原神フレンズ大紹介(大嘘)   作:山田太郎2号機

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 ――スリル?
 ――ああ、世の人心掌握術の中には、『吊り橋効果』なるものがあるそうだ。
 ――ツリバシコーカ。
 ――俺も旅人から聞いた話だがな? 何でもそれをした男女というのは以前よりも繋がりが深まるとか、より内心をさらけ出せるという話でな。
 ――やり方は?
 ――すまない。他人の知識故然程詳しい訳ではないのだが、それこそ吊り橋のような高いところで男女が危機を……それも本当に生死を賭ける程の経験をすると、そうなるらしい。


 とある葬儀屋と神の会話より



胡桃・3

 

 

 ――次に目が覚めたら、そこは雲の上だった。

 

 いやおかしい。流石に突っ込まざるを得ない。

 神仙は雲上を駆け万里を走破すると聞くが、生憎俺は唯の人間だ。足下を見ると、ひやりとした感触の下に確かな固い感触を感じる。どうやら本当に雲の上に立っているわけでは無いらしい。

 

 だとしてもこんな場所に覚えは無い。周りにあるのは黄昏色の空と真っ白な雲海だけ。

 美しいが、太陽も月もなしに明るく照らされ、幾ら見渡しても鼠一匹見つからないというのは、美しさ以上に不気味さを覚える。

 

 

「・・・ん?」

 

 

 次の瞬間足場がなくなり落ちやしないかと恐る恐る散策していると、遠くに人影を見つけた。

 これ幸いとその者にこの場所や事情を聞こうと歩を急ぐ。だが、その距離は不思議と一向に縮まらない。

 歩数が百を超え、千を超えて、それから先数えることすら止めて、ひたすらに人影目指して歩く。幸いどれ程歩こうと疲れは無く、いつの間にか裸となっていた足が痛むことも無かった。

 

 

「おぉ――――い!!」

 

 

 それでも苛々は募る。縮まらない距離に苛立ちを覚え、俺は歩みを止めると、今度はあらん限りの大声で人影に呼びかけた。行儀が悪い? 知ったことか。

 反応する様子はない。先程の声量では聞こえなかったかと思い、更に声を張り上げようと腹に力を入れる。

 

 

「其処の人ォ――――! 聞こえるかァーー!?」

「煩い、聞こえている」

「のわぁっ!?」

 

 

 と、不意に声が横から投げられ、俺はたまらずのけぞった。

 いつの間にか横にいたのはすらりと姿勢の良い――影? 何となく人型はしているが、何だかモヤモヤと定まらない。

 

 

「・・・幽霊?」

「それは此方の台詞だ。――全く、下らん事で死にやがって」

 

 

 影の声は、酷く聞き覚えのある声だった。誰だったっけと考えていると、ふよふよと歪んでいた輪郭が次第に形を取り始め、よりハッキリした人型になる。漂っていた黒い靄は収束して人型に纏わり付くと、黒色の服に変わった。

 最後に細部が形作られていく顔を見て、俺は絶句する。

 

 黒い服の正体は、随分と見慣れた『往生堂』の制服。

 短く切り揃えられた上で申し訳程度に整えられた黒髪と、やたら目つきの悪い三白眼。

 

 それは紛れもない『俺』の姿だったから。

 

 

「・・・えぇ」

「何だその顔は。同じ顔を見て驚くでも恐怖するでもなく、ドン引きするか? 普通」

「いやぁ、――やっぱり大分キッツい顔してるなぁと思って」

 

 

 真顔でここまで目つき悪いのは、ある意味奇跡だと思う。最近視力が落ち、よく目を凝らしてモノを見ていたら子どもに泣かれた事を思い出し、でもこの顔なら仕方ないかと納得する。

 同じ顔だから仲間意識もクソもないが、その苦労に同情まで――

 

 ――ん? 同じ顔?

