原神フレンズ大紹介(大嘘)   作:山田太郎2号機

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短め。

そのぶん次は長くなる予定。





胡桃・1

 

 

 約三千と七百年。

 それが建国から今に至るまで、璃月(リーユエ)が歩んだ年数である。

 

 璃月の歴史の間には、多くの人、文化、時代の興亡があった。それは街の中の店舗や商会とて例外ではない。

 だが彼らの中にはその変化すら乗り越え、時には迎合し、或いは時代に逆らいながら尚、現在でも根強く息づいている者達がいることを忘れてはならない。長い間璃月の民に愛され、受け入れられてきたからこそ、彼らの伝統ある看板は今も脈々と受け継がれている。

 

 そう、例えば。

 璃月有数の葬儀屋として知られる老舗『往生堂(おうじょうどう)』など、良い例だろう。

 

 

 

 葬儀は、人生最後の舞台。

 そして璃月の「往生堂」は、その終の演出を仕切る存在だ。

 

 伝統的な葬儀には多種多様なしきたりがある。霊の守護、埋葬の方法、位牌に使う素材――全ての事柄に対して、厳しい掟が存在する。だがそれは軽々に時代遅れと、或いは無意味な慣習だと切り捨てて良いものではない。

 亡くなった者の身分と貧富に関わらず、彼らという魂に見合った葬儀を行う。それが往生堂の信条であり、誇りだ。――まあ、彼女の受け売りだが。

 

 これほど重要な組織の上に立つ者は、さぞ博識で頼れる人物と思うかも知れない。

 だが現実は小説よりも奇也。現在の往生堂の堂主を見た者はきっと己が目を疑うことになるだろう。

 

 

『堂主の私に何か用かな? ・・・あれ、知らなかった? 私が『往生堂』七十七代目堂主、胡桃(フータオ)だよ!』

 

 

 胡桃――彼女は何とも不思議な少女だ。

 お世辞にも豊かとは言い難い身体に、腰ほどもある髪を二つに結んだ彼女の姿は、そのあどけなさの残る顔立ちも相まって見た目よりも幼い印象を周囲に与える。

 頭に被った黒い古ぼけた山高帽だけが唯一、彼女を幼く見せない防波堤と言えるか。

 性格も決して大人びている風でもなく、現在も度々騒動を起こしてはこっぴどく注意を受け、それでも懲りずに飄々と生きる様は、さながら猫のようだ。

 

 だが一たび彼女が領分に足を踏み入れると、その様は全く違ってくる。

 

 胡桃が自分の仕事でふざけることは決してない。

 貴賤も善悪も関係なく、依頼を受けたのなら彼女はどんな人間の魂だろうと、自身が持てる最大限の敬意を以て送り出す。

 

 胡桃がはじめて葬儀の指揮を執ったのは十歳の頃。だがそれは葬儀屋と客卿達の心を、絶雲の間の険しい崖の上まで鷲掴みするほど立派な葬儀だった。

 何故そう言えるか? ――無論、俺も()()()それを見ていたからだ。

 

 

 ――我々往生堂は生きる者からお金を受け取り、死者を旅へと導く。二重の責任を負い、陰と陽の二つの世界の者を満足させる必要がある。

 

 

 そんな往生堂の掟に彼女が誰より誠実であるが故、胡桃が往生堂の堂主を務めるのに誰も異を唱えなかったのだろう。

 

 無論、それには彼女が持つ天賦の才、並外れた発想力も一役買っていたはずだ。俺とて、彼女の発想にはまま驚かされる。

 ――まあ、殆どの瑠璃の民には、今や詩作にしかその才が役に立っていないと思われているだろうが。

 

 

 

 

 

 さて、そんな胡桃だが。掴み所の無い霞の如き彼女にも、人である以上好き嫌いは幾つかある。

 中でも彼女が何より恐れるのは『退屈』だ。

 

 

 ――何もすることがないのって、死より恐ろしいことだよ。

 

 

 だから彼女は日々街を練り歩き、自身の興味を惹くモノを探している。それは総務司の門にある二体の石獅子だったり、『不卜蘆(ふぼくろ)』で働く殭屍の少女であったりと様々だ。

 そして見つけたが最後、彼女は自身の興味が尽きるまで観察し、接触し、愛でる。その様は端から見ればいっそ不気味なほどの執着具合で、彼女を『奇人』『変人』と周囲が断ずるには十分だった。

 

 

 

 それで。俺が何を言いたいかと言えば。

 彼女に気に入られたが最後、その存在の前途は苦労が絶えないことは確定しているということだ。

 

 

 

 ――だから、何も君の助けになれない事を申し訳無く思う。

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

「――ッ、やっと見つけた! 胡桃オマエ、また総務司の壁に落書きしたな!?」

 

 

 街中を駆けずり回り、ようやっと見つけた悪友に批難をぶつける。あのヤロウ、昨日約束をすっぽかした腹いせに、自分の悪戯を俺になすりつけやがった。

 今のところはその犯人は解ってないし、アイツもそうだと認めないだろうが、オレを見るなり下手くそな口笛を吹き、こっちから露骨に目を逸らすのを見て、オレはアイツの仕業だと完全に確信した。

 

 

「おまっ・・・よりによって総務司の壁ってどんな神経してやがる!? オマエがオレの名前を書いたせいで、今は犯人がオレだって思われて追っかけられてンだ! さっさと自首して誤解を――」

「――チ、違ウヨ? 私、昨日はちょっと眠かったから、何時もより早めに寝たから。そんな話知らないもん」

「うるせぇ! オマエが昨日の夜どっかに出かけて、墨で真っ黒になって帰ってきたってオマエの爺ちゃんが言ってたんだ。そんな嘘に騙されるか!」

「エェー・・・前もその前も引っかかってたし、今回もこれでイケると思ったんだけどなぁ」

 

