シュヴァルツが所属していた傭兵団にこういうキャラがいたら良いなぁという妄想をつらつらと書き殴っただけの短編二次小説です

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いつか誰か書いてくれるだろうと高を括って待つことおよそ一年。
何で誰も書いてくれんのや!
そんな思いで執筆しました


墨染めと灰被り

 

 

 

 ドクター。私の過去を知りたいとのことでしたが、具体的にはどのようなことを話せばいいのでしょうか。

 幼少期……あぁ、私があの傭兵団に身を置いていた頃ですか。

 あまり気持ちのいい話ではありませんよ。

 人を殺める為に育ち、鍛えられ、実際に幾人かの命をこの手に掛けました。

 血生臭く、とても誰かに聞かせられるような内容ではありません。少なくともドクター、貴方には。

 ただ一つ語れることがあるとすれば、それは彼との出会いがあったことです。

 ドクターもご存知でしょう。灰を被ったような髪をした、あの人のことを。冷たいのか温かいのかよく分からない、彼のことを。

 与えるだけ与えて私の前から姿を消した、あのグラウという元傭兵のことを。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 不幸ってのは何処にでも転がってるものなんだなぁ。

 

 膝を抱えて泣いている少女を見てそう思う。

 新入りが来たとは聞いていたが、まさか年端もいかない女の子とはたまげたものだ。

 年相応に華奢な体には至るところに暴力の跡が生々しく残っている。殴られ蹴られ引き摺られ──俺が仕事に出ていた数日間で随分とオモチャにされたようだ。

 誰の仕業かは大体予想できる。色んな意味で純粋な子供が、奴には大層なご馳走にでも見えたのだろう。

 胸糞の悪い話だが、ここではそういった事が日常的に起こっている。

 何せこの傭兵団にはクズしか居ない。

 他人を害して蜜を啜る無法者。悪徳にまみれた外道の巣窟。

 そんなクソッタレな場所に、どうしてか荒事を知らぬ少女が放り込まれている。

 いったいどういう経緯で……まぁ、どうでもいいか。人の事情に軽々しく首を突っ込むものじゃない。

 重要なのは過去よりも現在だって偉い人が言ったり言わなかったりするし、今はこの子をどうやって泣き止ませるか考えるかな。

 たぶん歳が近いからってだけで俺の寝床に押し込めやがったんだろう。ったくよー、上の連中も少しは俺のことを考えろよなぁ。

 近くでしくしく泣かれたんじゃ気になって眠れやしない。安眠妨害は大罪だって学校の先生に教えて貰わなかったのかぁ? 

 仕方ないから慰めるか。やったことないけど。

 

「もしもーし」

 

 声を掛けた途端、少女の肩がビクンと跳ねる。弾かれたように顔を上げ、正面に立つ俺と目が合った。

 

「ひっ……!」

 

 引きつったような小さな悲鳴が上がる。

 随分な反応だなぁ、おい。まるで怖い悪魔とでも遭遇したみたいじゃないか。

 知らない奴がいつの間にか目の前に立っていたとなれば驚くのも当然と言えるが、何も怯えるこたぁないだろう。

 あぁーあ、傷ついた。繊細な心が傷ついたー。

 

「そう警戒しなさんな。お前さんを傷つけるつもりはないからよぉ」

 

 目線を合わせるように屈む。今の言葉で多少なりとも安心してくれたら助かるが……まぁ、無理な話だわな。

 こんな薄っぺらい投げ掛けで簡単に拭える程度の恐怖なら、そもそも俺に対してこんな過剰反応はしていない。

 歪んだ顔、震える体。その根底にはどす黒い絶望が渦巻いているのだろう。

 それを払うことはできない。初対面の俺では分不相応もいいところだ。

 だが、俺が無害であると少女に思い込ませることはできる。できると思いたい。

 一度は慰めると決めたんだ。俺なりに精一杯やってみようじゃないか。

 

「まずは自己紹介をしようか、フェリーンのお嬢さん。俺はグラウ、しがないサルカズの傭兵だ。お前さんは?」

 

