そいつは世界観が壊れる力を持っていた   作:ナリキン

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 続いた。続いちまったよ。筆が乗ったんだ。

 途中でエセ宇宙力学があるけど、文系の人間の戯れ言と思って読み流してクレメンス。


愛をもって事を為す

 真間宇良無(しんまうらむ)は近界出身である。武器トリガーしか発展しないくせに、長年存続していた修羅の国が出生地だ。

 

 彼女はその国の気質通りに育ち、暴力と度胸試しが大好きになった。だが後天的に知識に対する欲望を持つようになり、自身の弟を巻き込んでその国初めての科学者となった女だ。

 その天才性はトリオン技術を急激に発展させ、銀河の中でも頂点に立たせかけた程だ。ちょっとしたうっかりでマザートリガーを破裂させなければ、銀河は修羅の国の支配下に置かれていただろう。

 

 咄嗟にそこらの遠征艇に乗り込んで脱出した彼女と、いつも逃げれる準備をしていた弟が多分生き残った。その日は星間国家への侵略前夜祭であり、その全兵力が修羅の国に終結していた。弟の制止を振り切った彼女が、花火を打ち上げなければアフトクラトルとか玄界は滅んでいただろう。命拾いしたな。感謝しろよ。

 

 星の爆発によって色々と計器とかエンジンとかが故障して、彼女は十年ぐらい大宇宙を彷徨った。それを知った彼女は、コールドスリープの技術を開発していた昔の自分に感謝したそうな。

 そして遠征艇は玄界星日本国三門市の山奥に墜落した。偶々遭難していた真間辰郎(しんまたつろう)が彼女を救出しなければ、彼女は栄養失調で死んでいただろう。

 

 命の恩人であり異物を恐れぬ度胸を持った若かりし真間辰郎に惚れ込んで、彼女は真間辰郎の家に押し入り結婚した。

 恋愛漫画的なサムシングが起きて一悶着(死傷沙汰)が有ったり、魔法少女バリ(年齢詐欺)に街の平和を守ったり、墜落した遠征艇を巡った闇の組織との(最終的に一方的な)戦いが有ったり、闇の組織と共闘して実態実験を繰り返す企業を潰したりと(普通に良いこと)、真間辰郎が殆ど関わること無く平和になったので子供を作ったのだ。

 それから幸せな日常がやってくると思いきや、真間辰郎に問題が生じたのだ。真間辰郎が愛したのは彼女であって、子供には愛を抱けなかったのだ。その子供が異常となれば尚更嫌悪感が生じ、暴力を振るうようになった。が、彼女がキンタマを一個潰してからはネグレクトに移行して関わらないようになった。

 

 次第に周囲は彼女と子供を避けるようになった。そもそも怪力な彼女を避けていたのだが、そこはご愛嬌だ。義祖父母はそんな彼女達を気に掛けてくれていたが、真間辰郎が彼女に会わせず話をねじ曲げて伝えたので、彼女が義祖父母に頼ることは無かった。

 そして子供が人に怪我を負わせる事件が起きた。最早ここには居られないと理解した彼女は、子供を連れて玄界を去ったのだった。

 

 これが彼女が生きてきた軌跡だ。因みにウラムという言葉は、修羅の国で厄介な爆弾という意味を持っている。彼女はその名を気に入っているそうな。

 

 

 

***

 

 

 

 宇宙の航海を始めて数時間が経過した。少年はキラキラする目で宇宙の景色を楽しんでいる。一際光る星があれば、トリオン硝子に顔をくっつける程に身を乗り出して眺めたり、興奮して操作パネルをバンバン叩いたりと忙しない。

 自爆スイッチは当然あるが、安全装置が働いているので心配御無用だ。少年がパネルをバンバンした時に大体解除したが心配は無い。無いったら無い。安心しろ。自爆しても船は無事だ。

 

 そうこうしている内に、少年は糸が切れた人形のようにコテンと寝入ってしまった。疲れが一気に来たのかもしれない。少年をベッドに運びたいが、修羅の国の戦士はベッドの隣にある椅子でわざわざ寝る生態だ。使わないベッドを置く必要は無いので、当然この遠征艇には置いていない。頭どうにかしてんじゃあねえのか。

