上半期に本作を終わらせる事が出来たらと思います。
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結局、二人でハッスルし過ぎたせいで僕が目覚めたのは昼過ぎだった。上半身を起こして横を見るとチェンさんはまだ寝息を立てていた。いくら晴れて恋人となったとは言え、やはり寝顔をジロジロ見るもんじゃないな。
歯を磨き、備え付けのコーヒーメーカーでささっとコーヒーを作り、昨日と同じ席に座る。少しだけカーテンを開けると想像通り、綺麗な風景が見れた。昼と言う事もあり、屋台が大量に並んでいて色んな人がバカンスを楽しんでいる。
うん、最初のデートだから軽くプランを立てておこう。チェンさんにプランがあるならそっちでいいし、無いならより良いプランにすべく意見をくれるはずだ。だが僕にはシエスタと言う土地の知識が無い。前回来た時は遊ぶぞって言うタイミングでロドスから支援要請が入った為、遊んでいられる状況じゃなかった。
ただ、まだ今日を入れても五泊ある。敢えて無駄を楽しむのも一興だろう。チェンさん、完璧に立てたプランも好きそうだし、ノープランで行くのも好きそうだし……真面目な人だけど、無駄な事を楽しめる人だと思うのでプランを立ててしまうと逆に興醒めだろう。
「考えても仕方ないか」
ならもういっそ思考放棄だ。難しく考えても仕方ない。もしかしたらチェンさんは二人でプランを考えたかった可能性もある。
まあでも美味しい店ぐらいは調べてもいいよね。荷物から携帯を取り出して画面をつけると結構な数の通知が来ているようで、それはメッセージアプリの通知だ。ざっと名前を見ると殆どロドスの人達だ。有り難い事に色んな方々からお誘いを頂いている。嬉しいのは間違いないのだが僕が優先すべきはチェンさん以外はあり得ない。なので全員に微妙に文章や言葉を変えて丁寧に断りの返事をしていく。明日以降はちょっと予定が分からないからなぁ。皆には悪いけど、チェンさんとの時間が最優先だ。
その中でホシグマさんからもメッセージが来ているので開いた。
『昨日はお楽しみだったか? そちらは暖かいようだから気温差で体調を崩さないようにな。熱中症にも気をつけるように』
下世話な話かなと思ったが凄く気を使ってくれている。保護者感が凄いな。お土産でも買って帰ろうか。
『ありがとうございます。充分に気をつけます。お土産を買って行こうと思うんですが何か希望あります?』
お、直ぐに既読が付いた。珍しく携帯を触ってたんだろうか?
『では現地物の酒を頼む』
『了解です』
メッセージアプリをタスクキルし、本来の目的を果たす為にブラウザを立ち上げる。検索サイトが開かれた瞬間、僕の手から携帯が取り上げられる。
「随分と忙しそうにしていたが、まさか早速浮気……ではないよな?」
昨日、する事をしたまんま気付いたら寝てたので着の身着のままだったせいで、チェンさんは実に目に毒な格好をしていた。下は下着、上はシャツの前が開いていて下着すらない。あんまりジロジロ見るのも良くないよな。
「僕がそんな事出来るタイプに見えます?」
「君にその気は無くても周りが君の人の良さを楯に言いよる可能性はあるな。君はロドスの人達と仲が良かっただろう」
「そのロドスの人達に断りのメッセージを入れてただけですよ……」
「メッセージアプリを見てもいいか?」
「ええ、構いませんよ。マジでやましい事とかありませんし」
「……いや、すまない。見る気は無かった。流石に反対されるかと」
「見られて困る物とかありませんからね」
メッセージアプリは見られて困る物は本当にない。見られて困る物と言えば男性ならば何かと必要になるアレぐらいだ。……が、多分そこまでは見ないだろう。直ぐに満足したのか、携帯を手渡された。
「君は確かコーヒーが好きだったな? 私が淹れ直そう。ふふん、私が淹れた方が美味いぞ。それで、随分と忙しなかったようだが」
「あぁ、折角初めてのデートですんで何かを調べようかなぁと」
「なるほど。プランを考えても時間が時間だからな……今日は昨日の移動の疲れを取る事を優先しよう。……明日のプランを考えないか?」
「そうしますか」
チェンさんと明日のプランを固めていると、僕の携帯が鳴った。画面を見るとロドスの医療部だった。チェンさんを見ると頷いていたので出る。
「もしもし?」
『私だ。ケルシーだ。ルブルムの携帯であっているだろうか?』
「はい」
『今日の夜なら私の方も大丈夫そうだ』
「分かりました。僕の方がちょっと微妙なので……折り返し電話を返す形でよろしいでしょうか?」