 返事はない。いや、できないと言うべきか。

 銀髪の少女は必死に言葉を捻り出そうと口を開けては閉じてを繰り返しているが、その口から呻き声以外の音が発されることはなかった。

 恐慌状態に陥った奴によく見られるアレだ。

 

「あぁ、無理して話さなくていい。俺から訊いておいてなんだが、特に何かして欲しい訳じゃないからなぁ」

 

 耳を傾けてくれるだけでいい。

 俺としてもそっちの方が気が楽だ。

 

「ダラダラと長話をするつもりはないから必要なことを手短に言うぞー。まず俺がここに居る理由だが、そもそもこの部屋は俺の寝床でな、ついさっき仕事から帰ってきたところだ」

 

 仕事内容については伏せておく。

 いずれこの少女も携わることになるだろう通常業務だが、今それを言う必要はない。

 

「お前さんのことはボスから聞いている。とは言っても、経歴とか本名とかは面倒臭がって教えちゃくれなかったが」

 

 それに関しては俺が深く追求しなかったというのもある。

 率直に言えばそれほど興味がなかった。

 

「俺に伝えられたのは三つだけ。一つ目、お前さんのコードネーム。二つ目、お前さんと同居すること。三つ目、お前さんの世話役を務めること。以上だ」

 

 ここまでで何か質問は? と促してもマトモな応えなんて期待できないのでこのまま続ける。

 ふはは、ずっと俺のターン。

 

「ボスの命令は絶対だ。従って、今からお前さんの面倒は俺が受け持つ。施設案内、訓練時の指導、その他諸々は俺を通して行われる。基本的に二人で行動することになるだろうなぁ」

 

 ピクリ、と。

 そのとき初めて、少女の様相に変化が生じた。

 僅かに目を見開き、震えが止まる。俺の言葉から何かしらの気付きを得て、それに思考を割いているようだった。

 僅かな期待と大きな不安。絶望の渦中に垂らされた細い糸に手を伸ばすか苦悩している、といったところか。

 少女のこれまでの境遇を鑑みれば、何に期待しているのかは明白だ。

 俺はそこに付け入るだけでいい。

 

「頑張ったなぁ」

「え……」

「お前さんが誰に何をされたのか、俺にはよく分かる。俺も数年前までは同じ目に遭ってたし、今でも油断してると蝿のように集ってきやがる。奴にとって、俺たち弱者は殴り甲斐のある人形。都合の良い欲望の吐け口なのさ」

 

 何処に出しても恥ずかしい人格破綻者だ。

 あの男に限った話ではない。どいつもこいつも、常に誰かを食い物にしようと虎視眈々と狙ってやがる。昨日まで健在だった奴が忽然と姿を消した、なんて話を何度耳にしたことか。

 

「なぁ、お嬢さん。この数日間で、ここがどんな場所なのかは身をもって知った筈だ。弱きは強きに潰される。力を持たない奴には未来が無い。惨たらしい最期を迎えたくないなら、一日でも早く強くなることだ」

 

 そうするより他に生き延びる術は無い。

 

「俺がお前さんを鍛える。ハイエナ共を寄せ付けない牙の剥き方を教えてやる。もちろん一朝一夕で身につくものじゃないし、お前さんがか弱い女の子でいる間は誰かに狙われ続けるだろう」

 

 だが、と。

 少女の顔が再び恐怖に染まるのを見て、すかさず言葉を差し込んだ。

 

「だが、そんなこたぁ気にしなくていい」

 

 彼女が受けた仕打ちは想像できる。

 気にしないことの難しさも分かる。

 それでも、あえて言おう。

 その心配は無用であると。

 

「お前さんに向けられる悪意には俺が対応する。奴らの度が過ぎる嫌がらせはどう考えても邪魔でしかないからなぁ。お前さんが伸び伸びと成長できるように環境を整えるのも、世話役としての仕事だ」

 

 だからもう、必要以上に怯えなくていい。

 そう言って微笑みの一つでも零せたなら、慰めとしては満点を取れるだろう。表情筋の死んだ俺では土台無理な話だが。

 まぁ、感情表現ができなくても日常生活に支障はない。

 伝えたいことは言葉にすれば伝わるし、言い回し次第で相手の思惑や心象を操作することも可能だ。

 現に今、恐怖に震えていた少女は俺の言葉を受けて平常心を取り戻しつつある。

 震え、無し。

 怯え、無し。

 顔色、ヨシ!