 

 

「・・・うわぁッ!!誰だお前ッ!?」

「遅いわ」

 

 

 目の前の男から反射的に距離を取ろうとしたが身体がついて行かず、結局足がもつれ転んでしまう。尻餅をつき、それでもずりずりと距離を取ろうとする俺を馬鹿を見るような目で見つめると、男は目頭を押さえ溜息をついた。

 

 

「全く、我ながら見るに堪えん愚物ぶりよな――それに結局、あの時から全く成長してないときた」

「な、何の話だ!」

「さてな――と言いたいが、教えてやろう。まあ知ったとて、お前では何も出来んがな」

 

 

 俺の顔をした男はそう言って、此方を睥睨する。

 その同じ顔とは思えないほど冷酷な目に、俺は無意識に身体を震わせた。

 

 

「自己紹介が遅れたな。と言ってもこの顔じゃ不要だろうが。

初めまして。俺は――お前だ」

 

 

 目の前の『俺』は、そう言って獰猛に笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 ――ああ、またしくじった。

 

 半紙を丸め、屑籠に捨てる。

 籠の中は書き損じと乾ききっていない墨で真っ黒だろう。貴重な紙だが、どうせ捨てるのに変わりない。俺は筆も洗わないまま放り出すと、ごろりと横になった。

 

 

「上手くいかねぇなあ」

 

 

 つい漏れる愚痴。少なくとも問答に詩作、そして今回、書法でも満足のいく結果は得られなかった。

 

 ――アイツを越すため、俺も俺なりに精一杯努力してきたつもりだ。鍾離先生やアイツからの教えを受けられるなど、環境もこれ以上ないほど恵まれている。

 

 しかし、追いつけない。

 俺が三日苦心して出した結果を、アイツは半刻で追い越していく。せめてアイツが才能にかまけ、怠け続けていれば追いつく希望もあるのに、俺が筆を執って暫くすると、いつの間にかアイツも隣で手習を始めているのだ。

 これでは一生経っても追いつくことはおろか、同じ領域を踏むことすら出来ないのは目に見えている。

 

 

「遊びに来たよ――って、またやってる」

「・・・ったく」

 

 

 それでいて本人はこの脳天気だ。不愉快ったらありゃしない。

 

 

「お前、断りなく部屋に入ってくるんじゃねえよ」

「えー、何で私が貴方の言うことを聞かなきゃなんないのさ」

「うるせえ、何ででもだ。次また同じことしてみろ、もう口きいてやらねぇからな」

「・・・うーん、それはヤだ。――解ったよ。ごめんね」

 

 

 それが八つ当たりだって解っていても、つい冷たく当たってしまう。胡桃は急にしおらしくなると、何もせずに出て行ってしまった。

 アイツが俺をからかうことなく、素直に出て行くなんて――ふん、こっちとしては要らない手間が省けて大助かりだ。

 このまま大人しく突っかかってこなくなりゃ、俺だって――

 

 

「――くそっ」

 

 

 悪態と共に床を叩く。

 もしかしたらアイツはこれすら全て見透かしているんじゃないか――なんて。考えれば考える程にドツボにはまっていく感じがした。

最近は胡桃の顔を見るだけでムカついてくる有様。

 

 

「俺はただ、アイツに勝ちたいだけだってのに」

 

 

 そう口にした時、一瞬胸がチクリと痛んだが、気のせいと切り捨てる。

 

 最近アイツと何かを競った記憶はない。今までの勝負は全部俺から仕掛けてたんだから、俺が言い出さなくなればそうなるのは道理だ。

 理由は簡単で、負けることが解っているからだ。何も考えてなかったガキの頃ならいざ知らず、今更負け戦を挑むほど俺もバカじゃない。

 

 

「・・・どうやったら勝てるんだよ」

 

 

 でも、肝心の勝つ方法が解らない。

 使える時間、手段は全て利用している。ここ一年は鍾離先生に直接師事し、更に厳しい指導も受けた。――だが、足りない。これ以上犠牲にするものなんて思いつかないっていうのに。

