気がつけばVの者   作:魔女理化

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ご注文は大和撫子ですか?

 

 11時50分。俺は山家に指定された場所に到着した。

 今度は丸山の時とは違い相手の顔を知っているので、すでに来ているかどうか確認できる。なんとなくあたりを見回してみたが、山家はまだ来ていないようだ。

 しかし、山家もまたなんでこんな誘いをしてきたのか。丸山と芝鶴は分かりやすいが、山家はつかみどころがない感じだからな。正直目的が分からん。

 本当にただの親切だった時申し訳ないからあまり考えないでおくか……

 

「ふー」

「うひょえええ!?」

 

 突然耳に息を吹きかけられ変な大声が出てしまった。

 くすくすと笑う声と生暖かい視線が飛んでくる。は、恥ずかしい! 

 というか無防備な人の耳に息を吹きかけるなんて驚くにきまってる。もはやテロである。

 そんなテロリストもとい、腹を抱えて笑っている山家(元凶)をじろりと見る。

 

「いきなり何するんだお前……」

「堪忍なぁ。裕也くんうちが来たこと気が付いてないみたいやったからつい好奇心でやっちゃたわ」

「好奇心でやるには極悪すぎるだろ……。心臓止まりかけたけど?」

「その時はいい棺桶用意するわ」

「うち仏教なんで。知らんけど」

「知らんのかい」

 

 今どき自分の家の宗派を知ってる高校生っているのか? いやいるんだろうけど、そんなにいない気がする。

 

「あ、そうや。裕也くん、うちの今日のコーディネートどうや?」

 

 そう言って山家は全身が見やすいように手を広げてくる。

 山家の服装は肩のでた(オフショルダーというらしい)薄い黒のような上に白いふんわりとしたスカートに薄水色のパンプスだった。

 肩を出しているのにあざとさはあまりなく、むしろoffのお嬢様のような気品すら感じる。

 というかもともと美人な山家だが、服との親和性でさらに美人に見える。意識してしまいそうで怖いな。

 

「そうだな、服の色合いが山家の品のある雰囲気とあっていてすごいかわいいぞ」

「おおう、なんや普通に褒めてくれるやん」

「褒めたらまずかったか?」

「うちの予想では裕也君が照れてしょうもないこと言ってくれると思ってたんやけどなぁ。あ、裕也くんもかっこいいで」

「ありがとよ」

 

 とってつけたように言われてもなぁ。

 というか照れてますけど? なんなら心臓ドックンドックン言ってますけど?

 

「じゃあ、行こうか。お昼は抜いてきた?」

「ああ。言われた通り」

 

 事前に昼も一緒に食べようと提案されていた。というか半分強制だったが。

 そうして歩き出す。

 

「どこに行くんだ?」

「うーん、特に決めてないなぁ」

「決めてないのかよ……」

 

 わざわざ昼抜いてこいって言うくらいだから、てっきり行きたいところがあるのかと思ってた。

 どうやらそうではないらしい。

 

「サイゼでも行こか? リアルサイゼで喜ぶ彼女やったるで」

「流行りは終わったろそれ」

「お、知ってるんやな。自分、そういう流行りとか興味ないって思ってたわ」

「ファンアート見てる時に流れてきたんでな」

 

 サイゼに喜ぶ彼女に嫉妬して、俺の飯の方が美味いだろってキレながら厨房に押し入るジル・ホワイトとかいうファンアート。ツッコミどころが多すぎるが、3万いいねとかされてたんだよな。

 ちなみに俺もいいねした。正直面白かった。

 

「まあ、せっかくの初デートにサイゼはなしやな」

「ゴホッ!? ガホッ!?」

「どうしたん裕也くん?」

「デート!? 初耳だが?」

「男と女が出かけるならデートやん? うち何かおかしいこと言ったか〜?」

 

 にやにやと揶揄うような声色の山家。

 ちくしょー! 嵌められた!

 

「もう知らん……」

「ごめんごめん。うちも揶揄いすぎたわ。でも、裕也くんと出かけるの楽しみにしとったのは本当やで」

「はいはい嬉しいよー」

「今のは嘘やないんやけどな」

 

 信じられるか。これ以上弄られるのはごめん被る。

 そう思いつつ、スマフォを操作して辺りの飲食店を調べる。山家ががっつり食べるタイプか、小食なタイプか知らないな。

 

「山家好きな食べ物ってなんだ?」

「せやなぁ、家では蕎麦をよくゆでるで」

「それ家でよく食べるから、外では食べたくないっていう京都人特有のやつじゃないだろうな?」

「ふふふ、違うで~。うちかてそこまでひねくれ者じゃないわ」

「よく言うな。まあ、蕎麦か。それならここなんてどうだ?」

 

 そう言って見せたのは近くにある蕎麦屋。昭和からある伝統あるところらしい。

 

