そいつは世界観が壊れる力を持っていた   作:ナリキン

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 ギャグは何処へエエェェェェ!? アイエエェェェェ!?

はぁ


覚醒への手立て

 ふとした瞬間に、自身が目覚めていることに気付いた。もしかしたらずっと起きていたのかもしれない。しかし、意識を失っていたと自覚できたのは今が初めてであった。

 目の前には見通すことが叶わない程の闇が広がっている。瞳を閉じているだけなのかも知れないが、自身の眼球に目蓋の感触はなかった。

 体を蝕むのは宙を漂う感覚だ。かつての記憶が呼称するには母の胎内であるそうだ。

 

 ここはまるで母から聞いた海の底のようだと、俺は思った。

 

 何処からか、陽だまりの様な温かさが体に流れてくる。僅かな光も、また感ぜられた。それらが上か下か、はたまた右か左か、それとも全身を包んでいるのか、俺にはどうも分からなかった。

 その温もりに安心感を得るのと同時に、遥か昔に感じる記憶が脳内に溢れだした。初めての景色は……そうだった、窶れた父の顔を見て泣いたのだったな。

 

 

 

***

 

 

 

 記憶の中の父は、常に怒っていたように思える。どうも俺の眼と顔立ちが、父の憎むべき血縁者と鬱陶しい位に少し似ているようだ。鮮明とまではいかないが、朧気よりも強かにそれを思い出させるのが、父の激情をこれでもかという程に刺激したのだ。

 それでもその激情を心の奥底に押し込み、子に対する愛情を前面に押し出して俺を育てたのだから、父は大した人間だったのだろう。

 

 母もまた、俺に怒りの混じった愛情を注いでいた。どこぞの高貴な娘と奴隷の男との間に産まれたと、母は言っていた。立場を追われた母の両親は駆け落ちし、戦禍で乱れた星で少しの安寧を得た。そして俺の母である娘をその星に残し、何処ぞへと消えたのだと。

 父に救出されても尚独り取り残された怒りは消えず、そしてその両親の僅かな面影を見せ付ける俺に対し更なる怒りを募らせていた。

 しかし、母は病弱であった。気弱な性格と自身の感情に対する不理解が相まって、その怒りが俺に向けられることなくポックリと逝ってしまった。

 

 いつも通り産まれ故郷の話を聞かせ、締めの子守唄を終えて俺と共に眠りに就き、そして母は二度と目覚めなかった。

 父は冷たくなった母を見て悔しそうに顔を歪め、そして納得の死として受け入れた。母は生まれつき体が弱く、心臓に重大な疾患を持ち、厄介な遺伝病を患っていた。

 

 俺という子を産み、自身が成人するその日まで持ち堪えたのは、奇跡と言っても過言では無い程の偉業であったそうだ。

 その事に父は俺に感謝すると共に謝った。母が今日まで生きていたのは、俺という輝かしい希望が生きる意味を与えていたのだと。そしてそんな俺を自身も育てきることが出来ないと。

 父もまた、大病を患っていた。この時点で全身を蝕んでいたらしい。近い内に死ぬ、そう告げられた。薄々感付いていた俺はその事に驚くことなく、また悲劇に嘆くこともなくそれを受け入れた。

 

 住処を替え、辺鄙な土地に隠れ潜み、俺は二年の月日を掛けて父の全てを譲り受けた。廃れた星に似つかわしくない先進的な技術、知識、トリガーたち。それら全てを俺の脳に叩き込み、父は未だ不安気な顔のまま静かに息を引き取った。

 父の懇願通りに遺体を母の隣に埋め、そして俺は住処に火を放った。守護するものが居ない幼い自身に、この先生きていく展望を望めなかった。例え国を支配できる力を持とうとも、孤独である限り虚しいものでしかないのだから。

 ただ、父の誇りと努力を悪用されるのは、自棄になっていても許す事が出来なかったのだ。諦念に心を締め付けられ無気力になっていく俺が、唯一出来た抵抗であった。

 

 そして翌日、侵略してきた敵対国の兵に自ずから身をさらけ出した。自害を選べぬ根性無しの選択と、便利な実験体を求めていた外道の科学者共によって、俺は生きることになった。これが俺を地獄に叩き落とし、そこで生きる意味を得た運命であった。

