原神フレンズ大紹介(大嘘)   作:山田太郎2号機

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感想欄見てビックリした。


ココナッツヒツジ、やっぱ皆好きなんすねぇ(ニチャア)





短めです。




甘雨・1

 『玉京台(ぎょくけいだい)』。それは言わば璃月の中核であり、港に住まう誰もが憧れを抱く場所。だが人々の中にその規則を知る者はほとんどいない。

 

 人々は其処に座する『璃月七星』が才能に溢れた集団であり、璃月の命綱を握っていることを知っているが、全ての決断がどのようにして決定されているのかを容易には理解できない。

 人々は新しい年に公布される条例が市場を大きく動かすことを知っているが、それがどのようにして繁雑な議事録の中から抜き出され、理解しやすい言葉に書き換えられているのか知らない。

 まして、到底一人では成し得ないそれらの職務が一人の少女の手によって消化されていることなど、人々は知る由も無い。

 

 

 

 古来より月海亭(げつかいてい)の秘書として璃月七星を支え、仙獣麒麟(きりん)の血を引く甘雨は、ここ数千年数々の責務を果たしてきた。

 どれ程神を憎み、岩神と契約する仙人を嫌悪しようが、甘雨にだけは敬意を払わざるを得ない。彼女の立場を知る者は皆、彼女の比類無き能力を褒め称えるだろう。

 だが彼女はそれら賞賛を受け取ることはない。己は帝君との契約に従っただけで、(すべから)く達成される義務だと語ると、その日彼女は決まって月海亭に夜遅くまで居残る。

 

 ――帝君との契約に従い、璃月の数多くの命に最大限の幸せを齎す。

 

 彼女が自己の仕事の結果として欲するのはそれだけであり、それ以外は些事。例え誰かに感謝をされても、何に感謝されているのかをいまいち理解していない。

 人の世に慣れ、今や周囲に完全に溶け込んで生きる仙獣であっても、未だこうして神仙らしい頑固さは残るものだ。

 

 

 

 

 

 しかし、数千年の時を人々と過ごした彼女だからこそ憂う事柄もある。

 出逢い、別れ、それらを多く経験した甘雨だからこそ、他の仙人にはない悩みを持っていた。

 

 その中でも『孤独』は、余人の数百倍もの時を生きる彼女が抱える最大の悩みだ。

 それを表すため、最近になって起きたとある話をしよう。

 

 

 ある時甘雨が誰にも何も言わず月海亭を離れ、行方知れずとなった事件があった。

 たまたま居合わせた旅人の活躍により彼女は見つかったが、彼女が居たのは仙人住まう絶雲の間。

 其処に住まい、嘗て幼少の彼女を見てきた仙鳥は、自身が偶然聞いた彼女の言葉を旅人に伝える。

 

 

『・・・璃月港は、絶雲の間より孤独です。

 絶雲の間で雲を眺めるのは、一人であることの孤独です。

 

 でも。

 

 璃月の人混みの中で感じるのは、『人ではないもの』の孤独です』

 

 

 ――絶雲の間に揺蕩う限りの無い雲海は、そう呟く彼女を覆い隠すようだった。

 最後にそう仙鳥が溢した時、既に旅人は姿を消し、甘雨の元へと駆けていた。そして彼女の孤独を振り払うためあらゆる手を尽くし、何時しか彼女も憂いを忘れ、微笑むことが出来た――。

 

 ――しかしそれでも、根底は変わらない。

 寄る辺も無しに孤独は癒やせず、むしろ遠回しにした分その落差は大きくなる。それを甘雨は理解していた。

 故に彼女には早急に支えが要る。それも、数千年に渡る彼女の孤独を癒やせる何かが。

 

 何を拠り所とするかは甘雨次第だ。

 それは移りゆく璃月という街そのものかもしれないし、短い付き合いながら自身を勇気づけてくれた、変わった異郷の旅人かもしれない。

 

 

 

 そして、或いは。

 特筆すべき事も無いありふれた一存在だって、彼女の孤独を癒すモノになり得るかもしれない。

 

 

 

 これはそんなもしもを描く、静かなお話。

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 未だ朝靄の立ち上る夜明け。私は何時ものように港の埠頭へと訪れます。

 

 

「・・・っくち」

 

 