 

 ――ほう、成る程。つまりオレは結構な間、胡桃の奴になめられていたらしい。

 

 

「――ッ! 降りてこい、どっちが上か、今すぐ決着を付けてやる!」

「エェ、面倒くさいからヤダ。――というか、悔しかったら私の所まで登ってきなよ」

 

 

 オレの言葉に、とても高い建物の屋根に腰掛けたままアイツはそう返した。・・・くそう胡桃の奴、オレが高いところに登れないのを解ってて言ってやがる。

 

 

「それに、別に私が手を下さなくたって良いもの」

「・・・ふん、もう騙されないぞ。 流石のオマエもこの距離じゃ何も出来ないだろう!」

「うん、まあ私は何にも出来ないんだけどサ。――ところで君、そんな所でずっと立ち止まってて良いの?」

「え?」

「後ろ。役人が追っかけてきてるよ」

 

 

 言われたとおり振り返る。すると確かに遠くから大人達の怒った声が聞こえてきた。

 

 

 ――あのガキィ、 何処行った!

 ――見つけたぞ、この先だ!

 

 

「げぇっ、もう追いついて来たのかよ!」

「ホラホラ、さっさと逃げた方が良いんじゃなーい?」

「くっそ・・・次会った時はタダじゃ置かないからな!」

 

 

 捨て台詞を吐いてとりあえず走る。後ろから『ガンバッテネー』と気の抜けた声が聞こえたけど無視した。――これ以上アイツと言い合いしていたら本気で捕まっちまう。

 

 

「居たぞ、捕まえろォ――!」

「捕まってたまるかァーー!!」

 

 

 こうして再びオレと総務司の役人達による、璃月大鬼ごっこが始まった。

 

 

 

 その後普通に捕まった。

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 あーあ、行っちゃった。

 

 

「うーん、あの様子だと捕まるかなー」

 

 

 屋根に居るから、彼が走って行った先もある程度見ることが出来る。当然彼と総務司の人達が何処に行ったのかも、ある程度は。

 ――確かにこの辺の土地勘は彼に軍配が上がるけど、あれだけ距離を詰められてしまったらもう関係ないかな。

 

 

(ちょっと悪いこと、しちゃったかも)

 

 

 少しだけ罪悪感に襲われるけど、直ぐに首を振って頭から追い出す。

 元はといえば昨日、彼が私と遊ぶって約束をすっぽかしたのが悪いんだ。もし昼の間に彼と遊んでいたなら、私も夜中外に出る体力なんて残ってなかったもの。

 だからあの落書きは実質彼の仕業だ。うん、私は間違ってない。

 

 でも、もし彼が私の仕業だと言ってしまえば。そして役人の人達がそれを真に受けてしまえば。直ぐに私にもお叱りが来る。

 でもきっとそれは無い。私はそれでも良い(というか、たまにはそうして欲しい)んだけど、きっと彼は何時ものように、嫌々といった様子でごまかすんだろう。彼と過ごしたここ何年かの付き合いで、その予測は一種の確信になってる。

 

 

 

 

 

 ――オレが! 今からオレが、ここの大将だ!

 

 

 彼と友達になれたのは本当に偶然。開口一番、私たちの学舎に新しく入ってきた彼はこう宣った。

 その時よそ見をしていた私が気に食わなかったのか、いきなりケンカを売ってきたので、それを返り討ちにしたのが彼との関係の始まり。――きっと彼は自分が負けたなんて認めないんだろうけど。

 

 最初は私に突っかかるだけだった彼は、いつの間にか私と遊ぶようになっていた。

 理由は――多分彼の勘違い。多分彼に私と遊んでいるつもりはなくて、私を見返すためとかそんな事を考えているだけだと思う。

 でもそれを訂正する気は無い。だって彼と遊んでいると退屈しないもん。

 

 不思議なことに彼と一緒に行った場所には、私の興味を惹くモノばかりであふれている。

 それに其処で大体私が起こしたトラブルも、彼は何かと文句を言いながらも解決してくれた。そのお陰で彼と遊ぶ時だけ、私は周囲とのトラブルを気にせずにいられる。

 

 

 彼を色んな所に連れ回して、時には連れて行ってもらって。

 

 景色を眺めて詩を歌ったり、彼をからかってみたり。

 

 

 学び舎に居る時だけだった彼との時間は、直ぐに帰途、休日と広がっていき、何時しか日中は殆ど一緒に居るようになって。今じゃ彼なしで行動するのは不安になるくらい。

 言うなれば彼は私の相棒みたいなモノになった。

 

 

 ・・・ァ――ッ!

 

 

 風と一緒に流れてきたのか、彼の断末魔が遠くで聞こえる。どうやら予想は当たったみたいだ。

 水で落ちる墨で落書きしたし、精々唯の子どもの悪戯で片付けられると思うけど、まあお叱りは免れない。帰ってくるのは夕方頃かな。

 腰掛けていた屋根の瓦に筵を広げてそこに寝転がると、私はその先を夢想する。

 

 

 

 鴉が帰路につく夕暮れ。

 ふくれっ面の彼がこの場所に帰ってきて、長ったらしい小言を聞き流した先。疲れ果てた彼が渋々語るだろう今日の事件、そしてその顛末。

 自分が感じた、思ったことを元に、彼の口から形作られる『物語』を聞きながら、私は言葉を弄し、彼の機嫌を直してやる――

 

 

「――楽しみだなぁ」

 

 

 それが今は、私にとって何より代えがたい貴重な時間。

 

 嗚呼、願わくば。

 この先もずっと、彼と一緒にこんな時間を過ごさんことを。

 

 

 

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