『いや、それには及ばない。君は観光で来たのだろう? 自分の時間を優先して欲しい。もし来れる場合はそのまま来てくれて構わない』
「ありがとうございます。失礼します」
やっぱりあの人はドクターに厳しいだけで優しい人だよなぁ。言葉と言うか言い方は冷たいと言うか、素っ気ないけど。シンプルに大人なんだろうか。
「ケルシー先生からのお電話でした」
「そう言えば、昨日挨拶に行きたいと言っていたな。うん、君一人で行って来るといい。私が行ってもあまり歓迎されないだろう」
「いいんですか? チェンさんを一人にしてしまうことになりますけど……」
「私も私で買いたい物があるから構わないさ。それに、会えない時間の寂しさは別の形で埋めてもらうさ」
「それは今日の夜のお誘いって事ですか?」
「さて、どうだろうな?」
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申し訳なさそうな表情を浮かべていたルブルムを笑顔で見送りした後、私は思考の海に居た。改めて、ルブルムと言う人間の事を振り返っていた。
ルブルムは目立たない存在だった。近衛局の入社式でも浮き足立った人間が多い中、まるで普段の生活かの様に淡々と過ごして居た。容姿も悪い訳では無いが、目立つほど良い訳では無い。性格も極端に暗い訳では無いが自身から積極的に喋るほど陽気でも無い。穏やかでニコニコしているが、やはり目立つ事はない。悪く言ってしまえば、本当にどこにでも居る人だ。装備を外して歩いていたら誰も近衛局のエリートとは思わないだろう。
彼は龍門で生まれ、龍門で育った。両親と姉と自分の四人家族。姉はトランスポーターとして活動しているので行方が知れない。ルブルム自身はもう死んだと判断しているようだ。両親は龍門で起きたテロリストの暴動に巻き込まれて亡くなった。勘違いされやすいが、ルブルムが近衛局に就職したのはテロリストへの復讐心ではなく、単純に体を動かすことが得意だったから、らしい。とは言え、真面目な性分なので勤務態度は問題無いし、同僚達とは上手くやっているようだ。合コンの話を聞く度に気が気でなかったが。
毒気の無い、無害其の物にしか見えない好青年は真面目なだけでなく、デスクワークも実戦でも優秀だった。書類仕事は気を使う彼らしく優秀なのは理解出来たが、実戦に関しては悪い言い方だが掘り出し物と言わざるを得ないだろう。
身のこなしは凄まじい。フェリーンの様な柔軟さ、クランタの様な素早さを持つ。普段からニコニコしている彼からは想像出来ないが、身体は引き締まっておりサルカズ達の様に強靭だ。
そして彼を一人の兵士として評価するならば『敵に回したくない』が妥当だろう。恋人だから、上司だからと言う色眼鏡は一切無い。自分で言うと悲しくなるが、私と違って発想や考え方が柔軟で機転が利くので、戦闘中に於ける判断力は他に負ける事が無いだろう。どうにも解せないが、本人の優秀さの割には臆病さと言うか慎重さが過ぎる点は少々勿体ないとしか言えない。言い換えれば、その性格故に必ず勝つ手段を模索し、その最適解を見つけ出す能力に優れている。何より、訓練で用いる戦術シミュレーション……つまり、電子上ではあるが実際の戦闘、それもあらゆる部隊の規模を運用する事を想定した模擬訓練で彼に勝った者は居ない。私含めて、だ。
文武共に優秀だが、彼を一番敵に回したくない理由、それはやはりアーツにある。単純だが強力なのだ。彼のアーツは、自身が触れた物や自身に触れた物の力の向きを変える事が出来る。もっと踏み込んで言うならば、あらゆる物理現象に関わるベクトル、それを自由に変える事が出来る。……映画やコミックスであれば最強と言われるような代物だろう。ただし、自身から触った場合だとほぼ無制限にベクトルを変更出来るが、敵からの攻撃だとせいぜい向きを変えて相殺が精々、らしい。とは言え、それで攻撃を無効化出来るならば充分過ぎるだろう。色々応用が利く様で高速で移動したり、自分で攻撃した時の威力を増したりと戦術の幅は広い様だ。
ロドスが彼を熱心にスカウトするのも無理はない。指揮官としての適性もあり、本人の兵士としての素質も充分。ロドスが抱える複雑な事情を考えると喉から手が出るほど欲しいのも当然の答えと言える。尤も、近衛局が手放さないだろうし、私も困る。彼は優秀だからな。
しかしまあ、なんだ。彼は意外に強引な所があるとは思わなかった。まさかそのまま肌を重ねる事になるとは。
嫌だったとかそんな事は一切無かったのだが、彼らしくない強引な振る舞いは愛おしさしか感じなかったな。うむ、彼の新しい一面が見れて良かった。
上司と部下と言うのは変わらないが、今後は恋人と言う関係性も追加される。恋人ならば、今まで見えなかった彼の新しい一面を見る事が出来るだろう。
