気がつけばVの者   作:魔女理化

1 / 20

 


初配信

 ピピピと枕元から朝6時を知らせるアラームが流れてくる。

 俺こと白川裕也は慣れた手付きでそれを止めると、ふぁと小さくあくびする。

 高校生がこんな早く起きるなんて部活の朝練か? と思われるかもしれない。

 だが、俺は部活や習い事はやっていない。ではなぜこんな早く起きるのか、それは朝食、昼飯の準備が必要だからだ。

 正確には弁当作りとその後片付けだな。

 うちには母親がいない。俺が中一の時に事故で死んだ。父親は毎日仕事で疲れ切っていて家事なんてやってられない。そして妹もいるが俺の3つ下。家事なんて当時の妹にやらせられない。

 そんなわけでこの家の家事は俺が全部やってる。

 朝は2人の弁当と自分の弁当プラス朝食。放課後は洗濯と洗い物とその他諸々。休日もあんまり変わらない。強いて言うなら時間ができるから食事が少し手が混むぐらいだ。

 高校生にして青春を捨てた枯れた生活だと言われるかもしれないが、俺は充実してるし毎日が楽しいつもりだ。

 そんなわけで今日も一日頑張るぞと気合を入れる。ーーーーそう俺はこの日が自分の人生の転換期になるなんてまったく予想もしていなかった。

 

 それは当然妹が渡してきた一枚の紙だった。

 

「これなんだ?」

「いいから読んで」

 

 事情を聞いても頑なに紙を読めとゴリ押してくる妹。根負けした俺はとりあえず渡された紙に目を通す。

 

「えーと、なになに……一次審査合格通知書 白川裕也様。株式会社レインボー……ん? 合格通知書!?」

「おめでとうお兄ちゃん!」

 

 妹は満面の笑みでお祝いしてくるが、当の本人である俺は頭が?でいっぱいである。

 

「何だこれ? まさか勝手にアイドル事務所にでも応募したのか?」

「違うよ。アイドルじゃなくてVtuberだよ」

「ぶいちゅーばー?」

「お兄ちゃんって本当に高校生? 実は転生した元おっさんなんじゃないの?」

「失礼だな妹よ」

 

 流行りに疎いのは認めるがおっさん扱いはないだろう。まだ酒もタバコもダメなビッチピチの高校生だぞ⭐︎。

 

「YouTubeってあるでしょ? あれで生計を立てるのがYouTuber。それでアニメみたいに絵を通じて配信なんかをするのがVtuber」

「??」

 

 YouTuberは何となく分かる。ヒカ◯ンとかはじ◯しゃちょーなどが代表的で、テレビでもちょくちょく見てる。

 しかし、アニメみたいにと言われてもあまりイメージ湧かないな……。

 ピンときていない様子の俺に痺れを切らしたのか、妹は携帯を取り出して画面を見せてきた。

 そこには可愛い女の子のイラストが泣いたり笑ったりと動きながら喋っていたのだ。

 

「はい、これがVtuber」

「お、おう。なるほど……」

「それでそのVtuberの事務所にお兄ちゃんを応募したってわけ」

「どうしてそうなった」

「ちゃんとお父さんの許可は取ったよ!」

「俺の意思という名の許可は!?」

 

 というか親父もグルかい! まあ当然か。未成年が保護者の同意なしに応募したりできるはずないからな。あの野郎、明日の弁当のオカズをピーマンの肉詰めにしてやる。

 2人のアホな行為に呆れが止まらず頭を抱えてしまう。

 

「あのなぁ……」

「強引なやり方でごめんね。でもこうでもしないとお兄ちゃんがママ業を理由に断ると思ったから」

 

 妹は申し訳なさそうにいう。

 たしかに妹が部活とか習い事を勧めるたびに俺は家事が忙しいのを理由に断ってきた。俺は別に苦には思ってないが、妹としては俺に家事を任せるのは負い目だったのだろ。

 それに妹に泣きそうな顔をされて怒れる兄貴などいるはずがない。俺は頭に手をおくと痛くならないように撫でた。

 

「別に怒ってないよ。ただ、次からこういうことする時は一言言ってくれよ?」

「うん、ごめんなさい」

「謝れてよし」

「お兄ちゃん二次審査はどうする? 気乗りしないなら辞退でもいいけど……」

「せっかく美雨がくれたチャンスだからな、挑戦だけしてみるよ」

 