 

 異常に頑強な肉体構造、有数のトリオン量、実験体に相応しいトリオン能力の副次的効果によって部署を転々とし、体中の至るところを弄くられた。

 死なないよう慎重に調整された人体実験。精神的負荷を度外視したそれらであったが、俺のトリオン能力の副次的効果が発狂と精神の崩壊を抑え、忌々しい苦痛と共に慣れ親しんだ。

 

 以前からいたモノや新たに送られてきたモノの行く末を見届き続けた俺は、何時しか瞳を瞑れば母のように二度と目覚めなくなるのではと恐れ始め、トリオン受容体を研究する部署に送られた時には瞬きすら拒んでいた。

 度重なる実験の失敗により、右半身の神経がズタズタになっていた俺は常に発狂していた様なものだろう。実際には痛覚ごときで精神に揺れが生じる訳が無いのだが、対外的には発狂していた方が都合が良かった。話が通じないとなればあっちは勝手に実験するし、俺は無気力なまま死へと近付くことが出来るのだから。

 

 瞬き一つせず虚空を見詰め、呆然と立ち竦み、半開きの口から涎を垂らすその様はまさに廃人そのもの。

 そんな俺に何の思慮も無く話し掛けてきた馬鹿な少女が彼女であった。陰鬱な収容所に不相応な輝かしい笑みを携え、自身の名を口にし俺の名を尋ねた。

 

 "ハルセアオイ"と名乗った彼女の問い掛けに、俺はどうも返答に困った。演技がどうこうではなく、俺自身の名がどうしてか出てこなかったのだ。どうやら右脳がショートした時に偶然焼ききれてしまったらしい。がーんだなと思い、面倒になった俺はそのまま無視を決め込んだ。

 "名前ないのかなあ?"と不躾な呟きが聞こえたが無視を継続した。そんな対応をされたら普通折れて何処ぞへ離れるというのに、彼女はあろうことか質問を継続したのだ。

 

 何処から来たのかとか、何時から居るのかとか、どんな物が好きなのかとか、そんなどうでも良いことを真剣に聞いて来るものだから、思わず目線を彼女に向けてしまった。

 俺が反応したことに喜んだ彼女だが、その後俺が顔を背けるとシュンとした雰囲気になった。素直なものだと感心に似た心境でベッドに寝転ぶと、彼女も寝転んで"一緒にお昼寝しよう!"と宣った。

 

 粗末なベッドは二人で寝るにしては窮屈なのだが、勝手に俺の腕を枕にして懐で眠る彼女には関係ないらしい。困った様に眉をひそめても彼女は"えへへー"と呑気に笑うだけだ。

 疲労していたのか彼女はものの数分であどけない寝顔を晒した。幼い顔付きに似合う小柄な体格を、寒さからか縮こまらせている。腕に感じるのは硬質な髪と幾つかの突起物だった。

 

 前髪を掬い上げて見えたのは成長途中のトリオン受容体、またの名を粗末な電極。俺もここに来る前に取り敢えず一本埋め込まれた。だから、それがもたらす苦痛が良く分かる。

 頭の中に以前は無かったものをその存在が遺憾無く感じさせ、その異物感が吐き気を催す程の嫌悪感を増大させる。時たま体中を電撃が迸り神経を焼き付かせ、痺れと共に肉離れのような違和感を残していく。

 

 この少女はその精神的または肉体的苦痛を堪え、あんな朗らかな笑顔を俺に向けていたのだ。何と強靭な心か。そう俺は驚愕し、この健気な少女をどうしようもない程に愛おしく思ってしまった。

 埋め込まれたトリオン受容体の数からして三ヶ月はここに居るのだろう。その間にどれだけの人に言葉を掛け、どれだけの人を見送ったのだろう。苦痛に喘ぎ立つことすらままならなくなったモノに、同じ苦痛を感じていながらどれ程の言葉を掛けていたのだろう。

 