 くしゃみを一つ。・・・人も居ない時間ですし、大目に見ても良いでしょう。

 最近暖かくなってきたといっても、朝はやっぱり冷えますね。

 こんな事なら薄い物で良いから、一枚羽織って出るべきだったかな、と思うけれど、此処まで来てしまった手前、引き返すのは少し憚られます。

 

 ――それに、あの人と過ごす時間を割いてまで、取りに戻ろうとは思えません。

 

 

「・・・うん? 今日は随分と早いんだね」

「はい。――何時もより早く、目が覚めたんです」

 

 

 かなり早い時間なのにも関わらず、其処には先客がいました。

 桟橋の先から足を投げ出し、竹竿を垂らしている彼は、最近になって増えた私の話し相手。

 

 そして――私の想いびと。

 

 

「そうかい。まあ、早起きは三モラの徳って言うからね。僕だって早起きしたお陰で、こうして今日の朝飯にありつけてるんだから」

 

 

 そう言ってもぞもぞ動く魚籠を叩く彼が、私の想いに気付くことは無いでしょう。

 ――本当は貴方に逢いたくて早く目が覚めてしまいましたなんて、口が裂けても言えません。

 

 

「でも、貴方は少し早く起きすぎだと思います。今日だって、私は初めて貴方より先に埠頭にたどり着いたとばかり思っていたんですよ」

「はは、甘雨に早起きで負ける気は無いさ。――まあでも。実を言うと、今日は僕も来たばかりなんだ。竿を降ろして直ぐ数匹捕まってくれたから、運良く見苦しい姿は見せていないけどね」

「そうですか・・・。でも、何事もやり過ぎは身体に良くありません。たまにちょっとくらい寝坊するのだって、良いことだと思います」

「・・・うん、心に留めておくよ」

 

 

 それからも、私と彼は何気ない会話を続けました。

 今日の天気や、時季外れのこの冷気に対しての不満。どれも二言、三言で終わってしまうようなものだけれど、その時間は何物にも代えがたい幸福なもの。

 

 ――いつの間にか埠頭に来て、釣りをするようになった彼と話すようになってから、今まで黙々と食事を摂っていたこの時間が益々楽しみになりました。

 港が出来てから、今まで何世紀も繰り返したことです。一人で食事を摂るその時間は慣れていますし、苦痛と思ったこともありません。

 でも、やっぱり一人よりは二人の方が、心が暖かくなるのです。

 

 誰もいないこの時間、この場所で、彼と二人でお話をしながら朝ご飯を食べて、日が昇ったらお勤めに励む。

 彼がどう思っているのかは存じませんが、少なくとも私は、この時間が何時までも続いてくれれば良いと思っています。

 

 

 

 ――でも、得てして現実はそう上手く運ばないのが常です。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・? どうか、なされましたか?」

「――ああ、すまない。少しウトウトしてしまって」

 

 

 ある日から、彼は少し眠そうにすることが多くなりました。

 理由をそれとなく尋ねようとしましたが、その度に上手くはぐらかされてしまいます。 ・・・別に毎度言いくるめられてる私がチョロいわけじゃ、ないんですからね?

 

 最初は朝も早いし、まだ眠気が取れていないだけかと思っていました。でも、最近はちょっと気になる程に、眠そうにしている彼をよく見ます。

 ――誠実な彼が話を聞かずに寝るなんて、何もないはずがありません。

 

 気にしないでとはぐらかす彼を見るたび、私の胸に宿るもやもやとした感情。

 きっと解消するには彼に直接訊ねるほかないのでしょう。

 

 

「・・・あ、あのっ」

「ん、何だい?」

「・・・いえ。何でもありません」

 

 

 何か悩みを抱えているのではないか、自分に出来ることはないか――。

 彼にそう言おうと前日から決心を固め、幾度となく試みもしました。

 

 でも、今の私には出来ません。

 一度手に入れた安らぎを壊してしまうかもしれない、そんな思いが胸をよぎる度、私の口はいうことを聞かなくなるのです。

 

 

「・・・ありがとう、甘雨。 心配してくれているんだろう?」

「えっ――」

「でもこれは俺だけの問題だから。――本当に、大丈夫だよ」

 

 

 そんな私を、彼はそう言って撫でてくれました。

 