 毛布とかいう豪勢な物も無く、泣く泣く室温をちょっぴり上げる事しか出来ないのだ。もう少し改造しておけば良かったかなと母親は今にして思うのだった。

 

 騒ぐ存在が居ないと艦内は驚く程に静かだ。穏やかな寝息と僅かな駆動音が、この航海で聞ける唯一の音だろう。警告音なんて聴きたくない。戦闘音? アホじゃねえの? 空気が無いのに聞こえるわけねえだろ。

 

 遠征艇と呼称するように、この船は移動に優れた物だ。彼女が手掛けた遠征艇は、他国家の遠征艇よりも移動に特化している。上手くやれば銀河の端から端までを一日で行けたりする。ワンチャン死ぬけど。

 

 今回はそこまで遠い国に行くわけではないので使わないが、ちょこっとだけ紹介しておこう。宇宙で良く見かける現象の一つに、質量の穴が空く事がある。通称ブラックホールだ。ある一定の法則を持つブラックホールは太陽との相対位置に穴を作り、それが繋がっていることを母親が発見した。

 ミニチュア天体創造キットで出来た時には母親は度肝を抜いたそうな。次いでに、それが移動手段として実用化したと聞いた母親の弟は倒れたそうだ。目眩でもしたのだろう。

 

 修羅の国は太陽にめっちゃ近づいたり、くっそ遠ざかったりしながら、とんでもない速さで公転している。マザートリガーがシールド型で無かったら、重力やら気温やらなんやらで爆散していただろう。逆に国を保護するトリオンによって、国全体に負荷がかかって住民がムキムキになったりするが、それはご愛嬌。

 玄界の時間で二十年あれば、全部の国に喧嘩売れるぐらいには滅茶苦茶だったりする。まあ一度の戦争の死亡率が九割を超えていたので、そこまで戦争してないのが実情だ。それが技術の開発により、太陽との相対位置に移動できるようになったり、生存率が普通になったので五年になったが、それはさておきだ。

 

 閑話休題

 

 今回親子が密入国するのは玄界に程近い星間国家、アリステラ。侵略前に行ったスパイ(弟にやらせた)で、大体の事は知っている。多少は変わっているかも知れないが、母親からすればナメクジのような発展速度だ。予想を越えないだろう。

 今のアリステラの軌道は玄界から最も近い場所を通る軌道だ。最短距離で行けるし入国規制がぬるぬるに甘い(当人比)ので目的地に定めてある。結構発展しているアフトクラトルへ行く選択肢も有ったが、ゆっくり出来そうに無かったのでやめた。

 

 この親子には玄界に帰れない理由がある。主な理由が少年の体に有った。何処かが可笑しいのだ。しかし何が可笑しいのか、玄界で作ったショボイ機器では判明しなかった。トリオン量はそこまでだし、サイドエフェクトは効果を認識できない程に微弱だった。

 ならば何故少年の体はトリオン体とほぼ同じ強さが有るのか、それが判明しなかったのだ。トリガーを使わずしてトリオン体と同等の効果を持つ事柄など、トリオン絡みの事以外に考えられないのに。

 

 だからこそ母親は少年を連れ出した。詳しく検査できるであろう環境を求めたのだ。別に玄界でそれらを作れない訳では無いが、一から作るとなると時間が掛かり過ぎる。すぐにでも少年の体を知るには、ある程度の技術の下地が必要だったのだ。

 ポンっとディスプレイに到着予想時間が表示される。自動操縦システムによる、到着が確定した事のお知らせだ。到着まであと三時間弱。それまでに密入国の準備を済ませておこうと、母親は久し振りにハッキングシステムを立ち上げた。

 

 トリオンを飛ばして二十年位前からある受信機(弟が使ってたの)を起動させる。その受信機の接続部からマザートリガーに侵入し、ちょこちょこっと細工した。

 ヒトは皆、少なくともトリオンを持って生きている。トリオンはトリオンと反応し、影響し合っているのなら、マザートリガーから発生するトリオンに住民が影響されないはずが無い。影響と言っても極小さなものだが、親子に対する違和感が薄れるのであれば十分だ。

 後は怪しまれても大丈夫なように、アリステラに居る背景を練っておけば良い。セキュリティの甘いデータバンクにアクセスして、用意した住民コード(弟が必死に片手間で作ったの)をちょいちょいと書き変えれば、あら不思議。何の変哲も無い、昔やって来た移住者に早変わりだ。