 鋼の如き心を持ち、太陽の様に優しい彼女。無駄に生き長らえている俺よりも、生きる価値があることは明白だ。

 何故俺は生きて彼女を救っていないのだろう。俺にはそれが出来る力があったはずなのに。何故その力を手放してしまったのだろう。それが有りさえすれば今すぐにでも彼女を救えるのに。

 

 そう後悔し、死んでいる俺は苦痛に喘いだ。もうこの時点で俺は手遅れだったのだ。脳に粗末な電極をぶっ刺された時点で、外道共に手を上げる事すら出来なくなっていたのだ。

 父に教わった知識がそれを躊躇無く認識させ、悔しさの余りに涙を流してしまった。俺に出来たのは寒さえに震える彼女を抱擁し、自身の熱で持って暖めてやる事だけだった。

 

 彼女は震えを止め、穏やかな寝息を吐いた。そんな彼女に釣られて俺は数年振りに瞳を閉じた。彼女への愛情が死への恐怖心を打ち負かしたのだ。

 嫌悪していたはずの目蓋の暗黒は、混ざり合ってどちらとも取れなくなった温もりによって、何よりも安らぎを与えるモノへ変わった。

 

 そうして俺は、数年振りの眠りと共に確かな安息を得たのであった。

 

 

 

***

 

 

 

 俺が彼女に対し口を開いたのは出会いから半年後の事だった。死人の俺には彼女の光は贅沢が過ぎるという自己否定と、その光は他の病めるモノに与えられるべきであるという考えが、杜撰な廃人の演技を続けさせたのだ。

 

 無視をし続ければ彼女は離れるだろうと思っていたのだ。だが時が経つに連れ当時居たモノは次々と帰ってこなくなり、そんな中平然と帰ってくる俺に彼女は注意を向け続けた。

 新人が来たところで明日には居ない事なんてざらにあった。彼女も俺も異常なまでに耐えてしまっているのが、互いの親密さを深めてしまい俺の口から言葉を引き出してしまったのだ。

 

 俺は聞いてしまったのだ。彼女の在り方を。その行動理念を。明確な意思でもって尋ねてしまったのだ。

 初めて俺の声を聞いた彼女は驚きと共に喜悦の声を上げ、嬉々として俺の問に答えた。

 

 曰く、習慣だと彼女は言った。以前いた場所で親に教えられた事だと。相手が何であれ初対面ならば言葉を交わし、心を繋げる。多くの心を繋げれば、それだけ強く、賢く、そして何より幸せになれると、彼女は教えられたそうだ。

 後は寂しさから来るものだと、彼女は付け加えて言った。両親も友人も居ないこの地獄では、見知らぬモノしか存在しない。もう帰れないと悟りながらも帰郷の念を抱え込み、孤独の虚しさを埋めるために新たな友人を欲したのだ。

 

 しかし、ここに居るモノは大抵物が言えない廃人だ。脳に異物がぶっ刺さっているのだから言語中枢が狂っても可笑しくはない。まともな新人も次の日には別人に変わっているものだから、彼女の空虚な穴を埋めるに値する存在は居ないかに思われた。

 そんな中俺という死人が来た。廃人の演技をするくせにまともな反応を返す阿保が現れたのだ。彼女は歓喜したそうだ。ようやく心の罅を埋めるモノが来たのだと。

 

 歓喜極まった彼女は興奮のあまり俺と唇を交わし、ここぞとばかりに聞きたかった事柄を尋ね、いつものように同じベッドで眠った。

 当然名前を聞かれたが、焼却された記憶が戻るはずもなく、ただ忘れたと端的に答えた。名無しのままでは不便なのか、彼女は聞き慣れない言葉で俺に名を付けた。花の名前だとか聞いたが正直良く分からなかった。

 

 その日からは新人が来ても彼女は目もくれず、俺にばかり構うようになった。俺の一挙手一投足に反応を示し、実験に連れていかれる度に瞳を揺らし、再会の度に喜悦の唇で接吻をする。幼さに似つかわしくない執着心が、彼女に有ったのだ。

 彼女ももうとっくの昔に駄目になっていたのかもしれない。狂えなければ正気でやっていけない。地獄とはそういうものなのだろう。

 

 壊れていく様を見て後悔の念が俺の心に亀裂を生み、悲しむ俺を見て彼女は笑った。

 

