もちろん似たようなレース結果といってもビワハヤビデとハナ差でそれを抜き去った勝ちウマ娘は、本気かつ全力であることを疑わせない競い合いの末の決着だった。
朝日杯フューチュリティステークスを勝ったのはエルコンドルパサーやグラスワンダーと同じ海外生まれの帰国子女*1エルウェーウイン。この勝利で今回のGⅠを含む3連勝となりURA賞の最優秀ジュニア級ウマ娘の受賞をほぼ内定させた。デビュー戦を大差勝ち、続くオープン戦と重賞においてレコード勝ちの3連勝で最有力だったビワハヤヒデに比べると、初戦のメークレビューもハナ差の1着、次走かつ前走のオープン戦は同着であり、抜きん出た強さを示していないがURA賞はタイトル重視の傾向で直接対決でも勝ったウマ娘を選ばないなんてことはないだろう。*2
「最終的には1バ身以上突き放せそうな勢いで迫られたのにハナ差まで粘ったビワハヤヒデを見ているとこちらのレース内容が霞むが、君自身はどう感じてるのかな」
「ウイニングライブの内容なら負けてないよ?ね、まこっちゃん」
『まこっちゃん』と呼ばれた帽子を被った女性はレース登録前のライブチェックを担当しているサブトレーナーだ。サブトレーナーは複数人いるので区別する必要があるし偉ぶる気はないとチーム所属のウマ娘たちには名前の真から愛称で呼ばれている。
「そうですね。熱戦の疲労も残っていたようですし、こちらは事前準備の甲斐もありライブだけ見せたら初めての本番とは思われないできでした」
「共演者との事前合同練習は成功ってことだね」
そう、彼女たちは同じレースに出るウマ娘と3人揃ってのライブ練習をできる限りの組み合わせで行っていたのだ。1着の担当トレーナーも振り付けまで行っているチームリギルでサブトレーナーをしていたこともあり協力的だった……ってそうじゃない。
「そうじゃない、あくまでレースについてだ」
「つれないなぁ……そんなことより、そのエルウェーウインですけど今日の授業は体調不良で欠席してたんですよ」
「……それは大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないですね。栗東寮にお見舞いによってみましたが、内臓疲労とかで入院だそうで寮にもいませんでした。ライブが終わって帰るまでは勝利の興奮で痛みとかそんなに感じなかったのかもしれません」
ビワハヤヒデは事前に勝つための算段を済ましておき勝つべくして勝つウマ娘だ。中山レース場で走るのが初めてだったというのもあるだろうが、その想定を超えるための後先考えていない無理なトレーニングと限界を超えた走りだったとしたら、そんな危険行為と比較して評価をするのは辞めたほうがよさそうだ。
「そいつは大変だな、お見舞いとかも必要だろう」
「そういえば、アメフト好きだそうですよ。アイルランド出身なのにって自分でネタにしていました」
「念のために忠告しますが、相手が好きで自分のよく知らない分野のものを贈り物にするのは、何が欲しいか事前に聞いてからにしないと失敗しますから止めた方がよいですよ」
いかんいかん、話がそれている。
「それはそれとして、レースに負けたのに悔しそうなそぶりすらないのは本気で走ってないように見えるから改めてほしいのだが……」
「そうはいっても、悔しそうなフリをさせるのも違うんじゃないですか?」
「そうですよ。苦しんでいたり辛そうだったりする姿を見て喜ぶファンはいませんよ!怪我や疲労の心配をされるような状況でウイニングライブをしても純粋に楽しんでいただけないじゃないですか」
「……ファンの目を気にする前に、競争相手にどう見られるかの方を気にしてほしいところなのだが」
「共演者とは事前の交流を通じて理解してもらっています。これは、私がウマ娘にとって何が一番大事なことだと思っているか認識を共有しておいた方がよさそうですね」
物分かりが悪い奴だと言わんばかりの目で見られながら、何を言いたいのか考える。これまで担当してきたウマ娘はレースに勝つことを目指していた。彼女がこれまでの経験とあまりに違うタイプで想像もつかない。俺は観念して彼女にとっての答えを聞くことにする。
「まあ、一応聞いてみようか。理解できるものだったら尊重しよう」
「いいですか、トレセン学園の入学者を見るに、それが求められていることは疑いようがありません。ファンに夢を与えるアイドルに必要なもの、ファンをその姿を見せるだけで安心させられるヒーローに求められるもの……それは」
「それは?」
「笑顔です!!」
「は?」
「笑顔ですよトレーナー、ハルウララ先輩を見てください。勝てそうになくてここに入学したのにここのレース場に出走すらさせて貰えなくて、所属だけここだけどローカルの高知*3で走って連敗続きで結局勝てませんでしたが、大きな怪我もなく人気はあったじゃないですか*4」
「……ハルウララがウマ娘の理想像とでもいうつもりか」
「いえ、それはないです」
「じゃあ、いまトゥインクル・シリーズで走っているウマ娘で理想に一番近いのは誰だ?」
「そうですね……ダイタクヘリオス先輩でしょうか」
ファンの前では優雅さを崩さない彼女を見るに、ハルウララやダイタクヘリオスの振る舞いについては参考にもしていなさそうだが、自分に適した方法を考えた結果なのだろう……と考えていると真サブトレーナーから提案が来た。
「ダイタクヘリオスといえば、今年の有馬記念でドリーム・シリーズ行き*5みたいですね、疲労もなさそうですし観戦がてらその日の未勝利戦に出てみませんか」
「えー、期間が短すぎてライブの事前準備が…」
2人の話し合いを聞きつつ、来年のことを考えて次走はメイクデビューの1600mから距離を伸ばして皐月賞と同じ2000mにしようかなど、これからのことを考えるのだった。
アプリの育成ウマ娘にダイタクヘリオスが実装されないのって、某お嬢様の使用許可を待っている状態だからじゃないかと疑っています。メジロパーマーとの爆逃げコンビネタは目標レースとするには初期状態では厳しいので、勝負になる短距離路線でのライバルとして欠かせないんですよね。