 慣れていないのか、前に髪飾りと嘘をついた私の角を避けながら、恐る恐るという感じの手のひらは少し擽ったくて。

 でも、ゆっくりと、労るかのように優しさに満ちていて。彼の指から髪が溢れる度に満たされていく感覚が、どうしようもなく心地よくて。

 

 

「あ」

「・・・? 何か?」

「あ、いや、ごめん。疚しい気持ちはなかったんだ。――何時も、君くらいの子の機嫌をこうやって直していたものだから」

 

 

 ――だからこそ、その言葉は少し聞きたくありませんでした。

 彼は私が仙獣で、数千年の時を生きることを知りません。であれば、彼がいうその人の年齢は、きっと見た目通りを指しているのでしょう。

 そんな人が、彼と親しい間柄にある。

 

 胸のもやもやが、少し大きくなった気がしました。

 

 

「一体誰なんです、その人って」

「妹だよ。――困ったものさ。そろそろ反抗の一つもしていい歳なのに、未だに兄離れしてくれない」

「そう、そうですか」

「・・・何でそこで甘雨が嬉しそうにするかな」

「ふふ、教えません」

 

 

 ――本当はほっとした、そんなことをいうわけにはいきません。

 だから口をつぐんで、彼にせめてもの仕返しをしてやります。

 

 彼は少しだけ怪訝な顔をしたけれど、また直ぐに優しい顔に戻ると、また自分の竿に視線を戻しました。

 

 それからはまた、いつも通りの時間に戻ります。時折しなる竿に二人で一喜一憂しながら、とりとめの無い会話で時間を潰す。それだけの幸せな時間。

 それは明日も、明後日も、その次の日も続く。

 

 その、筈でした。

 

 

 

 次の日、彼は来ませんでした。

 もしかしたら今までの疲れを癒すため、一日ゆっくりとお休みしているのかもしれません。だから私は自分のもやもやを押さえ込んで、一人で食事を摂り、その日の仕事を終わらせました。

 

 その次の日、彼は来ませんでした。

 ・・・一日休んだだけでは足りないほど、疲れていたのかもしれません。私は昨日より大きくなったもやもやを無視して、一人で食事を摂り、その日の仕事を終わらせました。

 

 その次の日は雨でした。

 傘を差し、日が暮れるほど待ちましたが、彼は来ませんでした。

 

 

 

 ――彼は、来ませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 彼が埠頭に来なくなってから、一週間が過ぎたころ。

 仕事すら手に付かなくなってしまった私を見かねたのか、『天権(テンチュェン)』――凝光は私に暇を言い渡しました。急がなくていい、心残りが完全に無くなるまでゆっくり休みなさいと、平素の彼女からすると珍しい、優しい言葉まで一緒に添えて。

 

 しかし私には、どうすれば良いのかが解りません。

 既に璃月港の隅々を探し、以前聞いていた彼の家も訪ねました。しかし何処にも彼はおらず、家には早々と蜘蛛の巣が張っている始末。それは既に何日も家を空けている事を如実に表していて、私は途方に暮れるほかありませんでした。

 最近、話すようになった『玉衡(ユーヘン)』――刻晴にも助けを求めて、彼女も遠出の際は気に掛けておくと約束してくれましたが、望みは薄いでしょう。

 

 

「何処に、いっちゃったんですか」

 

 

 今までずっと耐えてきたはずの孤独が、大事な人と会えない寂しさが、こんなに辛いことだなんて。

 そんなこと、誰より敬服する岩王帝君が御隠れになった時だって思わなかったのに。

 

 

「・・・留雲借風真君(りゅううんしゃくふうしんくん)のもとに、行きましょう」

 

 

 これ以上一人では耐えられない。だから身体は自然と彼女の処へと向かっていました。

 絶雲の間で私より長い時を生き、更にまだ幼かった私を育てて下さった彼女なら、きっとこの寂しさを埋めてくれると思ったから。

 

 

 

 

 

 

 

 野を越え、山を駆け、谷を跳ぶ。

 

 ふと我に返った時、私は既に留雲借風真君の住まう奥蔵山(おくぞうさん)の頂上に居ました。

 今晩は三日月。加えて灯りが無いため、空には夥しい数の星が所狭しと瞬いています。幼い頃の記憶のままのその地は、最近来たばかりなのにどこか懐かしくて、張り詰めていた肩の荷も僅かに降りたような感覚になりました。

