原神フレンズ大紹介(大嘘)   作:山田太郎2号機

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バーバラ・3

 

 

 二人の声が聞こえた。そんな気がした。

 

 目を向けたのは住宅街の外れ。

 彼と昼であった出来事を話している途中にお姉ちゃんが話も聞かずに出て行ったものだから探していると、ふとそっちの方から二人の声が聞こえた気がした。

 入って暫く歩くと、その予感は確信に変わる。

 

 

「この声・・・怒ってる?」

 

 

 声の調子からでは漠然とした予想しか出来ないけれど、二人は何か言い争っているようだ。どちらも余裕がなさそうな、必死な声。

 

 

「そんなの・・・いやだよ」

 

 

 せっかく今日、お姉ちゃんの他に一緒に歩んでくれるパートナーが一人増えたのに。そんな人同士が争っている。

 それはいやだ。

 私は彼とお姉ちゃんとは仲良くして欲しいと思っているし、今までずっと願っていた三人一緒に暮らしたい、なんて漠然な夢だって、今やもう夢ではないのだ。それなのに、その二人が喧嘩している。

 

 

「これはお姉ちゃんの妹として、そしてか、彼の・・・・として、止めるしかないよね!」

 

 

 これからの彼と私の関係。今回は恥ずかしくてごまかしちゃったけど、それでもこれは見逃せない。とにかく二人の喧嘩を止めること。これが私の幸せ計画の第一歩だ。

 声の在処も近い。きっともうすぐ二人に会える。

 

 恐らくはそう、この角を曲がればきっと二人に――

 

 

 

 

 

 ――え?

 

 

 まって。

 

 

 ちょっとまってよ。

 

 

 あれは。

 

 

 ・・・そうだ、けんか

 

 

 けんかはどうなったの?

 

 

 ふたりのけんかは・・・ううん、そうじゃない。

 

 

 けんかじゃない。

 

 

 あれは、けんかなんかじゃない。

 

 

 なんで?

 

 

 なんで

 

 

 なんで、お姉ちゃんと彼が、

 

 

 あんなに顔をちかづけて

 

 

 あんなに、なかがよさそうに

 

 

 

 

 

 ――ああ。

 また、努力が、無駄になっちゃう。

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 ――何処からか、梟の声が聞こえる。

 

 

 今は何時だろうか。

 本来なら、お姉ちゃんと一緒に食事を楽しんで、久々の家族としての時間に幸福を感じて。それから暖かいベッドに二人でくるまって。

 朝日と鳥の声と共に目覚めた後は、毎日のお勤めを果たして、シスターヴィクトリアに挨拶をして。

 そして昼。昨日自分と思いが通じ合ったばかりの彼と、目一杯お話しをして。

 それから。

 

 それから――

 

 

 

 それから、なんだっけ。

 

 

「あは」

 

 

 視線を落とす。

 そこには世界で一番大切な、私の大好きな二人が横たわっていた。

 

 世界で一番大切で、そしてつい先程、世界で一番キライになってしまった二人が、私の寝台で眠っていた。

 

 

 

 

 

 あの時。

 私を見て明らかに慌てふためいた様子の二人を見て、私の疑念は確信に変わった。

 私と彼が結ばれたと聞いた後、お姉ちゃんが急に家を飛び出した理由も、説明がついてしまった。

 

 多分、二人は何かを言っていたような気がする。でも、私はそれを聞きたくなかった。

 聞きたくないから。あの大好きな二人の口から、私にとってあまりに残酷なその中身を知りたくないから。

 二人を止めて、その続きを喋らせないでと、心の中で叫んだときには。

 

 

 どさり、と。

 目を開けると、神の目は私の願いを叶えていた。

 

 二つ、大きなものが崩れ落ちる音がして。

 二人は倒れ、私だけが一人その場に取り残されていた。

 

 ――また私だけ、仲間はずれにして。

 

 

 

 その後のことはよく覚えていない。

 私には二人を持ち上げる力はないはずなのに。二人を目覚めさせた記憶もないのに。人に手伝ってもらったわけでもないのに。気付いたら二人と私はここにいた。

 

