背景に闇がない娘その2。
自分でねつ造するしかないよぉ(絶望)。
とても短め。
宵宮・壱
怒ったり、泣いたり、笑ったり――
人の生き方は、花火みたいなもんやとウチは思う。
人の考えっちゅうんは千変万化。
今は湿気って燻っとる玉が、ある時ぴゅうぅ!って打ち上がる時もあるし、まだしっかりと玉に包まんと、
ウチにとって、それが綺麗かどうかは関係ない。大事なんは打ち上がった時、その人がやりきったと思うかや。
それで人生に悔い無しって言うんなら、その程度かいな、まだまだやなって発破掛けるし、まだまだ咲けるって意気込んどるなら、よっしゃその意気やって背中押す。
人生五十年。道中どんな不格好晒しても、そうして何度も人生の中で華ァ咲かしていって。最後振り返ってみればこの通り、立派な花道になっとる。
それが人生ってもんやろって思っとった。
でも、何事も例外はあるもんやね。
初めてあの
だって、越したその日に家と荷物も
最初は仏さんみたいに、ただ底抜けに優しいだけかと思っとった。でも違う。付き合っとるうち、兄ちゃんも人並みに怒るし、悲しむって解った。
――なら、特に変わったところはあらへんって? あほう、あの兄ちゃんがけったいなんはこっからや。
……あの兄ちゃんな、いっっっっちども笑わんねん!
怒った、悲しいって顔はしても、絶対
ウチ秘蔵のとっておきの笑い話しても、いくら脇腹擽っても眉一つ動かさずに『へぇ、さいで。そんで次は
――え? さっきの話と関係ない? ……ああっ、すっかり忘れとった! 堪忍なぁ。
で、話の続きなんやけど。
ホントの話、笑顔みたいな顔はするんや。こう、
――ん? それの何処がおかしいか、やと? 何言うてん! これは大変なことなんや!
……ええか? 笑顔は人の華や。
どんな悲しうても、辛うても、いっぺん涙が出るくらい大笑いすれば、肩に乗った重石もすうって軽うなる。一時でも悲しみを忘れられる。
そら、それが過ぎれば辛いことも思い出すし、それは避けられん。いつだって、楽しい時間は一瞬やからな。
でも、楽しかったその瞬間を、力にすることは出来る。
笑顔で過ごした、楽しうて綺麗なその『一瞬』を、ウチらは永遠の思い出に出来る。
ウチが花火を作るのも、ぱっと消えてまう花火の美しさを、見た人達皆の頭ん中に一生焼き付けたろって思ったから。
その時の感動が、皆の人生の花道をキラッキラしたもんにしてくれるって信じとるからや。
――だから、兄ちゃんがああやって笑うんはイヤなんや。
ウチはあんな顔を笑顔と認めん。もし精一杯やってあんなぶきっちょな笑いだけしか知らんってなら、ウチがどうにかして肚の底から笑わせたる。
あの兄ちゃんの灰色くさった花道を、ウチが色とりどりに咲かせたる。
夏になっても辛気くさい顔した奴の悩みなんか、ウチの花火でぶっ飛ばしたる。
それがウチの――『夏祭りの女王』の流儀や。
・・・
『突然ですが、貴方に出張を命じます』
その言葉一つで、自分は城下へ飛ばされた。
それについて不満は無い。
その指示を言い渡したのは稲妻の浜辺に打ち上げられていた己を拾って下さった恩人その人だし、それに城下に訪れた時、既に衣住については用意されたものがあった。むしろこれだけ重用されるだけ、自分のような根無し草への処遇としては破格といって良い。
繰り返そう、そこまでは良い。
しかし。
「――堪忍、ホンマ堪忍なあ。あれだけ片付けても、まさか一個残っとったとはウチも思っとらんかってん!」
問題は、その準備された住処が
貸家故大家への挨拶もそこそこに、荷降ろしも終わり、今日くらいは贅沢も許されるかと使い処のなかった
帰って囲炉裏に火を付けたら、
そして何故か目の前で少女が土下座していた。
「怒り心頭、当然や。それでも住処については必ず何とかするさかい、何とか矛収めてくれへんか? この通り!」
事の経緯はこうだ。
元々あの小屋――改め自分が住む予定だった新居は、この少女の一家――『長野原家』の所有だったらしい。
しかし管理については結構杜撰で、自分が初めて訪れた時の散らかり方たるや、当主の机の方と良い勝負、といった具合だった。