 

 

「留雲? いますか?」

 

 

 以前、勝手な勘違いで私がここを訪れた時、彼女は直ぐに目の前に現れると、何も言わずに俯く私を受け入れてくれました。

 しかし今回はその気配がありません。

 

 普段、自身の仙力で生みだした空間――『洞天』に彼女は居ますが、たまに其処から離れ、奥蔵山からも居なくなっている時があります。

 それでも暫くすれば戻ってきますし、その間多少待つ程度、仙人にとってそれは何でもないことなのですが――。

 

 

「・・・うぅ」

 

 

 今の私にとっては、その僅かな時間さえ耐えがたいものでした。

 留雲の洞天の前に座り、彼女の帰りを待ちます。草木の葉に乗った露が染みこんでお尻が冷たいですが、心が冷え切ってしまうよりは幾分ましですから。

 

 

「・・・寂しい、です」

 

 

 それでも、何となく解っているのです。

 留雲と彼、二人が私に与えてくれる安らぎは同じじゃない。例え彼女に全てを曝け出したとしても、きっとこの心が晴れることはないと。

 きっと彼に会わなければ、私は元のように璃月で過ごすことは出来ないと、心の中では解っています。

 

 

「・・・」

 

 

 ゆっくりと夜が更けていくのを、子どものように膝を抱えて待つその時間。

 それがどれ位経ったのかも解らなくなった頃、遂に翼をはためかせる音が耳を打ちました。

 

 

「ッ、留雲!」

 

 

 今考えれば、あの時の私は随分と幼稚に映ったかもしれません。

 はしたなく大声で彼女の名を呼び、声が聞こえた先、彼女のもとへと駆け出したのですから。

 でも、私にはもう我慢が出来ませんでした。あの孤独の中を一人で過ごすのは、もう沢山です。

 

 

 

 だから留雲、どうかはしたない私を拒まないで下さい。

 貴方にまで離れられたら、私は――。

 

 

 

 

 

「ちょ、留雲。早く降ろして、さっきから肩に爪食い込んで痛いから――ん?

 

 あれ、甘雨? 何で此処に居るんだい?」

「・・・・・・・・・へ?」

「おい、あまり動くな。そう暴れられては離すものも離せんではないか――む、甘雨? 如何したのだ。このような夜半に我の元を訪ねるなど」

 

 

 ――空中で羽ばたく留雲の脚に掴まれ、文句を言うその人影。

 星々の光と、涙でよく解らないけれど、一週間ぶりに耳にしたその声は、間違えようもなくて。

 

 

「あの、甘雨。此処って仙人しか来れない筈なんだけど・・・ん? ってことは、甘雨ってもしかして、仙人だったりするの?」

「なんだ、知らなかったのか。甘雨は仙獣だ。そも、角を見れば一目で解るだろうに」

「角? ・・・え、それって本物の角だったのか。以前尋ねた時に髪飾りって言われたから、完全にその気でいたんだけど」

「馬鹿者、仙獣の角を人の子の飾りなどと見間違えるでないわ」

「人の子が作った品だって馬鹿にしたもんじゃないさ。・・・それについて、留雲にはさっき話しただろう」

「・・・そう、だったな」

 

 

 二人が仲よさげに話すその様は、今日昨日で築かれた信頼ではなり得ない関係。少し腹が立ちますけど、今はどうでも良いです。

 

 ――取りあえず今、私がすべきことは。

 

 

「えーっと、甘雨? ごめんね、まさか僕みたいに人の世に住む人が、僕とピン婆や以外にいたとはオぶェッッ!!」

「あほ! ばか! おたんこなす!」

 

 

 目の前にゆっくりと降り立った彼の顔を、私は仙獣として許された力の限り引っぱたきました。真横に数メートルほど吹っ飛ばされる彼に追いついて馬乗りになると、続けてぼかぼかと猫の手で殴りつけます。

 

 手加減なんてしてあげません。というか、仙人なんだったらこの位の力で音を上げるはずがありません。

 

 

「貴方って人は、貴方って人は――ッ!!」

「待って甘雨。タンマ、タンマァ――ッ!?」

 

 

 だから今は、今だけは。

 

 今まで私の流した涙が乾く間くらいは、私の理不尽を受け止めて下さい。

 

 

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