あくる日、二人のVtuberのtweetが世間をざわつかせた。
『〇月×日、冬城 菜月さんとコラボさせていただきます。コラボの際にマシュマロを利用するので質問マロ募集します。どしどしお送りください』
『します(ジルのtweetを引用しながら)』
この発表にジル民は菜月ちゃんよかったねえと言い、冬城菜月のファン(冬人さん)たちは菜月ちゃんがコラボ!?と驚いた。そして二人のファンでもない人たちは、ヴァーチャルボックス所属なのに男とコラボして大丈夫なん?と杞憂した。
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コラボを発表してから一時間ほどして、早くもTwitterは混沌としていた。
これはマネージャーから事前に忠告されていたことだ。なんでもヴァーチャルボックスはアイドル事務所の色が強く、そのためファン層もレインボーとは異なるらしい。具体的にはガチ恋勢、その中でもめんどくさいユニコーンと呼ばれる人たちがいる。
ユニコーンとは処女厨?の別称らしく、異性との絡みに激しい嫌悪を覚える人たちを指すようだ。
前に仲良くしているママ友さんたちが、推してるアイドルが女性関係を匂わせたとき激しく文句を言っていたが、あんな感じなのだろうか。
「マシュマロもいつもより荒れてるな」
ちらりと届いているマシュマロを覗いてみると、一割ぐらい口調の強いものが含まれていた。ちなみに五割はくそマロ、他が四割だ。ん? 普段からくそマロ五割はおかしくね?
実はいつものリスナーの方が問題があるのではないかと疑問に思っていたところ、ディスコードに通知が届く。
確認してみると冬城さんからだった。
冬城『そのすいません。こんな騒ぎになってしまって』
正直、謝られるような騒ぎでもないと思う。たしかに賛否あるが賛の方が圧倒的に多いし。
おそらく一部の方々の強い言葉を見てしまったのかな? そういえば中学の授業で先生が話してくれたが、人は百の賛の意見よりも一部の否の意見の方が印象に残ってしまうという。
それこそ冬城さんほどの人気ライバーなら、そういう意見は山ほど見て聴いてきてるはずだ。この心配もおかしくない。
とはいえ、これに冬城さんの落ち度はない。つまり謝られる理由もないのだ。
ジル『気にしないでください。こちらこそ是非とコラボを承諾したのは自分ですので。それにファンの皆さんは楽しみにしているみたいですから」
そのメッセージを送ってから20分後、返信が来た。
冬城『ごめんなさい。気絶しちゃって返信遅れてしまいました』
ジル『き、気絶!? 大丈夫ですか? 体調が悪いならこんなことしてないで寝ていないと』
冬城『だ、大丈夫です! ちょっとジルさんに気遣われて昇天していただけなんで!』
何言ってんだこの人?
……ああ、なるほどジョークか。何か仕事の返信をしていたのを冗談で返したら本気で心配されたから、さらにジョークで返したと。なるほどな、我ながら名推理だ。コナン君もびっくりである。
ジル『そうですか。それなら安心しました。それでは当日よろしくお願いします』
冬城『はい。よろしくお願いします』
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【勇者とJD】雑談コラボすっぞ〜
コメント きちゃー!