 

 違法だって? コードにはちゃんと王族の承認も印してあるし、出会う人は「居たかなぁ、まあいっか」になる程度の記憶を植え付けたので調べやしない。ばれなきゃ合法なんだよ。

 

 母親がデータバンクで情報を読み漁っていると、めぼしいものを見つけたようで着陸地点を変更した。度重なる侵略によって廃棄され、復帰の目処が立っていない区画。そこにはトリガー製造所と開発所があり、未回収の物が多数有るようだ。

 探っても回収に行くような情報は出てこなかったので、優先度は低いものなのだろう。回収済みに書き換えて上げた。今仕事が減ったよ。やったね事務員さん。

 

 トリオンの出力を切ってステルスモードに移行させる。これでアリステラの雑魚いトリオン感知機には引っ掛からないだろう。現地に誰か居ても背景と同化するように設定しておいたので見られやしないさ。多分。

 

 

 

***

 

 

 

 それから数時間後、何事もなくアリステラに到着した。ゲートとかいうくっそ分かりやい骨董技術など使う訳もなく、でかい道路の上にスッと出現した。位相を少しずらすだけで良いのに、とは若かりし母親の言葉だ。

 念のため周囲に人が居ないか偵察用のトリオン兵を出して確認する。半径八km以内に人は居ない事を確認出来たので、遠征艇を地中に潜り込ませた。

 

 この掘削機能、本来は隠れる為に備えられているが、殆ど防護壁を壊す為にしか使われなかった悲しき機能である。掘った物質にトリオンが混ぜ込まれるので、それを操って簡易的な基地を作ることが可能だったりする。初めて使われたのは母親が玄界で遠征艇を隠す時だった。

 

 数十分程でトリガー開発所の真下に到着した。開発所の敷地全体を満遍なく掘って、トリオンを馴染ませていく。ある程度馴染んだそれらを圧縮させて超強力な合金にしたあと、それらを支えにして四角の空間を作った。一応の基地はこれで良いだろう。

 梯子を作って天井に穴を空ける。開発所の床であろう物を押し上げれば侵入成功だ。ちょろいものだ。

 

 開発所は悲惨な状態であった。倒壊仕掛けた建物と呼ぶべきか、開発用の様々な機具が瓦礫に埋もれている。最重要の一室だったようで、壁の断面に防御機構の名残があった。

 こんな状態では精密機械の大体は壊れているだろう。まあ部品さえ有ればある程度の代物は作れるからそこまで重要ではない。なんなら改造する分、壊れてた方が楽だったりする。中身を見るのに一々割るのも面倒だ。

 

 母親は一人瓦礫を掻き分けて機具を掘り起こし始めた。トリオン体故に次々と掘り起こされて地面に沈んでいく。自動修復システムを搭載させたトリオン兵を起動してあるので、機能を確認できる程度に修復されるだろう。

 粗方掘り返したので次に食糧庫に向かった。大体こういう場所は、科学者をここから出さない為に設備が整っているのだ。発展のためなら人道すら踏み外すのが国だ。母親は修羅の国で好き勝手開発してたけどな。

 

 最早道ではない道を通り、終いには壁を蹴破って食糧庫に入った。そこには未回収の食糧がびっしりと並んでいた。場所によっては収納物が破損して食い物にならないが、これだけあれば大人と子供一人ずつで五年は持つだろう。

 品質を確かめるために一つ取って食べた。チューブに納められた無味無臭で液状の高栄養物質だ。固形じゃ無いだけマシだな。これ一本で一日持つ程度の水分と栄養分がある。そもそも劣化しないような保存がされているようなので、無傷な物は取り込んでも大丈夫な品質であると判断した。

 

 食糧を収納棚ごと地面に沈ませると、それらが建物の支柱となっていたようで、派手に倒壊し始めた。迫り来る瓦礫に埋もれないよう、母親は先に地面に潜って事なきを得たのであった。

 

 

 

***

 

 

 