不安は無い。何故ならば、一番不安だった事を彼が気にしないと言ってくれたからだ。彼が受け入れてくれた以上は何か彼の悪い面が見えても受け入れるのが筋と言うものだろう。彼のそんな面など全く想像出来ないが。
浮気……はするタイプじゃないと言うよりは出来ないタイプだろうな、彼は。浮気する事なんか有り得ないだろう。このテラからオリジニウムがもたらすあらゆる問題が無くなるぐらいには有り得ない。
万が一浮気しても私がそれに気づいて怒るより罪悪感で本人が潰れるだろう。彼はそんな男だ。
逆に私が浮気した場合を考えて見よう。……想像でも心が痛いな。私が浮気しても多分彼は自分を責めてしまうだろう。……想像だとしてもいたたまれない。元より浮気する気など毛頭無いが、より私が大事にしてやって彼にも大事にして貰う事にしよう。
……よし、少々考え事に時間を使い過ぎたな。買い物に行くとしよう。
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ケルシー先生に本日、お伺いしますと改めて連絡すると迎えを二人寄越すと言われたので、指定された場所でのんびりと待っていた。
道路に面しているが、ちょうど日陰になる位置で日射病の心配もない。
わざわざ来てもらう訳なので、せめてものお詫びと言う事でペットボトルの水を買っておいた。ジュースでも良かったのだろうが、人によって好みがあるから無難ではない。水も冷えたのと常温を買っておいた。これでいいだろう。
人の行き来をのんびりと眺めていると、僕の目の前に一台の車が停まった。人員輸送は勿論、任務を遂行するの為に使う車種だ。ドアにはロドスを示す、ルークのマーク。運転手が操作したのか、助手席側の窓が音を立てて下がる。そこから見えたのは銀髪を結った、ヴイーヴルの女性だった。
「こんにちは、ルブルムさん」
「こんにちは。お久しぶりですね、リスカムさん」
BSWの方々はまだロドスに居たのか。バタバタして忙しそうだ。普段と同じ服装なのでバカンスの最中と言う訳では無さそうだな。
「助手席に乗って貰っていいですか?」
「はい。失礼します」
助手席に乗ると後ろからにゅっと人が乗り出して来る。リスカムさんが居るならこの人もセットだろう。
「あたしも居るわよ~真面目さん達」
「だと思いました。こんにちは、フランカさん」
「はいはい、こんにちは。それでその仰々しい袋は何?」
「差し入れの水です。良かったらどうぞ」
フランカさんに紙袋を手渡す。彼女は一度座席に引っ込み、中を漁る。すぐにまた身を乗り出して二本のペットボトルを右手と左手で持っていた。
「助かるわ~。ここは暑いのなんの……リスカムは冷えたのと冷えてないのどっちがいい?」
「私は冷たいので。すみません、気を使わせてしまって。フランカ、出発するからきちんと座って」
「は~い。冷たいのあたし達が貰っちゃうけどいい?」
「はい。気にせずお二人でどうぞ」
改めて席に座りなおし、シートベルトを着用する。フランカさんも後部座席に引っ込んでいく。それを確認したリスカムさんが車を発進させた。
「それでルブルムはなんでシエスタに?」
ルームミラーを見るとフランカさんがニコニコと笑っていた。……まあ、話好きなフランカさんなら聞いてくるよな。
「休暇で旅行に来ました」
「まさか一人で?」
「いえ、連れ……と言うか、僕がその人に連れてこられた感じですね」
「まさか彼女さんと?」
「……ルブルムさん、面倒なら無視して結構ですよ。フランカ、一応仕事なの分かってる?」
「え~、だってルブルムの表情が前見た時より生き生きしてるんだもの。気になるじゃない?」
まー、この二人と会う時は基本的に仕事の場だし、僕も僕で立場があるので仕事と言う仕事にケツがつかえてる状態が殆どなので、なるべくニコニコしようとしても表情が強張る事はどうしてもあるだろう。飄々としてるようで抜け目がないフランカさんにバレるのも無理はない。
「まあそうですね……バカンスに来てる訳ですから、表情も明るくはなるかも知れませんね」
「ですが、龍門は別のルートですよね?」
「はい。ヘリで来ました。その際にロドスをお見かけしたので機会があれば挨拶したいなと」
「あぁ……なるほど。ロドスの皆さん、喜ぶと思いますよ。ジェシカやバニラ達もそうだと思います」
「そう言って貰えると僕も嬉しいですね」
「こんな事を聞くのは……いえ、忘れてください」
「気にしないで結構ですよ?」
こう言う所で真面目なのはリスカムさんらしいなぁ。むしろ聞かれない方がモヤッとするんだけどね。