 

 

「諦めてたまるかよ」

 

 

 ぱん、と自らの頬を打つ。事あるごとに気弱になるから、実力に瑕疵(かし)が生まれるんだ。

 それこそ先々代――アイツの祖父のように、何事にも動じず、鉄の如き心持ちで事に当たれば、俺だって彼のような実力を得られるかもしれない。

 

 ――臥薪嘗胆の意識だ。舐める肝は今までアイツから受けた所業全て。これ以上苦々しい記憶なんてそうない。

 それに報いるまでは、俺はどんな事も無心で成し遂げねばならない。

 

 

「絶対に下してやる」

 

 

 ――千思万考抗すべし。即ち目指すは無心の境地。

 詰まるところ、何かにつけて勝ちだ負けだと騒ぎ立てていたのが悪いのだ。焦れば焦るだけ、アイツを喜ばせる要因になる。

 

 今は良い。アイツの我が儘に幾らでも付き合うし、どんな無茶にも喜んで応えよう。

 しかし何時かの未来、次に勝負をした時が最後だ。アイツの傍でその才を盗み、余さず俺のモノへと昇華し、そして俺が完全にアイツを超えたと確信した時。

 

 俺は――

 

 

 

 

 

 

 

「――大層な啖呵を切っておいて、それでも尚お前は無能のままだった。まあ『俺』が言うのも何だが、アイツの祖父のようになんてお前にゃハナから無理だったんだよ」

「・・・」

「お前は自分で勝手に自分を追い詰めて、挙句の果てに『俺』を生みだした。――こればかりは誇って良いぞ。自分の無力の帳尻を合わせる為だけに別の自己を作りあげるなんざ、間抜けすぎてどんな豪傑でも滅多に出来ることじゃない」

「・・・」

「結果生まれたのが、何も考えないし何の成長もしない木偶――それが『俺』だ。……まあ、それでもお前よりは万倍マシだがな」

 

 

 俺の顔をしたソイツはそう言うと、未だへたり込んだままの俺を蹴り飛ばした。痛みはなかったが、何かが大きく削られるような感覚とともに大きく吹っ飛ぶ。

 

 

「――嗚呼、こうして俺とお前に分かれたのも何かの縁かもな。いい加減どちらが『俺』かハッキリさせろという岩王帝君からの思し召しかもしれん」

「・・・何を」

 

 

 ず、と空気が重く、不快なものに変わる。

 何があったと顔を上げるより前に、俺は首を掴まれ、天高く持ち上げられていた。

 

 

「ぁがッ――!」

「そうだな。初めてお前に感謝するよ。――あんな間抜けに死んでくれて、本当にありがとう」

 

 

 息が出来ない。

 強く掴まれてる感覚こそあるが、痛みはないし苦しくもない。しかし握られた箇所から何かが抜け出していく感覚からするに、このままだと間違いなくまずい事になるのは解った。

 

 だが、動けない。

 目の前の男が語った話は、思い出は、紛れもない自分のもので。この醜悪な化物を生みだしたのが、自分だと解ってしまったから。

 

 

「――抵抗もしないか。死んでも尚この体たらくとは、つくづく救いようのない」

 

 

 ぎり、と男の手が俺の首に食い込む。頸椎を砕かれても不思議でない程強い力なのに、圧迫感や痛みは感じない。

 この男の言う通りこの身体はもう生身ではないのだろう。この場所が何処かも解らないが、最初に抱いた恐怖を鑑みるに恐らく此処が黄泉の国か。

 

 

「安心しろ。黄泉の世界は寛大だ。――どうやら俺達二人のどちらかを此処に置いていくのなら、もう片方は元の身体へ戻って良いらしい」

「とはいえ、欠けた『俺』の存在だけで果たして身体に戻れるものか疑問でな。――後顧の憂いは断っておきたい、故にこうして現世に帰る前に、お前から頂いているわけだ」

 