 ・・・まあ、今さらどうでも良いや。

 

 

「あはは」

 

 

 二人は死んでいない。ただ眠っているだけ

 死んでしまえば良いと、あの時心のどこかでそう思った筈だけど。あの時のことを思い出そうとして、自分がひどく惨めに思えてやめた。私に与えられた「神の目」は水。治癒と安息の力を持つ。だから二人は怪我もせず、ただ眠っているんだろう。

 

 良かった、と思う反面、何故、とも思う。

 相反する二つの想い。私の心はぐちゃぐちゃだった。

 

 

「あははは」

 

 

 二人がどういう経緯で仲良くなっていたかなんて知らない。聞きたくもない。

 どうして彼は昨日、私に思いを伝えてきたかなんて、今彼をたたき起こして聞く勇気なんて、私にはない。

 もしかしたら、私と二人の間にはすれ違いがあったのかも知れないけれど、そんな「もしも」にいつまでも縋り付き続けるなんて、きっと弱い私には出来ない。

 

 結果として、彼とお姉ちゃんは私から二人とも離れてしまった。

 私の大切なものは、私だけのものではなくなってしまった。

 私は、私がしてきた努力は、無駄になってしまった。

 

 ――二人は、私に嘘をついていた。

 

 

「あはははは」

 

 

 そう、二人とも嘘つきだ。

 私だけのけ者にして、二人だけでこっそり仲良くなって。

 そんな二人なんて、大嫌いになって当然だ。

 

 それなのに。

 なのに、なんで。

 

 

「・・・なんで、わたし泣いてるの」

 

 

 なんで、今も二人が好きな気持ちが止まらないの。

 どうして、好きって想いが消えてくれないの。

 

 どうして、二人を嫌いって言えないの。

 

 

「どうして」

 

 

 どうして、今も私は二人を好きなままなの。

 

 

「どうして・・・?」

 

 

 二人は、私を嫌いになったの?

 それとも、それが。

 好きだって、そのこと自体が思い込みだったの?

 

 

「・・・嫌」

 

 

 そんなの嫌だ。

 二人に嫌われるなんて嫌だ。

 二人を嫌うなんて絶対できない。

 偽りの中で一度は手にした。だから分かる。二人が私と一緒じゃない世界なんて、許せるわけがない。

 

 ――でも、

 二人で「好き」を分け合うなんて、やらせっこない。

 

 私が、やらせない。

 

 

「やらなきゃ」

 

 

 自然と、そんな言葉が口から零れた。

 特に何か意図があったわけじゃない。気付けば、そう呟いていた。

 二人はまだ眠っている。私を残して、二人は眠っている。

 

 それがとっても、うらやましい。

 

 

「一緒に、ならなきゃ」

 

 

 うらやましい。ずるい。私だって二人と一緒でいたい。

 

 胸が張り裂けそうな程憎くて、でも誰より、何より大切な二人。

 好きって思いの丈を、比べることなんて出来ないくらいどっちも大好きで。

 出来ることなら天へ昇るその瞬間まで、いつまでも一緒に居て欲しかった、そんな二人。

 

 

「3人一緒に、ならなきゃ」

 

 

 独りは、もう嫌だから。

 

 だから、3人一緒に。

 

 

 

 

 

 

 

 しゅるり

 

 衣擦れの音が、やけに大きく響く。

 

 それは私の服が、立てた音。

 これから私が犯す、罪の音。

 二人だけの関係を木っ端微塵に壊し尽くす、心地の良い音。

 

 何そして、三人一緒になるために私が取った選択肢。

 

 

「おねえちゃん」

 

 

 声に熱が籠もるのを感じる。

 こんな事、今まで考えたこともなかったけれど。いざするんだって決めたとき、それがあまりに魅力的に思えて。

 酷く、とても酷く、背徳的で。

 それがとても、とても甘美なことのようで。

 

 

「ごめんなさい」

 

 