 地面を潜った母親は真っ白で広大な空間に着地した。トリオンで構成された空間だ。ちょっとやそっとでは壊れることは無い。

 遠征艇の方へ向けば、地面に残骸群と言っても差し障り無い程の数多な機具が転がっている。その上を一体しかいない修復トリオン兵が忙しなく飛び交っている。

 そして母親はそこに、稼働している機具の前で少年が何かをしているのを見つけた。カチャ、カチャ、カチャ、と指一本でキーボードを押す音が聞こえる。ひび割れたディスプレイを見るに、何かのプログラムを構築しているようだ。

 

 当の少年はディスプレイに目もくれず、そもそも身長の関係で見ることが出来ないのか、一本打法でキーボードを弄くる後ろ姿は真剣そのものだ。因みにディスプレイはテーブルの上で、少年とキーボードは地面に置かれている。

 ディスプレイから延びるコードは妙な大きさの四角い箱に繋がっており、その箱から延びるコードはテーブルの上にある基盤が剥き出しのトリガーに繋がっている。大方トリガーを調節する機械だろう、と当たりをつけた母親は少年に話し掛けた。

 

「あら、あなた。そこで何してるの? 何時もならまだ寝ている時間なのに」

 

「あ、おかあさん。さっきおおきいおとがしてね、そとにでたらへんなのがあったの。それであそんでるの」

 

 母親が近くで確認したら、トリガーの基礎プログラムを構築する機械だった。それも改良中の。それでいて辛うじて稼働している粗悪品の機械だ。どんなとんでもトリガーが出来たのか、母親の頭脳内でプログラムを検証してみると、何の問題もないと判断した。未完成であるが、それだけだ。

 既存のプログラムを書き写せるようなデータは破損しているし、自動で組み上げるようなシステムも無かった。詰まり少年は約八割の基礎プログラムを人力で、それでいて短時間で組み上げた事になる。妙な事態になってきた。

 

「あら、殆ど出来てるじゃない。どうして作り方が分かったの?」

 

「よんだの」

 

「呼んだ? ああ、説明書の事ね。良く読めたわねあんなの。

 それにしても凄いじゃない。流石私の子ねぇ。賢さが違うわ~」

 

 溢れ出る疑念など可愛い我が子の前では塵のような物。母親は自身と似たような行動をする少年をワシャワシャと撫で回すのだった。血は争えぬと言ったところだろうか。

 

「それが完成したら私に見せなさい。ちゃんと出来てるかチェックして上げる。私はあっちで色々と見て回ってるからね。あなたが興味を抱けそうな物はここにはいっぱいある。焦らず、ゆっくりなさい」

 

「はーい」

 

 少年はキーボードに目を落とし、母親は修復トリオン兵が修復した機械に目を通し始めた。目的がいつの間にかすげ替わっているが些細な事だ。

 使えそうな物は取って置き、使えそうに無い物は部品に解体する。それにしても使えない物が圧倒的に多い。開発途中の物だからかも知れないが、技術に無駄が多すぎると生粋の科学者である母親はそう感じてしまう。

 

 今見ている「トリオン物質合成置換換装装置 MARK Ⅱ改EX」と銘打たれたふざけた機械もそうだ。ただの物質をトリオンに変換するだけでなく、トリオンだけで物質を作ったり、物質にトリオンを纏わせたりするのを一つの機械でやろうとしたのだ。

 多数の機能を持たせた分でかくなり、処理能力も落ち込んでかなり非効率になっている。一つ一つの技術は中々な代物なのに何故一つにしようとしたのか、これがわからない。満場一致で解体行きだ。

 

 分別していくと修復が間に合わなくなったので、片手間にトリオン感知機とトリオン隠蔽装置を強化した。おおよそ五kmはトリオンを確実に察知できるようになった。

 

 羽毛をトリオンで再現する事だけに特化した機械を見つけたので、暇潰しに布団を一式作った。羽毛がぎっしりと詰まってる。どことなく高級感を感じるぞ。

 布団を作ったら他の家具も欲しくなったので、玄界の妙なソファーや、車輪の着いたテーブル、座布団、空中ディスプレイ、ソナー、没入型トリオン兵などと色々作った。暇潰しが主体になってくる頃に少年のトリガーも完成したようで、母親の元にトリガーを抱えて駆けてきた。

 

「おかあさん、できたよ!」

 

「ハッ! 意識が無かった……。どれどれ、見せてごらん。ちゃあんと出来てるかな?」

 