 

 ――成る程。先程から俺の身体から抜けていっているのは、俺の存在そのものだったか。

 アイツが俺の片割れで同じ魂を分け合った存在なら、俺からそれを欲しがるのも道理。

 

 抵抗は――もうする気も起きない。

 最近は胡桃の補佐役として、少しは誇れる立ち回りが出来ていたと思っていたが、それはまやかしだと今悟った。

 本当の俺はあの頃からちっとも変わってない。だからこうしてもう一人の自分に全てを奪われそうになっても、立ち向かうことすら出来ない。

 

 弱くて、役に立たない俺のまま――

 

 

「――違う」

「あ?」

 

 

 奴の腕を両手で掴む。相手は片腕なのにびくともしなかったが、関係ない。

 反抗する、その事実さえあれば良いのだから。

 

 

「負け越したままで、死んでたまるか・・・!」

 

 

 認めよう。

 俺は今の今まで自分の成長を諦めた、唯の人形だった。そんな奴が今更何を、と笑われるのも百も承知。

 

 ――だけど胡桃を越えることだけは、どうしても諦められない。

 この大馬鹿には、もうそれしか残っていないから。

 あれこれ考えたところで無駄だ。勝負に勝つか負けるか、馬鹿には全く解らない。

 

 負ける勝負? そんなのやってみなくちゃ解らないだろう――!

 

 

「・・・面倒臭ぇ」

 

 

 視界がぶれ、突如景色が反転する。

 地面に叩きつけられたと気付くより先に、心底馬鹿にしたような声が上から掛けられた。

 

 

「今更肚括っても遅いんだよ。――身体、見てみろよ」

「何・・・・・・、え?」

 

 

 言われるがまま視点を下にずらす。すると程なくして、その光景に強烈な違和感に覚えた。

 

 ――俺の脚は、否、脚だけじゃない。

 ――俺の身体は、何処へいった?

 

 

「自分の身体がどうなっているのか、それすら気付かない――だからお前は愚図なんだよ」

 

 

 奴の口が歪み、ぐにゃりと歪な弧を描く。頭が真っ白になり、目の前の奴を殴りつけて距離を取ろうとするが、薄く透けて小さくなった腕では抵抗にすらならない。

 

 

「本当に、最後の最期まで愚図だったな」

 

 

 その言葉を契機に視界が歪む。思考が急速に拡散していき、強烈な眠気と共に俺は――

 

 

 ――みぃつけタ。

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 私が其処にたどり着いたのは、彼と――もう一つ、変なのが丁度争っている時だった。

 

 

「……どゆこと?」

 

 

 さっきまでの会話も併せて、訳がわからない。

 あの所々ピョンと跳ねた髪型は間違いなく彼――だと思う。しかし死んで尚、何故彼は変てこな男とプロレスなんてしてるのだろう。というか、その前に相手は誰だ。私が此処に来る間に仲良くなったその辺の霊だろうか。

 

 

「――ああ堂主。すまないな、迎えに来てくれたのか」

「あー、うん。そんな、感じ?」

 

 

 彼の様子がちょっと変なのは置いておいて、取りあえず機械的に返事をする。――それにしても、わざわざ私が来たっていうのに、ちょっと反応が淡泊すぎやしない?

 

 

「俺の未熟故、こんな事になってしまって申し訳無い。以降このような事はないと宣言しよう」

「うん。そだねー」

 

 

 何にしても彼が『境界』に留まってくれていて何よりだ。もし『あれ』で何の迷いもなく彼岸に渡っていたら、流石の私でも擁護しきれない。

 

 ――でも、その前に。

 

 

「よし、では早速、俺の身体を――」

()()()()()()()()

 

 いい加減鬱陶しくなってきたので、私は右手の槍を隣のソレに突き刺した。

 

 

「・・・は?」

 

 