 今更だが、妹の名前は美雨という。

 そう言うと妹は目にわかるように喜んだ。

 

「本当!?」

「ああ。まあ、受けるだけな。できるだけ頑張るよ」

「うん! 頑張ってお兄ちゃん!」

 

 妹には悪いがたぶん落ちるだろう。なんせ俺はVtuberの存在すら知らなかった人間だ。それに大それた特技もない。

 まあ、受けた上でダメなら妹も諦めるだろうな。

 

 

 □

 

 

 【初配信】はじめまして、私がジル=ホワイトだ。

 

 コメント わくわく

 コメント カッコいい顔やな!

 コメント よっしゃ! 正統派や! 

 コメント と言い続けて数年目

 コメント どうせそのうちレインボーに染まるんやぞ

 コメント あれ? というかこれ……

 

 

 どうしてこうなった。

 待機場には開始十分前だというのに一万を超える視聴者。そして画面には綺麗な顔をした白髪のイケメンが映されている。これが俺である。

 そう俺はあの後二次審査をパスして、なんと最終審査もパスしてしまったのだ。

 いやおかしいだろ。噂では今回の応募にはそこそこ名のある配信者の人もいたらしい。なのに配信経験もない俺をなぜ合格させた。

 いまだに機材の扱いもままならず、マネージャーさんの指導をうけて何とか配信枠をとったりする醜態ぶりだ。意味がわからない。

 ……まあ、受かってしまったものは仕方ない。やるからには本気でやるべきか。

 そう心に誓いつつ俺はジル=ホワイトの設定の確認をする。

 なんでもVtuberというのはキャラごとに設定が付けられており、それに応じて配信を行う、いわゆるロールプレイというのをするらしい。

 俺のキャラは異世界を救った勇者で、その戦いで命を落とし現代に転生したんだとか。壮大な人生だ。高校生で主夫ムーブ決めてる俺とは大違いである。

 

「えーと。私はジル=ホワイトだ。諸君よろしく頼む……うわぁ、初対面のやつにこんなこと言われたら殴りたくなるな……」

 

 勇者だが、元は王子なので少し話し方が偉そうらしい。設定が細かいな。

 開始5分前流石に緊張する。

 

「ふう。頑張ろう。期待してくれている人のためにも全力を尽くさなければ不敬というものだ」

 

 なんて小さく拳を握っているとマナーモードにしておいた携帯に大量の着信が来ていることに気がついた。

 表示はマネージャーとなっていた。

 

「え、なにこわい」

 

 困惑しつつ電話に出ると、焦った様子のマネージャーが。

 

『し……ジルさん! 配信始まってます!』

「……は?」

 

 血の気が引くのを感じながら、コメント欄を確認する。

 

 

 コメント 初手設定否定は草

 コメント 放送事故wwww

コメント くっそワロタwwwwww

 コメント これがレインボークオリティ

 コメント やっぱレインボーよ

 

 やらかしたぁぁぁぁぁ!?

 どうやら俺はどこかで操作をミスって配信を始めてしまっていたようだ。いつからだ? 名前とか入ってないよな?

 

「ど、どうすれば!?」

『とりあえず、一回枠を閉じて再度別の枠を取り直しましょう。枠の閉じ方は分かりますか?」

「はい! そのすいません。俺のミスで一回枠を取り直します。せっかく集まっていただいたのに申し訳ございませんでした」

 

 コメント ええよええよ

 コメント 謝れてえらい

 コメント 流れるような謝罪コメント。貴様本当にレインボーか?

 コメント もはやキャラ設定忘れ去ってて草

 

 





 簡単な設定集

 ジル=ホワイト
 身長180 体重65
  異世界を救った勇者で、死後現代に転生した。元王子のため金使いは荒い、そのせいで金が足りなくなり、稼ぐためにVになる。
 特技は料理 必殺技は【雷光の斬撃(ライトニング・スラッシャー)】
 絵師 にくだんご

 レインボー
 V界隈では大手の事務所。一期生二期生三期生までいる。今回の主人公組は四期生。
 基本的にタレント全員が一癖二癖ある。そして事務所も特に止めないので、さすがレインボー、レインボークオリティなんて言葉ができてしまう。

 



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。