「……私個人の疑問なので、答えたくないならそれで大丈夫です。私はBSWで仕事が出来る事を誇りに思っていますし、やり甲斐もあります。ですが、ロドスの方達とお仕事をさせて頂く機会が増えるに連れて、自分の在り方に疑問を感じました。ロドスの経験が悪い物だなんて決して思っていません。むしろ、世間知らずな私に見識を与えてくれました。BSWだって、このまま働いて身分を置くのも申し分ない組織です。ただ、ロドスに居るともっと何か……自由で居られる気がするんです。私みたいな真面目なだけが取り柄の女と違ってルブルムさんはロドスでの順応が早かったので、移籍は考えたりはしないのかと思ったんです」
「ああ……なるほど。お気持ちは分かりますよ。近衛局は仕事柄、それはそれはお堅い方が多いですからね。仕事である以上はそれで問題無いんですが、まぁ息が詰まる。僕もそうですが、リスカムさんも人間ですからね。むしろ真面目だった分、息が詰まってしまったからロドスの開放的な雰囲気に惹かれたのかも知れませんね」
特にあの執務室は息が詰まる。チェンさん本人は間違いなくそんなつもりは無いだろうけどあのプレッシャーやばいもん。
「あー、それはあると思う。ロドスに来てからの方がリスカムもいい表情してる事多いし」
「実際、気が楽でしたし、色んな方と接する事が出来ますからね。ロドスでの勤務は楽しかった様に思います。移籍ですが……考えた事無かったですね。今のところ移籍は考えてませんね。近衛局をクビになったりとか、龍門から離れる必要が出たらそうしたいとは思いますが」
「ふふ、ルブルムさんならアーミヤさんもドクターも歓迎してくれると思いますよ」
「……で? 綺麗に話を終わらせようとしてるけどあたしの質問は?」
ですよね。誤魔化せないですよね。
「あれ? フランカ何か聞いてたっけ」
「彼女さんと来たかそうじゃないか、よ」
「あぁ……仕事抜きで考えてもプライベートなんだから無理に聞かなくてもいいんじゃ……」
「それでどうなの?」
「私の話聞いてた?」
「え?」
「え?」
……いいコンビだなぁ。僕もこう言う相手が居ればいいんだけど、居ないんだよなぁ。
「隠す様な事でも無いんですが、その、恋人と来てますよ」
正しくは現地で恋人になったんだけど黙っておこう。それを言うともっと色々聞かれて面倒くさくなるに違いない。
「へー! ですって、リスカム!」
「扱いに困ったからって私に振らないでくれる?」
……多分目的地に着くまで尋問される事になるな、これは。まあ、甘んじて受ける以外はないだろう。
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人物紹介③
→アル・ルブルム③
彼に関する情報がチェンのモノローグと言う形で語られた。本作の主人公なのにロクな設定が無いのは流石に可哀想なので雑に設定。オリキャラは雑に扱えていいですね。
彼のアーツもサラッと公開。某特殊能力物のあれほど強くはなく、反射に関しても本人が攻撃を認識してないと駄目なので、最強と言うほどではない。と思われる。
余談ですが、チェンによる携帯チェックの際にメッセージアプリを見られる事自体は一切問題を感じなかったが、男性なら必要なアレが見つからないかの方が心配だった。
→チェン・フェイゼ③
冗談のつもりで携帯見るぞって言ったら素直に応じたので流石にビックリ。浮気自体は微塵も疑っていない。
ルブルムが心配していた案件はそもそも発想すら無かった。ここら辺は男女の差。
→フランカ
BSW勢でルブルムと一番最初に話した。彼との初任務は周囲の巡回。
ドクターから「リスカムと同じように真面目な青年」とだけ聞いて居たので石頭が増えるのかと思ってウンザリ。
ルブルムが訓練室で後輩を指導していた所とたまたま遭遇したので声を掛けて話してみたら意外と馬があった。それ以降はちょこちょこ彼を弄って楽しんでいる。
→リスカム
ドクターにどう言う人か尋ねたら「フランカと同じ、気さくなタイプだよ」と言われ、頭をマドロックのハンマーで殴られた様な衝撃を受け絶望して居たが、当日会話したら普通に真面目な青年だったのでめちゃくちゃ安心した。自分と違い、下の世代のオペレーターと接するのが上手な彼を羨ましく思っている。
メインヒロインにチェンさんを据えておいてなんですが、僕が一番好きなオペレーターはリスカムさんだったりします。なので出しました。リスカムさんはヒロインでは無いのでルブルム君を異性として好きになる事はありません。(決定事項)
で、ここだけの話ですが、そのリスカムさんがメインヒロインの現パロ物もぼちぼち書いてますので、いつか皆さんに見てもらえる様に頑張ります。