「ええなぁ。ここいこう」

「んじゃ、向かうか」

 

 意見が合致したので、マップを頼りに蕎麦屋へと歩き始めた。

 

「……?」

 

 気のせいか。

 

 

 □

 

 

 5分くらい歩くと、目当ての蕎麦屋に到着した。

 昭和感溢れる引き戸を滑らすとガラガラという音が聞こえてくる。

 

「いらっしゃいやせー! 何名様ですか?」

「二名です」

「ではこちらの席どうぞー!」

 

 元気のいいおじさんがテーブル席に案内してくれる。

 そしてすぐに水を二つ運んできた。

 

「お水どうぞ。ご注文決まりましたらお呼びください」

 

 そう言ってキッチンの方に戻っていった。

 店内にはまばらに人がいた。

 メニューを開いてみると、蕎麦にかつ丼に親子丼など、こんな雰囲気の店によくありそうなメニューが並んでいた。

 しかし、次のページを見た俺は目を丸くした。

 

「なんだこれ?」

 

 そこにはでかでかと『カップル限定! もりもり蕎麦! 一回は食べさせあってね(ハート)』と書かれていた。

 若者向けのキラキラとしたお店にありそうな文言が、厳かな雰囲気の蕎麦屋で見られたのだ。ギョッとしてしまうのも無理はない。こんなの頼むやつおらんやろ。

 

「裕也くん、これ頼まん?」

 

 いたわ。何なら目の前にいた。

 

「マジで言ってんの?」

「マジやで。おおマジや」

「俺らカップルじゃないが?」

「嘘でいいやん。男と女が2人で食事来ればカップルに見えるやろ」

「食べさせ合うって書いてあるけど……」

「一回ぐらいいいやん。うちは平気やで」

 

 俺は平気じゃないんですが!? 

 はっ! まさか山家のやつまたもや揶揄おうとしているな。

 たしかにその意図に気が付かなければ、まさかこいつ俺に気があるのか? とか無駄な勘違いをして変な態度をとっていただろう。しかし、金田一少年顔負けの推理をかました俺には無駄だ。

 むしろこれを逆手にとって仕返ししてやる。じっちゃんの名に懸けて。

 

「OK。頼んでやろうじゃないか」

「なんや、急に態度変えるやん」

「別に一回食べさせあうくらい大したことないってことに気が付いただけだ。それにこれの方が普通に二人前頼むよりお得だからな」

「ふーん」

 

 山家は特に反応を示さなかった。

 ふふ、当てが外れたな。俺の仕返しはまだまだ終わらんぞ。

 

「すいませーん」

 

 俺が店員を呼ぶと、おじさんが伝票とペンを持ってきた。

 

「はい。注文お願いします」

「カップル限定のもりもり蕎麦をお願いします」

「はいよ。この商品はお互い食べさせあう様子を撮影させてもらいますけど、それでも大丈夫ですか?」

 

 さ、撮影!? 知らなかった俺はメニューを確認する。そして詳細を確認してみると、どうやら撮影したうえで半年間ぐらいスペースに飾られるらしい。

 件のスペースを見てみるとあまり大きくはなかったが、写真数はそんなになかったのでだいぶ目立ちそうだ。

 うわぁ、いやd……いやいや仕返しをするためにはそんな恥ごときで辞められるか。

 

「はい大丈夫です」

「あいよ。ラブ盛り一丁ね」

 

 そう言うと、近くの席に座っていた常連さんらしきおじさんたちがほぉと言葉を漏らす。

 初々しいカップルを見るみたいな生暖かい視線を感じるが知らん。

 もう半分やけくそである。

 

「さすがに少し恥ずかしいなぁ」

 

 注目を集めたせいか、照れくさそうにはにかむ山家。べ、別にかわいいとか思ってないんだからね!

 少しして山盛りに乗せられた蕎麦が運ばれてきた。手にはコンパクトなカメラも添えて。

 

「はいお持たせしました、ラブ盛りです」

「美味しそうやね」

「そうだな」

 

 本当に蕎麦はうまそうだ。

 

「ではお願いします。笑顔でね」

 

 店員のおじさんは楽しそうに催促してくる。

 なんで厳かな雰囲気の店にあんなメニューがあるのか疑問だったが、絶対この人の趣味だ。明らかにうきうきしている。

 まあ、しかし俺も男だ。一度覚悟を決めたことから逃げることはしない。

 俺はわりばしを割ると、蕎麦を少しとる。

 

「ほれ山家」

「風情がないで裕也くん。しっかりあーんって言ってくれなぁ」

 

 なん……だと……!? すでにぎりぎりの俺にこれ以上を求めてくるのか!? 

 ぐぬぬ、しかしここでヘタレたら男が廃る! ええい、ままよ!