 彼女は俺に求めていた。友人として或いは家族としての存在を。

 彼女にとって俺という死人は、仲の良い異性の幼馴染みであり、優しさに溢れた良き兄であった。心の通った唯一無二の親友であり、甘えん坊の手のかかる弟であった。生涯を誓い合った愛する夫であり、厳格ながらも見守ってくれる父であった。

 

 その無茶難題な彼女の欲求に、どうしようもなく馬鹿な俺は応えられずにはいられなかった。それが彼女の心を破壊する劇薬であると知りながらも、俺の優しさで偽造した利己心が制止を叩き壊して推し進めたのだ。

 

 そして結果出来上がったのは歪な幸せ。幼馴染みの様に昔を語り合い、甘える妹を兄として愛でる。親友の様に互いの想いを繋げ、疲弊した心をさらけ出し抱きすくめられて癒される。愛ある夫婦の様に抱擁して唇を交わし、ぐずる娘の頭を撫でて共に床に付く。

 捻れきった倫理観と極限状態の幻覚によって産み出された幸せは、どんな弁解をしようとも狂っていると言われるであろう。だがこの幸せがもたらす温かみは紛れもなく本物であり、こんな地獄では何よりも得難いモノだったのだ。

 精神的弱者である俺が、目の前の吊るされた人参を食らおうと猛進するロバの様に、求めてしまうのは仕方のない事だったのだ。

 

 そんな獄中の幸福は二ヶ月に渡って看過され続けた。止めたのは彼女であった。

 

 いつもの様に暗黒から這い上がって覚醒すれば、彼女が懐で泣いていたのだ。嗚咽を洩らすわけでもなく、叫んでいるわけでもない。ただ静かに見開かれた瞳から涙を流していた。

 困った俺は友人として或いは家族としての演技を忘れ、病的なまでに不器用な俺の意思で彼女を抱き締めたのだ。

 

 初対面の時の様に黙していれば、彼女は喉を震わせ一言呟いた。"死にたくない"と。そして続けて言った。"死にたくないよ"と。そして最後に言った。"助けて"と。

 弱々しいそれは破壊し尽くされた心の発露、なけなしの破片が紡いだ本音であった。

 

 恐らくだが彼女は死期を悟ったのだろう。最も脳を犯された時点で死んでいた様なものだが、人として終わってしまう時期がやってきたのを察知したのだ。

 脳の大半はトリオン受容体に食い尽くされ、その様が眼にまで発現している。良く持ったものだと俺は思う。そんな柔で特殊性の欠片もない一般的な体を、根性という名の執着心だけで限界まで良く持たせたものだと。

 

 俺は没する恐怖に震える彼女を力一杯抱き締めた。そしてこの世の無情さを呪い、己の無能さを叱責した。彼女に相応しい英雄がいずれ来るだろうと望んでいた。彼女を本当に幸せにしてくれる存在が現れると信じていた。

 馬鹿な話だ。こんなくそったれな世界に英雄なんているはずが無い。そんな事最初から分かりきっていた事だろうに。

 

 これも全て他力本願に任せ、自身は無気力に死のうとする愚かな俺への罰なのだろう。仮初めの幸福を無惨に取り上げられてしまった。彼女を絶望させたままその行く末を見続ける事になった。

 

 しかし、馬鹿な俺は幸せを取り上げられたままにする事を良しとしなかった。あの温もりをもう一度欲させずにはいられなかったのだ。

 

 後悔しているからこうなるのだと自身を馬鹿にした。馬鹿にして初めから割れていた心を無理矢理くっつけて、かつての幸せを取り返すために火を灯した。

 詰まるところ俺は生きていく展望を望んだのだ。生きる意味を彼女に見出だし、見事俺は生人として変貌できたのだ。

 

 俺は一ヶ月で脱出の計画を練った。トリオン受容体に犯された部分では読み取られてしまう可能性があったので、残された一割の生身だけで思考した。武器の調達、監視の外し方、制御権の保護、逃走経路の確保、トリオン兵の巡回ルートの入手。外道共の緩い監視と杜撰な監視網のお陰で準備は直ぐに終わった。

 