コメント 菜月ちゃんがコラボとか珍しい
コメント というかチャンネル登録者のみモードなんや
コメント それでいいよ。面倒なのわくし
そう今回は自衛としてチャンネル登録者のみモードを導入した。一見さんお断りみたいな雰囲気になるから、俺はあまり好きじゃない。
ただマネージャーから今回は配信の雰囲気を壊すコメントが来ることが予想されるので、その方がいいと助言をもらったのだ。俺も同じ意見だったので、それを承諾した。
「こんジル! レインボー所属のジル・ホワイトだ。今日も今日とて雑談しようと思うが、今日はなんと話し相手がいる。それじゃあ、自己紹介お願いします」
「お、あはふゆ〜。ヴァーチャルボックス所属の冬城菜月です。今日はジルさんとのコラボということで、とても緊張していますが頑張ります!」
「そんな肩肘張らなくて大丈夫ですよ。うちのチャンネルテキトーな雑談が売りなんで」
コメント きんちょうしてる菜月ちゃんかわいい
コメント 基本内気やしな
俺も緊張していたが、その100倍ぐらい冬城さんが緊張していたため一周回って冷静になれた。
人気なライバーさんだし、コラボ慣れしてるかと思っていたがそうでもないのか? それとも男と絡むのがはじめてだからかってが違うのかな。
「まあ、冬城さんも緊張してるみたいだし、うちの空気に慣れてもらおうか。とりあえずマシュマロでも読みましょう」
『好きな食べ物と嫌いな食べ物は何ですか?』
「俺は豆腐が好きかな〜。そのままでも箸休めとして使えるし、調理すればおかずにもできるからな。逆に嫌いなのはくさや。あれ調理した後、キッチンの換気がめんどいんだ」
コメント 草
コメント 目線が主婦なのよ
コメント そういうことではないww
「……と、豆腐が好きなんだ」
「冬城さんは何ですか? 好きな食べ物」
「はひっ!? わわ私はショートケーキが好きです。嫌いな食べ物は特にないです!」
「美味しいですよねショートケーキ。自分、いつも苺は妹に盗られるんで、クリームケーキになりますけど」
「お優しいんですね」
「そろそろやめてほしいですけどね。あの上目遣いでお願いされると断れなくて」
コメント さすがシスコン
コメント 妹なかなかに鬼畜で草
「次は冬城さんが選んでみますか?」
「そうですね。これなんてどうでしょう?」
『パンツの色は?』
「冬城さん?」
「すすすすいません! ついよくぼ……じゃなくて、間違えてしまって!」
「あ、ですよね」
びびったー。いきなり俺を消し炭にしに来てるかと思った。
つい、よくぼ……まで聞こえてたけど気のせいだろう。
コメント 答えないのか?
コメント 残念
「アホか。俺のチャンネルで堂々セクハラすんな」
コメント 別にジルだけでも構わんが?
コメント むしろ推奨
「どこに需要あるんだよ……」
「ありまっ……視聴者さんも期待していますし答えてあげたらどうでしょう。私耳塞いでいますので」
「そこまでする必要あります?』
「あります」
「そっすか……」
ないと思うけど、この世界で何年もライバーやってる人の意見だ。深い意味があるのだろう。
何か圧が強かった気がするけど。
「じゃあ、答えるけど。黒のボクサーパンツだ」
「……っ」
コメント 助かる
コメント 本当に答えてて草
コメント アイドルの隣で下着を教える勇者がいるらしい
コラボ相手に耳塞いでもらって自分の下着言うってどう言う状況?
「はぁ、次行くぞ」
『こんにちは! 珍しいコラボ嬉しいです! ちなみにお二人は好きなゲームやアニメってありますか? 私は魔界村と涼宮ハルヒのエンドレスエイトが好きです!』
「修行僧かな?」
ちなみに魔界村はとても攻略難易度の高いゲームで、エンドレスエイトは虚無だ。
コメント もしくはすごいドMなんだろ
コメント わいなら発狂してそう
コメント やばすぎて草
「好きなゲームとアニメねぇ。ゲームはあまり知らないが、アニメならブギーホップは笑わないが好きかな」
「旧作の方ですか? それとも新作の方?」
「個人的には旧作の方が好きですね」
「私もです!」
コメント そもそも新作なんてあったっけ?
コメント そんなの記憶にないが?
コメント 新作……2019……うっ頭が!
記憶を失う人が続出しているが、荒れそうなためスルーしておこう。
「私は好きなアニメはSAOですかね」
「あー、知ってます。同期に勧められたんで、アイクラッド編まで見ました」
「お好きなキャラを聞いても?」
「シリカですかね。妹に似てるんで」
「なるほど」
コメント 理由で草
コメント やはりシスコン
コメント お前が妹離れしろ
なんか言われてるけど無視する。
「ちなみに私はアスナちゃんが好きです。では、こんなマシュマロはどうでしょう」
『冬城さんって他人行儀なんで名前呼びなんてどうでしょう?』
「冬城さん?」
「すいません、間違えました」
「違う、わざとだ」
「まみまみた」
「わざとじゃない!?」
コメント 元ネタは物語シリーズ
コメント 解説助かる