 今しがた組み立てたトリガー解析装置に、少年のトリガーを接続させた。取り分け特殊な仕組みも無かったからか、解析は二秒足らずで終わった。

 解析結果は実に普遍的な機能であると表示されている。マニュアル化された物特有の性能の低さと、量産性の高い構成の仕方をしているようだ。まあ武器を組み込まず、ただトリオン体に換装させるだけのトリガーだ。初めて作ったにしては上出来であろう。

 

「うんうん、流石の出来栄え。何の欠陥も無いわね。耐久性も申し分無いし、コストも性能に見合っている……。花丸よ!」

 

「いえーい」

 

 少年はそれに喜んで母親とは真逆の方向へダブルピースを決めた。何処を見てるのだろうか。

 

「これは将来が楽しみだわ。そうだ、折角だしトリオン体になってみたら? 初めてのトリオン体を自分の作ったトリガーで換装するなんて、他のところじゃあ滅多に無いわよ」

 

「んー? どうやるの?」

 

「えーっと、起動形式は掌握感応……あー詰まり、こうギュッと握り締めば出来るはずよ。あ、優しくね。そこまで力は必要ないわ」

 

 少年が言われた通りにトリガーを優しく握れば、淡い光がトリガーから発した。握っている手の端から少年の身体とは別物に変貌していく。そして肘の時点で換装が止まり、次には解除されてしまった。

 あれ、と思い手元に目をやれば、熱で歪み、膨張したトリガーが有った。その熱さは触れた長袖に火がつく程だ。あっという間に燃え広がる長袖を破りさって捨て置き、何か爆発しそうなトリガーを少年は両手で挟んで無理矢理粉々にした。押さえきってしまえば爆発は起きていないのと同じさ。

 少年は少し焦げ目の付いた両手に、息を吹き掛けて冷ましている。いくら身体が頑丈とは言え熱いものは熱い。

 

「あっれー? しっぱいかな。なんでだろ」

 

 少年こそ呑気なものだが、母親はそうはいかない。緩みきった意識に冷水をぶっかけられたような事態が目の前で起きたのだ。自身の管理不届きを嘆き、悔やむのは少年の状態を確認してからだと自身に言い聞かせる。

 

「あらまあ、大変。傷は……無いわね。痛くなかった?」

 

「ヒリヒリする」

 

「手のひらね。見せてごらんなさい。うーん? 治りかけてるけど……ちょっと火傷しているわね。冷やしましょうか」

 

 母親は火傷した少年の手を両手で包み込み、自身のトリガー機能で自身の手から熱を奪い、周囲の空気を凍りつかせる程に温度を低下させた。

 そして十分に冷ましきって尚、母親は少年の手を冷やすことを止めなかった。まるで後悔を上塗りするように、一心不乱に冷ますのを続けた。

 

「うひゃあ、つめたーい」

 

 少年は自分の手に霜が降りているのにも関わらず、雪を素手で握ったような反応をした。ここでもし、少年が母親の手を振り払うような拒絶行動をしたとすれば、母親の硬くも脆い心に亀裂を生じさせ発狂していただろう。

 だがそうはならなかった。ひとえに少年の身体が丈夫であった為に回避された未来であった。

 

 

 

***

 

 

 

「あっ、わたし……」

 

「ちょっとやりすぎかも」

 

「うひゃ、ごめんごめん」

 

 一時間後、漸く我に返った母親が冷却を止めた。霜焼けになって赤みの差した手を母親の顔にくっつかせながら少年は文句を垂れ、母親は無理のある冷静さを取り繕い軽めに謝った。その行動が親子との間柄に軋轢を生じさせないが為に、幼くも考え抜いた少年の解決策であった。

 母親はそんな少年の優しさに救われ、柄にもなく取り乱してしまった自分を戒めた。もう二度と同じ失敗はしないと心に誓い、その決意が次なる動揺の火種となる。

 

「(この子を護れるのは私しか居ない。この子を癒せるのは私しか居ない。この子を育てるのは私なのよ! 取り乱してどうするの! しっかりしなきゃ……)」

 

「ねえ。あなたは普通の身体になりたい?」

 

「んー? まあ、トモダチとおもいっきりあそべないのはヤダ。たのしくない」

 

「そう、なら……」

 

 ──私がなおしてあげる。必ず。

 

 異境の地にて親子が誓いを立てた。永遠に破られることの無い誓いを。

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