 そのまま持ち上げて横に払うと、ソレは腹から靄のような何かをまき散らし、ぐしゃりと斃れる。

 ――全く、さっきから()()()()()()()()()()調()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()、不快ったらない。

 

 

「や、まだ成仏してないー? ・・・ありゃ、気絶してる。何で?」

「ふ、胡桃。出会うなり相棒を串刺しとは随分な挨拶じゃないか? 流石の俺でも――」

「あのさぁ」

 

 

 ――本当、煩いなぁ。

 

 『蝶導来世』。

 本来なら迷える魂に黄泉の道を開き、その通り路を導く為の秘術。結構扱いに気を付けなきゃなんだけど――面倒くさいし、()()()()()()()()()

 炎と蝶を纏った槍は、目の前の蠅を容易く裁断する。断面からは靄が噴水のように出てきたけど別に気にしない。身体を半分にすれば、流石にコイツも大人しくなるだろう。

 

 と、思ったんだけど。

 

 

「・・・しつっこいなぁ。嫌われるよ?」

「貴様、どういうつもりだ」

 

 

 ――いや、そんなこっちを信じられないといった顔で見られても。

 彼の顔で、それも『今の彼の口調』で私に話し掛けてくるってだけで、私としては槍を振るうに充分だ。

 

 

「ていうか、()()()()?」

「――本気で言ってるのか」

 

 

 初対面の癖に馴れ馴れしいので思わず出た疑問。だけどソイツはもの凄く驚いていた。――もしかして、過去に私が『送った』誰かかな。

 いや、そんなわけない。だって私は仕事に於いて一回だって手を抜いたことは無いもの。

 それでちゃんと成仏させられなかったなんてあれば、『往生堂』始まって以来の大失態だ。そんな霊が居たのなら流石に覚えてる。

 

 

「つい先程お前と共に天衡山を飛び降りた、お前の相棒だ! まさか忘れたとは言うまい!?」

「うん、それは知ってる。だって彼を迎えに此処に来たわけだし」

 

 

 ――()()()()()()()

 

 

「――狂っている」

「あっそ」

 

 

 きっと死んだばかりで混乱しているんだろう。これ以上話しても無駄と思い、ソイツに踵を返す。向かうのは随分と変わり果てた姿になった彼の元。

 髪? はそれっぽい、でもそれ以外は人型も留めていない、白くて丸いボールのようになってしまった彼を拾い上げる。――うん、結構モチモチしてて気持ち良いじゃん。

 

 

「・・・お前は、お前は『俺』がソイツだって言うのか」

「? いや、彼はアナタじゃないよ?――それよりも、彼がこうなった原因ってアナタのせいだったりする?」

「あり得ない! お前にとって、『俺』はそんなゴミだと!? 俺の越えるべき胡桃は、そのようなッ――!?」

 

 

 ――あぁ、もう限界。

 

 消えかけた槍の炎を再び灯す。大きく体力を奪われるが、その輝きは一度目よりも遙かに明るい。

 私が体力を削る程、この槍の炎は威力を増す。試しに尚もゴチャゴチャと囀る蠅の口に槍をねじ込むと、蠅の頭は槍に触れた傍から塵となり、消えていった。

 しかし頭を潰したというのに蠅はしぶとい。時折ビクビクと四肢を動かしては、私の視界を煩わせる。

 

 

「お前が、」

 

 

 槍を袈裟懸けに振るう。刃先は防御のつもりか交差させた腕ごと胴体を焼き切り、見事四等分にしてみせた。

 

 

「私の、」

 

 

 鍛えられた腿ごと槍を地面に突き刺し、その脚に沿って滑らせる。薪を二つにするように、芯から二つに分かれた脚だったモノは、暫くすると靄の中へと解けていった。

 

 

「相棒を、語るな」

 

 

 槍から再び火が消えた時、其処に残ったのは僅かな燃え滓だけ。それすら腹立たしくなって、私は靴でそれを踏み潰し、地面にこすりつける。

 