そしてその散らかしは目の前の少女――長野原の一人娘、宵宮殿によるものらしく、彼女に片付くまで待って欲しい、とりあえず荷物だけは入れておくからと持っていた風呂敷を奪われた自分は、仕方なしに街へ繰り出して。
で、帰ってそろそろ寝るかと湯を沸かそうとした結果、
――や、危険な任務なのは承知の上だったにしても、いくら何でも展開が早すぎる。
「道理に合うとらんのは分かっとる。不義理も不義理、虫が良いのは百も承知や。――せやけど今だけは、社奉行への報告を見送って貰えんやろか?」
そう言って頭を下げる宵宮殿の口調は真剣そのもので、其処に保身や此方の懐柔の意図といった邪な色はない。
では何故と問うと、彼女は少し言い淀んだ後こう語った。
――曰く、『目狩り令』を筆頭に、離島にて幅を利かせる勘定奉行の放置等、昨今の雷電将軍の治世には目に余るものがあると。
特に『目狩り令』で神の目を奪われた者は、己の願いを失い腑抜けとなってしまう。故に長野原家は社奉行の神里家要請の下、秘密裏に神の目を持つ者を匿っているのだ、と。
「こんな時期に此処に来たアンタがどういう存在かは知らんし、ウチらにはもう聞く資格もない。――せやけどもし、今この事が将軍様の耳に入ったら、社奉行はせっかく匿った皆ごと、ウチらを切る他無い」
そうすればこの先、今匿っている者達を隠し通すことが出来なくなる。ウチはどうなってもかまへん、けどそれだけは避けたいんや、と宵宮殿は語った。
社奉行は雷電将軍直属の三奉行が一つ。今回の件でもし長野原家の行いが表に出れば、例え長野原を処断したとしても社奉行の立場が危うくなる――彼女はそう考えたのだろう。成る程よく解った。
しかし彼女は何か勘違いをしているらしい。
既にその辺の事情は知っている。更に言えば、自分が城下に派遣された理由もその補佐を当主から任されたからだったりする。
それを説明すると、宵宮殿はへなへなとこんにゃくのようにへたり込んでしまった。
「それじゃウチの、ウチの覚悟は何だったんや……?」
勿論意味はある。覚悟とやらはともかく、謝罪は無駄じゃない。一応自分が持ってきたなけなしの荷物は燃えてしまったので、そのことについては謝ってもらって気が晴れた。
……というか宵宮殿の父上、龍之介殿には、その辺の事情を細かく説明していたはずなのだが。
「父ちゃんに? ……あー、もしかしてアンタの話、ぜーんぶ
正しくその通りだ。このご時世に珍しく、随分威勢の良い御仁だったと記憶している。
「あちゃぁ――…… やってもうたぁ……」
そう自分なりの所感を告げると、この世の終わりみたいな呻き声と共に、宵宮殿は頭を抱えてしまった。
曰く、花火師である龍之介殿は酷い難聴を患っており、そして威勢良い返事をする時は、大抵聞こえてない、と。
――なんとまあ。社奉行、それも神里家に仕える者でありながらそれに気付かないとは。
迂闊にも気を抜いて、結果附抜けていたのはどうやら自分の方だったらしい。
「何から何まで、ホンマに堪忍なぁ」
そう言って再び土下座をしようとする宵宮殿を何とか宥める。
というのも、さっきの話を聞いた後だと、彼女一人だけに謝らせているこの状況は非常にまずいのだ。
幾ら此の身が文無しなれど、此処に訪れたのは社奉行の名代として。
自分の責は社奉行の責。その責を払拭せずのうのうと帰ろうものなら、当主のことだ、帰ってその場で切腹言い渡しもあり得る。
「――つまり、アンタもウチらに対して謝りたいってことなんか?」
そういうことだ。というか是非とも謝罪させて欲しい。自分はまだ死にたくない。
「そ、そうなんか。でもウチかて譲るわけには……あ、せや! こないなのはどうや?」
突如として宵宮殿の声の調子が上がる。
何だろうか。要望であれば何なりと言って欲しい。自分に差し出せるものであれば、この命以外なら全て差し上げよう。
「いや重いわ。命に比べたらそんな大した……モンかは解らんから、そっちで判断しい。
――実はな、ここに来る前に父ちゃんと話し合ったんやけど。……小屋を建て直すまでの間、代わりにウチの家で一緒に暮らしてくれへん?」
――斯くして、名目上は竜之介殿の弟子として、そして実際は長野原家と共に、将軍から神の目を隠すため。
自分は実に半年の間、長野原家へと迎えられることとなった。