場になったわね」

「?・・・何の話だ」

「いいえ、何でも無いわ。名も知れぬ夜叉さん?」

 

 

 振り返ると、其処には豪奢な錦綺(シルク)の着物を着た女がいた。

 女の割には長身だが、その肢体をはしたなく腿まで露わにし、人を惑わす妖艶さを振りまいて佇む姿は傾国の女狐を思い起こさせる。我が負った傷や血に対する怯みは欠片もなく、むしろそれを好ましいと言わんばかりの不敵な笑みは、明らかに我に向けられたもの。

 

 ・・・我を夜叉と知った上でこの不遜な態度とは。この女余程肝が据わっているらしい。

 我の目から言わんとしたことを汲み取ったか、片手で長い煙管を弄びながら女は器用に肩を竦める。

 

 

「怖い怖い、女性にそのような眼を向けるべきではないわよ?」

「ほざけ女狐。肚の内まで真っ黒な癖して良く言うわ」

「酷いわね、岩王帝君に召喚された夜叉様ともあろう御方が、見た目で人を判断するなんて。――少なくとも、帝君ならそう言って貴方をお諫めになるわ」

「貴様如きが岩王帝君の胸中を語るか。その不敬、覚悟は出来ていような?」

「ええ、ご自由に。・・・その前に、貴方がこれ以上動ければ、だけどね?」

 

 

 立て続けに目に余る愚弄を受け、反射的に目の前の女の首を刈ろうと身体が反応する。が、その一歩目で身体が沈み、二の足を踏む前に膝をついてしまう。

 ――想像以上に傷が深い。戦いが長引き、業障の強い場に長く身を置きすぎたのも尾を引いたか。

 

 

「やはりね。全く、強情過ぎるのも考え物よ?」

「・・・殺す」

「あら、私は貴方の命の恩人よ? 感謝こそあれ、恨まれるような筋合いはないわ」

 

 

 其処まで女の言葉を聞いて、漸くこの女の目的を悟る。

 

 ――成る程。如何にも服や宝石で自らを飾るしか能の無い者が考えそうなことだ。

 

 

「何が望みだ」

「あら?」

「何が望みだと聞いた。答えろ」

「・・・へえ、話が早いじゃない」

 

 

 女の笑みが深くなる。やはり当たっていたようだ。

 

 ――人の子が我らに請うことなど決まっている。己には叶わぬ過ぎた恩恵を、自身に与えろと宣うのだ。

 その中身は金か、名誉か、はたまたもっと醜い欲か。どれにせよ碌なものではない。だから殆どの神仙は人を護るために進んでではなく、岩王帝君の意を汲むためだけに戦ったのだ。

 

 どうせこの女も我欲を満たす意図で恩を売ったのだろう。

 夜叉の命を救ったのだ、それ程の見返りは然るべき――そう考えても驚きはしないし、我の誇りに掛け、それ相応の返礼はしなければならない。

 だが、気に入らないものは気に入らない。

 

 

「貴方には、これから私の護衛をして貰うわ」

「・・・ふん、それだけ贅を尽くしても命は惜しいか」

「ええ、とっても。人は貴方達のように強くはないのだから」

 

 

 と、ここで今まで女を覆っていた絶対の自信が揺らいだ。

 僅か一瞬であったが、確かな弱み。過去に何か思うところでもあったのか。

 

 

「承知した。だが之より無限、というわけにはいかん。期限を設けて貰う」

「あら、自分が何か条件を付けられる立場だと、本当に思っているのかしら?」

「・・・貴様」

「冗談よ。――だからその顔を止めて頂戴。そんな『図に乗るな小娘』って顔、言われなくたって解ってるわよ」

 

 

 そう言って嫌だ嫌だと掌を振る彼女には、もう先程の陰りは見られなかった。

 ――変わり身が早いのか、はたまた自分を抑える術を知っているのか。後者であれば厄介なこと極まりないが。

 

 

「そうね、じゃあこんなのはどう?

 

 今日は丁度新月。これが一度満ち、再び夜に消えるまでの間――、大体一月。それを過ぎれば私は貴方に之までの非礼を全て詫びて、貴方の前から姿を消すわ」

「・・・その言葉に偽りはないか」

「帝君の寵愛受けた、この璃月の地に誓って」

 

 

 一月。

 人の感覚からしても短くはないが、決して長いわけではない。いかにも野心家といった様子から、もう少し欲張るかと思ったが。

 何か裏があるかと顔を見るも、その目に欺意は見られず真剣そのもの。

 

 

「・・・良かろう。岩王帝君の治するこの地にて、契約は確かに結ばれた。これから月の巡りが一つ過ぎるまで、我は貴様を護する鉾であり、楯である。――仮にこの約定果たせざれば即ち己が身を岩喰いにて捧げ、帝君の裁きを受けるだろう」

 

 

 ――最初は、適当な理由を付けて殺すつもりだった。

 

 だが幾ら不遜であっても、この女が約定を違えることはない。

 根拠はないがそれ程の覚悟を感じたが故に、我はこの女の願いを是と返した。

 岩王帝君への宣誓たる『契約』を交わした以上、之より我はこの女を襲う全ての災いから護らねばならない。

 

 我の誓いを聞いて再び不敵な笑みを貼り付けた女は上機嫌で踵を返す。夜叉を手懐けられたことが余程お気に召したようだ。

 

 

「ええ、契約成立ね。――じゃあ、まずは私を女狐とか貴様とかで呼ぶのを止めてくれる?」

「・・・契約にそのような条項はない」

「あら、ごめんなさい。――それにしても此処、随分高いところね。

 

転げ落ちたら最後、私は死んでしまうかも知れないわ」

 

 

 そう言ってカツカツと靴音を響かせながら、近くの崖に肉薄する女。先程と同じ目をしているから、今下手なことを言えば本当に飛び降りかねない。

 止めろ。今そのようなことをすれば、我が死んで契約が潰えてしまう。

 

 

「・・・・・・・・・何と呼べば良い」

「あら? 随分融通が利くのね。有り難う」

「御託はいい。早く呼び名を決めろ」

「そうね。じゃあ――

 

 

 ――『天権』と。そう呼んで頂戴。

 

 

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