 まだ少し緊張が見られるが、このくらいなら大丈夫だろう。少なくともまた泣き出すようなことはない筈だ。

 これで安心して眠れるなぁ。よかったよかった。

 

「さて、色々と思うところはあるだろうが、お互い明日がある身だ。整理のつかない心情はひとまず置いといて、今日はもう寝ようぜ」

 

 お前さん、ベッド。

 俺、ソファー。

 オーケー?

 順々に指を差し、最後に丸を作って首を傾げる。

 それで俺の意図は伝わったようで、少女は戸惑いながらも頷いた。

 

「よし。じゃ、おやすみー」

 

 手をヒラヒラと振って踵を返し、ソファーに寝転がる。それなりに高い品物ということもあって、心地の良い感触が背中を沈めた。

 本当はベッドの方がいいんだが、まぁ、同じ洗礼を受けたよしみとしてそれは彼女に譲ってやろう。

 時刻は既に十二時を回っている。目を閉じればすぐにでも睡魔が襲ってくるだろう。

 ……んー、あー。

 なんか、忘れてる気がするなぁ。

 思考に妙な引っかかりを覚えて、記憶を探る。直近の出来事を掘り起こしていると、思い当たるものが一つあった。

 そういえば、彼女のコードネームは何だったか。

 シャ……いや、シュ……? いかんな、興味がないとすぐに忘れちまう。

 これから同じ釜の飯を食らう仲になるんだ。少しくらい覚える努力をしないとなぁ。

 確かボスはそれの由来について、彼女の髪の色がどうのこうのと言っていた筈だ。

 銀髪で、毛先が黒……あぁ、思い出した。

 

「──シュヴァルツ」

 

 墨を溶かしたような毛先を見て、そう名付けられたんだったな。

 

「明日から、よろしくなぁ」

 

 口に出せば暫くは忘れることもないだろう。

 そのことにとりあえずは満足して、今度こそ目を閉じた。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 私とグラウの関係は、そこから始まりました。

 彼は私を鍛え、悪意への対処法を教え、下劣な悪漢から身を挺して守ってくれました。

 彼からすれば、それはただの業務の一環だったのでしょう。あの日の慰めも、安眠を邪魔されたくなかっただけなのかも知れません。

 当時の私は愚かでした。

 グラウが私に与えてくれたもの。その全てに善意があると思い込んでいました。私が彼を想うように、彼も私を想ってくれていると。

 勘違いも甚だしい。

 彼は誰も信用しませんし、常にいつ誰に殺されてもおかしくないと考えているような人です。

 それが分からなかったから、私は判断を誤りました。

 結果から言いましょう。

 私はとある事情から、自分の所属する傭兵団を壊滅させました。

 事を起こす前の私は、グラウなら私の味方になってくれると信じていました。話せば理解を示し、その後を共に過ごしてくれると自分勝手に決めつけていたのです。

 事実、彼はその話を承諾してくれました。

 二人で計画を練り、決行し、私たちの目的は速やかに達成されました。

 ですが、全てが終わったとき、彼の姿は何処にもありませんでした。

 彼は……グラウは、最後の最後に自分が殺される可能性を考慮して行方を晦ましたのです。

 ドクター、誤解しないで下さい。私は彼を恨んでいるわけではありません。

 ただ、私は彼にとって信頼に値する女ではなかった。それだけです。

 

 

 それだけの、ことなんです。

 

 

 





ご読了頂き、誠にありがとうございました。
あとは託しました……。

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