 ――ふう。

 少しだけど、すっきりした。

 

 

「っと、こんなことしてる場合じゃない」

 

 

 片手に抱えていた彼を見ると、よく見ると表面に線のような、表情のようなものが見て取れた。

 そんな彼はゆっくりと目を開けかと思うと、開口一番こう言い放つ。

 

 

おまッ! 今のはないって俺の存在の大半アイツが持ってたんだって!」

「――うん、何言ってるのか全く解んない!」

 

 

 や、何かを伝えようとしてるのは解る。口がパクパクと動いているし、手のような部位をうにゃうにゃと動かして何かを書こうとしてるから。

 しかし解らない。声は出てないし、手は短すぎて小さな円を描いているようにしか見えない。正直すごくかわ・・・コホン、失礼。

 

 

「――むぅ。これ、身体に戻るのかな?」

 

 

こんな不完全な魂初めてだ。何があったらこんなか・・・妙ちくりんな形態になるんだろう。

もし戻らなかったら――そんな未来を考えてしまって、一瞬心がざわつく。

 

 

「――わぶっ!」

 

 

 瞬間、彼の魂が私の顔に突撃し――そのまますり抜けた。振り返ると、何やら怒ったような表情で何かを語っているらしい彼の姿。

 

 

 ――そんな情けない顔すんじゃねぇ! お前は俺のライバルらしく、生意気ぶってりゃいいんだよ!!

 

 

 それは遠い昔、爺様が亡くなって精一杯の虚勢を張る私を、会って即座に叱り飛ばした彼の姿にそっくりで。

 

 ――こんな面白い彼の姿が見られるなら、それも良いかも

 なんて。

 

 

おいッ! お前コレで戻れなかったらどうしてくれんのコレッ!」

「アハハ! 君ってホントわっかんないなぁ、もう!」

 

 

 ――悪いけど。もし君が身体に戻れないとしても、私は君を送らない。

 

 何十年か先。

 私が死んで一緒に河を渡るまで、手放すなんてするもんか。

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 以上が事の顛末だ。結果青年は死に、以降その魂は相棒の少女と繋がった。

 他の話は……そうだな、今度『往生堂』という場所を訪れると良い。俺は其処に所属する身でな、もし時間があれば、お前に語ってやろう。

 

 ――何、先程の話について、俺の所感を聞きたい、だと? 

 ふむ、難しい注文だ。実を言うと、俺も未だ良く解っていない部分が多いんだ。胡堂主、吊り橋効果の説明をしたのに、どうしてそれが高所からの身投げに……?

 

 ……ああいや、何でもない。

 例えば、分かれた二人の男のやりとりについて。

 それは本来二人しか知り得ぬものだ。話として纏めるため、初めて他者が知るところになった情報に過ぎん。だから物語の役者である少女には、それを知る時間も機会も無かった。

 

 ではあの時――此岸と彼岸の境たる『境界』へと彼女が赴き、対立する二人の『彼』と相対した時。彼女が知り得た情報は二人の姿だけの筈。

 仮にどちらかが偽物、悪しき存在の類いだと判断出来たとして、彼女はどうやって人の原型を保っていない『彼』こそ本質と見抜き、野心家の『彼』を仕留められたのだろう。

 

 ――まさか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、なんて短絡的な理由でもあるまい。

 そんな考えが通ってしまえば、彼女は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 ――おっと、随分話し込んてしまったな。

 とても有意義な時間だった、次は俺手ずから上質な茶を振る舞うとしよう。――何、六時間もあれば直ぐに出来るからな。

 安心しろ。料金も往生堂にツケておく。

 

 ――何だ、その顔は。

 また、俺は何か変なことを言っただろうか。

 

 







Q,男の死因は何だったんですか
A,胡桃と一緒に風の翼バンジーをしたことによるショック死。なお当の本人は気にしていない模様。
 
 というかその辺作者は何も考えてない。馬鹿だし。

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