コメント というか菜月ちゃんがあらぶってるw
つい乗ってしまったが、明らかにわざとだ。なんならこのマシュマロすら持参してる可能性すらある。
さっきのは聞き間違えじゃなかったのか。
「リスナーさんもこう言っていますし、私はかまいませんので名前でどうぞ」
「いやいやいやおかしいでしょ!? というかこのマシュマロ冬城さんが用意したやつですよね!?」
「違いますが? どうしてそんな推理になったのでしょう? 私、気になります!」
「やかましいわ!」
どこぞの好奇心に目を輝かせてる女の子をほうふつとさせるセリフを吐くな。
おかしい。俺はヴァーチャルボックスのアイドルとコラボしているはずだ。レインボーの狂人軍団と絡んでいるわけではないはずだ。
「一回! 一回だけでいいんで、名前で呼んでくれませんか?」
「はあ……一回だけですよ?」
「やった!」
呼ばないと収拾つかなそうだし。
「菜月さん」
「ううん……はあ、生きててよかった」
「そこまでですか?」
「あたりまえだよ!推しに名前呼んでもらえたんだよ!?」
「あ、はい」
あまりの勢いにそれしか言えなかった。
コメント あ、はいwww
コメント 引いてて草
コメント というか推しなんか
「というか俺推しなんですね」
配信を見ていたのは知っていたが、推しと言ってくれるまで好かれてるとは知らなかった。
「はっ! 私そこまで言ってました?」
「はい。はっきり」
あれを聞き逃すのはラノベ主人公でも難しいだろう。
「あうう、恥ずかしいです」
恥ずかしそうに顔を俯かせる。
正直もっと恥ずかしいことしてたと思うけどな。口には出さないけど。
「まあまあ、落ち着いてください。ちなみにどんなところで推してくれたんですか?」
正直俺って熱烈に推される要素はない気がする。歌もゲームも不得意だし、ガチ恋営業?っていうやつも特にしてないし。
そんな俺を推してくれてるというのは単純に興味ある。
「その最初は見た目が好みだなぁと思って初配信を見に行ったんですけどそこでミスで焦って敬語で謝罪したあたりでかわいいと思って。クールっぽいみためからのぽんこつがギャップ萌え? って感じできゅんとしちゃって。そのあと家の事情で家事手伝ってるって健気に家事してるところもかわいいし。リスナーさんとよく言いあってるけどなんだかんだ優しいし。それに毎日雑談してるのに毎回面白いですし。実は声もかっこいいですし……」
「す、ストップ、ストップ!」
え? 今息した? これがアイドルの肺活量なの? 普通に怖いよ?
「もう終わりですか? あと一時間は余裕で語れますけど」
「ええ……」
コメント 一時間はやばいwww
コメント 推しどころかやばいオタクで草
コメント 菜月ちゃんは推しのことになると大体こんな感じよ
これデフォルトなのかよ。100万越えるようなVtuberは一癖ないとあかん決まりでもあるの?
「もう全部バレちゃったんで言っちゃうんですけど、ジルさんに言ってほしいセリフがいくつもあって」
「開き直りやがった……。セリフって? いくつですか?」
「1000個ほど」
「多いわ!?」
しかもどれもこれも少女漫画のように甘いセリフばかりであった。絶対言いたくない。
「何でですか!? これを読むだけで助かる命があるんですよ!?」
「そんなんで左右される命なら死ねばいいと思う」
「酷い!?」
「どっちがだよ!?」
コメント どっちもどっちww
コメント ジル敬語取れてて草
コメント 面白すぎるwww
その後、根負けした俺がセリフを一つ読まされたのはまた別の話。
冬城さん? 悶絶してたよ、ちくしょー!
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終幕というか後日談
冬城『先日はありがとうございました。アカウントを間違えた時はどうなるかと思いましたが、結果コラボできて満足です。ヤケクソで行動するのも、時にはありですね』
ジル『やけくそだったんですね……。満足いただけたなら幸いです』
冬城『はい! 特にオリジナルボイスを頂けたのは感無量です! 毎朝目覚ましのアラームにします!』
ジル『今すぐけせい!』
冬城『嫌です』
ジル『ですよねー』
もはや諦めている。
冬城『ちなみにまたコラボにお誘いしてもいいですか?』
ジル『俺はいいですけど、そちらのリスナーさんは大丈夫ですか?』
今回は特別荒れたりしなかったが、導火線はいつ着火するか分からない。特に冬城さんの規模なら危惧はすべきだろう。
冬城『大丈夫だと思いますよ。私の方のマシュマロには特に杞憂する意見はありませんでしたし、むしろ私がジルさんに犯罪しないかの杞憂マロが来てるぐらいで』
どうやら荒れたりはしていないようだ。一旦リスナーからは認められたと判断していいのかな?
ジル『ちなみにしませんよね?』
冬城『……それではまた誘わせていただきますね。失礼します』
ジル『ちょっと!? しないって言えよ!』
……やっぱり考え直した方がいいかな?
俺は一抹の不安を覚えた。
ぶんぶんはなび