 さあ決行の時だと生き生きと暗黒から這い上がると、彼女が終わっていた。どれだけ声を掛けようと、どれだけ体を揺すろうと、どれだけ時を経ようと、彼女は二度と目覚めなかった。目を見開いたまま、もの言わぬ肉塊へと成り果てていた。

 

 運ばれていく彼女だったモノを、ただ呆然と眺めることしか出来なかった。世の無情さに殺意が芽生えた。己の無能さに幸せを殺された。

 一人遺された部屋で佇む。周囲にはかつて見送ったはずのモノ達が転がっていた。苦悶のままに或いは抜け落ちた顔で倒れ伏した肉塊達。その中に彼女が居た。

 

 俺はこの時、本当の意味で諦めたのだ。心の何処かに潜めていた希望が、心の消滅と共に消え失せたのだ。

 

 俺はこの時、本当の意味で死人になった。

 

 

 

***

 

 

 

 絶望の日から幾日か経過し、役立たずになった俺は戦場に送られた。脳にぶっ刺さった電極が示すように体は勝手に動いた。

 大方処分を有効活用させる為に特効でもさせるのだろう。余った脳がそんな事を考えた。

 

 陳列する少年少女達の中に彼女の姿があった。だからといって何が出来るのだと俺は諦めた。ただ彼女と共に死ねるのなら、それはそれで良いのかもしれない。最初から死を望んでいた俺に対し、手向けとしては最上級に位置する褒美だろう。

 

 俺は隊長という役で戦場に降り立った。俺をお遊び感覚で操る外道共は、命の価値なんぞ知ったことかと言わんばかりに無駄に命を散らせていく。

 ずぼらな作戦で本拠地に辿り着けたことに呆れながら、俺の命はここまでであると悟った。面倒になったのか外道共が操作を放棄し始めた。出来るだけ暴れて自爆しろと命令を下され、命令に従って体が勝手に動く。

 

 そしてあいつが降ってきた。さながら英雄の様に。深緑に輝く体で。その出で立ちはまるで、かつて母の語った父の姿そのものであった。

 あいつは暴力的に、されど確かに俺と彼女を救った。俺がやろうとして無い頭を捻って編み出した策よりも、より良い手で平然とやってのけた。俺が待ち望んでいた英雄の様に。

 

 あいつは俺と彼女を救えると言った。最早手遅れのその先まで行った俺と彼女を救えると言ったのだ。言いきって見せた。

 それを嘘であると断ずるには熱が有り過ぎた。灰になった俺の心に引火してしまう程に、あいつの心は熱かった。

 

 言葉という火炎瓶をぶちまけられて、俺の諦念に破裂した心と萎れた死体は燃え盛り、残った灰を捏ねられ新たな心を作られてしまった。

 リニューアルしようと俺が精神的弱者である事は変わりなく、目の前に現れた都合の良い希望にすがり付くのは至極当然の事であった。

 

 あいつが約束を違えてなければ俺は生きているのだろう。彼女もまた、生きているのだろう。

 

 温かさに包まれていると彼女と抱き合った事を思い出す。記憶を語り合った事も、心を触れ合った事も、唇を交わした事も、確かな思い出として浮かんでくる。

 

 彼女の柔らかな体に触れたい。どうか頑張った俺を癒して欲しい。そんな低俗な欲望が湧き上がり、ただひたすらに手を伸ばした。もう二度と、手放さない為に。

 

 

 

***

 

 

 

 バイタルサインが警報のように鳴り響き、少年に誰かの覚醒を知らせた。少年が直ぐ様赴けば、医療ポッドの扉を押し破り水溜まりの中で倒れ伏す青年の姿があった。

 

「おはよう、君。元気そうで何よりだ。良い夢見れたかい?」

 

 青年は身動ぎし、少年を視界におさめた。約束が守られたことに泣きそうな顔で慶び、少女を真似て言葉を紡いだ。

 

「よお、英雄。……俺の名は、ハルセタカドウ。あんたの名を教えてくれ」




 もうコイツが主人公で良くね? タブル主人公って事でここは一つ。

 タカドウ→竜胆→リンドウ
花言葉は「悲しんでいるあなたを愛す」

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