 どくん、どくん

 

 

 二人の寝息が近い。

 手で触れれば、二人の熱が、鼓動が伝わってくる。

 私と同じ、生きている音が伝わってくる。

 

 そうだ、私は今から二人と。

 

 

「ごめんなさい。おねえちゃん」

「ごめんなさい。()()()

 

 

 でも、仕方ないじゃない。

 

 努力したって実らないのなら。

 別の所で頑張ったって、意味がないのなら。

 解っていても、どうしたって欲しいものが手に入らないのなら。

 

 

 

 奪ってでも、手に入れるしか、ないじゃない。

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 朝。

 とある部屋にて、やけによそよそしい一組の男女が見られた。

 

 

「・・・俺って、年下に腕力で負ける程弱かったんだな」

「・・・バーバラは神の目を持っているんだ。仕方ないだろう」

「そうか」

「君はまだ良いさ。――私なんて神の目を持っているのに抵抗できなかったんだぞ。・・・一応姉なのに・・・女なのに・・・」

「まあ、お前の気持ちも分からなくは・・・ちょっと待て。ジン」

「なんだ」

「お前、バーバラ牧師の姉ちゃんだったのか」

「今更気付いたか。馬鹿が」

「・・・おう」

 

 

 幼い頃お忍びで街に居た少女の変装を、男は未だ見破れていなかった。

 そんな会話をしながら、二人はフローリングに散らばる自分たち+αの服と各種下着、そして昨夜の出来事の爪痕を眺める。双方布一枚隔てた先は裸なのにも関わらず、その目は恥じらいはおろか、生気すら絶え絶えだ。

 どこか遠い目をして固まっている姿は、男として、または姉として、昨夜の少女が起こした凶行の事実を認めたくないという意図がありありと読み取れた。

 

 

「あ、やっと起きたんだ! おはようお姉ちゃん、()()! ご飯は出来てるから、着替えて顔を洗ったら、皆で一緒に食べよ?」

「・・・あー、その、バーバラ牧師?」

「バーバラって呼んで」

「アッハイ」

 

 

 やがて、ノックと共に実行犯が訪れる。

 少し注意すればその呼び名の変化に気付きそうなものだが、男がそれに気付くことはなかった。

 

 

「ふふっ・・・昨日は凄く()()()()()もんね。疲れちゃうのも仕方ないよ」

「「」」

「でも、これから三人で過ごすんだもの。貴方もお姉ちゃんも、少しずつ慣れていこ?」

「エッ」「ちょ、ちょっと待ってくれバーバラ! それは一体どういう」

 

 

 バタン、と。

 二人の疑問に応えるより早く閉じられる扉。遠ざかっていく楽しげな鼻歌。

 再び漂う気まずい雰囲気。男の方は「どうしてこうなった」と頭を抱え、女は「お姉ちゃんにちゃんと説明してよ」とさめざめと涙を流す。

 

 この場に答えられる人間は、もう存在しない。

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 扉の向こう。

 部屋の中から聞こえる声を聞いて、私は己の幸せが成就したことを知った。 

 

 

「~♪」

 

 

 あの夜、途中で起きた二人は結局私を最後まで拒絶しなかった。

 私を嫌いと、言わなかった。

 私が二人を大事に想っているように、二人にとっても私は、大事な存在のままだった。

 私の判断は、間違っていなかった。

 

 

「~♪」

「あら、おはようバーバラ。今日は随分ご機嫌なのね」

 

 

 シスターヴィクトリアは私を見て、そう言ってくれた。

 そう、私は幸せだ。二人の中には未だ私が居ると分かったのだから。

 二人の間には、けっして消えない私という確かなキズナが出来たから。

 

 

「~♪」

 

 

 空はまるで澄んだ湖のような青。

 ああ、今日はなんて良い朝なんだろう。

 

 

 

 風神(バルバドス)様。私はとっても幸せです。

 

 





本当にこんな結末になるとは思っていなかったんです。

だから殺さないで下さい。

次はノエルかアンバー予定。
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