以前枠で宣伝した通り、俺は公式番組に出演するため久方ぶりにレインボー本社を訪れていた。
ここに来るのは、第三審査と邪眼竜先輩のラジオ合わせて三回目だ。いつ見ても大きな建物だ。都心の一等地にこの大きさのビルを建てれるのは相当すごいんだよな。運営の頭はおかしいが。
ビルに入ると清潔感のある女性が受付から元気な声で挨拶してくれた。
案内に従い、控室に通される。
入ってみるとお弁当が二つ用意されていた。今日の本配信は19時からなのだが、入りは昼頃だ。昼ごはんということだろう。こんなものが用意されているとは知らず、自分でお弁当を作ってきてしまった。
どうしたものか。わざわざ用意してくれたのに食べないのは悪い気がしてくる。なんていうのは建前で、楽屋弁当というものを食べてみたいミーハー心である。
心を弾ませながらお弁当を掻っ込む。
「うまいな」
冷えてるけど普通においしかった。ぺろりと一つ平らげてしまう。
とはいえ、俺はそこまで食べれる人間ではないので、これでご馳走様としよう。一つ余ってしまったが、しかたあるまい。
なんて考えていると、こんこんと控室をノックする音が聞こえる。
誰だろうか? マネさんだろうか? 首を傾げながら、ドアを開ける。
「はい? ......!?」
ドアを開けた俺は驚愕した。なぜなら、ドアの前にいたのはマネではなく身長180cmはありそうな体躯のイケメンが立っていたのだ。
そして男はノックしてきたくせに何も言わない。じっとその圧のある目で俺のことを見てくる。
一応社員証を首からかけているので関係者ではあるのだろう。
さすがに気まずさが頂点に達したので、こちらから話しかけることにした。
「ええ、と......どちら様でしょうか?」
ーーぐ~
大きな腹の音で返事された。
俺の戸惑いは増すばかりだ。
どうするべきかと困っていると、男はじっと俺の方を見る。いや、違う。俺を見ているわけではない。俺の後ろにあるお弁当を見ていたのだ。
俺はお弁当を指差して。
「食べますか?」
「食べる」
ようやく言葉を話してくれた。しかし、今の声いやにいい声だったな。というかどこかで聞いたことがあるような?
俺のことなど気にせず、男は椅子に座ると俺よりも勢いよくお弁当をかっこんだ。相当空腹だったようだ。
数分でお弁当を完食した男は、今度は俺のバッグをじっと見つめる。
「どうかしました?」
「美味そうな匂いがする……」
「……あー、俺の弁当ならありますけど」
「食べたい」
「味の保証はできませんけど?」
「かまわない」
俺は構うんだよなぁ。まあ、処理に困ってたところだからいいけど。
弁当を手渡すと、男は前のお弁当と同じようにかっこむ。ちなみに今日のレシピはハンバーグと卵焼き、白飯である。
少しして完食した男は俺を見て。
「おかわり」
「いや、ないですけど!?」
「なぜだ?」
「弁当だからですが!?」
「そうか、ないのか……」
おかわりがないことを理解すると男は分かりやすく気を落としてしまった。
俺は1ミリも悪くないはずなのに、なぜか罪悪感が刺激される。
「こんなところにいた!」
気まずい空気を切り捨てるような大きな声がドアの方から聞こえてきた。そちらを見るとスーツ姿の綺麗な女性が般若の相で立っていた。
今度は何だと雪崩れ込むような展開に俺は混乱している。
しかし、女性は俺ではなく飯を食べている男の方に近づいた。
「もう、アドくん! 打ち合わせに来ないと思ったら、新人さんの楽屋に押し入って何してるの!?」
「弁当を食ってる」
「そうじゃないでしょ!?」
「しかし、腹を満たさねばいい配信はできないぞ?」
「打ち合わせをしなきゃ、そもそも配信もできないの! ほら、行くわよ! スタッフさんたち待たせてるんだから!」
そう言って女性は男の腕を掴むとぐいぐいと引っ張って行った。そして去り際に。
「驚かせてごめんね、ジル=ホワイト君。私は赤坂優菜、この腹ペコモンスターはアドラッシュ=ドラギオンよ。今日はよろしくね」
そう言ってきた。
あの変人がアドラッシュ=ドラギオン!? 今日の番組のMC!?
「大丈夫なのか? 今日の配信……」
とりあえず俺はTwitterを開き。
『腹ペコモンスターに楽屋凸されました』
と書き込んだ。
するとアドラッシュ先輩と察したファンが大量に草を生やしていた。これだけで察するって前科どんだけあるんだよ。
「というか、弁当箱返してもらってない……」
あのポンコツ弁当持ったまま引き摺られやがった。
けっこうお気に入りだったんだがなぁ……。