 

「あ、あーん」

 

 山家は蕎麦を口にするとちゅるちゅるとかわいい音を立てながら食べた。

 カシャっという音が聞こえる。

 そして飲み込むと。

 

「美味しかったで裕也くん」

「そうかよ」

「じゃあ、うちからもお礼の気持ちもかねて。あーん」

「なぁ……。一回したからもういいだろ?」

「別に一回だけなんて誰も言ってないやろ。なぁ、おじさん?」

「はい。言ってません」

 

 嬉しそうに答える店員のおじさん。

 どうやら逃げ場はないらしい。

 

「はい、あーん」

 

 黙ってそばを食べさせられる。

 

「裕也くんおいしい?」

 

 味なんてわかんねえよ、ちくしょー!

 

 

 □

 

 

 異常に疲れた昼食を終えて、俺たちは機材を買うために電気屋を訪れていた。

 商品棚にはパソコンやらがずらりと並べられている。

 

「どれがいいんだ?」

「せやなぁゲーミングPCを買うのが無難や。配信者やる以上、画面のグラフィック大事やし、できるゲームの選択肢も広くなるし」

「なるほど」

「予算はどれくらいなん?」

「一応、20万くらいかな」

「けっこう奮発したなぁ」

 

 少し調べたのだが、ゲーミングPCは平均でも10~15万前後するらしい。

 ちなみにこのお金は俺の初給料のほぼ全額らしい。社会人の初任給ぐらいじゃないのか? もらいすぎて少し気が引けてしまった。

 しかし、まあこれは見てくれているリスナーのおかげでもあるのだ。期待してくれているリスナーのためにも少しでもいいやつを買わんとな。

 

「それじゃ、このあたりなんてどうや?」

 

 山家が進めてきたのはデスクトップ型のゲーミングPCだった。

 

「ノート型じゃないんだな」

「配信で使う用やからな。たしかにノートパソコン型は場所も取らんし、持ち運びがらくやけど。デスクトップ型の方が高性能で拡張性が高いからおすすめや」

 

 たしかに家で使うのに持ち運びの利便は関係ない。それにこれから色々な機能を追加するときに拡張性があると長く使えて便利かもしれない。

 

「なるほど、じゃあこれにするか」

「簡単すぎん? さすがにうちも数十万する買い物そないあっさり決められるとびびるんやけど」

「まあ、俺は全く詳しくないし。さっきの説明も納得できたし。それに山家が俺のこと騙すはずないしな」

 

 揶揄いはしてくるけどな。

 というかこんなところまで来て騙してたらもはやサイコパスだろ。ないない。

 なんて一人で突っ込みしてると、山家はうつむいていた。

 

「ふふ、今のは少しドキッとしちゃったわ。裕也君も案外プレイボーイさんやな」

「なんだ? また揶揄う気か?」

 

 そろそろ揶揄い上手の山家さんって漫画書かせるぞ?

 

「どうやろなぁ~。まあ、みーちゃんが気に入るにも理解できるわ」

「そういや近くにいるよな? みーちゃん」

「え? 気が付いてたん?」

「まあ、待ち合わせの時視線を感じてな。そのあともなんとなく」

 

 本当になんとなくだったのだが、妙に確信が持てた。

 座敷童って特別な幽霊らしいからそのあたりなんかあるんかね。

 

「座敷童なのに家にいなくて大丈夫なのか?」

「あんまりよくないんやけど、梅雨が近いやろ? この時期って面倒な霊が多くてなぁ。対応するのめんどいから、みーちゃんに守ってもらってたんや」

 

 そういえば忘れてたが、山家は霊感持ちだった。

 みーちゃん以外にも霊には憑かれるか。

 

「そんな大変な時期に付き合ってくれたのか? またなんで」

「ふふ、それを女の口から言わせるのはあかんで?」

「どういう意味だ?」

「どうやろうなぁ? 考え見てや」

 

 いたずらっ子のような笑みをうかべて言った。

 

 

 □

 

 

 【四期生のサーバー】

 

加志駒『今日は楽しかったなぁ、裕也くん』

   

 その文と一緒に写真が添付される。

 その写真は山家が裕也にあーんしている写真だった。

 

ジル『おおおおおおおまえ!? なんでその写真持ってるんだ!?」

 

加志駒『おじさんにもらったんや。ええ写真やろ?』

 

ジル『消せ! 今すぐ!』

 

加志駒『いいやん、これも思い出やで~』

 

ジル『思い出なら胸にしまっとけ! よりにもよってここに張るな!』

 

三笠『なにこれ?』

 

まるめろ『は、はれんちです!』

 

ジル『ご、誤解だ!』

 

三笠『何でもいいけど、色恋沙汰であたしらに迷惑かけないでね』

  『今コンプライアンス厳しいんだから』

 

ジル『だから誤解だって言ってるだろ!?』

 

山家『また遊ぼうなぁ~』

 

ジル『二度とごめんだが!?』

 

 

 

 





 今更だけど蕎麦食わせあうの食べづらそう
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